【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき

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第六十二話 異変

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■ルナ視点■

「な、なに……これ……!?」

 わたしはあまりの激痛と魔力の喪失により、バタバタとのたうち回る。そんなわたしを見ても、お義父様は助けもしないどころか、楽しそうに笑っていた。

「この魔法は、この国の結界を一度破壊し、辺りの瘴気をここに集め、そして増幅させ……一気に拡散させる。その後、再度結界を張って瘴気を外部に漏れないようにし、国を瘴気で蔓延させる魔法だ」
「な、なにそれ……!」
「元々は、戦争や内乱がおきた時に、周りもろとも滅ぼすための、最終防衛手段として作られたものだ。魔法の代償として……発動者はこの魔法陣に囚われ、その身が朽ちるまで痛みに襲われ、魔法に魔力を捧げ続ける定めとなる」

 それじゃあ、私はこのまま死ぬまで苦しみ続けろってこと!? 冗談じゃ……うぐっ!!

「どうしてそんな驚いた顔をしている? いくら防衛手段とはいえ、多くの人間を巻き込むのだから、それ相応の代償は必要なのだよ」
「ふざけんな……ふざけんなふざけんな! なんでわたしが、そんな犠牲にならなくちゃいけないのよ!?」
「なぜ? そんなの決まっている。貴様が弱者だからだ」
「っ……!?」

 弱者……? なにそれ、意味が分かんないんだけど!?

「弱者は強者によって全てが決められる。生かすも殺すも強者次第だ。これが自然の摂理だ。貴様は所詮、我々強者に利用されるだけの存在だったのだ」

 そんなはずはない! わたしは聖女……多くの人間の中から優れた力を持った、選ばれた人間だ! それが強者と言わないで、なんと言うの!?

「ふふふ……良い眺めだな、ルナ。元々貴様やサーシャなど、我々が研究の成果で力を強制的に覚醒させた聖女の一人にすぎん。貴様らはその中でも数値が良かったから養子にして、出身である家という箔を、我が家につけるための人間でしかないのだ。だというのに、己の欲のために、随分と私を利用していたな。私も貴様を利用するために見逃していたにすぎないというのに、自分が強者と勘違いする貴様は、実に滑稽だった」

 ふ、ふざけ……ん、な……こいつも、国王も、貴族達も絶対に許さない……! こ、殺してやる……!!

「徹底して己の欲だけを探求する姿勢は、嫌いではなかったが……残念だが、さようならだ、愛しの娘よ。私のために犠牲になってくれたことは、未来永劫忘れはしないだろう……くくっ……あっはっはっはっ!!」
「ま、待て……あぁぁぁぁぁ!?!?」

 なんとか手を伸ばしてお義父様……ううん、ヴァランタンを捕まえようとしたが、想像を絶する痛みによって、それは阻まれてしまった。

 それどころか、悶えるわたしの体がフワッと浮き……聖女の石像の前で、磔にされるような形で固定されてしまった。

 わ、わたしはもう助からないの……? は、はは……本当に、ふざけんなよ……わたしの人生を、何だと思ってるんだ……。

「こんなところで……一人で野垂れ死ぬなんて……冗談じゃない……わたし一人で、死んでたまるか……この魔法で、わたしの人生を滅茶苦茶にしたあいつらを……両親を、ヴァランタンを、国王を、貴族を……そしてお義姉様を、この力で殺してやる……! 巻き込まれる民なんて知ったことか! みんな、みんな……みんな死んじゃえ!!!!」


 ****


「ふう、これでよしっと……」

 クラージュ家がパーティーを開くときに使われる大きな建物に避難している方々に、食事を無事に運び終わった私は、小さく息を漏らしました。

 皆様、まだ疲労が見え隠れしておりましたが、ちゃんと食事を摂ってくれていますし、大きな怪我もないようで、一安心ですわ。

 それに、ジェラール様が仰るには、元気な人から色々と情報を聞けているそうで、着実に悪政をしていた国家や貴族達を追い詰める情報が集まっているとのことです。

「それにしても、アレクシア様の料理の腕が、あんなに凄いとは想定外でしたわ……」

 ガラガラと、空になったお皿を乗せたカートを押しながら、ぽつりと呟きました。

 短期間での長距離移動は、老体には大きな負担がかかるということで、アレクシア様がしばらくこの屋敷に滞在しておられるのですが……食事の用意をしている際に、突然やってきたとおもったら……。

『暇だから、ワシにやらせろ』

 ……なんて言いだして。目が見えないはずなのに、驚くほどの手際の良さで、屋敷にいる全ての人の食事を用意してしまいました。

 あまりにも手際が良すぎて、本業であるはずのコック達が、自信を喪失してしまうほどでした。

 ちなみに、私が甘いものが好きだとレナード様からお聞きになったようで、ケーキを焼いてくれたんですの。あまりにも絶品すぎて、ホールのケーキ三つが、五秒で消えてしまいました……。

「あ、あれは仕方がありませんわ! それくらい、アレクシア様のケーキがおいしかっ――うっ!?」

 自分で自分を言い聞かせていると、突然強大な魔力を感じて、その場に座り込んでしまいました。

 この魔力は、一体なんですの? 体がずっしりとしたような、重苦しくて……禍々しい魔力は!?

「明らかに、ただごとではありませんわ……早くレナード様達に知らせませんと!」

 私は、カートを急いで厨房に戻してから、全速力でジェラール様の私室に向かうと、神妙な面持ちの三人に出迎えられました。

「おや、サーシャも来たのかい。その息切れから察するに、そなたも気づいたのか」
「アレクシア様もですか?」
「俺や義父上もだよ。それで、急いでここに集まったんだ」
「そうでしたのね。一体何が起こったのでしょう?」
「わからない……俺には、この魔力が城の方から感じるってことくらいしか……」

 お城の方から魔力……私も同じ方角から感じていたので、おそらく間違っていないでしょうね。

「補足すると、他にも三つ変化があった。この国に貼られた結界の消滅、代わりの別の結界の展開、そして……瘴気と思われる魔力が城に集まり……巨大化しておる」
「え、えぇ!?」

 結界の消滅? 代わりの結界? 瘴気が集まって巨大化!? い、一度に色々起こりすぎて、頭が爆発しそうです!!

「まさか、あの奥の手を使ってくるとは……一体どこまで堕ちれば気が済むのだ……民を全員犠牲にするつもりとは!」
「ジェラール様、一体何が起こっているのですか!? 何かご存じなら、教えてくださいませ」
「彼らは……禁忌の魔法を発動させたのだ」
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