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第十二話 最大の危機……?
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「うぅ~ん……あ、あれ?」
ゆっくりと目を開けると、そこは見慣れたボロボロの小屋ではなく、とても綺麗な天井だった。
そうだ、私は昨日からレナード様と一緒に過ごすことになったのでしたね。まだ寝ぼけているのか、頭が働いていないようですわ。
「……私、いつの間に眠っていたのでしょう?」
昨晩は確か、レナード様と食事をしたり、昔の話を聞いたり、初めて綺麗なお風呂に入れてもらったり……それと……そうですわ!レナード様に突然キスをされて、そのまま気を失ってしまって……!
「思い出したら、急に恥ずかしく……」
「すー……ぐぅ……」
「えっ」
すぐ隣から、誰かの寝息のようなものが聞こえて来て顔を向けると、目と鼻の先にレナード様の寝顔がありました。
ただでさえこんなにレナード様の顔が近くにあって緊張するのに、昨日のキスのことを思い出し、ドキドキの限界に達した私のしたことは……。
「きゃあああああ!!」
「な、なにごと――ふげっ!?」
その場で大絶叫を上げながら、枕で何度もレナード様の顔を叩くという暴挙でした。
もう色々なことがあり過ぎて、頭が混乱してしまって……自分でも何をしているかわからなくなっておりました。
「ちょ、サーシャ! ごふっ、急にどうし、ぶふぅ!」
「きゃあああああああああ!!!!」
――結局その後、私の絶叫で集まってきた使用人の人達に止められましたわ。何事も無くてよかったと仰っておりましたが、皆様あまり良い顔はしておりませんでした。
「ほ、本当に申し訳ございませんでした!!」
「気にすることはないよ。君に枕で叩かれるという、貴重な体験をさせてもらえてよかったよ」
嫌味など一切感じない、屈託のない笑顔を浮かべるレナード様。それとは対照的に、私は青ざめた顔を上げることが出来ずにおりました。
いくら驚いてしまったとはいえ、私にプロポーズをしてくれたお方を叩いてしまうだなんて……自己嫌悪でどうにかなってしまいそうです。
「申し訳ございません……お詫びに何でもいたしますので……」
「そんな気にすることは無いんだが……君のことだから、それでは納得がいかないのだろう?」
「……はい……」
「それじゃあ、俺の言うことを一つ聞いてもらえるかな? そうしたら、今回のことはきっぱりと水に流そう」
「わ、わかりましたわ!」
一体何を命令されるのだろうか。レナード様のことだから、難しいことを要求してこないとは思うのだけど……何を言われても、絶対に言うことを聞きますわ。そうじゃないと、けじめがつきませんもの。
「笑ってくれないか?」
「……はい?」
「今日はとても良い天気で、とても良い朝だ。そんな日に、青ざめた顔なんて似合わないだろう?」
レナード様らしい、あまりにも優しい命令に、思わず胸がキュンとしてしまいましたわ……。
「えっと、こうでしょうか」
自分でもわかるほど、ぎこちない笑顔を浮かべて見せるが、どうやらそれではお気に召さなかったのか、レナード様はむぅ……と声を漏らす。
そして、おもむろに私の頬を両手でムニュっとはさみました。
「りぇ、りぇなーりょひゃま??」
「表情が硬いよ。ほら、もっと柔軟に!」
「ひゃめへひゅらひゃい~!」
私は、驚きと恥ずかしさを表すように、その場で両手をバタバタと振るわせるが、しばらくムニュムニュ攻撃は収まりませんでした。
「あははっ、ごめんごめん! 君の頬が、まるで雲のように柔らかくて気持ちいから、ついやり過ぎてしまったよ!」
「も、もう……レナード様ってば……ふふっ」
まるで太陽のような、明るくて綺麗なレナード様を見ていたら、自然と笑みがこぼれました。
「うん、良い笑顔だ! ちゃんと俺のいうことを聞いてくれたわけだし、この話はこれでおしまいな!」
「レナード様……ありがとうございます。私のような人間に優しくしてくださるなんて、あなたは本当にお優しいお方ですわ」
「サーシャ」
先ほどまでは優しい表情だったのが一転して、とても険しい表情になったレナード様は、私の両肩に手を乗せた。
「自分のことを、そんな言葉で卑下をするな。君は世界で一番素晴らしい人間なんだよ」
「…………」
「これ以上、俺が愛する人を侮辱するようなことを言ったら、その時は怒るから。わかったかい?」
「はい、わかりましたわ」
初めて見るレナード様の怒った顔は、私がしたことの愚かさをわからせるには、十分すぎるものでした。
そうですわよね、目の前で愛する人が、半ば自虐をするように自分を責めていたら、良い気はしませんよね。私が逆の立場でも、自分を責めないでって伝えると思います。
「わかってくれればいいんだ。きつい言い方をしてすまなかった。さて、目も覚めたことだし、身支度をしようか。昨日着替えた部屋で、使用人が準備をしているはずだから、向かってくれるかい?」
「はい」
言われた通りに部屋に向かうと、そこには三人の使用人の女性が準備をしてくださっていた。
彼女達は、とても慣れた手つきで、あっという間に私の身支度を完璧にしてくださいましたわ。
「なんだか、自分が自分じゃないみたいですわ」
私が家にいる時は、髪はボサボサで服もボロボロのものしか着させてもらえませんでした。
しかし、今は髪を綺麗にセットしてもらい、お化粧もしてもらい、綺麗なドレスに身を包んでおりますわ。
たまに出席していた社交会の時は、それなりに綺麗な格好をさせてもらいましたが、今はそれよりも綺麗に見えます。
「……見惚れてないで、早く戻りませんと。皆様、ありがとうございました」
綺麗に身支度をしてくださった方々にお礼の言葉を伝えてから、レナード様の部屋に戻ると、私と同じように身支度を整えていたレナード様に出迎えられた。
これから出かけるのか、昨日よりも身支度に気合が入っているレナード様のお姿は、なんといいますか……。
「かっこいい……好き……はっ」
私としたことが、無意識に思っていたことが言葉になってしまいましたわ! き、聞かれてないでしょうか!? 聞かれて困る言葉ではないのですが、恥ずかしくて……!
「なんということだ……俺は今、人生で一番の危機に陥ってしまった……」
「き、危機??」
私を見たレナード様は、その場で膝から崩れ落ちる。
この反応は……や、やっぱり聞かれてしまっていたのかしら!? 恥ずかしすぎて死んでしまいますわ!
「サーシャが美しすぎて、体に力が入らない……天使だと思っていたが、実は女神の間違いだったのか……!?」
「…………」
よかった、どうやら聞かれていなかったみたいですわ……これはこれで、恥ずかしいですが……。
「えっと……レナード様、そのご様子だと、本日はどこかに出かけられるのではありませんか?」
「あ、ああ。どうしても外せないパーティーと私用があってね。帰ってくるのは、おそらく夜になるだろう。だから、サーシャは今日は屋敷で休んでいてくれ」
「私の体を心配してくれるのは嬉しいですが、私は――」
「休むのも仕事のうちだ」
「うっ……わ、わかりましたわ」
そう言われてしまうと、何も言い返せません。だって、レナード様の言葉を無視して活動をして、見知らぬ土地で一人で倒れでもしたら、迷惑をかけるのは目に見えてますもの。
「それじゃあ、俺はそろそろ行ってくるよ。なにかあったら、通話石で連絡するよ」
「はい。では、外までお見送りしますわ」
「いいのかい? サーシャは優しいね」
「未来の妻として、夫を見送るのは当然ですわ」
「未来の妻……とても良い響きだな……ははっ」
終始嬉しそうなレナード様と共に、私は屋敷の玄関を出てすぐの所に用意されていた、馬車の所までやってきました。
「いってらっしゃいませ。お帰りをお待ちしておりますわ」
「さ、サーシャ……」
いってらっしゃいの気持ちを込めると同時に、夜までとはいえ、離ればなれになる寂しさを紛らわすために、そっと抱きついた。
すると、なぜかレナード様は、私にもわかるくらい大きくガタガタと震え始めておりました。
「サーシャが……自分から俺に抱きついてきてくれて……これは夢か? そうだ、きっと夢に違いない! ああ、夢なら永遠に覚めないでくれ! いや違う、現実にはサーシャが俺が起きるのを待っている! 早く起きろ俺ー!」
「すでに起きておりますから! 現実ですので! 正気に戻ってくださいませ!」
――なんだかドタバタしてしまいましたが、レナード様は無事に屋敷を出発されました。
今しがた出発されたばかりなのに、もうレナード様に会いたくて仕方がありません。ああ、早く帰ってきてくれないでしょうか……。
「……ここで立っていても仕方ありませんわ。言われた通り、部屋でゆっくり休息を取らせてもらいましょう」
レナード様の部屋に戻る道中、昨日よりも使用人の視線が私に向けられていることに気が付きました。
それも……いつも私に向けられている、悪意のある視線でしたわ。
ゆっくりと目を開けると、そこは見慣れたボロボロの小屋ではなく、とても綺麗な天井だった。
そうだ、私は昨日からレナード様と一緒に過ごすことになったのでしたね。まだ寝ぼけているのか、頭が働いていないようですわ。
「……私、いつの間に眠っていたのでしょう?」
昨晩は確か、レナード様と食事をしたり、昔の話を聞いたり、初めて綺麗なお風呂に入れてもらったり……それと……そうですわ!レナード様に突然キスをされて、そのまま気を失ってしまって……!
「思い出したら、急に恥ずかしく……」
「すー……ぐぅ……」
「えっ」
すぐ隣から、誰かの寝息のようなものが聞こえて来て顔を向けると、目と鼻の先にレナード様の寝顔がありました。
ただでさえこんなにレナード様の顔が近くにあって緊張するのに、昨日のキスのことを思い出し、ドキドキの限界に達した私のしたことは……。
「きゃあああああ!!」
「な、なにごと――ふげっ!?」
その場で大絶叫を上げながら、枕で何度もレナード様の顔を叩くという暴挙でした。
もう色々なことがあり過ぎて、頭が混乱してしまって……自分でも何をしているかわからなくなっておりました。
「ちょ、サーシャ! ごふっ、急にどうし、ぶふぅ!」
「きゃあああああああああ!!!!」
――結局その後、私の絶叫で集まってきた使用人の人達に止められましたわ。何事も無くてよかったと仰っておりましたが、皆様あまり良い顔はしておりませんでした。
「ほ、本当に申し訳ございませんでした!!」
「気にすることはないよ。君に枕で叩かれるという、貴重な体験をさせてもらえてよかったよ」
嫌味など一切感じない、屈託のない笑顔を浮かべるレナード様。それとは対照的に、私は青ざめた顔を上げることが出来ずにおりました。
いくら驚いてしまったとはいえ、私にプロポーズをしてくれたお方を叩いてしまうだなんて……自己嫌悪でどうにかなってしまいそうです。
「申し訳ございません……お詫びに何でもいたしますので……」
「そんな気にすることは無いんだが……君のことだから、それでは納得がいかないのだろう?」
「……はい……」
「それじゃあ、俺の言うことを一つ聞いてもらえるかな? そうしたら、今回のことはきっぱりと水に流そう」
「わ、わかりましたわ!」
一体何を命令されるのだろうか。レナード様のことだから、難しいことを要求してこないとは思うのだけど……何を言われても、絶対に言うことを聞きますわ。そうじゃないと、けじめがつきませんもの。
「笑ってくれないか?」
「……はい?」
「今日はとても良い天気で、とても良い朝だ。そんな日に、青ざめた顔なんて似合わないだろう?」
レナード様らしい、あまりにも優しい命令に、思わず胸がキュンとしてしまいましたわ……。
「えっと、こうでしょうか」
自分でもわかるほど、ぎこちない笑顔を浮かべて見せるが、どうやらそれではお気に召さなかったのか、レナード様はむぅ……と声を漏らす。
そして、おもむろに私の頬を両手でムニュっとはさみました。
「りぇ、りぇなーりょひゃま??」
「表情が硬いよ。ほら、もっと柔軟に!」
「ひゃめへひゅらひゃい~!」
私は、驚きと恥ずかしさを表すように、その場で両手をバタバタと振るわせるが、しばらくムニュムニュ攻撃は収まりませんでした。
「あははっ、ごめんごめん! 君の頬が、まるで雲のように柔らかくて気持ちいから、ついやり過ぎてしまったよ!」
「も、もう……レナード様ってば……ふふっ」
まるで太陽のような、明るくて綺麗なレナード様を見ていたら、自然と笑みがこぼれました。
「うん、良い笑顔だ! ちゃんと俺のいうことを聞いてくれたわけだし、この話はこれでおしまいな!」
「レナード様……ありがとうございます。私のような人間に優しくしてくださるなんて、あなたは本当にお優しいお方ですわ」
「サーシャ」
先ほどまでは優しい表情だったのが一転して、とても険しい表情になったレナード様は、私の両肩に手を乗せた。
「自分のことを、そんな言葉で卑下をするな。君は世界で一番素晴らしい人間なんだよ」
「…………」
「これ以上、俺が愛する人を侮辱するようなことを言ったら、その時は怒るから。わかったかい?」
「はい、わかりましたわ」
初めて見るレナード様の怒った顔は、私がしたことの愚かさをわからせるには、十分すぎるものでした。
そうですわよね、目の前で愛する人が、半ば自虐をするように自分を責めていたら、良い気はしませんよね。私が逆の立場でも、自分を責めないでって伝えると思います。
「わかってくれればいいんだ。きつい言い方をしてすまなかった。さて、目も覚めたことだし、身支度をしようか。昨日着替えた部屋で、使用人が準備をしているはずだから、向かってくれるかい?」
「はい」
言われた通りに部屋に向かうと、そこには三人の使用人の女性が準備をしてくださっていた。
彼女達は、とても慣れた手つきで、あっという間に私の身支度を完璧にしてくださいましたわ。
「なんだか、自分が自分じゃないみたいですわ」
私が家にいる時は、髪はボサボサで服もボロボロのものしか着させてもらえませんでした。
しかし、今は髪を綺麗にセットしてもらい、お化粧もしてもらい、綺麗なドレスに身を包んでおりますわ。
たまに出席していた社交会の時は、それなりに綺麗な格好をさせてもらいましたが、今はそれよりも綺麗に見えます。
「……見惚れてないで、早く戻りませんと。皆様、ありがとうございました」
綺麗に身支度をしてくださった方々にお礼の言葉を伝えてから、レナード様の部屋に戻ると、私と同じように身支度を整えていたレナード様に出迎えられた。
これから出かけるのか、昨日よりも身支度に気合が入っているレナード様のお姿は、なんといいますか……。
「かっこいい……好き……はっ」
私としたことが、無意識に思っていたことが言葉になってしまいましたわ! き、聞かれてないでしょうか!? 聞かれて困る言葉ではないのですが、恥ずかしくて……!
「なんということだ……俺は今、人生で一番の危機に陥ってしまった……」
「き、危機??」
私を見たレナード様は、その場で膝から崩れ落ちる。
この反応は……や、やっぱり聞かれてしまっていたのかしら!? 恥ずかしすぎて死んでしまいますわ!
「サーシャが美しすぎて、体に力が入らない……天使だと思っていたが、実は女神の間違いだったのか……!?」
「…………」
よかった、どうやら聞かれていなかったみたいですわ……これはこれで、恥ずかしいですが……。
「えっと……レナード様、そのご様子だと、本日はどこかに出かけられるのではありませんか?」
「あ、ああ。どうしても外せないパーティーと私用があってね。帰ってくるのは、おそらく夜になるだろう。だから、サーシャは今日は屋敷で休んでいてくれ」
「私の体を心配してくれるのは嬉しいですが、私は――」
「休むのも仕事のうちだ」
「うっ……わ、わかりましたわ」
そう言われてしまうと、何も言い返せません。だって、レナード様の言葉を無視して活動をして、見知らぬ土地で一人で倒れでもしたら、迷惑をかけるのは目に見えてますもの。
「それじゃあ、俺はそろそろ行ってくるよ。なにかあったら、通話石で連絡するよ」
「はい。では、外までお見送りしますわ」
「いいのかい? サーシャは優しいね」
「未来の妻として、夫を見送るのは当然ですわ」
「未来の妻……とても良い響きだな……ははっ」
終始嬉しそうなレナード様と共に、私は屋敷の玄関を出てすぐの所に用意されていた、馬車の所までやってきました。
「いってらっしゃいませ。お帰りをお待ちしておりますわ」
「さ、サーシャ……」
いってらっしゃいの気持ちを込めると同時に、夜までとはいえ、離ればなれになる寂しさを紛らわすために、そっと抱きついた。
すると、なぜかレナード様は、私にもわかるくらい大きくガタガタと震え始めておりました。
「サーシャが……自分から俺に抱きついてきてくれて……これは夢か? そうだ、きっと夢に違いない! ああ、夢なら永遠に覚めないでくれ! いや違う、現実にはサーシャが俺が起きるのを待っている! 早く起きろ俺ー!」
「すでに起きておりますから! 現実ですので! 正気に戻ってくださいませ!」
――なんだかドタバタしてしまいましたが、レナード様は無事に屋敷を出発されました。
今しがた出発されたばかりなのに、もうレナード様に会いたくて仕方がありません。ああ、早く帰ってきてくれないでしょうか……。
「……ここで立っていても仕方ありませんわ。言われた通り、部屋でゆっくり休息を取らせてもらいましょう」
レナード様の部屋に戻る道中、昨日よりも使用人の視線が私に向けられていることに気が付きました。
それも……いつも私に向けられている、悪意のある視線でしたわ。
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