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第六十五話 希望の翼

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「サーシャー!!!!」

 風を切る音が轟音となって耳に襲う中、微かにレナード様が私を呼ぶ声が聞こえてきます。

 突然のこと過ぎて、まだよくわかっておりませんが……この浮遊感……私、落ちているのでしょうか?

 あはは……何とか出来ると思ったら、こんなミスをしてしまうだなんて、私ったら本当に情けないですわね。情けなさすぎて、逆にこんな状況なのに冷静になれておりますわ。

 もしかしたら、レナード様が急いで助けに来てくださるかもしれませんが、瘴気の動物の対処に追われていたので、助けに来るのは難しいでしょう。
 自分で何とかできればいいのですが、私は空中に放り出された時に対処できそうな魔法は、何一つ使えません。

 ……私はもう、助からないということですね。レナード様との幸せな未来は、たった一つの失敗で、失ってしまいました。

 ごめんなさい……レナード様。でも、せめて私の聖女としての使命だけは、果たさせてください!

「あぁぁぁぁぁぁ!!」

 落下しながらも、私は更に魔力を高めていくと、それが体から光として溢れ出ました。そして、その光は私の背中に集まり……巨大な天使の翼のような形になりました。

「つ、翼……? もしかして、飛べますの!?」

 このままでは、落ちて死んでしまうだけ……一か八かで、翼を思い切り動かすイメージをしてみましたところ、翼は大きく羽ばたき、私の体は再び宙を舞いました。

「これも聖女の力なのでしょうか……? とにかく、まずはレナード様を安心させなくては!」

 私がもう助からない思い込んで、瘴気の攻撃に無抵抗になってしまっては、全てが無意味になってしまいます。早くレナード様の元に帰らないと!

「レナード様ー!!」
「サーシャ!? い、生きていたのか……!?」
「はい! 突然現れたこの翼のおかげで、なんとか!」
「よかった……本当に良かった……すぐに抱きしめたいが、それは後にしよう。彼らが来ている!」

 私とレナード様を取り囲むように、瘴気の動物が集まってまいりました。

 でも、私の頭に流れているこのイメージ……これがあれば、おそらく!

「我が聖なる力よ、民を不幸にする悪しき魔力の悉くを浄化せよ!」

 私の呪文に、背中の翼が応えてくださいました。翼からは無数の羽根が舞い散り、彼らはそれぞれの位置に飛んでいくと、そのまま強い光を放ち始めました。

 その光から、浄化の魔法を使った時と同じ魔力を感じました。それを受けた瘴気の動物達は、光に照らされた影のように、一瞬にして消えてしまいました。

「凄い……さすがだ、サーシャ!」
「ありがとうございます! あとは結界を……あら?」

 私の気のせいでしょうか? 先ほどと比べて、結界の魔力が弱まっているような……もしかして、あれも瘴気と同じく、私の浄化の魔法でどうにかできる……?

「やってみる価値はありますわね。集中……集中……」

 私がさらに魔力を溜め始めると、背中の翼の大きさがさらに大きくなりました。私は、その大きくなった翼に浄化魔法の魔力を組み込み、一斉に大量の羽根を飛ばしました。

「これで終わりですわ! 皆様、お願い致します!!」

 私の号令に従って、辺りに漂う羽根たちは、再び一斉にまばゆい光を放ち始めます。光が一つだけならまだしも、最低でも何百もの数の羽根。いくら強力な結界とはいえ、耐えきれないでしょう。

「……結界が無くなっている……」
「あの結界も瘴気の一部と思ったのですが、正解だったようですね」

 結界が無くなったとはいえ、まだ魔法を止めたわけではありません。現に、まだお城の中から感じる魔力は、残ったままですもの。

「それにしても、さすがはサーシャだ! くそっ、こんな事態じゃなければ、手当たり次第に君のことを自慢して回ったというのに!」
「も、もう……レナード様ったら……それよりも、早く中に入って魔法を止めましょう!」
「そうだね。場所はどこかわかるか?」
「はい。あそこ……お城の最上階にある、結界魔法の部屋です!」
「あそこだね。よし、わかった!」

 この先には、この魔法の核があります。それと同時に……きっとあの子がいるはず。
 生贄と言われていたし……生きているかはわからないけど、聖女として苦しんでいる人がいれば、必ず助けます。それがたとえ、私のことが嫌いで、この国を無意識に滅茶苦茶にした人ですが、あの子だって……ある意味犠牲者ですもの。

「到着っと。ありがとう、しばらく休んでてくれ」
「ぶるるるる」

 私達が、目的地の部屋に繋がる廊下の窓から中に入ると、馬は鼻を鳴らしながら、魔法陣を通って帰っていきました。
 ここまで頑張ってくれて、感謝しかありません。帰ったら、ゆっくりニンジンでもあげたいですね。

「さあ、開けますよ……」

 目的地である部屋の前に立ち、ゆっくりと扉を開けると、そこではぐったりしたルナが、聖女様の石像の前で、磔のような形でつるされていました――
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