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第五十七話 家長の知られざる過去
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翌朝、私は赤の聖女様に聞いた話を共有するために、レナード様とジェラール様にお時間をいただき、私達の部屋に集まってもらいました。
「サーシャ、話があるって聞いたけど、一体どうしたんだい?」
「実は、レナード様を治すために外出した際に、色々知ることが出来たので、お二人にそれをお話したいと思い、お集まりいただきましたの」
「ほう、そこまでかしこまるのだから、よほど重要な話なのだろう。時間のことは気にしないでいいから、ゆっくり話すといい」
「はい。実は――」
ジェラール様のお言葉に甘えて、私が神々の祭壇で知ることが出来た過去の話や、そこで手に入れた力のことといった内容を、全てお話しました。
最初は静かに聞いていたお二人でしたが、話す内容が内容でしたので、段々と驚きを隠せなくなっておりました。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。少し整理をさせてくれ……つまり、サーシャはその赤の聖女に力を貰い、それで俺を治療してくれた。彼女からサーシャの過去や、国のしてきたことを教えてもらった……そういうことか?」
「はい、仰る通りです」
改めてまとめると、一晩でとてつもない情報を手に入れましたわね……我ながら、よく頭がパンクしなかったものですわ。
「俺との過去を知ってもらえたことは嬉しいが、それ以上に君が故郷のことや、母上のことを知れたのが、なによりも嬉しいよ」
「そうだな。改めて別れを突き付けられたのはつらいだろうが……サーシャの母上は、サーシャのことを最後まで愛していたのが知れたのは、とても大きな収穫だろう」
「レナード様……ジェラール様……はい。私は、とても幸せ者ですわ」
最後に私に残してくれた、お母様の大切な言葉を胸に、私はこれからも聖女として、精一杯頑張るつもりです。それが、私を愛してくれたお母様への、手向けになるはずですから。
「それにしても、この国の上層部は俺達が思っている以上に、腐敗しているようだな。サーシャの故郷や俺の故郷を犠牲にしてまでする研究に、一体何の価値があるというんだ!」
「……すまない、私がもっとしっかりしていれば、君達のような無実な民を巻き込むことは無かった」
レナード様が国の悪行に憤っていると、何故かジェラール様が申し訳なさそうに眉尻を下げながら、深々と頭を下げられました。
「どうしてジェラール様が責任を感じなければならないのですか? ジェラール様は、何も悪くございません」
「いや、私が悪い。なぜなら……私は昔、宰相としてこの国に関わっていたのだ。その時に研究を禁止していれば、こんなことにはならなかった」
「……えっ」
「ち、義父上が元宰相だって!?」
突然の告白に、思わず間抜けな声が漏れ出てしまいました。そして、レナード様もご存じなかったようで、大きく目を見開いて驚かれておりました。
確か以前、国の中枢に関わる仕事をしていたとお聞きしましたが、その時に具体的には仰っていなかったので、本当にご存知なかったのでしょう。
「ああ。元々クラージュ家は、国の行く先を決められるほどの力はなかった。若輩者だった私は、国の繁栄と民の幸せにすることを胸に、宰相の座まで上り詰めたのだが……私は知ってしまったのだ。この国の体制は、私の信念とは真逆のことをしていたことを」
国は自分達の利益のために、民を犠牲にすることを厭わない。一方のジェラール様は、民が幸せになる国にしたい……まるで水と油くらい、考え方が真逆です。
「私はなんとかして、非人道的な研究をやめさせ、自分達がしていた悪行を公表して国の方針を改めさせ、民が安全で幸せになれる国づくりをしようとした。だが……自分達の利益しか考えていない国王陛下や貴族達に、妨害されてしまってな。挙句の果てに、私は宰相の座を追われてしまった」
確かに彼らからしたら、ジェラール様のような考え方をする人間は邪魔でしょう。排除したいと思うのも当然かもしれませんが……権力を私物化した、最低な行為ですわ。到底許されるものではございません。
「レナード、私が君を引き取ったのは、君を放っておけなかったのもあるが、宰相として民を守れなかったことへの、せめてもの罪滅ぼしなのだ……」
「もうおやめください、義父上」
頭を下げ続けるジェラール様の肩に、レナード様の手が優しく乗りました。
「義父上は、宰相として民のために懸命に努力したのでしょう? それはとても立派なことです。それに、どんな理由であれ、見ず知らずの俺のことを引き取ってくれて、仕事で忙しいのに俺を治す方法を探してくれた大恩人であるあなたに、自分を責めてほしくないのです」
「レナード……私を許してくれるのか?」
「許すとか、許さないとか、そんなの関係ありません。これからも俺の義父上として、胸を張って生きてほしい……それだけです」
お二人に血の繋がりはありません。しかし、そんなものが無くても、この二人は素晴らしい親子なんだということを、見せていただいたような気がします。
「サーシャ、色々と話してくれてありがとう。さあ、今日も俺達の使命のために頑張ろうじゃないか!」
「はいっ! もう魔法を使っても疲れなくなったので、沢山治せると思いますわ!」
「それは頼もしい! 俺が倒れている間は、つきっきりで看病してくれたから、きっとサーシャの力が必要な人は増えているだろうし……早く行こう!」
以前よりも明るく元気になったレナード様に手を引かれて、私は部屋を後にしました。
国の悪行について、色々と思うことはございますが……今私がすべきことは、ルナの治療を受けて治ったと思い込んでいる瘴気の犠牲者の元に向かい、治療をしてさしあげることですわ! さあ、今日も頑張りましょう!
「サーシャ、話があるって聞いたけど、一体どうしたんだい?」
「実は、レナード様を治すために外出した際に、色々知ることが出来たので、お二人にそれをお話したいと思い、お集まりいただきましたの」
「ほう、そこまでかしこまるのだから、よほど重要な話なのだろう。時間のことは気にしないでいいから、ゆっくり話すといい」
「はい。実は――」
ジェラール様のお言葉に甘えて、私が神々の祭壇で知ることが出来た過去の話や、そこで手に入れた力のことといった内容を、全てお話しました。
最初は静かに聞いていたお二人でしたが、話す内容が内容でしたので、段々と驚きを隠せなくなっておりました。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。少し整理をさせてくれ……つまり、サーシャはその赤の聖女に力を貰い、それで俺を治療してくれた。彼女からサーシャの過去や、国のしてきたことを教えてもらった……そういうことか?」
「はい、仰る通りです」
改めてまとめると、一晩でとてつもない情報を手に入れましたわね……我ながら、よく頭がパンクしなかったものですわ。
「俺との過去を知ってもらえたことは嬉しいが、それ以上に君が故郷のことや、母上のことを知れたのが、なによりも嬉しいよ」
「そうだな。改めて別れを突き付けられたのはつらいだろうが……サーシャの母上は、サーシャのことを最後まで愛していたのが知れたのは、とても大きな収穫だろう」
「レナード様……ジェラール様……はい。私は、とても幸せ者ですわ」
最後に私に残してくれた、お母様の大切な言葉を胸に、私はこれからも聖女として、精一杯頑張るつもりです。それが、私を愛してくれたお母様への、手向けになるはずですから。
「それにしても、この国の上層部は俺達が思っている以上に、腐敗しているようだな。サーシャの故郷や俺の故郷を犠牲にしてまでする研究に、一体何の価値があるというんだ!」
「……すまない、私がもっとしっかりしていれば、君達のような無実な民を巻き込むことは無かった」
レナード様が国の悪行に憤っていると、何故かジェラール様が申し訳なさそうに眉尻を下げながら、深々と頭を下げられました。
「どうしてジェラール様が責任を感じなければならないのですか? ジェラール様は、何も悪くございません」
「いや、私が悪い。なぜなら……私は昔、宰相としてこの国に関わっていたのだ。その時に研究を禁止していれば、こんなことにはならなかった」
「……えっ」
「ち、義父上が元宰相だって!?」
突然の告白に、思わず間抜けな声が漏れ出てしまいました。そして、レナード様もご存じなかったようで、大きく目を見開いて驚かれておりました。
確か以前、国の中枢に関わる仕事をしていたとお聞きしましたが、その時に具体的には仰っていなかったので、本当にご存知なかったのでしょう。
「ああ。元々クラージュ家は、国の行く先を決められるほどの力はなかった。若輩者だった私は、国の繁栄と民の幸せにすることを胸に、宰相の座まで上り詰めたのだが……私は知ってしまったのだ。この国の体制は、私の信念とは真逆のことをしていたことを」
国は自分達の利益のために、民を犠牲にすることを厭わない。一方のジェラール様は、民が幸せになる国にしたい……まるで水と油くらい、考え方が真逆です。
「私はなんとかして、非人道的な研究をやめさせ、自分達がしていた悪行を公表して国の方針を改めさせ、民が安全で幸せになれる国づくりをしようとした。だが……自分達の利益しか考えていない国王陛下や貴族達に、妨害されてしまってな。挙句の果てに、私は宰相の座を追われてしまった」
確かに彼らからしたら、ジェラール様のような考え方をする人間は邪魔でしょう。排除したいと思うのも当然かもしれませんが……権力を私物化した、最低な行為ですわ。到底許されるものではございません。
「レナード、私が君を引き取ったのは、君を放っておけなかったのもあるが、宰相として民を守れなかったことへの、せめてもの罪滅ぼしなのだ……」
「もうおやめください、義父上」
頭を下げ続けるジェラール様の肩に、レナード様の手が優しく乗りました。
「義父上は、宰相として民のために懸命に努力したのでしょう? それはとても立派なことです。それに、どんな理由であれ、見ず知らずの俺のことを引き取ってくれて、仕事で忙しいのに俺を治す方法を探してくれた大恩人であるあなたに、自分を責めてほしくないのです」
「レナード……私を許してくれるのか?」
「許すとか、許さないとか、そんなの関係ありません。これからも俺の義父上として、胸を張って生きてほしい……それだけです」
お二人に血の繋がりはありません。しかし、そんなものが無くても、この二人は素晴らしい親子なんだということを、見せていただいたような気がします。
「サーシャ、色々と話してくれてありがとう。さあ、今日も俺達の使命のために頑張ろうじゃないか!」
「はいっ! もう魔法を使っても疲れなくなったので、沢山治せると思いますわ!」
「それは頼もしい! 俺が倒れている間は、つきっきりで看病してくれたから、きっとサーシャの力が必要な人は増えているだろうし……早く行こう!」
以前よりも明るく元気になったレナード様に手を引かれて、私は部屋を後にしました。
国の悪行について、色々と思うことはございますが……今私がすべきことは、ルナの治療を受けて治ったと思い込んでいる瘴気の犠牲者の元に向かい、治療をしてさしあげることですわ! さあ、今日も頑張りましょう!
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