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第十五話 はじめの一歩
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「さあサーシャ! 今日からはりきって、苦しんでいる人達を助けようじゃないか!」
「は、はい……」
翌朝、とても元気一杯のレナード様とは対照的に、私は欠伸を噛み殺しながら、頷いて見せました。
……実は、昨晩はレナード様がすぐ隣で眠っているって意識しすぎて、なかなか寝付けなくて……挙句の果てには、レナード様が私を抱きしめながら……。
『サーシャ……愛してる……むにゃむにゃ』
なんて仰るものだから、もう完全に私の眠気はどこかに行ってしまいました。その結果、私は完全に睡眠不足になってしまいましたの。
初日は気絶してしまったからよかったですが、普通に眠れるようになるには、まだ時間がかかりそうです……はふぅ、眠いですわ……。
レナード様が私のために助手をやってくれるどころか、地図でまとめてきてくれたのだから、泣き言なんて言っていられませんわね。
それに、レナード様に沢山抱きしめてもらったおかげで、元気自体はありあまっておりますわ! ただ眠いだけです!
「昨晩も見せた地図に書かれた印だけど、バツ、丸、二重丸の順で現在の状況を表している。バツが悪く、二重丸はそこまでって感じだね」
「なるほど。あら、一つだけ黒丸がありますけど、ここは……?」
「俺も詳しいことは知らないんだが、知人が言うには、ごく最近に大きな問題が発生した村みたいでね」
一体何があったのかしら……地図上でわかることは、国の領土のギリギリに位置する村ということだけですわ。
「レナード様、この黒丸の所に行ってみましょう。何か嫌な予感がしますわ」
「わかった。荷物は持ったし、行こうか!」
「……今日は、先日のような格好で行かないのですか?」
「あれは社交界に出る時の格好なんだよ。普段は準備も時間がかかるし、動きにくいからしないんだよ」
そうでしたか……外出する時はあの時の用なカッコイイレナード様になるのかと思っていたので、残念ですわ。
まあ、遊びに行くのではないのですから、当然と言えば当然ですね。
「では、聖女の使命を果たし、沢山の人を助けるために、頑張りましょう! おー!」
「おー!!」
二人で天に向かって拳を突きあげて気合を入れるが、急に照れ臭くなってしまい、二人でクスクスと笑ってしまいました。
――そんなレナード様と共に、私は馬車に乗りこんで、目的地の村へと向けて、ゆっくりと出発をしました。
「一人で乗る馬車は退屈だが、サーシャとの馬車は最高だな。狭いから、合法的にくっつける!」
「だからって、こんな密着する必要はあるのでしょうか……?」
座るところは他にもあるのに、レナード様はわざわざ私の隣に座り、くっついてきております。
「嫌だったかい?」
「そんなことはございません。愛する人を受け入れるくらい、当然ですわ」
「さ、サーシャがイケメン過ぎる……いつもの愛らしいもの好きだが、これはこれで……良い!」
「よ、よくわかりませんが、お気に召していただけたのならよかったです」
再会してから数日だけでは、レナード様を完全に理解するのは難しそうです。そうだ、もっと理解を深めるために、レナード様のことを聞いてみましょう。
「レナード様は、子供の時の私と出会う前は、何をされていたのですか?」
「俺か? 俺は田舎の小さな村で、普通に過ごしてたよ。緑が多くて、良い所だった」
「だった……?」
「色々あって、滅びてしまってね。ちょうどその時に村を離れていた俺以外、何も残っていなかった」
「……ご、ごめんなさい、つらいお話をさせてしまって……」
「もう乗り越えてるから心配……って、泣いているのかい!? ハンカチハンカチ!」
何気なく聞いた内容が、私の想像よりも重いもので、きっとレナード様はとても悲しかったのだろうと想像したら、自然と涙が頬を伝っておりました。
まだ小さい時に、家族も、村人も、故郷も、全てを失ってしまったレナード様の心境は、私には想像もできません。
だから、今この時……この瞬間で私が何か出来ることは、きっとあるはず。そう思った結果、私はハンカチを渡そうとしていたレナード様の手を取って、優しくぎゅっぎゅっとしてさし上げました。
「サーシャ……?」
「私は、レナード様の故郷や、一緒に過ごしていた皆様の代わりにはなれないでしょう。しかし、私の愛情で、少しでもあなたの悲しみを癒してさし上げられられればと思います」
「その気持ちだけで、本当に嬉しいよ。ありがとう、サーシャ」
隣に座りレナード様は、お礼の言葉を述べると、真剣な表情で私の顔に近づいてくる。
これは、きっとあれでしょう……この一瞬で、一気にドキドキと高鳴る胸の鼓動を感じながら、ゆっくりと目を閉じると……唇に柔らかい感触を感じた。
触れるだけの、簡単なキス。言ってしまえば、子供でも出来そうなことですが、私にとって、レナード様とキスするのは、特別な意味がありますわ。
「サーシャ、今日寝ていないだろう?」
「どうしてわかるんですか?」
「近くで見たら、うっすらとクマが見えたからね。大方、一緒に寝るのが緊張して、寝られなかったんだろう?」
「ぎくぎくっ」
完全に図星過ぎて、不自然な返事になってしまったわ……。
「サーシャはわかりやすいなぁ。とても可愛くて、食べちゃいたいくらいだ」
「食べてもおいしくありませんよ!?」
「君の考えているものと、俺のは多分違うだろうね。まあ、俺はまだ手を出すつもりなんてないけど」
「……?」
「とにかく、到着したら起こしてあげるから、休んだらどうだい?」
「そうですわね。ではお言葉に甘えて……」
私はレナード様の横に座り、腕を抱き枕にし、肩を枕代わりにすると、即座に眠気が怒涛の勢いで襲い掛かってきました。
「おやすみ、ゆっくり休んで」
レナード様のその言葉を最後に、私は静かに意識を手放した……。
「は、はい……」
翌朝、とても元気一杯のレナード様とは対照的に、私は欠伸を噛み殺しながら、頷いて見せました。
……実は、昨晩はレナード様がすぐ隣で眠っているって意識しすぎて、なかなか寝付けなくて……挙句の果てには、レナード様が私を抱きしめながら……。
『サーシャ……愛してる……むにゃむにゃ』
なんて仰るものだから、もう完全に私の眠気はどこかに行ってしまいました。その結果、私は完全に睡眠不足になってしまいましたの。
初日は気絶してしまったからよかったですが、普通に眠れるようになるには、まだ時間がかかりそうです……はふぅ、眠いですわ……。
レナード様が私のために助手をやってくれるどころか、地図でまとめてきてくれたのだから、泣き言なんて言っていられませんわね。
それに、レナード様に沢山抱きしめてもらったおかげで、元気自体はありあまっておりますわ! ただ眠いだけです!
「昨晩も見せた地図に書かれた印だけど、バツ、丸、二重丸の順で現在の状況を表している。バツが悪く、二重丸はそこまでって感じだね」
「なるほど。あら、一つだけ黒丸がありますけど、ここは……?」
「俺も詳しいことは知らないんだが、知人が言うには、ごく最近に大きな問題が発生した村みたいでね」
一体何があったのかしら……地図上でわかることは、国の領土のギリギリに位置する村ということだけですわ。
「レナード様、この黒丸の所に行ってみましょう。何か嫌な予感がしますわ」
「わかった。荷物は持ったし、行こうか!」
「……今日は、先日のような格好で行かないのですか?」
「あれは社交界に出る時の格好なんだよ。普段は準備も時間がかかるし、動きにくいからしないんだよ」
そうでしたか……外出する時はあの時の用なカッコイイレナード様になるのかと思っていたので、残念ですわ。
まあ、遊びに行くのではないのですから、当然と言えば当然ですね。
「では、聖女の使命を果たし、沢山の人を助けるために、頑張りましょう! おー!」
「おー!!」
二人で天に向かって拳を突きあげて気合を入れるが、急に照れ臭くなってしまい、二人でクスクスと笑ってしまいました。
――そんなレナード様と共に、私は馬車に乗りこんで、目的地の村へと向けて、ゆっくりと出発をしました。
「一人で乗る馬車は退屈だが、サーシャとの馬車は最高だな。狭いから、合法的にくっつける!」
「だからって、こんな密着する必要はあるのでしょうか……?」
座るところは他にもあるのに、レナード様はわざわざ私の隣に座り、くっついてきております。
「嫌だったかい?」
「そんなことはございません。愛する人を受け入れるくらい、当然ですわ」
「さ、サーシャがイケメン過ぎる……いつもの愛らしいもの好きだが、これはこれで……良い!」
「よ、よくわかりませんが、お気に召していただけたのならよかったです」
再会してから数日だけでは、レナード様を完全に理解するのは難しそうです。そうだ、もっと理解を深めるために、レナード様のことを聞いてみましょう。
「レナード様は、子供の時の私と出会う前は、何をされていたのですか?」
「俺か? 俺は田舎の小さな村で、普通に過ごしてたよ。緑が多くて、良い所だった」
「だった……?」
「色々あって、滅びてしまってね。ちょうどその時に村を離れていた俺以外、何も残っていなかった」
「……ご、ごめんなさい、つらいお話をさせてしまって……」
「もう乗り越えてるから心配……って、泣いているのかい!? ハンカチハンカチ!」
何気なく聞いた内容が、私の想像よりも重いもので、きっとレナード様はとても悲しかったのだろうと想像したら、自然と涙が頬を伝っておりました。
まだ小さい時に、家族も、村人も、故郷も、全てを失ってしまったレナード様の心境は、私には想像もできません。
だから、今この時……この瞬間で私が何か出来ることは、きっとあるはず。そう思った結果、私はハンカチを渡そうとしていたレナード様の手を取って、優しくぎゅっぎゅっとしてさし上げました。
「サーシャ……?」
「私は、レナード様の故郷や、一緒に過ごしていた皆様の代わりにはなれないでしょう。しかし、私の愛情で、少しでもあなたの悲しみを癒してさし上げられられればと思います」
「その気持ちだけで、本当に嬉しいよ。ありがとう、サーシャ」
隣に座りレナード様は、お礼の言葉を述べると、真剣な表情で私の顔に近づいてくる。
これは、きっとあれでしょう……この一瞬で、一気にドキドキと高鳴る胸の鼓動を感じながら、ゆっくりと目を閉じると……唇に柔らかい感触を感じた。
触れるだけの、簡単なキス。言ってしまえば、子供でも出来そうなことですが、私にとって、レナード様とキスするのは、特別な意味がありますわ。
「サーシャ、今日寝ていないだろう?」
「どうしてわかるんですか?」
「近くで見たら、うっすらとクマが見えたからね。大方、一緒に寝るのが緊張して、寝られなかったんだろう?」
「ぎくぎくっ」
完全に図星過ぎて、不自然な返事になってしまったわ……。
「サーシャはわかりやすいなぁ。とても可愛くて、食べちゃいたいくらいだ」
「食べてもおいしくありませんよ!?」
「君の考えているものと、俺のは多分違うだろうね。まあ、俺はまだ手を出すつもりなんてないけど」
「……?」
「とにかく、到着したら起こしてあげるから、休んだらどうだい?」
「そうですわね。ではお言葉に甘えて……」
私はレナード様の横に座り、腕を抱き枕にし、肩を枕代わりにすると、即座に眠気が怒涛の勢いで襲い掛かってきました。
「おやすみ、ゆっくり休んで」
レナード様のその言葉を最後に、私は静かに意識を手放した……。
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