魔王様は転生王女を溺愛したい

みおな

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転生王女の訪問

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「きれいな街並みですのね」

 馬車の外、窓から流れる街並みに、私はそう呟いた。

 魔国クリムゾンの王都を馬車は走っている。

 基本、転移で移動する魔王陛下だが、自国の城下を歩くこともあるし、魔族といえど、皆が獣の姿というわけでもない。
 魔族というと、人間の感覚から言ってドラゴンや先のメデューサのように蛇だったりと、人型以外をイメージするが、常に獣姿なのは、魔獣と呼ばれる者たちであって、それは魔族とは一線を引いた存在だそうだ。

 彼らとて、普通に仲間と語り合い、買い物をしたり、作物や家畜を育てたりと、人間と変わらない生活をしている。

 私は、1ヶ月後の婚姻に向けて、魔国クリムゾンを訪れていた。
 転移で王宮へと行くことはできるのだが、魔王妃となる者、民の様子も知ってほしいとフレイ様に言われ、王都内を馬車で移動することになったのだ。

 ああ。カイルお兄様の結婚式は、2週間前に無事に終わった。
 カイルお兄様もエリザベスお姉様もいなくて、1ヶ月後には私も嫁いでいなくなる。
 あの、無表情だけど本当は家族思いの父様は、寂しい思いをされているのかもしれない。
 でもまぁ、ルヒトお兄様のところに何人かお子様が生まれれば、また賑やかになるだろう。

「一度、僕と街に行こうか。サフィロスに負けず、活気のある街だよ」

「まあ。それは楽しみですわ」

 アルフレッド様のお誘いに、私は笑顔で答える。本当に楽しみだ。馬車の窓から見える街並みは、確かに活気に満ちている。

「結婚式のドレスの注文も、街歩きの際に店へ訪れてもいい」

「私は構いませんが、フレイ様に叱られませんでしょうか?」

 ふと気になって尋ねてみる。人間がフラフラと街を歩いても大丈夫なのかしら?警護の面で、フレイ様に叱られたりしない?

「ローゼが僕の最愛の番であることは、すでに魔国クリムゾンの民は知っているよ。ローゼに牙をむくことは、僕にむくことと同じことだ。大丈夫だよ。僕が一緒にいるんだから」

 アルフレッド様は、蕩けるような眼差しで私を見つめながら、髪を優しく撫でてくれる。
 12歳の頃から一緒だったからか、こういう子供扱いは変わらないわ。
 キスもあれから何回もしたけど、触れるだけの優しいキスばかりだった。アルフレッド様からしたら、私はまだまだ子供なのだろう。

 豪華絢爛というよりは、堅実なイメージのお城の前で馬車は止まった。
 アルフレッド様の手を借りて、私は馬車から降りる。

「ようこそ、ローゼ。我が城に」


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