上 下
99 / 115

第九十九話 病との戦い

しおりを挟む
 更に三日の月日が経ち、私の体に少しずつ変化が表れ始めていた。

 熱っぽいのに加えて、まるで全身をくすぐられているかのようなかゆみ、そして肌の薄皮がポロポロと向けて落ちていっている。

 これでも、作った薬を少しだけ拝借して飲んでいるから、進行速度はそこまでではない……と思う。いや、三日でこれだけ症状が出ているのだから、薬が無かったらとっくに倒れている可能性は大きいわね。

「エリン、顔が赤いが大丈夫か?」
「そ、そうですか? この部屋が少し暑いのかもしれませんね」
「そんなことは無いと思うが……」

 ま、マズイ……今までずっとオーウェン様に気づかれないようにしてきたけど、さすがに隠しきれなくなっているようだわ。

 素直に話したら、きっとこれ以上は無理をさせられないと言われて、薬の製作を止められてしまうだろう。それだけは避けないといけない。

「ほら、オーウェン様だって少し顔が赤いですよ」
「それは、頑張っているエリンがとても魅力的に見えるからだろうな」
「か、からかわないでください」
「本心なんだがな」

 オーウェン様ってば、急に変なことを言わないでほしいわ。そんなことを言われてら、照れちゃって余計に体が熱くなっちゃうのに。

「きっと、二人して熱い部屋だというのに、肌の露出が少ない服を着ているせいですよ」
「それもそうだな。少し窓を開けて換気をするか」

 ふう、何とかバレずに済んだわ。このままじゃ、いつ石化病が酷くなるかわからないし、かといって薬もいつになったら完成するかわからない。

 私は一体どうすれば……そんなことを思っていると、オーウェン様が神妙な顔つきで窓の外から、私の方に向いた。

「どうかしましたか?」
「エリン、急いでどこかに隠れるか、この場からいったん逃げるぞ!」
「えぇ!? ど、どうしてですか!?」
「病院の外に、何人もの兵士が押し寄せてきている!」

 兵士……ということは、カーティス様の命令でこの病院に来た人達ってこと!? こうなることは、可能性として考えていたけど……!

「そんな、私のことは誰にも言わないようにお願いしたのに……!」
「迂闊だった……!どこから情報が漏れたのか、それともただの偶然かわからないが……今はそんなのはどうでもいい。連れていかれたら、患者を診ることが出来なくなるぞ!」
「今は一秒でも惜しいのに……! と、とりあえず逃げましょう!」
「ああ! 病院の裏口からなら、見つからない可能性がある!」

 ほとぼりが冷めた頃に戻って来れば、また薬の製作が出来るから、何も持たずに部屋を出ようとしたが、時すでに遅し……多くの兵士がなだれ込むように部屋の中に入ってきた。

「くっ……遅かったか!」
「ほう、情報は本当だったか。聖女エリン、ならびにオーウェン・ヴァリア。カーティス陛下から、城に連れてきて自分の薬を作らせろと命を受けている。我々と共に来てもらうぞ」
「やはり王家の兵か……一体どこから情報が漏れ出た!?」
「おーほっほっほっ! アタクシが報告させていただきましたわ!」

 兵士の中から、見覚えのある女性が高笑いをしながら私達の前に現れた。

 確かこの方は……医療団に参加をしていた薬師の方だったはず。

「どうしてこんなことをしたんですか!?」
「どうして? それはもちろん……あなたへの復讐ですわ!」

 ビシッと私を指差しながら睨みつける彼女の顔は、私への怒りで耳まで真っ赤になっていた。

「アタクシは、完璧な腕を持つ薬師として、アンデルクのとある町で店を営んでおりましたわ。この腕に加えて、アタクシは才色兼備、伯爵家の出身というのも相まって、客も名声もうなぎのぼりでしたわ。でも……あなたのせいで、それは全て崩れさったんですのよ!!」
「わ、私はそんなことをしてません!」

 一体彼女は何を言っているんだろうか? 私が城にいた頃に会っていた人なんて、カーティス様やバネッサ、あとは部屋の見張りをしていたハウレウくらいだ。

 そんな状態だった過去の私が、恨まれるようなことが出来るはずもない。

「お黙り! あなたが城からいなくなったせいで、アタクシが後釜として、城に招かれたんですのよ! そして、カーティス様が命じる大量の薬の製作を押し付けられたんですの! あんな量を作るなんて、どう考えても不可能だというのに!」

 ……確かにあの量をいきなり作れと言われたら、なかなか難しいかもしれない。普通に一日で百人以上の薬を作らされてたし……。

「それが、エリンを恨むことと、どう関係がある?」
「大アリですわ! 無理難題を押し付けられたアタクシは、カーティス様に役立たずの烙印を押されて、城を追放されましたわ! その話は瞬く間に広まって……今まであった客も名声も、すべて失ってしまったんですの! だから、これはその復讐ですの!」

 それってつまり、完全に逆恨みってことよね……? 確かに私が城を出て行かなければ、そんなことにはならなかったと思うと、申し訳ない気持ちがないわけじゃないけど……。

「ふざけるな、完全に逆恨みじゃないか!」
「外野が知ったような口を利かないでもらえます!? あなたがいなければ……アタクシは今も最高の薬師として君臨できていたのに……! 思い出すだけでも忌々しい!」
「おい、もういいか? 我々も暇ではないのでね」
「ええ、結構ですわ」
「よし、行くぞ。言っておくが、抵抗をするようなら……患者の命は無いと思え」
「っ……! 外道どもめ……!」

 オーウェン様が剣を抜こうとしたタイミングを見計らっていたのか、兵士達の一番前に立っていた男性が脅しをかけてきた。

 本来なら、国は民を守らなければいけないというのに、私達を脅すために使うなんて、論外にもほどがある。きっとこれも、カーティス様の命令の一つなのだろう。

 結局私達は、何の抵抗も出来ないまま、病院から連れ出されてしまった――
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

呪いをかけられた王子を助けたら愛されました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:1,959

ここはあなたの家ではありません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,486pt お気に入り:1,914

いずれ最強の錬金術師?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,738pt お気に入り:35,436

【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:761pt お気に入り:4,237

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,803pt お気に入り:3,611

世界を越えてもその手は 裏話

BL / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:406

愛していたのは私だけ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:29,898pt お気に入り:395

処理中です...