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第三十三話 聖女の怠慢?

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■ルナ視点■

「はぁ~、今日も疲れた~」

 今日も聖女の仕事を無事に終えたわたしは、豪華な家具が置かれる、広々とした自室のベッドに顔から飛び込みながら、深々と溜息を漏らした。

 聖女の仕事って、思ったより疲れる。特に、こっちからわざわざ患者の元に出向くのが、面倒で仕方がない。治してもらう立場なんだから、向こうから来るのがスジってものでしょ?

「エドワード様は……またいない」

 わたしと婚約をして、一緒に生活を始めたエドワード様……いや、エドワードの馬鹿は、最近はわたしに飽きたのか、他の女の所に遊びに行っている。朝に帰ってくることも珍しくない。

 本人はバレていないと思っているようで、時折わたしに愛の言葉を言ったり、体を求めてきたりするけど、全部断っている。

 女好きなのは前々から分かってたから、こっちとしても遊びだったとはいえ、いざ他の女の所に行かれると、腹が立って仕方がない。

 顔も見たくないから、さっさと婚約破棄をしてくれないかな。そうすれば、婚約破棄の賠償として多額のお金がふんだくれるし。

「……そういえば、最近やたらと瘴気の被害に遭った連中が多いのは何故なんだろう?」

 ふと思った事を口にしながら、仰向けに寝転ぶ。

 今日は五人の治療を行ったのだけど、そのうちの三人は瘴気の汚染による体調不良だった。どれもわたしの魔法で治せたとはいえ、あまりにも人数が多い。

 この国の領土は、瘴気を防ぐ結界が貼ってあるんだから、そうそう患者が出るはずはないんだけど……もしかして、揃いも揃って結界の外に出た馬鹿? そんな連中の治療をするわたしの身にもなってほしい。

「失礼します。国王陛下から、これより開かれる会議に参加しろとのご命令が」
「わたしが会議に? わかりました、すぐに行きます!」

 会議とは、この国の国王陛下と、中枢にいる権力者の貴族数人が集まって、今の国について話し合いをする場だ。

 そんな大切な場に、どうしてわたしが呼ばれるのだろう? はっきりいって面倒だから、巻き込まないでほしい。

「これを無視したら、余計に面倒になるし……さっさと行きましょ」

 誰にも聞こえないような小声で愚痴を漏らしてから、お城の最上階にある会議室へと向かうと、そこには国王陛下と数人の権力者に加えて、わたしのお義父上様が円形の机に向かっていた。

「失礼いたします。ルナ・メルヴェイです!」
「我が娘よ、突然の召集に応えてくれたこと、感謝する」
「そんな、わたしは当然のことをしているまでです! 国王陛下、ご機嫌麗しゅうございますわ」
「うむ」

 わたしは、クレマン・シエロ国王陛下に向かって、深々とお辞儀をする。

 クレマン国王陛下は、真っ白な長い髪と立派な口ひげ、恰幅の良い体が特徴的で、ただ座っているだけでも威厳のあるお方だ。

 はあ、こういう堅苦しい挨拶って本当に面倒くさい。そもそも、わたしこのデブのこと嫌いなんだよね。偉そうにふんぞり返ってるけど、国王としての能力が高いようには見えないし。

 まあ、それを口に出したら大変なことになるから、わたしは愛嬌を振りまきつつ、空いている席に腰を下ろした。

「では全員揃ったところで、会議を始める。まず、例の件から話を始めよう」
「最近、結界の内だというのに瘴気が発生した村があるというが、一体何がどうなっているのじゃ!?」

 会議に参加していた、ハゲ頭の貴族がバンっと机を叩きながら、勢いよく立ち上がる。

 今の世の中は、そんなことが起こってたんだ。全然知らなかった……あ、だから瘴気の被害に遭った患者が多かったんだ!

「結果的に、あの村は国王陛下の命によって、即刻隔離できたから良かったですが、あのような現象が各地で起きたら、大混乱に陥ってしまいますわ」

 厚化粧の年増な貴族が、扇で口元を隠しながら、とても不機嫌そうな溜息を漏らした。

 そこは国として、すぐに助けてあげた方が、面倒なことにならないと思うんだけど。

 ……まあ、有象無象の村なんて救っても、ここの連中には利益なんて無さそうだから、助けるわけがないか。
 所詮人間なんて、自分の利益のためにしか動かないってね。もちろん、わたしもだけど。

「……それについてだが、悪いニュースが二つある」
「なんじゃと?」
「一つは、その村の瘴気が何者かによって浄化されたうえに、村人の治療と新たな結界を張ったことだ」
「え? お義父上様、それって良いことに聞こえるんですけど?」
「愛しの娘よ、わからぬか? 我々はあの村を見捨て、丸ごと隔離したのだ。そうすることで、瘴気の患者が表に出ることによって起こる混乱を防ぎつつ、見捨てたことの隠ぺいをする為に……な」

 やっぱり、隠ぺいするための処置だったんだ。素直に村を助けて、各地に瘴気について注意喚起をした方が、後々面倒にならないと思うんだけどね……本当にこいつらって馬鹿しかいないの?

「念の為、我が家の特殊部隊が村を監視し、怪しい動きをした村人を始末するように命令しているから、心配はないと思うが……」
「なにを言っているのじゃ!? そんなことをしたら、余計に村人の反感を買うじゃろう!」

 こいつらのことは、基本的に馬鹿で見下しているわたしだけど、それについては、わたしもハゲ貴族と同意見かな。有象無象にコストをかけたくない気持ちもわかるけど。

「お義父上様、その村を助けたのって、誰なんですか?」
「サーシャだ」
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