【完結済】婚約者の王子に浮気されていた聖女です。王子の罪を告発したら婚約破棄をされたので、外で薬師として自由に生きます!

ゆうき

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第百十二話 一時の休息

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「ふぅ……」

 カーティス様とバネッサが連れていかれるところを見届けた私は、精霊様の像……クレシオン様に祈りを捧げていた。

「クレシオン様、私……アンデルクの民を助けられました。それに、民を苦しませていた人達とも、決着がつきました……」

 両手を組み、両膝をついて祈りを捧げていると、一瞬だけ像がキラリと光ったような気がした。

 もしかして、クレシオン様が私に何か伝えようとしているのかしら……? 声を聞きたいけど、何も聞こえないわね……。

「おかえり。祈りは終わったのか?」
「はい」

 祈りを終え、私の部屋に戻ると、オーウェン様が笑顔で出迎えてくれた。

 クロルーツェの家にいた時は、こんなことは日常となっていたはずなのに、今はそれがとても心地よく、そしてありがたいものになっている。それくらい、最近は色々あり過ぎた。

「さて、色々と決着はついたが、まだ石化病が完全に落ち着いたわけではない。もう少しアンデルクに滞在して、薬を作った方がよさそうだな」
「それについては賛成ですけど、オーウェン様は先にクロルーツェに帰ってもらえますか?」
「なんだって?」

 実は、この提案に関しては前々から考えてたことなの。だって、クロルーツェを出発してから、随分と日数が経ってしまっているでしょう? きっとココちゃんやロドルフ様が、心配していると思うの。

「しかし、また何があるかわからないじゃないか。エリンの力を求めて、悪者が襲ってくるかもしれない」
「大丈夫ですよ。以前滞在していた病院にいれば、周りに人はたくさんいますし」
「……いや、やはり君を一人にするわけにはいかない。ココとロドルフ殿には、俺から手紙を出しておく」

 ……ちゃんと説得をして、クロルーツェに帰ってもらいたかった。でも、オーウェン様の真剣な表情からひしひしと伝わってきた決意に根負けしてしまい、小さく頷いてしまった。

「そうと決まれば、早く病院に戻ってメーディン殿に状況を聞きに行こう」

 オーウェン様はそう言うと、私をひょいと持ち上げて部屋を後にした。

 えっと、おんぶならまだしも、まさかお姫様抱っこで病院まで戻るというの!? さすがにそれは恥ずかしすぎる!

「せめておんぶで……!」
「まあいいじゃないか。抱っこでもおんぶでも、エリンは休めるからね」
「周りの視線のせいで休めなさそうですよ!?」
「周りなんて気にする必要は無い。あと強いて言うなら、俺が合法的にエリンにくっつきたい」
「それ、ただ欲望が漏れてるだけですよね!?」
「仕方がないだろう? 最近色々あり過ぎて、しばらくデートの一つもできなかったのだから」

 あまり大きな声では言えないけど、私も最近オーウェン様とその……イチャイチャする時間がなかったから、こういう風に密着するのは嬉しいし、ドキドキするし、デートも一緒に行きたい。

 だからといって、街中でわざわざお姫様抱っこをする必要は……あっ、止める前に出発したー!?


 ****


「エリンさんにオーウェンさん! ご無事でなによりです!」

 病院に戻ると、メーディン様を含めた多くの医療団の人達が、私達の帰りを祝ってくれた。

 しかし、一方の私はというと……多くの人にお姫様抱っこを見られてしまい、その恥ずかしさで半分のぼせてしまっていた。

 ……つ、次にもし町中を運んでもらう時があったら、絶対におんぶにしてもらおう……こんな恥ずかしいの、二回目は耐えられないわ……ぐふぅ……。

「エリン、病院についたぞ」
「はっ……! お、お久しぶりです、メーディン様」

 オーウェン様から解放された私は、背筋を伸ばして挨拶をする。

 我ながら素早い切り替えの早さだわ。笑顔が引きつってしまっている気がするけど、きっと気のせいよね。

「お久しぶりです。話は聞きましたよ! カーティス国王とバネッサ王妃を捕まえたとか!」
「ええ、まあ……その話は落ち着いてからにしましょう。薬はどうなってますか?」
「まだまだ数が足りていないというのが現状です。我々一般人が作った薬では、あまり効き目が無くて……」

 なるほど……それなら話は簡単だわ。

「作った薬を、片っ端から私に渡してください。あなた達が作り、私が聖女の力を付与するという流れで、効率よく薬を民に供給できます!」
「おお、それは確かに! では、準備いたしますので、以前使っていた部屋で待っててください!」

 メーディン様や他の方々が忙しなく走りだしたのを見送った後、私はオーウェン様にエスコートしてもらいながら、病院で使っている部屋にやってきた。

 この部屋に来るのも、懐かしい気がするわ。あんまり時間は経っていないはずなんだけどね。

「エリン、少し休むといい。まだ疲れは取れていないだろう?」
「オーウェン様だって、お疲れですよね?」
「俺は問題ないさ」

 オーウェン様は、自分の元気さをアピールするために、私に握り拳を作って見せる。

 私にはわかる。オーウェン様のことだから、絶対に私に心配をかけないように、強がってみせているんだと。それなら、絶対に休ませないと。

 ……少し強引だけど、こうすればきっと休んでくれるだろう。

「オーウェン様!」
「んっ?」

 オーウェン様の名を呼びながら、一緒にベッドに倒れこむ。そして、オーウェン様の胸元に顔をうずめた。

 いつもなら、そのまま私を撫でたりしてくれるんだけど、さすがに驚いているのか、何のアクションも起こさないでいた。

「ごめんなさい、驚かしちゃいましたか?」
「ああ、少しね。急にどうした?」
「一緒に休もうと思いまして。それと、こうしてたら、さっきまでの嫌なことを忘れて休めそうなので……」

 まるで怖い夢から逃げたい子供が、母親に泣きついて一緒に寝てもらうみたいな感じになってしまったけど、こう言えばきっと、オーウェン様はいいよって言って、一緒に休んでくれる。短い時間とはいえ、濃密な時間を過ごしたから、簡単にわかるのよ。

「まったく、君には敵わないな。少し休息を取ろう」
「はい。えへへぇ……」

 一緒に寝るなんて、いつもならドキドキして眠れないんじゃないかって思うんだけど、今回はオーウェン様と一緒にいられるという安心感が勝ってしまい、すぐに眠りに落ちてしまった――
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