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第四十八話 赤の聖女
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「突然入口が……もしかして、ここが神々の祭壇へ繋がる入口?」
想像もしていなかった展開で、頭が混乱しておりますが、きっとここが入口なのでしょう。
「こうしてはいられません。早く中に入ってみましょう」
なにか罠があるかもしれないので、慎重に入ってみると、地下へと続く長い階段が私を出迎えてくれました。
こんな砂漠に階段だなんて、自然に出来たとは思えませんわね……わっ、凄い……私が来た途端、壁にかけられている松明に、一瞬で火が灯りました。これもなにかの魔法なのでしょうか?
きっとこの下に祭壇が……そう思うと、気ばかりが焦ってしまいますが、今の私の体で焦ったら、階段から落ちてしまいそうです。焦らずに急ぎましょう。
「ふぅ……ふぅ……えっ、これは……」
一歩一歩確実に階段を降りていると、ついに最下層にたどり着きました。そこで待っていたのは、何とも重々しい扉でした。それも、扉の中心には、何かの魔法陣が描かれております。
「これもさっきと同じなのかしら。もう魔法は使いたくないのですが……」
わがままを言っていても始まりませんわね。出来る限り体力は無駄にしないように、慎重に聖女の魔法を扉に使いましょう。
「……開きましたわ……!」
私の予想通り、扉の魔法陣が私の魔法に呼応するように光ると、鈍い音を立てながら開きました。
この先に、私の探している祭壇があるはず……そう思っていたのに、目の前に広がっていた光景は、全く違うものでした。
「これは、庭園……?」
ここは砂漠の地下のはずなのに、緑がとても豊かで、小さいながらも清らかな湖があります。動物も住んでいるようで、小鳥が楽しそうに歌い、リスが私の足元でじゃれあっています。
「お、来たなサーシャ。思ったより早かったな」
「えっ、誰かおりますの?」
「ここだ、ここ」
私にかけられた声のした方向に向くと、湖の近くに置かれたテーブルで、のんびりとコーヒーカップを口につけている女性がおりました。
腰まで伸びる真紅の髪と、切れ長な赤い目を持つその女性は、思わず溜息が出てしまうくらい美しいお方でした。
……このお方を見ていると、懐かしい気持ちになるのは何故なのでしょう……?
「あなたは……? それに、ここは……?」
「あたしか? あたしは赤の聖女だ。そしてここは、あたしが封印された空間を、魔法で改良した庭園さ」
「……??」
確かに私の質問に答えてくださっているはずなのに、その内容は理解に苦しむものでした。
聖女というのはいいとして、どうしてこんな場所にお一人でおられるのでしょう? それに、封印されたって……?
「あはは、色々と不思議そうな顔だな。うんうん、知らないことに疑問を持つのはとても良いことだ。説明してやるから、そこに座りな」
「は、はぁ……」
赤の聖女と名乗った女性に促されて、私は対面の席に腰を降ろすと、彼女が使っていたのと同じコーヒーカップが、目の前に突然現れた。
「コーヒーでよかったか?」
「え、ええ」
「ならよかった。ここに来るまでに、かなり苦労してたろ? それを飲んで、一息入れな」
「……先程のお言葉もそうでしたが、私がここに来ることをご存じだったのですか?」
「まあな。なにせあたしは、世界の監視者だからな。あと、ここに連れてきたのはあたしだ」
「監視者……? それに、ここに連れてきた?」
「こいつを使ってな」
彼女はパチンっと指を鳴らすと、テーブルの上には見覚えのある赤いぽわぽわが現れ、私の顔の近くを飛び回り始めました。
「これは、私を導いてくれたぽわぽわ……! あなたのお力だったのですね!」
「そうだ。本来なら世界に干渉することは良くないんだけど、あたしの子孫が国のため、そして愛する男のために必死に頑張ってる姿を見てたら、なんとかする機会を与えたくなってさ」
「子孫……??」
「おっとそうか。姉貴のせいで、あたしについては間違った歴史が伝わってるから、意味がわからないよな」
監視者だったり、子孫だったり、このお方の仰ることを理解するには、今の私の知識では足りなさそうです。素直に彼女から事情を聴いた方が早そうですが……。
「あの、ゆっくりお話をお聞きしたのですが……私にはあまり時間がないのです」
「知ってる。けど心配はいらねえよ。この空間の時間の流れは特殊でな。ここでいくら過ごそうと、外の世界では数秒程度しか経ってない」
「な、なるほど……?」
時間や空間を操作する魔法だなんて、見たことも聞いたこともありません。それくらい、このお方は特別だということでしょう。
「そういうわけだから、存分にゆっくりしていくといい。ほら、飲め飲め」
「わかりました……あ、おいしい」
コーヒーに何が入っているかもわからないのに、急かされてつい飲んでしまいましたが、とてもおいしいですわ。疲れた体に染みわたります。
「話を戻すか。さっきの話を説明するには、この国の正しい歴史を話さないといけない」
「歴史……聖女様がこの国をお創りになられたとか、そういったお話ですか?」
「そういうこった。サーシャはこの国を作った聖女の話は知ってるよな?」
「はい」
「その聖女が、二人いたって聞いたらどう思う?」
聖女様が二人……? 私が知っている歴史では、この国をお創りなった聖女様は、一人だけと聞いていますが……。
「この国を作った聖女の一人が、サーシャの知っている聖女。あたしはその妹で、姉貴と一緒にこの国を作り……そして、悪魔として後世に伝えられるようになった存在なんだ」
想像もしていなかった展開で、頭が混乱しておりますが、きっとここが入口なのでしょう。
「こうしてはいられません。早く中に入ってみましょう」
なにか罠があるかもしれないので、慎重に入ってみると、地下へと続く長い階段が私を出迎えてくれました。
こんな砂漠に階段だなんて、自然に出来たとは思えませんわね……わっ、凄い……私が来た途端、壁にかけられている松明に、一瞬で火が灯りました。これもなにかの魔法なのでしょうか?
きっとこの下に祭壇が……そう思うと、気ばかりが焦ってしまいますが、今の私の体で焦ったら、階段から落ちてしまいそうです。焦らずに急ぎましょう。
「ふぅ……ふぅ……えっ、これは……」
一歩一歩確実に階段を降りていると、ついに最下層にたどり着きました。そこで待っていたのは、何とも重々しい扉でした。それも、扉の中心には、何かの魔法陣が描かれております。
「これもさっきと同じなのかしら。もう魔法は使いたくないのですが……」
わがままを言っていても始まりませんわね。出来る限り体力は無駄にしないように、慎重に聖女の魔法を扉に使いましょう。
「……開きましたわ……!」
私の予想通り、扉の魔法陣が私の魔法に呼応するように光ると、鈍い音を立てながら開きました。
この先に、私の探している祭壇があるはず……そう思っていたのに、目の前に広がっていた光景は、全く違うものでした。
「これは、庭園……?」
ここは砂漠の地下のはずなのに、緑がとても豊かで、小さいながらも清らかな湖があります。動物も住んでいるようで、小鳥が楽しそうに歌い、リスが私の足元でじゃれあっています。
「お、来たなサーシャ。思ったより早かったな」
「えっ、誰かおりますの?」
「ここだ、ここ」
私にかけられた声のした方向に向くと、湖の近くに置かれたテーブルで、のんびりとコーヒーカップを口につけている女性がおりました。
腰まで伸びる真紅の髪と、切れ長な赤い目を持つその女性は、思わず溜息が出てしまうくらい美しいお方でした。
……このお方を見ていると、懐かしい気持ちになるのは何故なのでしょう……?
「あなたは……? それに、ここは……?」
「あたしか? あたしは赤の聖女だ。そしてここは、あたしが封印された空間を、魔法で改良した庭園さ」
「……??」
確かに私の質問に答えてくださっているはずなのに、その内容は理解に苦しむものでした。
聖女というのはいいとして、どうしてこんな場所にお一人でおられるのでしょう? それに、封印されたって……?
「あはは、色々と不思議そうな顔だな。うんうん、知らないことに疑問を持つのはとても良いことだ。説明してやるから、そこに座りな」
「は、はぁ……」
赤の聖女と名乗った女性に促されて、私は対面の席に腰を降ろすと、彼女が使っていたのと同じコーヒーカップが、目の前に突然現れた。
「コーヒーでよかったか?」
「え、ええ」
「ならよかった。ここに来るまでに、かなり苦労してたろ? それを飲んで、一息入れな」
「……先程のお言葉もそうでしたが、私がここに来ることをご存じだったのですか?」
「まあな。なにせあたしは、世界の監視者だからな。あと、ここに連れてきたのはあたしだ」
「監視者……? それに、ここに連れてきた?」
「こいつを使ってな」
彼女はパチンっと指を鳴らすと、テーブルの上には見覚えのある赤いぽわぽわが現れ、私の顔の近くを飛び回り始めました。
「これは、私を導いてくれたぽわぽわ……! あなたのお力だったのですね!」
「そうだ。本来なら世界に干渉することは良くないんだけど、あたしの子孫が国のため、そして愛する男のために必死に頑張ってる姿を見てたら、なんとかする機会を与えたくなってさ」
「子孫……??」
「おっとそうか。姉貴のせいで、あたしについては間違った歴史が伝わってるから、意味がわからないよな」
監視者だったり、子孫だったり、このお方の仰ることを理解するには、今の私の知識では足りなさそうです。素直に彼女から事情を聴いた方が早そうですが……。
「あの、ゆっくりお話をお聞きしたのですが……私にはあまり時間がないのです」
「知ってる。けど心配はいらねえよ。この空間の時間の流れは特殊でな。ここでいくら過ごそうと、外の世界では数秒程度しか経ってない」
「な、なるほど……?」
時間や空間を操作する魔法だなんて、見たことも聞いたこともありません。それくらい、このお方は特別だということでしょう。
「そういうわけだから、存分にゆっくりしていくといい。ほら、飲め飲め」
「わかりました……あ、おいしい」
コーヒーに何が入っているかもわからないのに、急かされてつい飲んでしまいましたが、とてもおいしいですわ。疲れた体に染みわたります。
「話を戻すか。さっきの話を説明するには、この国の正しい歴史を話さないといけない」
「歴史……聖女様がこの国をお創りになられたとか、そういったお話ですか?」
「そういうこった。サーシャはこの国を作った聖女の話は知ってるよな?」
「はい」
「その聖女が、二人いたって聞いたらどう思う?」
聖女様が二人……? 私が知っている歴史では、この国をお創りなった聖女様は、一人だけと聞いていますが……。
「この国を作った聖女の一人が、サーシャの知っている聖女。あたしはその妹で、姉貴と一緒にこの国を作り……そして、悪魔として後世に伝えられるようになった存在なんだ」
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