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第百九話 奪還作戦
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■オーウェン視点■
城にエリンが残ることが決まった後、俺は荷物を持って城を後にした。
てっきりカーティスの本性を知っている俺を、城を出る前に排除しようとするんじゃないかと警戒していたが、案外素直に城を出れたのは意外だった。
もしかしたら、俺と兵士がぶつかり合って騒ぎになるのを嫌ったのかもしれないな。それか、俺が言いふらしても問題無いと思っているのかもしれない。どう見ても、頭がよさそうには見えないしな……。
「なんにせよ、とにかく計画を実行しなくてはな」
俺は早足で、以前拠点にしていた病院へとやってきた。中は以前と同じように、多くの医療団の人達が忙しそうに行き来していた。
「おや、オーウェンさんじゃありませんか!?」
「メーディン殿、お久しぶりです。ご無事でなによりです」
「おかげさまで、なんとか石化病に侵されずにすんでおります。それよりも、城に連れていかれたと聞いておりましたが、解放されたのですか?」
「ええ、俺だけですが……その辺りの話は後にしましょう。まずは患者のところに案内してください。出来るだけ重症患者だとありがたい」
「は、はあ……こちらです」
メーディン殿の案内についていくと、一つ上の階にある病室へと案内された。そこに寝ていた患者は、相当石化病が進行しているように見える。
「うぅ……お、お母さん……お父さん……」
「よく頑張ったな。もう少しの辛抱だ」
病室の中で一番幼い子供に、エリンが作ってくれた薬を与える。すると、苦しそうに唸っていた子供は、歳相応の愛らしい寝顔に変わった。
「なっ……!? しょ、症状が……!」
「見ての通りです。今まで症状を抑えるために使っていた薬で、治るようになったんです」
本当は、精霊のことを話さないと正しい説明にならないのだが、今は一秒でも時間が惜しい。その辺りは、後で話せばいいだろう。
「この袋の中に、エリンの薬が入っています。数に限りはありますが……重症患者から使っていってください」
「わ、わかりました! すぐに他のスタッフにも共有します!」
慌ただしく出て行ったメーディン殿を見送った俺は、今いる病室の患者全員に薬を使い、症状を改善させた。
この調子でいけば、今も石化病に苦しんでいる人達を全員助けることが出来る……はずなんだが、王族がエリンを独占している現状だと、エリンの薬が行きわたらない。
……やはり、作戦通りにやるしか無さそうだ。一か八かではあるが……やらなければ犠牲者は増え続ける。やるしかない……!
****
城から持ってきたエリンの薬を全て使い切った後、俺は医療団の人間を出来る範囲で集め、事情の説明をした。
「……つまり、病気の原因をなんとかして、病気の力を弱めたから、エリンさんが今まで作っていた、症状を抑える薬で治るようになったと?」
「その通りです」
メーディン殿の質問に、俺は深く頷いてみせる。
ざっくりにとはいえ、石化病の弱体化の話をする時に精霊の話を出してしまったから、集まった人達は信じられないといった様子だった。
精霊という存在自体は認知していても、まさかそれが石化病の原因だなんて、夢にも思わないだろうから、信じられないのも当然だろう。
「なんてことだ……我々が、精霊様のことをただの伝説と思い、気にもしていなかったせいで……と、とりあえず精霊様の話は、今はおいておきましょう。現に今はエリンさんの薬で治っているのですしね。ただ、一つ問題がありまして」
「問題とは?」
「以前、エリンさんから同じ薬の作り方を共有してもらい、我々でそれを調合して患者に投薬していたものがあったので、先ほど再び投薬してみました」
「結果は?」
「少しは改善しましたが……彼女の薬には程遠いです。このままだと、治るより前に耐えきれない患者が増えるでしょう」
そうか……やはり、エリンが聖女の力を付与した薬が必要ということか。
「エリンについてですが、皆様にお話したいことがあります。これから話すことは、全て真実です」
俺の真剣な様子に感化されたのか、部屋の中が一層ピリッとした空気になる。そんな状態で、俺はゆっくりと口を開いた。
「アンデルク国王であるカーティス陛下が、エリンを城に幽閉して、石化病の薬を作らせております。しかし、その薬は自分の金儲けの道具としか思っておらず、国民に渡すつもりは一切無いようです」
俺の告白を聞いた医療団のスタッフ達から、どよめきが沸き起こった。本来なら国と民を守らなければいけない人間が、私利私欲のために動いてると知ったら、誰でもこうなるだろう。
「過去にもアンデルク王家は、幼いエリンの聖女の力に目を付けて、無理やり連れて来た後、薬の勉強および制作をさせていました。エリンはその薬が民に行き渡るものだと思ってたそうですが、全て王家が金儲けに使い、国民の手に渡ることはありませんでした」
「な、なんて酷い……なら、エリンさんを助けなければ!」
「メーディン殿の仰る通りです。このままでは、石化病の薬も行きわたらず、多くの死者が出るでしょう。もし乗り越えられても、腐りきった王家がいては国は衰退します。だから、皆様の力が必要なんです!」
俺はこの部屋にいるスタッフ全員に、一度ずつ目を合わせてから、深々と頭を下げた。
「俺は、エリンを……愛する人を助けたい。そして、腐った王家から、アンデルクの民と未来を守りたい! お願いします、俺に力を貸してください!」
俺の必死のお願いに対して返ってきたのは、沈黙だった。
俺がお願いしてることは、端的に言ってしまえば、国家への反逆だ。それを簡単に了承してもらえるとは思えない。
そう思っていると、突然病院を全てを揺らすような、大きな雄たけびが部屋の中に響き渡った。
「そんなのふざけるな! 国民をバカにするのもいい加減にしろ!!」
「そうよそうよ! 皆で協力して、エリンさんもアンデルクも救いましょう!」
「皆さん、お気持ちはわかりますが、ここは病院ですのでお静かに!」
病院が彼らの雄叫びで揺れる中、メーディン殿の一言で、自分達の置かれている状況を理解したようで、一気に部屋の中は静まり返った。
「オーウェンさん、ここにいる者は、この国と民を愛しております。だからこそ、今の王家を許すことが出来ません。我々も協力させてください!」
「ありがとうございます。では、皆様には今までの業務のほかに、今回の件をとにかく多くの国民に広めてください」
そう切り出してから、俺はエリンに伝えた作戦内容と同じようなことを、スタッフ全員に共有した。
あとは、一般の国民がどれだけ協力してくれるか……作戦に反対の人もいるだろうし、石化病で動けない人もたくさんいるだろうから、こればかりは作戦の実行日にならないとなんともいえないな……。
城にエリンが残ることが決まった後、俺は荷物を持って城を後にした。
てっきりカーティスの本性を知っている俺を、城を出る前に排除しようとするんじゃないかと警戒していたが、案外素直に城を出れたのは意外だった。
もしかしたら、俺と兵士がぶつかり合って騒ぎになるのを嫌ったのかもしれないな。それか、俺が言いふらしても問題無いと思っているのかもしれない。どう見ても、頭がよさそうには見えないしな……。
「なんにせよ、とにかく計画を実行しなくてはな」
俺は早足で、以前拠点にしていた病院へとやってきた。中は以前と同じように、多くの医療団の人達が忙しそうに行き来していた。
「おや、オーウェンさんじゃありませんか!?」
「メーディン殿、お久しぶりです。ご無事でなによりです」
「おかげさまで、なんとか石化病に侵されずにすんでおります。それよりも、城に連れていかれたと聞いておりましたが、解放されたのですか?」
「ええ、俺だけですが……その辺りの話は後にしましょう。まずは患者のところに案内してください。出来るだけ重症患者だとありがたい」
「は、はあ……こちらです」
メーディン殿の案内についていくと、一つ上の階にある病室へと案内された。そこに寝ていた患者は、相当石化病が進行しているように見える。
「うぅ……お、お母さん……お父さん……」
「よく頑張ったな。もう少しの辛抱だ」
病室の中で一番幼い子供に、エリンが作ってくれた薬を与える。すると、苦しそうに唸っていた子供は、歳相応の愛らしい寝顔に変わった。
「なっ……!? しょ、症状が……!」
「見ての通りです。今まで症状を抑えるために使っていた薬で、治るようになったんです」
本当は、精霊のことを話さないと正しい説明にならないのだが、今は一秒でも時間が惜しい。その辺りは、後で話せばいいだろう。
「この袋の中に、エリンの薬が入っています。数に限りはありますが……重症患者から使っていってください」
「わ、わかりました! すぐに他のスタッフにも共有します!」
慌ただしく出て行ったメーディン殿を見送った俺は、今いる病室の患者全員に薬を使い、症状を改善させた。
この調子でいけば、今も石化病に苦しんでいる人達を全員助けることが出来る……はずなんだが、王族がエリンを独占している現状だと、エリンの薬が行きわたらない。
……やはり、作戦通りにやるしか無さそうだ。一か八かではあるが……やらなければ犠牲者は増え続ける。やるしかない……!
****
城から持ってきたエリンの薬を全て使い切った後、俺は医療団の人間を出来る範囲で集め、事情の説明をした。
「……つまり、病気の原因をなんとかして、病気の力を弱めたから、エリンさんが今まで作っていた、症状を抑える薬で治るようになったと?」
「その通りです」
メーディン殿の質問に、俺は深く頷いてみせる。
ざっくりにとはいえ、石化病の弱体化の話をする時に精霊の話を出してしまったから、集まった人達は信じられないといった様子だった。
精霊という存在自体は認知していても、まさかそれが石化病の原因だなんて、夢にも思わないだろうから、信じられないのも当然だろう。
「なんてことだ……我々が、精霊様のことをただの伝説と思い、気にもしていなかったせいで……と、とりあえず精霊様の話は、今はおいておきましょう。現に今はエリンさんの薬で治っているのですしね。ただ、一つ問題がありまして」
「問題とは?」
「以前、エリンさんから同じ薬の作り方を共有してもらい、我々でそれを調合して患者に投薬していたものがあったので、先ほど再び投薬してみました」
「結果は?」
「少しは改善しましたが……彼女の薬には程遠いです。このままだと、治るより前に耐えきれない患者が増えるでしょう」
そうか……やはり、エリンが聖女の力を付与した薬が必要ということか。
「エリンについてですが、皆様にお話したいことがあります。これから話すことは、全て真実です」
俺の真剣な様子に感化されたのか、部屋の中が一層ピリッとした空気になる。そんな状態で、俺はゆっくりと口を開いた。
「アンデルク国王であるカーティス陛下が、エリンを城に幽閉して、石化病の薬を作らせております。しかし、その薬は自分の金儲けの道具としか思っておらず、国民に渡すつもりは一切無いようです」
俺の告白を聞いた医療団のスタッフ達から、どよめきが沸き起こった。本来なら国と民を守らなければいけない人間が、私利私欲のために動いてると知ったら、誰でもこうなるだろう。
「過去にもアンデルク王家は、幼いエリンの聖女の力に目を付けて、無理やり連れて来た後、薬の勉強および制作をさせていました。エリンはその薬が民に行き渡るものだと思ってたそうですが、全て王家が金儲けに使い、国民の手に渡ることはありませんでした」
「な、なんて酷い……なら、エリンさんを助けなければ!」
「メーディン殿の仰る通りです。このままでは、石化病の薬も行きわたらず、多くの死者が出るでしょう。もし乗り越えられても、腐りきった王家がいては国は衰退します。だから、皆様の力が必要なんです!」
俺はこの部屋にいるスタッフ全員に、一度ずつ目を合わせてから、深々と頭を下げた。
「俺は、エリンを……愛する人を助けたい。そして、腐った王家から、アンデルクの民と未来を守りたい! お願いします、俺に力を貸してください!」
俺の必死のお願いに対して返ってきたのは、沈黙だった。
俺がお願いしてることは、端的に言ってしまえば、国家への反逆だ。それを簡単に了承してもらえるとは思えない。
そう思っていると、突然病院を全てを揺らすような、大きな雄たけびが部屋の中に響き渡った。
「そんなのふざけるな! 国民をバカにするのもいい加減にしろ!!」
「そうよそうよ! 皆で協力して、エリンさんもアンデルクも救いましょう!」
「皆さん、お気持ちはわかりますが、ここは病院ですのでお静かに!」
病院が彼らの雄叫びで揺れる中、メーディン殿の一言で、自分達の置かれている状況を理解したようで、一気に部屋の中は静まり返った。
「オーウェンさん、ここにいる者は、この国と民を愛しております。だからこそ、今の王家を許すことが出来ません。我々も協力させてください!」
「ありがとうございます。では、皆様には今までの業務のほかに、今回の件をとにかく多くの国民に広めてください」
そう切り出してから、俺はエリンに伝えた作戦内容と同じようなことを、スタッフ全員に共有した。
あとは、一般の国民がどれだけ協力してくれるか……作戦に反対の人もいるだろうし、石化病で動けない人もたくさんいるだろうから、こればかりは作戦の実行日にならないとなんともいえないな……。
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