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第五十話 決断
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「さあ、どうする?」
どうすると言われても、レナード様を選べば、世界中でレナード様と同じ症状で苦しむ人が増えて、死んでしまう。だからといって、世界中の方々を選べば、レナード様を助けることは不可能です。
愛する人か、世界か……そんな重すぎる選択をするだなんて、私には出来ない……!
「じっくり考えていいぞ。時間ならたっぷりあるからな」
「…………」
いくら時間があったって、なんの意味もない。むしろ無限に近い時間があることで、余計に考えがまとまらず、悩み続けてしまうだろう。
「ああ、言っておくが……あたしの力以外でレナードを治すのは、どう足掻いても無理だ。あいつの体に根付いた瘴気の残滓は、それほど強力なものだ。だが、あたしの力なら確実に治せると約束しよう」
そんなことを言われたら、力を得る選択をしたくなるが……選んでしまえば、ジェラール様やアレクシア様、屋敷の使用人達……ルナやお義父様……それだけじゃない。もっともっと多くの人達が犠牲に……!
「う、あぁ……あぁぁぁ……!!」
ほとんど言葉になっていない、唸り声のようなものを漏らしながら、頭を抱えてしまいました。
レナード様を失う……この世で一番大切なお方で、一番愛しているお方。レナード様がもう助からないと決まってしまったら、私は心が壊れてしまうでしょう。
だからといって、ジェラール様やアレクシア様といった大切な方々や、何の罪もない人を巻き込むことだって、絶対にしたくありません。
ルナや義父様だって、確かに私を不幸にした方々とはいえ、苦しんで死んでほしいだなんて、これっぽっちも思いません。
「私、どうすればいいの……レナード様……レナード様……!」
ここにいないレナード様にすがるように、私は名前を呼びながら涙を流す。こんな世界を巻き込むような選択なんて、私には絶対に出来ない……。
『サーシャ』
「えっ……?」
決めることが出来ずに苦悩していると、どこからか私を呼ぶ声が聞こえてきました。
それが幻聴だったのか、本当に聞こえてきたものなのかわかりません。しかし、確かに聞こえたのです。私がどうしても取り戻したいお方の……レナード様の声が!
『幼い頃の俺達が交わした誓いを忘れないで』
「誓い……?」
『大丈夫、君なら必ずできるさ。なぜなら、君は俺が世界一愛するサーシャだから……』
その言葉を最後に、レナード様の声は何も聞こえなくなってしまいました。
「……誓い……」
レナード様と交わした誓い。それは再会したら結婚するというものと、聖女として立派になり、一人でも多くの人を助けるというもの……。
……そうだ、私は何を弱気になっていたのだろう。今までの私なら、レナード様も世界中の方々も、誰も犠牲にさせないと意気込んでいたでしょう。
なのに、私は弱気になって……どちらかしか助けられないと決めつけてしまいました。
それによく考えれば、彼女は世界中の方々がレナード様と同じ病気になるとは仰いましたが、助からないとは一言も仰っておりません。
それなら、私の選ぶ選択は……!!
「決めました」
「思ったより早かったな。ふっ……さっきまでは怯える子犬みたいな目だったが、随分と良い目になったな」
「レナード様が、私を導いてくれましたから」
「そうか。んで、どうするんだ?」
「力をください」
変な誤解を与えないように、はっきりと自分の意志を伝えると、彼女は深々と溜息を漏らしました。
「サーシャ、君にはがっかりだぜ。一人の人間を救うために、多くの人間を犠牲にする選択をするなんてな」
「それは違いますわ。私は誰も犠牲にしません」
「どういうことだ?」
「世界中が病に侵されても、私がすぐに治療をするからです」
「……は? サーシャは面白い冗談を言うんだな」
「至って真面目ですわ」
最初は乾いた笑いを浮かべていた彼女でしたが、段々と眉間に深いシワが入っていくと同時に、声のトーンも下がっていきました。
「確かにレナードと同じ病気だから、やろうと思えば治療は出来るが、世界にはどれだけの人間がいると思ってるんだ? 多少は救えても、全員を助けるなんて、出来るはずが無い」
「出来る、出来ないの問題では無いのです! 絶対にやるのです!」
「っ……!!」
「私は誰も犠牲にしません! 聖女として、一人でも多くの人を救うと誓ったのですから! だから、レナード様も世界中の人々も、私が救います!」
「そんな夢物語のような考えなど、叶うはずもない! もっと現実を見ろ!」
私はテーブルをバンッ! と叩きながら立ち上がると、彼女も負けじと同じようにして立ち上がりました。
私だって、もう子供ではございません。彼女の言うように、もっと現実を見ないといけないのはわかっておりますわ。
「あんたの独りよがりのせいで、世界中を巻き込みたいのか! 百歩譲って全員治せるとしても、その間は民が苦しむことになるんだぞ!」
「でしたら、私が一瞬で全員治せるようになります!」
「な、なんだと……!?」
「幸いにも、この空間の時間の流れはゼロに等しいのですよね? なら、ここであなたから力を授かった後、全員を即座に治せる領域に達するまで、魔法の修行をします! たとえ何年……何十年……何百年必要でも、救えるのなら喜んでやりますわ!」
「……あんた、どうかしてるぞ……どうしてそこまでして……?」
「私は聖女です。聖女として、そうするべきだと思ったからです!」
聖女として生を受けたのだから、レナード様との誓いがあるから……理由はいくらでもありますが、その根底にある気持ちは、いま伝えた通りのものです。
「……くくっ……あははははははっ!! いいなあんた、気に入った! わかった、その硬い意志に免じて、あたしの力を解放しよう!」
「本当ですか!?」
「ただ、サーシャの願いを叶えるには、本当に何年かかるかわからないぞ? それでもやるか?」
「もちろんです!」
「即答か! わかった、目を瞑りな!」
私は彼女の隣に立ち、言われた通りに目を瞑る。すると、何か暖かいものが全身に巡っていくような、不思議な感覚を覚えました。
これで……私はレナード様を助ける力を得られるのですね。その代償として、途方もない長い時間をここで過ごすことになりますが……絶対に耐えてみせますわ。
だから……少しの間だけ、待っていてくださいね……私の愛しい人。
どうすると言われても、レナード様を選べば、世界中でレナード様と同じ症状で苦しむ人が増えて、死んでしまう。だからといって、世界中の方々を選べば、レナード様を助けることは不可能です。
愛する人か、世界か……そんな重すぎる選択をするだなんて、私には出来ない……!
「じっくり考えていいぞ。時間ならたっぷりあるからな」
「…………」
いくら時間があったって、なんの意味もない。むしろ無限に近い時間があることで、余計に考えがまとまらず、悩み続けてしまうだろう。
「ああ、言っておくが……あたしの力以外でレナードを治すのは、どう足掻いても無理だ。あいつの体に根付いた瘴気の残滓は、それほど強力なものだ。だが、あたしの力なら確実に治せると約束しよう」
そんなことを言われたら、力を得る選択をしたくなるが……選んでしまえば、ジェラール様やアレクシア様、屋敷の使用人達……ルナやお義父様……それだけじゃない。もっともっと多くの人達が犠牲に……!
「う、あぁ……あぁぁぁ……!!」
ほとんど言葉になっていない、唸り声のようなものを漏らしながら、頭を抱えてしまいました。
レナード様を失う……この世で一番大切なお方で、一番愛しているお方。レナード様がもう助からないと決まってしまったら、私は心が壊れてしまうでしょう。
だからといって、ジェラール様やアレクシア様といった大切な方々や、何の罪もない人を巻き込むことだって、絶対にしたくありません。
ルナや義父様だって、確かに私を不幸にした方々とはいえ、苦しんで死んでほしいだなんて、これっぽっちも思いません。
「私、どうすればいいの……レナード様……レナード様……!」
ここにいないレナード様にすがるように、私は名前を呼びながら涙を流す。こんな世界を巻き込むような選択なんて、私には絶対に出来ない……。
『サーシャ』
「えっ……?」
決めることが出来ずに苦悩していると、どこからか私を呼ぶ声が聞こえてきました。
それが幻聴だったのか、本当に聞こえてきたものなのかわかりません。しかし、確かに聞こえたのです。私がどうしても取り戻したいお方の……レナード様の声が!
『幼い頃の俺達が交わした誓いを忘れないで』
「誓い……?」
『大丈夫、君なら必ずできるさ。なぜなら、君は俺が世界一愛するサーシャだから……』
その言葉を最後に、レナード様の声は何も聞こえなくなってしまいました。
「……誓い……」
レナード様と交わした誓い。それは再会したら結婚するというものと、聖女として立派になり、一人でも多くの人を助けるというもの……。
……そうだ、私は何を弱気になっていたのだろう。今までの私なら、レナード様も世界中の方々も、誰も犠牲にさせないと意気込んでいたでしょう。
なのに、私は弱気になって……どちらかしか助けられないと決めつけてしまいました。
それによく考えれば、彼女は世界中の方々がレナード様と同じ病気になるとは仰いましたが、助からないとは一言も仰っておりません。
それなら、私の選ぶ選択は……!!
「決めました」
「思ったより早かったな。ふっ……さっきまでは怯える子犬みたいな目だったが、随分と良い目になったな」
「レナード様が、私を導いてくれましたから」
「そうか。んで、どうするんだ?」
「力をください」
変な誤解を与えないように、はっきりと自分の意志を伝えると、彼女は深々と溜息を漏らしました。
「サーシャ、君にはがっかりだぜ。一人の人間を救うために、多くの人間を犠牲にする選択をするなんてな」
「それは違いますわ。私は誰も犠牲にしません」
「どういうことだ?」
「世界中が病に侵されても、私がすぐに治療をするからです」
「……は? サーシャは面白い冗談を言うんだな」
「至って真面目ですわ」
最初は乾いた笑いを浮かべていた彼女でしたが、段々と眉間に深いシワが入っていくと同時に、声のトーンも下がっていきました。
「確かにレナードと同じ病気だから、やろうと思えば治療は出来るが、世界にはどれだけの人間がいると思ってるんだ? 多少は救えても、全員を助けるなんて、出来るはずが無い」
「出来る、出来ないの問題では無いのです! 絶対にやるのです!」
「っ……!!」
「私は誰も犠牲にしません! 聖女として、一人でも多くの人を救うと誓ったのですから! だから、レナード様も世界中の人々も、私が救います!」
「そんな夢物語のような考えなど、叶うはずもない! もっと現実を見ろ!」
私はテーブルをバンッ! と叩きながら立ち上がると、彼女も負けじと同じようにして立ち上がりました。
私だって、もう子供ではございません。彼女の言うように、もっと現実を見ないといけないのはわかっておりますわ。
「あんたの独りよがりのせいで、世界中を巻き込みたいのか! 百歩譲って全員治せるとしても、その間は民が苦しむことになるんだぞ!」
「でしたら、私が一瞬で全員治せるようになります!」
「な、なんだと……!?」
「幸いにも、この空間の時間の流れはゼロに等しいのですよね? なら、ここであなたから力を授かった後、全員を即座に治せる領域に達するまで、魔法の修行をします! たとえ何年……何十年……何百年必要でも、救えるのなら喜んでやりますわ!」
「……あんた、どうかしてるぞ……どうしてそこまでして……?」
「私は聖女です。聖女として、そうするべきだと思ったからです!」
聖女として生を受けたのだから、レナード様との誓いがあるから……理由はいくらでもありますが、その根底にある気持ちは、いま伝えた通りのものです。
「……くくっ……あははははははっ!! いいなあんた、気に入った! わかった、その硬い意志に免じて、あたしの力を解放しよう!」
「本当ですか!?」
「ただ、サーシャの願いを叶えるには、本当に何年かかるかわからないぞ? それでもやるか?」
「もちろんです!」
「即答か! わかった、目を瞑りな!」
私は彼女の隣に立ち、言われた通りに目を瞑る。すると、何か暖かいものが全身に巡っていくような、不思議な感覚を覚えました。
これで……私はレナード様を助ける力を得られるのですね。その代償として、途方もない長い時間をここで過ごすことになりますが……絶対に耐えてみせますわ。
だから……少しの間だけ、待っていてくださいね……私の愛しい人。
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