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第百十三話 病気に勝てたんだ!

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「メーディン様、本当にそのデータは合ってるんですよね!」
「ええ! 石化病にかかっていた生存者全員の完治を確認しました!」

 病院に戻り、石化病の薬を作り始めてから二週間。医療団の人達と連携して薬作りを続けた結果、ついに石化病患者を全て治すことが出来た。

 色々あってどうなることかと思ったけど、無事にやり遂げることが出来たんだわ……!

「やった……やったー! オーウェン様、私達やったんですね!」
「ああ。これもエリンや医療団、それに患者のために立ち上がった民に、反逆に協力してくれた兵士……色々な人の助けがあったからだな」

 そうね。今回の件は、まさにみんなの勝利といっても過言ではないわ。

 って……オーウェン様ってば、自分を入れ忘れているじゃない! オーウェン様がいなければ、今回の騒動は解決できなかったというのに!

「あとは我々の方で対処しますので、お二人はそろそろお帰りになって、休息を取った方がいいですよ」
「そうですね。きっとココちゃんもロドルフ様も、心配しているでしょうしね」
「ではメーディン殿、あとはお任せします」
「もしよければ、帰りの馬車を用意しますが」
「ありがたいですけど、私……帰る前に一つ行きたい場所があるんですけど、寄っていっていいですか?」
「ああ」

 そう前置きをしてから、どこに行きたいかをメーディン様に伝えると、そこに行くための地図を描いてくれた。

 それを受け取った私達は、その地図を見ながら歩き始める。その途中でとある物を買い、さらに進んで行くと、そこには、大きな墓地が広がっていた。

 私が来たかったのは、ここに眠っているとある方達のお墓参りをするためよ。

「咄嗟のことだから、相応しい格好が出来なかったな……」
「計画性ゼロで申し訳ないです……」
「攻めてるわけじゃないさ。ただ、君を助けてくれた二人に、ちゃんとした姿で挨拶をしたかったんだ」

 オーウェン様と話しているうちに、目的の小さな墓石を見つけた私は、そこで足を止めた。

 ここには、私の部屋の門番をしていて、いつも私のことを気にかけてくれていた、ハウレウが眠っている。そのすぐ隣にも、私を逃がしてくれた兵士である、ジル様が眠っている。

「……お久しぶりです。お二人共……また会おうって約束したのに、まさかこんな形になるなんて、思ってもいませんでした」

 私は、ここに来る前に買ってきた花束を、一人に一つずつお供えをした。同時に私の涙が零れ、墓石にぽたんっと落ちた。

「お茶を飲む約束、してたんだけどなぁ……お礼をするって……や、約束……ぐすっ……私が巻き込んだから……二人は犠牲に……本当に、ごめんなさい……!」
「……彼らは、君を守るために犠牲になったんじゃない。君を守るための騎士となり、アンデルクを救う為の、第一歩を踏み出すための道を示してくれた、偉大な英雄になったんだよ」
「オーウェン様……」
「って、部外者の俺がわかったような口をきいてすまない」
「いえ、そう言ってもらえて、きっと二人も喜んでると思います。ありがとうございます」

 オーウェン様、私を励ましてくれているのね……うん、いつまでも下を向いていても、何も始まらない。それはお母さんの時に学んだことじゃない。

 ハウレウ、ジル様。私を助けてくれて、本当にありがとうございました。まだお二人の死を受け入れるのは難しいけど……頑張って前に進みます。だから、安心して空の上から見守っててください。


 ****


 お墓参りを済ませた後、私達は医療団の方達が用意してくれた馬車に乗って、アンデルクを後にした。

 今思うと、随分と長く滞在してしまったわね。手紙をオーウェン様が送ったとはいえ、きっとココちゃんもロドルフ様も心配しているでしょうね……本当なら、お母さんの一件が終わったら帰れていたのに、それは叶わなかったからね。

 ……本当に色々あったわね……お母さんのことや、石化病のことや、精霊様の世界のことや、カーティス様のこと……よく乗り越えられたなーって、他人事のように思ってしまうくらい、濃密な時間だった。

「ふう、やっと家に帰ってこれたな」
「もう真っ暗ですね」

 アンデルクを出発した時は、まだ空は明るかったというのに、いつの間にか既に空には星達が輝いていた。

 行きの時と違って、まっすぐ帰ってきたとはいえ、やっぱり結構な距離があるのね。

「ここまで送ってくださり、ありがとうございました」
「こちらこそ、アンデルクを救っていただいて感謝しております。では」

 ここまで送ってくれた御者にお礼を言って見送っていると、バンっと音と共に、家の扉が開かれた。

「お兄ちゃん……エリンお姉ちゃん……!」
「ココちゃん!」
「ココ、ただいま」

 家の中から出てきたココちゃんは、大きな瞳に涙をたくさん溜め込みながら、私達の元に走ってきた。

「バカバカバカ! 全然帰ってこないから、心配してたんだから!」
「すまない、色々あって帰ってこれなかったんだ」
「うぅ……アンデルクで変な病気が流行ってるって聞いて……もしかしたら、二人共病気で死んじゃったのかって、心配で……!」
「心配かけちゃってごめんね……」
「謝ったって、許さないもん……うわぁぁぁぁん!」

 ついに泣きだしてしまったココちゃんをあやすために、オーウェン様がココちゃんを優しく抱きしめる。

 本当にココちゃんには心配をかけちゃったわね……状況が最悪だったとはいえ、ココちゃんに悪いことをしてしまった事実は変わらない。ちゃんと埋め合わせをしてあげないとね。

「おぉ……エリン殿、オーウェン様、おかえりなさいませ。ご無事でなによりです」
「ロドルフ様!」
「ただいま、ロドルフ殿。帰りが遅くなってしまい、申し訳ない」
「いえ、ワシはお二人が必ず戻ってくると信じておりました。さあ、積もる話もあるでしょうし、中に入りましょう」

 ロドルフ様に促されて、私達は家の中に入ると、出発前と変わらない家の風景が、私達を出迎えてくれた。

 あぁ、私達……帰ってこれたんだわ。そう思ったら、急に体から力が抜けて……その場にペタンと座り込んでしまった。

「え、エリンお姉ちゃん……? どうしたの?」
「帰ってこれたって思ったら、安心して疲れが出ちゃったみたい」
「無理もない。ここ最近は、ほとんど休まずに薬を作っていたのだからな。話はまた明日にしよう」
「それが良いですな。エリン殿、ゆっくりお休みくだされ」
「すみませんが、そうさせてもらいます」
「部屋まで手を貸すよ」
「わ、わたしも!」

 今日も優しいヴァリア兄妹の手を借りて、私は寝室にあるベッドに横になった。

 何の変哲もないベッドだけど、疲れ切った体と帰ってきた安心感もあり、横になってから数分も立たないうちに、睡魔が私を襲ってきた。

「本当に良く頑張ったな、エリン。さあ、ゆっくりおやすみ」

 オーウェン様の大きくて暖かい手が、ウトウトしている私の頭に乗り、優しく撫でる。それが最後の引き金となり……そのまま眠りについた。
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