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第四十五話 レナードの本当の過去

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■レナード視点■

 俺が瘴気によって体を蝕まれたのは、俺が八歳の頃の話だ。

 以前、サーシャに伝えた通り、当時の俺はクラージュ家の人間ではなく、小さな田舎の村に住んでいた。

 自給自足の生活をして過ごしていたその村は、決して豊かではなかったが、村人達は力を合わせて生きていた。

 そんな村に、ある日この国の役人がやって来て、村に交渉を持ち出してきた。その内容とは、村に多額の支援をする代わりに、広大な土地の一角を売ってほしいというものだった。

 当時の俺にはよくわからなかったが、結果的に村はその話を聞き入れ、村の近くに巨大な施設が建ったんだ。

 その施設とは、王立魔法研究所……簡単に言うと、歴史の中で消えてしまった多くの魔法を研究したり、魔道具の研究をするための施設だ。俺の村以外にもいくつかあるようだから、サーシャも聞いたことがあるかもしれないな。

 どうして俺達の住む村に建てたのか疑問だったから、大きくなってから調べたんだが……どうやら広大な土地が欲しかった以外に、村の近辺で魔力を帯びた鉱石が採取できたそうだ。それが研究に使えるから、すぐに持ち込める立地は都合がよかったそうだ。

 とにかく、研究所を作る際の莫大な謝礼金のおかげで、村の生活は豊かになった。汗水流して畑の世話をしたり、危険な狩りに行かなくて済むようになり、村人達は喜んだ。

 そんなある日、俺は母親のお使いで、少し離れた村に行くことになった。

 当時の俺はまだ幼くて、畑仕事や狩りであまり村に貢献できない日々を過ごしていたから、お使いで貢献できると思うと、とても嬉しかった。

 俺は母からお金を預かって、意気揚々と村を出発した。早く頼まれた物を買って来れば、母が喜んでくれるだろうと、何とも無邪気なことを考えていた時……事件は起こった。

 ――辺り一面を全て吹き飛ばす勢いの、大爆発が俺を襲ったんだ。

 俺は森の自然ごと、爆風によって吹き飛ばされたが、運よく木々が爆風を防ぐ壁になってくれたようで、大きな怪我はしないで済んだ。

 一体何が起こったんだって、当時はパニックになりつつも、謎の爆発が起こったのは村の方角だとわかり、急いで村に向かったんだ。

 村に近づくほど、先程まで見ていた自然が変わり果てた姿になり、同時に紫色の霧なようなものが出ていたが、俺はそんなことなどおかまいなしに、村に向けて走った。

 俺は村に無事に着いた。だが、村があったはずの場所は大きくえぐれていて、元々建物だったと思われる残骸が、静かに転がっているだけの場所になっていた。

 特に酷かったのが研究所があった一帯で、幼い俺でも研究所が爆発の原因がわかるくらいだったよ。

 まあ、研究所のことなんかどうでもよかった。その時の俺の頭にあったのは、家族の安否だった。

 俺は急いで家があったと思われる場所に向かうと、そこには何もなかった。代わりに、少し離れたところに、吹き飛ばされて地面にめり込んだ、家と思われる木材の山があった。

 これは俺の家だ。きっとこの中で、俺と同じように母は助かっているはず。そう思って、俺は力を振り絞って木材を退かした。

 その甲斐もあって、俺はとある物を発見した。その発見した物とは……かつて俺の大好きだった母だったと思われる、変わり果てた肉の塊だった。

 信じられなかった。さっきまでは元気だった母が、こんな変わり果てた姿になるはずが無い……きっとこれは俺を驚かすために、村の皆がいたずらをしているんだ。

 当時の俺は、そうやって現実逃避をすることで自分を保ち、そのいたずらを証明するために村の跡地を回り始めた。

 だが、当然そんなタチの悪いいたずらなわけもなく……目の前に広がる光景が、現実だと突き付けられるだけだった。

 結局俺は、生き残りを見つけることは出来なかった。村の人も、研究所の人も、誰も生き残っていなかった。

 俺は絶望しながら、色々と嫌な考えが頭をよぎっていた。

 ――俺はこれから一人でどうすればいいんだ。
 ――何があって、こんな大事故につながったのか。
 ――こんなことに家族や村を巻き込んだ犯人を、絶対に許さない。

 そんなことを考えていると、紫色の霧の向こうから、何人もの人間が歩いてきた。魔法使いが好んで着るローブで、顔や体を覆っていた連中は、俺を見て驚いていたよ。

 その時は、相手が誰かわからなかったからね。俺は急いで彼らに助けを求めようとしたんだけど、彼らは俺を見ながらこう宣言したんだ。

 生き残りは全員始末する……とね。

 幼いながらも、こいつらは危険だと察知した俺は、一目散に逃げだした。当然彼らも俺を追いかけ、魔法で攻撃をしてきたが、生まれた時からずっと森が遊び場で、自然と体が鍛えられていた俺にとって、逃げることはそこまで難しくなかった。

 そうしてなんとか森の中でも、被害が少ない所まで逃げて……もう大丈夫だと思ったら、別の連中が俺を殺そうとしてきた。

 彼らから逃げる日々の中で、俺ははぐれた追っ手に奇襲を仕掛けて動けなくし、どうして俺を殺そうとしているのか聞いたんだ。

 そうしたら、俺を追いかけているのは国家の連中で、事故で爆発してしまった魔法研究所のことを隠ぺいするために、生き残りである俺を殺そうとしていると話した。

 それを知った時、国家の連中に明確な殺意が湧いた。そして俺は自分に誓ったんだ。この身が朽ちようとも、国家に復讐をする……とね。

 幼い復讐者になった俺は、追っ手から逃げ続ける日々を過ごしていた。不意打ちで一人くらいを無力化はできても、当時の俺では、それ以上は出来なかったからね……逃げるしかなかった。これが、サーシャに説明をした、世界を渡り歩いていた理由だ。

 だが、逃げている時に問題が生じた。俺の体が瘴気に侵されてしまい、動くことが困難になってしまったんだ。

 今思うと、事故現場にあった紫色の霧は、事故のせいで発生した瘴気だったのだろう。詳しくはわからないが、瘴気の研究でもしていて、事故の影響で外に漏れ出たのだと思う。

 その瘴気に侵されてしまった俺は、体がボロボロになりながらも、なんとか追っ手から逃げていたんだが……途中で川に落ちてしまった。

 大した流れも無い川だった。元気な俺なら、余裕で渡り切れる程度だったけど、弱っている状態ではそれすらも危険なものだったんだ。

 俺は川に流され、見知らぬ土地で目が覚めた。体はボロボロで、まともな食事も出来ていない状態で川に流されたからか、俺にそれ以上動く元気は無くなっていて……ついに見知らぬ森の中で動けなくなってしまった。

 俺はここで死ぬのか。家族や村のみんなの敵を討てずに終わるのか。そう思っていたところに、運命がとある人物と引き合わせてくれたんだ。

 そう……サーシャという名の天使と。
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