【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき

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第十一話 俺に残された時間が終わるまで

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■レナード視点■

「サーシャ? どうやら気絶してしまったようだな……」

 俺の腕の中にすっぽりと収まっている愛しのサーシャを見ながら、ぽつりと呟く。

 いきなり唇を奪ったのだから、こうなってしまうのも無理はなかったか……これ以上サーシャへの気持ちが抑えきれなくて、ついしてしまったのは失敗だったかもしれない。

「それにしても、サーシャは寝顔も可愛いな。いくらでも眺めていられそうだ」

 昔と比べて、とても大人びた顔立ちになったサーシャだが、寝顔は幼い頃の愛らしい雰囲気が残っている。

「よっと……か、軽すぎやしないか……?」

 サーシャをベッドに寝かすために、お姫様抱っこをすると、その軽さに思わず驚いてしまった。
 華奢な容姿をしているから、軽いのは想像に難くはなかったが、ここまで軽々と持ち上げられるのは想定外だった。

 あれだけ劣悪な環境で生活をさせられていたのだから、昔からきっとまともに食事を与えられなかったのだろう。そう思うと、怒りでどうにかなってしまいそうだ。

「ふう、落ち着け……俺がここって怒ったところで、サーシャを起こしてしまうだけだ」

 何度も深く深呼吸をして、溢れ出る怒りを胸の奥にしまい込むと、サーシャを俺の……いや、俺達のベッドへと優しく寝かし、その頬に優しくおやすみのキスをした。

「さてと。サーシャが少しでも聖女の仕事がしやすいように、どの地域から周るのが効率がいいか調べないと」

 サーシャのために、俺が出来ることならなんでもやりたい。そのための第一歩……となるはずだったが、俺の気持ちを邪魔するかのように、胸の奥が異様に強く高鳴った。

「うぐっ……こんな時にか……!」

 俺は急いで部屋を出ると、なるべく急いで、月明かりに照らされた屋敷の外に出た。

「うっ……ごほっ、ごほっ! はぁ……はぁ……」

 咳の音がなるべく使用人やサーシャに聞かれないように、ハンカチで口を抑えて抵抗する。おかげで息苦しいし、ハンカチが血で汚れてしまったが、余計な心配をかけずに済むなら安いものだ。

「ごほっごほっ! 今日は随分と酷いな……」

 激しい咳と全身の痛みに耐えながら、常備している小袋に入った薬を、乱暴な手つきで口に含む。水なしで飲めるのは良いが、苦くて仕方がないのが難点だ。

「くそっ……日に日に発作の間隔が短くなっている……血の量も増えている……俺に残された時間は、あまり多くないようだな……」

 薬を飲んでも、すぐに発作は収まらない。日によって多少前後するが、いつも通りなら、少しの間大人しくしている必要がある。

 だから、俺はサーシャの元に戻りたい気持ちをグッと抑えてから、庭にある木に寄りかかり、ぼんやりと夜空を眺めて時間を潰しはじめた。

「今日は綺麗な三日月だな……だが、三日月の美しさを持っても、サーシャの美しさの足元にも及ばないな」

 そんなの大げさだって思う人間もいるだろうが、俺は至って真面目だ。なぜなら、俺は世界で一番美しくて、優しくて、気高くて……全ての要素を持った素晴らしい女性が、サーシャだと信じて疑わないものでね。

「サーシャ……君と一秒でも一緒に過ごすため、君の聖女の使命を果たす手伝いをするため、そして……君と幸せになるため、俺は頑張るよ」

 サーシャを捜索している時から、もし一緒に過ごせるようになったら、残された人生は全て彼女に捧げようと誓っている。だから、俺はこの身が朽ちるまで、彼女を愛し続ける。

 もちろん、俺に奇跡が起きた時は、この先何十年もあるだろう月日の中、毎日サーシャを愛し、一緒に笑顔で幸せな日々を送るつもりだけどね。

「……少し落ち着いてきたな。早く仕事を……と思ったが、今日のはいつも以上に酷かったから、無理して徹夜をしたら、さらに悪化する可能性も……仕方がない、明日はサーシャに休んで疲れを取ってもらって、その間に調べよう」

 無理をすれば酷くなるのは、この頼りない足元が良い例だ。こんな生まれたての小鹿のような状態で、一体何が出来るのか。自分でもわからないくらいさ。

「――ただいま、サーシャ」
「すぅ……すう……うぅ……」

 かなりゆっくりと部屋に戻ってくると、サーシャはベッドの上で、なんだか苦しそうな顔をしていた。

「やめ、て……治療します……だか、ら……叩かないで……ごめ、んなさ、い……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 ……どうやら、かなり酷い悪夢を見てしまっているようだ。内容からして、まだ向こうの屋敷に住んでいる時のものだろう。

 起こしてあげたいのは山々だが、こういう時に起こすのはあまり良くないと聞いたこともある……そうだ。

「サーシャ、大丈夫。俺がいるよ」

 うなされるサーシャの前に寝転がると、サーシャの体をそっと抱き寄せる。そして、何度も大丈夫……大丈夫……と呟きながら、背中をリズムよく、そして優しくトントンと叩いていると、いつの間にかサーシャは気持ちよさそうな寝顔になっていた。

「うまくいったようだ。今度こそおやすみ、サーシャ」

 さっきしたけど、もう一度だけお休みのキスをしてから、俺はサーシャを抱き抱えた状態のまま、眠りにつくことにした――








「なるほど、一緒に寝る緊張とはこれのことか……愛しの人が隣にいるなんて、ただ嬉しくて愛おしいだけだと思ったが……胸の鼓動がうるさい……これは眠れそうもないな……」
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