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第三十話 老婆と思惑
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「あ、アレクシア様!?」
突然アレクシア様が倒れたことで、辺りから悲鳴や驚きの声が響く中、私は急いでアレクシア様の容体を確認しました。
息が絶え絶えで、顔が異常に白い……それに、目が異様に充血している……極めつけは、口から何か腐食しているような臭いがします。
「これは……プワンを飲んだ時の症状……!」
「ぷ、プワンだって!? サーシャ、それって確か毒の名前だよな!?」
「はい。無味無臭で、毒性の弱いものではございますが、即効性が高いことが特徴ですわ!」
実は以前、私は聖女の魔法を使い、プワンを盛られたお方の治療をした経験がございます。なので、治療することはさほど難しいことではございません。
しかし、その時の患者はとても若かった……お年を召したアレクシア様では、長時間耐えるのは難しいでしょう。
「なんだと!? それなら、はやくルナ様をお呼びしなければ!」
「それでは間に合いませんし、患者を無暗に動かしてはなりません! 私が診ます!」
一秒でも早い治療が必要だというのに、先程私に嫌味を言ってきた男性が私の間に割って入り、アレクシア様を連れて行こうとしました。
「あなたが診るですって!? そうか、わかりましたよ! これを好機とみて、彼女を秘密裏に抹殺しようとしているのでしょう! やはりあなたは悪魔の子だ!」
「この期に及んで、なにをくだらないことを仰っておりますの!? 人一人の命がかかっておりますのよ! わかったら退きなさい!!」
私は、声を荒げながら邪魔をする彼を押しのけると、まるで私が凄い力で押したかのように、彼はその場で尻餅をつきました。
「ぐはぁ!? み、見ましたか皆様! この悪魔はアレクシア様を殺すために三文芝居をしたどころか、私に怪我を負わせようとしています! 衛兵は何をしている! 早くこのバケモノを投獄しろ!!」
彼の怒号に戸惑いながらも、会場の警備をしていた衛兵の方々が、武器を構えて囲ってきました。
このままでは、私は冤罪で捕まってしまいます。話し合えば誤解だとわかってもらえるかもしれませんが、アレクシア様の容体を考えたら、そんなことをしている暇はありません。
それなら、私のするべきことは……捕まる前に、急いで治療をすることですわ!
「……なるほどな。三文芝居をしていたのは、どうやらあの男のようだ」
「義父上、どういうことですか?」
「話は後だ。今の我々に出来ることは、サーシャの治療を邪魔させないことと、奴を絶対に逃さないことだ」
「なるほど、わかりやすくてとても助かります。サーシャを守るなんて役目は、世界一俺に向いた役目です!」
背中から、レナード様の頼もしい声が聞こえてきます。その声をを聞くだけで、私の胸の奥に、勇気という炎が燃え上がります。
さあ、やりますわよ! アレクシア様を治して、これからもご健康で過ごしてもらいませんと!
「こ、これは……」
アレクシア様の体を調べていると、思わぬものを見つけてしまいました。
いくつもの体の器官の働きが、とても弱くなっておりますわ……この感じですと、つい最近に起こったものには見えません。長い間、ゆっくりと衰えていって、今ではほとんど使い物になっていないでしょう。
おそらくですが、元々体が弱っていたところに、プワンが入ってきて、更に悪化してしまったと思われます。
「これでは、解毒しても意味がありませんね……それなら!」
私は右手と左手で役目を分けて動き始めました。まず、右手でアレクシア様の毒を取り出します。私のやり方は、魔力で毒を無力化し、魔力に変換した後、体から取り出すやりかたです。
そして左手ですが……私の魔力を使い、衰えてしまっているところを補っていくのです。
こうすれば、ずっとというわけにはいきませんが、私の魔力が切れるまでは器官が正常に動きます。その間に、毒で奪われた体力を回復してもらえれば、大丈夫でしょう。
「くぅぅぅぅ……想像以上に、難しい!」
毒の治療なんて、聖女の魔法の基本なので簡単です。魔力を流し込むのも簡単です。
しかし、今やっているのは、毒の治療を行いつつ、大量の魔力をアレクシア様の体に流し、そのうえ魔力を各器官に適応するように調整をして……やることが多すぎて、目が回りそうですわ!
なんなら、既に魔力の使いすぎて頭がグルグル回っていますし、意識も気を抜けば、闇の世界に引き込まれそうになります。
でも、それがなんなのですか? 私は私がどうなっても、知ったことではございません。一番苦しんでいるのは、目の前で苦しんでいるアレクシア様ですわ!
「私は絶対にやりますわ。私はどれだけ陰口を叩かれようとも! 誰にも認められなくても! 偽善だと笑われようとも! 私は絶対に折れない……負けない……諦めませんわ!!」
自分の言葉で自分を鼓舞して、全ての集中力を治療にまわしました。
周りで何か大きな音が立っていますが、そんなの雑音にならないくらい、集中して、集中して、今にも倒れそうになるくらい頑張って治療した結果は――
突然アレクシア様が倒れたことで、辺りから悲鳴や驚きの声が響く中、私は急いでアレクシア様の容体を確認しました。
息が絶え絶えで、顔が異常に白い……それに、目が異様に充血している……極めつけは、口から何か腐食しているような臭いがします。
「これは……プワンを飲んだ時の症状……!」
「ぷ、プワンだって!? サーシャ、それって確か毒の名前だよな!?」
「はい。無味無臭で、毒性の弱いものではございますが、即効性が高いことが特徴ですわ!」
実は以前、私は聖女の魔法を使い、プワンを盛られたお方の治療をした経験がございます。なので、治療することはさほど難しいことではございません。
しかし、その時の患者はとても若かった……お年を召したアレクシア様では、長時間耐えるのは難しいでしょう。
「なんだと!? それなら、はやくルナ様をお呼びしなければ!」
「それでは間に合いませんし、患者を無暗に動かしてはなりません! 私が診ます!」
一秒でも早い治療が必要だというのに、先程私に嫌味を言ってきた男性が私の間に割って入り、アレクシア様を連れて行こうとしました。
「あなたが診るですって!? そうか、わかりましたよ! これを好機とみて、彼女を秘密裏に抹殺しようとしているのでしょう! やはりあなたは悪魔の子だ!」
「この期に及んで、なにをくだらないことを仰っておりますの!? 人一人の命がかかっておりますのよ! わかったら退きなさい!!」
私は、声を荒げながら邪魔をする彼を押しのけると、まるで私が凄い力で押したかのように、彼はその場で尻餅をつきました。
「ぐはぁ!? み、見ましたか皆様! この悪魔はアレクシア様を殺すために三文芝居をしたどころか、私に怪我を負わせようとしています! 衛兵は何をしている! 早くこのバケモノを投獄しろ!!」
彼の怒号に戸惑いながらも、会場の警備をしていた衛兵の方々が、武器を構えて囲ってきました。
このままでは、私は冤罪で捕まってしまいます。話し合えば誤解だとわかってもらえるかもしれませんが、アレクシア様の容体を考えたら、そんなことをしている暇はありません。
それなら、私のするべきことは……捕まる前に、急いで治療をすることですわ!
「……なるほどな。三文芝居をしていたのは、どうやらあの男のようだ」
「義父上、どういうことですか?」
「話は後だ。今の我々に出来ることは、サーシャの治療を邪魔させないことと、奴を絶対に逃さないことだ」
「なるほど、わかりやすくてとても助かります。サーシャを守るなんて役目は、世界一俺に向いた役目です!」
背中から、レナード様の頼もしい声が聞こえてきます。その声をを聞くだけで、私の胸の奥に、勇気という炎が燃え上がります。
さあ、やりますわよ! アレクシア様を治して、これからもご健康で過ごしてもらいませんと!
「こ、これは……」
アレクシア様の体を調べていると、思わぬものを見つけてしまいました。
いくつもの体の器官の働きが、とても弱くなっておりますわ……この感じですと、つい最近に起こったものには見えません。長い間、ゆっくりと衰えていって、今ではほとんど使い物になっていないでしょう。
おそらくですが、元々体が弱っていたところに、プワンが入ってきて、更に悪化してしまったと思われます。
「これでは、解毒しても意味がありませんね……それなら!」
私は右手と左手で役目を分けて動き始めました。まず、右手でアレクシア様の毒を取り出します。私のやり方は、魔力で毒を無力化し、魔力に変換した後、体から取り出すやりかたです。
そして左手ですが……私の魔力を使い、衰えてしまっているところを補っていくのです。
こうすれば、ずっとというわけにはいきませんが、私の魔力が切れるまでは器官が正常に動きます。その間に、毒で奪われた体力を回復してもらえれば、大丈夫でしょう。
「くぅぅぅぅ……想像以上に、難しい!」
毒の治療なんて、聖女の魔法の基本なので簡単です。魔力を流し込むのも簡単です。
しかし、今やっているのは、毒の治療を行いつつ、大量の魔力をアレクシア様の体に流し、そのうえ魔力を各器官に適応するように調整をして……やることが多すぎて、目が回りそうですわ!
なんなら、既に魔力の使いすぎて頭がグルグル回っていますし、意識も気を抜けば、闇の世界に引き込まれそうになります。
でも、それがなんなのですか? 私は私がどうなっても、知ったことではございません。一番苦しんでいるのは、目の前で苦しんでいるアレクシア様ですわ!
「私は絶対にやりますわ。私はどれだけ陰口を叩かれようとも! 誰にも認められなくても! 偽善だと笑われようとも! 私は絶対に折れない……負けない……諦めませんわ!!」
自分の言葉で自分を鼓舞して、全ての集中力を治療にまわしました。
周りで何か大きな音が立っていますが、そんなの雑音にならないくらい、集中して、集中して、今にも倒れそうになるくらい頑張って治療した結果は――
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