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第四話 消えた元聖女
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■ルナ視点■
お義姉様から立場を奪った日の翌朝。わたしが国のお抱えの聖女になって仕事をしようとしていたのに、突然お義父様に客間に来るようにと言われてしまった。
こんな大切な日に客なんて、一体誰なのだろう。これでつまんない内容だったら、酷い目に合わせてやろうかな?
「失礼します、ルナです」
「入れ」
客間に入ると、そこにはお義父様ともう一人、明るい紺の髪と、海のような青い目が特徴的な、凄い美形の男性が、視線だけをわたしに向けていた。
身なりからして、どこかの貴族の家の人だろう。悪いけど、わたしはまだここにきたばかりで、社交界に参加なんてしたことがないから、どういう家があるとか、そこに誰がいるかとか知らないし、はっきり言って興味も無い。わたしの利益になるなら話は別だけどね。
「はじめまして。レナード・クラージュと申します。お見知りおきを」
「はぁ、はじめまして。ルナ・メルヴェイですわ」
あれ、クラージュ家はなんか聞いたことがある。確か、この国の随分と端っこに領地を持つ、小さな家だった気がする。
ただの雑魚貴族の男が、一体何の用だろうか。
「ルナ、そこに座りなさい」
「はい、お義父様」
「では揃ったところで、早速本題に入りましょう。ルナ様はエドワード様との愛に目覚め、それがきっかけでサーシャ様と婚約破棄をされたと?」
レナード様の質問に、私もお義父様も頷いてみせる。
元々は政略結婚だったけど、一回目の面会で口説かれて、そのままキスまでして……今では会うたびにキスをしているくらいには、愛し合っている。
「なら、サーシャ様は今、身軽な状態ということですよね?」
「仰る通りだが……まさか?」
「そのまさかです。あなたの娘様……サーシャ様と婚約を結びたい。世界で一番幸せにすることをお約束します」
「ふんっ、あんな女、いくらでも嫁に出しましょう。ああ、言っておきますが、あいつは悪魔の子です。それをわかっての発言ですか、レナード殿?」
「………………ええ、もちろん」
一体何を考えているのか知らないけど、レナード様は長い沈黙の後、静かに頷いて見せた。
悪魔の子を、愛するために妻にしたいだなんて、物好きにもほどがある。エドワード様なんか、家のための婚約でも嫌がっていたくらいなのに。
「た、大変です!」
「なんだ、騒がしい。今は客人が来ているのだぞ!」
「サーシャ様が……サーシャ様が……!」
ノックも無しに部屋に入ってきた使用人の顔は、真っ青に青ざめていた。よほどお義姉様の身に、大変なことが起こったのだろう。
「サーシャ様に、なにかあったのですか!」
「そ、それが……屋敷に顔を見せないので、確認をしに行ったら、もぬけの殻で……屋敷の中にも、どこにもおられません」
「な、なんだと!? ちっ、あの馬鹿め……何を考えている……レナード殿、状況を確認してまいりますので、しばしお待ちを」
「わたしも行きますわ!」
まさか、お義姉様がいなくなるなんて、そんなわけがない。そう思いながら、お義父様についていくと、そこは屋敷の敷地内にある小屋だった。
……えっと、まさかお義姉様ってここに住んでた感じ? 近くにあんな綺麗で立派な屋敷があるのに? 酷すぎて笑いたくなるけど、それは後のお楽しみにしておこう。
「本当にいない……あの馬鹿女、一体どこに消えたのだ!?」
「なっ……なんだこの劣悪な環境は!?」
「レナード殿!? 部屋で待っているようにと……」
わたし達の後を追ってきたのか、レナード様は小屋の中を見て、愕然とした表情を浮かべていた。
「こ、これは……」
「言い訳など聞くつもりはない! 聖女として貢献していたのに、彼女の目がたまたま赤いというだけで、こんな扱いをしていたなんて……ええい、今はそんなことを追及している時間も惜しい! 俺が彼女を探す!」
「レナード殿、我々も保護者として、捜索に加わります!」
「保護者? こんな環境に置いておいて保護者だなんて、冗談でも笑えない!サーシャのことを悪魔と呼んでいるあなた方の方が、よっぽど悪魔ではないか! いや、それ以下だ!!」
最後は吐き捨てるかのように言葉を荒げながら、レナード様は去っていった。残されたお義父様は、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「私が悪魔以下……だと? なんて不敬な男だ! やはりあの時に始末できていれば……!」
「お義父様、どちらへ……」
イラつきを前面に押し出すお義父様は、わたしを置いて小屋を去っていった。
な~んか大変なことになっちゃったね。まぁ、お義姉がどうなろうと、わたしの知ったことではないし、わたしの利益にならないことなら、どうでもいいんだけど。
「それにしても、お義姉様ってこんな所で住んでたのね。あははっ、お義姉様にはピッタリの家じゃん! あははははは……はぁ。わたしが昔住んでいた家も、人のことを言えないか。ていうか、本人がいないとつまらないなぁ」
こんな所に長居したら、せっかくの綺麗なドレスがカビ臭くなってしまいそう。こんな臭いは、もうあの頃だけでたくさんだし……さっさと綺麗な部屋に戻ろっと。
お義姉様から立場を奪った日の翌朝。わたしが国のお抱えの聖女になって仕事をしようとしていたのに、突然お義父様に客間に来るようにと言われてしまった。
こんな大切な日に客なんて、一体誰なのだろう。これでつまんない内容だったら、酷い目に合わせてやろうかな?
「失礼します、ルナです」
「入れ」
客間に入ると、そこにはお義父様ともう一人、明るい紺の髪と、海のような青い目が特徴的な、凄い美形の男性が、視線だけをわたしに向けていた。
身なりからして、どこかの貴族の家の人だろう。悪いけど、わたしはまだここにきたばかりで、社交界に参加なんてしたことがないから、どういう家があるとか、そこに誰がいるかとか知らないし、はっきり言って興味も無い。わたしの利益になるなら話は別だけどね。
「はじめまして。レナード・クラージュと申します。お見知りおきを」
「はぁ、はじめまして。ルナ・メルヴェイですわ」
あれ、クラージュ家はなんか聞いたことがある。確か、この国の随分と端っこに領地を持つ、小さな家だった気がする。
ただの雑魚貴族の男が、一体何の用だろうか。
「ルナ、そこに座りなさい」
「はい、お義父様」
「では揃ったところで、早速本題に入りましょう。ルナ様はエドワード様との愛に目覚め、それがきっかけでサーシャ様と婚約破棄をされたと?」
レナード様の質問に、私もお義父様も頷いてみせる。
元々は政略結婚だったけど、一回目の面会で口説かれて、そのままキスまでして……今では会うたびにキスをしているくらいには、愛し合っている。
「なら、サーシャ様は今、身軽な状態ということですよね?」
「仰る通りだが……まさか?」
「そのまさかです。あなたの娘様……サーシャ様と婚約を結びたい。世界で一番幸せにすることをお約束します」
「ふんっ、あんな女、いくらでも嫁に出しましょう。ああ、言っておきますが、あいつは悪魔の子です。それをわかっての発言ですか、レナード殿?」
「………………ええ、もちろん」
一体何を考えているのか知らないけど、レナード様は長い沈黙の後、静かに頷いて見せた。
悪魔の子を、愛するために妻にしたいだなんて、物好きにもほどがある。エドワード様なんか、家のための婚約でも嫌がっていたくらいなのに。
「た、大変です!」
「なんだ、騒がしい。今は客人が来ているのだぞ!」
「サーシャ様が……サーシャ様が……!」
ノックも無しに部屋に入ってきた使用人の顔は、真っ青に青ざめていた。よほどお義姉様の身に、大変なことが起こったのだろう。
「サーシャ様に、なにかあったのですか!」
「そ、それが……屋敷に顔を見せないので、確認をしに行ったら、もぬけの殻で……屋敷の中にも、どこにもおられません」
「な、なんだと!? ちっ、あの馬鹿め……何を考えている……レナード殿、状況を確認してまいりますので、しばしお待ちを」
「わたしも行きますわ!」
まさか、お義姉様がいなくなるなんて、そんなわけがない。そう思いながら、お義父様についていくと、そこは屋敷の敷地内にある小屋だった。
……えっと、まさかお義姉様ってここに住んでた感じ? 近くにあんな綺麗で立派な屋敷があるのに? 酷すぎて笑いたくなるけど、それは後のお楽しみにしておこう。
「本当にいない……あの馬鹿女、一体どこに消えたのだ!?」
「なっ……なんだこの劣悪な環境は!?」
「レナード殿!? 部屋で待っているようにと……」
わたし達の後を追ってきたのか、レナード様は小屋の中を見て、愕然とした表情を浮かべていた。
「こ、これは……」
「言い訳など聞くつもりはない! 聖女として貢献していたのに、彼女の目がたまたま赤いというだけで、こんな扱いをしていたなんて……ええい、今はそんなことを追及している時間も惜しい! 俺が彼女を探す!」
「レナード殿、我々も保護者として、捜索に加わります!」
「保護者? こんな環境に置いておいて保護者だなんて、冗談でも笑えない!サーシャのことを悪魔と呼んでいるあなた方の方が、よっぽど悪魔ではないか! いや、それ以下だ!!」
最後は吐き捨てるかのように言葉を荒げながら、レナード様は去っていった。残されたお義父様は、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「私が悪魔以下……だと? なんて不敬な男だ! やはりあの時に始末できていれば……!」
「お義父様、どちらへ……」
イラつきを前面に押し出すお義父様は、わたしを置いて小屋を去っていった。
な~んか大変なことになっちゃったね。まぁ、お義姉がどうなろうと、わたしの知ったことではないし、わたしの利益にならないことなら、どうでもいいんだけど。
「それにしても、お義姉様ってこんな所で住んでたのね。あははっ、お義姉様にはピッタリの家じゃん! あははははは……はぁ。わたしが昔住んでいた家も、人のことを言えないか。ていうか、本人がいないとつまらないなぁ」
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