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第三十八話 お誕生日!?

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 各地に広がる瘴気による被害を何とかするために、レナード様と一緒に近くから片っ端に回った私は、夜も更けてきた頃に屋敷に戻ってきました。

「おつかれさま、サーシャ」
「レナード様もお疲れ様でした」

 互いに何とも言えない表情を浮かべながら、互いの労をねぎらい合いました。

 ……実は、本日私が行った場所は、既にルナが来て対処をし終えていた場所ばかりでしたの。それも、やはりと言うべきか……全てが中途半端でした。

 だから、私がその後始末をする形で動いたのですが……なんとも言えない、もやもやした気持ちが胸の奥に残ってしまいました。

「サーシャ、本当にルナという人物は、国のお抱え聖女になれるほどの器なのかい? 俺には、そうとは思えないんだが……」
「ルナも一応、私と同じくらいの聖女の才能があるのですが……」

 疑問に思うのも無理はありません。私だって、出発前はルナの才能を信じておりましたが、何十人……いや、何百人も瘴気の残滓を残しているのを見たら、信じられなくなってしまいました。

「とりあえず、今日行った場所は全て対処しましたから、とりあえず大丈夫かと存じます。この調子でいけば、何とかなるでしょう」
「簡単に言うけど、君の体調は大丈夫なのかい?」
「だ、大丈夫ですよ??」
「どうして疑問形なんだ。やはり、無理をしているのだろう?」
「うっ……」

 じ、実はなるべく顔には出していませんが、それなりに疲れてはおりますわ。瘴気の残滓を取り除くのは、普通の治療に比べて疲労は溜まりにくいですが、なにしろ人数がとても多かったもので……。

「はやる気持ちはわかるが、君が倒れては元も子もない。丁度明日は俺が外せない用事があるから、ゆっくり休むといいよ」
「明日になにかあるのですか?」
「実は、明日は俺の誕生日でね。毎年誕生日を祝うパーティーが開かれるんだ。さすがに主役が参加しないわけにはいかないからね」
「た、誕生日!?」

 まるで雷に打たれたかのような衝撃と共に、私は声を荒げました。

 ど、どうしましょう……レナード様のお誕生日なんて、とても大切なことなのに、全然知りませんでしたわ! 婚約者として、それくらい聞いておかなければいけないことですのに、使命のことばかり考えて……!

「それで、君が良ければパーティーに参加してほしいんだ」
「もちろん参加いたしますわ! ですが、私……お誕生日ということを、全然知らなくて……何の準備も……!」
「あはは、伝えてないんだから仕方がないさ。君が参加してくれるだけで、俺にとって最高のプレゼントさ」
「そう仰ってくれるのは嬉しいですが、そういうわけにはいきませんわ! 少々出かけて参ります!」

 急いで立ち上がったところまでよかったですが、疲労と焦りで足をもつれさせてしまい、盛大に転んでしまいました。

「だ、大丈夫か!?」
「ひゃ、ひゃい……」

 愛する人の誕生日を知らなかったどころか、その愛する人の前で転んでしまうなんて……あぁ、情けない……。

 って、反省は後でいくらでもする機会はございます。今はとにかく、レナード様へのお誕生日プレゼントを何にするか考えませんと!

 時間の猶予はほとんどありませんが……それでも、諦めずに探せばきっと喜んでもらえる一品を見つけられるはず!


 ****


 翌朝、まだレナード様が眠っている間に、私は静かに部屋を抜け出し、朝の仕事をしている使用人に外出の許可を取りました。

「パーティーの準備がございますので、あまり時間は設けられませんが、それでもよろしいですか?」
「はい、お願いいたします!」
「では、すぐに馬車の準備をいたします。どこか向かうあてはございますか?」

 昨晩寝ずに考えたおかげで、一つプレゼントの候補があります。それを扱っている店が、この近辺だと何処にあるのかわかりません。こういう時は、聞いた方が早いですわね。

「――というわけなのですが、心当たりはございますか?」
「はい。ジェラール様が愛用している老舗がございます。ここからさほど時間をかけずに到着できるかと」

 それは朗報ですわね。ジェラール様が利用しているお店なら、きっと素晴らしい品質の物を売っているに違いありませんわ。

「では、そちらの店までお願いできますでしょうか?」
「かしこまりました。すぐに準備をいたしますので、その間にお召し物をお取替えください」
「わかりましたわ」
「……なにあれ、必死に準備してアピールしてるのかしら?」
「あ~、ありえるかも~。聖女の癖に、汚い真似をするんだね~」
「やだやだ、これだから悪魔の子は」
「この声は……」

 言われた通りにするために、いつも身支度をしている更衣室に行こうとすると、物陰に隠れながら、私の陰口をヒソヒソと言い合う使用人がいるのを見つけました。

 あの方々は、ここに来てすぐに私のことを言っていた使用人ですね。いまだに彼女達は、私のことを嫌っているようですが、気にしている時間はありません。

「服装は、動きやすいものにさせていただきました」
「ありがとうございます。とても助かりますわ」

 更衣室に移動した私は、いつも身支度の手伝いをしてくれる使用人に、動きやすいエプロンドレスに着替えさせてもらうと、そのまま外に準備されていた馬車に乗りこみました。

 いつもは見た目を重視したドレスを着させていただいているので、動きやすさ重視のエプロンドレスを着るのは、逆に動きやすすぎて、不思議な気分ですわ。

「突然のお話でしたのに、迅速な準備をしていただき、ありがとうございます」
「いえ、この家に仕える御者として当然でございます。では、足元に気を付けてお乗りください」

 いつもはレナード様にリードしてもらうところを、代わりに御者にリードされて馬車に乗りこむと、すぐに馬車は目的地に向かって出発しました。

 無事にプレゼントに相応しい逸品が見つかると良いのですが……こればかりは、祈るしか出来ませんわね。
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