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第九十話 打つ手なし……?
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実家を飛び出してから一時間程度で戻ってきた私達は、早速薬の製作に取りかかりはじめた。
今回のやり方は、いくつかの薬草をすり合わせたものを混ぜ、砕いた鉱石と狼の生き血を数滴入れたあとに、一対一の比率で水を入れてから、弱火で煮込む。
こうして生み出されたものをろ過して、不純物の入っていない液体にするの。
「よし、後は……この黄金の花を……」
唯一残った材料である黄金の花を、別の容器に入っている水に、一瞬だけ浸けてから取り出す。すると、花の雄しべや雌しべがあるところから、じんわりと黄金の液体が溢れてきた。
その黄金の液体を、今作った液体の中に一滴加えると……。
「きゃっ!」
「なんだ、急に泡立ち始めた?」
私が作った薬は、突然モクモクと泡立ちはじめ、あっという間に両手よりも大きな泡の塊と化した。
液体は一切残っていないところを見るに、完全にこの泡になってしまったということね……こうなるとは思ってなかったから、正直驚いた。
驚きすぎて、思わずオーウェン様の背中に隠れちゃうくらいには驚いちゃったわ。
「……これで完成なのか?」
「おそらく……」
「それにしたって、これは想定外すぎるな」
驚きだけど、このままこうしていても何も始まらない。そう思い、恐る恐る触ってみると、泡と呼ぶにはあまりにも硬かった。
「大丈夫か?」
「はい。思ったより硬いです」
「……確かに硬いな。重さは……片手で軽々と持てるくらいには軽い」
「本当に硬い泡って感じですね。これをどうやって薬として使うのかしら……」
「水に溶かすとか?」
「なるほど。ちょっと試してみましょう!」
残った水を少しだけ手ですくい、黄金の泡にかけてみるけど、何の反応もなかった。
一体どうすれば……こんな固い塊じゃ、飲むのは不可能だし……あ、もしかして!
「オーウェン様、これを砕いて粉末状にするのではないでしょうか?」
「なるほど、その手があったか! なら俺が砕くから、ちょっと待っててくれ」
「どうやるんですか?」
「こうするんだ」
オーウェン様は、いつも持ち歩いている剣を手に取ると、柄の部分で塊を叩いた。すると、塊は思ったより簡単に真っ二つに割れた。
そこからは、流れ作業でどんどんと小さくし、手のひらにちょこんと乗るサイズにまで小さくなった。
こうなると、なんだか小さくて可愛らしく見えるわね。それに黄金色ということもあって、まるで宝石みたい。
「ここまで小さくなれば、あとは私の方で何とかできます」
「わかった。それじゃあ後は任せた」
小さくなった黄金の塊を受け取った私は、いつも使っているすり鉢と乳棒を使って粉々にする。
本来の使い方は、薬草のようなものをすりつぶすのに使うのだけど、この塊はとても割れやすいおかげで、簡単に粉々に出来た。
「出来た……出来たわ! この薬があれば、お母さんを助けられる!」
「さすがエリンだ。早速飲ませる……前に、聖女の力を使わないとな」
「あっ……すっかり頭から抜け落ちてました」
いくらこれでお母さんが助かるからって、焦りは禁物だ。私の聖女の力よ、私の願いを叶えて……お母さんを助けて!
「おぉ……元々黄金色だったのが、僅かに光を帯びて更に美しくなったな……」
「すぐに消えちゃいますけどね。あとは、これをお母さんに飲ませてあげるだけ! お母さん、薬が出来たよ! 今度こそ、お母さんを治せるよ!」
「…………」
「お母さん! お母さん!!」
何度も呼びかけて、ようやく目を開いたお母さんは、ほんの僅かに口角を上げてくれた。
きっと今のお母さんには、これが限界なのだろう。早くこの薬で元気になってもらわないと!
「今からこの薬を飲ませるからね。オーウェン様、お母さんを起こしてもらえますか?」
「任せてくれ」
オーウェン様に支えられて少しだけ体を起こしたお母さんに、作った薬と水を飲ませる。しかし……お母さんの苦しそうな表情は依然として変わらなかった。
もしかして、また失敗した……? 今までの薬と同じ様に、今回も……!?
「ど、どうしよう……これで上手くいかないんじゃ、もう打つ手がない……!」
「エリン……」
「ううっ……オーウェン様……私、どうすれば……!」
「……っ!? エリン、見ろ!」
「えっ……?」
もう私にはお母さんを治せない――深い絶望に打ちひしがれて項垂れていると、突然オーウェン様が声を荒げた。
その声に半ば反射的に顔を上げると、紫色に変色した肌が、徐々に健康的な肌色に戻っていった。
この肌の色は、病気だという一番わかりやすい証明だった。それが元通りになっていくってことは……!!
「……うっ……」
「お母さん!?」
「エリン……オーウェンさん……? 私……」
「お体の具合はいかがですか?」
「……ずっと苦しかったのに、だいぶ楽になってます……」
「本当に? 前みたいに、嘘じゃないよね?」
「ええ、本当よ。自分でも驚いているくらい……」
ゆっくりと話すお母さんの顔色は、再会してから今日までの間で、一番良かった。
私、お母さんを助けられたんだ……良かった、本当に良かった……!
「エリン、ありがとう……お母さんのために、ずっと寝ないで頑張ってくれて……オーウェンさんも、ずっとエリンを支えてくれて、ありがとうございました」
「いえ、当然のことをしたまでです」
「うぅ、お母さーん!! うわぁぁぁん!!」
私はお母さんを助けられた喜び、そしてずっと続いていた緊張の糸が切れたのもあって、お母さんに抱きつきながら、子供のように声をあげて泣いた。
城に連れていかれて、ずっとずっと勉強をさせられて、薬も作らされて……つらいと思ったことは数え切れない。でも、今思うと……それもお母さんを助けるための試練だったのかもしれない――
今回のやり方は、いくつかの薬草をすり合わせたものを混ぜ、砕いた鉱石と狼の生き血を数滴入れたあとに、一対一の比率で水を入れてから、弱火で煮込む。
こうして生み出されたものをろ過して、不純物の入っていない液体にするの。
「よし、後は……この黄金の花を……」
唯一残った材料である黄金の花を、別の容器に入っている水に、一瞬だけ浸けてから取り出す。すると、花の雄しべや雌しべがあるところから、じんわりと黄金の液体が溢れてきた。
その黄金の液体を、今作った液体の中に一滴加えると……。
「きゃっ!」
「なんだ、急に泡立ち始めた?」
私が作った薬は、突然モクモクと泡立ちはじめ、あっという間に両手よりも大きな泡の塊と化した。
液体は一切残っていないところを見るに、完全にこの泡になってしまったということね……こうなるとは思ってなかったから、正直驚いた。
驚きすぎて、思わずオーウェン様の背中に隠れちゃうくらいには驚いちゃったわ。
「……これで完成なのか?」
「おそらく……」
「それにしたって、これは想定外すぎるな」
驚きだけど、このままこうしていても何も始まらない。そう思い、恐る恐る触ってみると、泡と呼ぶにはあまりにも硬かった。
「大丈夫か?」
「はい。思ったより硬いです」
「……確かに硬いな。重さは……片手で軽々と持てるくらいには軽い」
「本当に硬い泡って感じですね。これをどうやって薬として使うのかしら……」
「水に溶かすとか?」
「なるほど。ちょっと試してみましょう!」
残った水を少しだけ手ですくい、黄金の泡にかけてみるけど、何の反応もなかった。
一体どうすれば……こんな固い塊じゃ、飲むのは不可能だし……あ、もしかして!
「オーウェン様、これを砕いて粉末状にするのではないでしょうか?」
「なるほど、その手があったか! なら俺が砕くから、ちょっと待っててくれ」
「どうやるんですか?」
「こうするんだ」
オーウェン様は、いつも持ち歩いている剣を手に取ると、柄の部分で塊を叩いた。すると、塊は思ったより簡単に真っ二つに割れた。
そこからは、流れ作業でどんどんと小さくし、手のひらにちょこんと乗るサイズにまで小さくなった。
こうなると、なんだか小さくて可愛らしく見えるわね。それに黄金色ということもあって、まるで宝石みたい。
「ここまで小さくなれば、あとは私の方で何とかできます」
「わかった。それじゃあ後は任せた」
小さくなった黄金の塊を受け取った私は、いつも使っているすり鉢と乳棒を使って粉々にする。
本来の使い方は、薬草のようなものをすりつぶすのに使うのだけど、この塊はとても割れやすいおかげで、簡単に粉々に出来た。
「出来た……出来たわ! この薬があれば、お母さんを助けられる!」
「さすがエリンだ。早速飲ませる……前に、聖女の力を使わないとな」
「あっ……すっかり頭から抜け落ちてました」
いくらこれでお母さんが助かるからって、焦りは禁物だ。私の聖女の力よ、私の願いを叶えて……お母さんを助けて!
「おぉ……元々黄金色だったのが、僅かに光を帯びて更に美しくなったな……」
「すぐに消えちゃいますけどね。あとは、これをお母さんに飲ませてあげるだけ! お母さん、薬が出来たよ! 今度こそ、お母さんを治せるよ!」
「…………」
「お母さん! お母さん!!」
何度も呼びかけて、ようやく目を開いたお母さんは、ほんの僅かに口角を上げてくれた。
きっと今のお母さんには、これが限界なのだろう。早くこの薬で元気になってもらわないと!
「今からこの薬を飲ませるからね。オーウェン様、お母さんを起こしてもらえますか?」
「任せてくれ」
オーウェン様に支えられて少しだけ体を起こしたお母さんに、作った薬と水を飲ませる。しかし……お母さんの苦しそうな表情は依然として変わらなかった。
もしかして、また失敗した……? 今までの薬と同じ様に、今回も……!?
「ど、どうしよう……これで上手くいかないんじゃ、もう打つ手がない……!」
「エリン……」
「ううっ……オーウェン様……私、どうすれば……!」
「……っ!? エリン、見ろ!」
「えっ……?」
もう私にはお母さんを治せない――深い絶望に打ちひしがれて項垂れていると、突然オーウェン様が声を荒げた。
その声に半ば反射的に顔を上げると、紫色に変色した肌が、徐々に健康的な肌色に戻っていった。
この肌の色は、病気だという一番わかりやすい証明だった。それが元通りになっていくってことは……!!
「……うっ……」
「お母さん!?」
「エリン……オーウェンさん……? 私……」
「お体の具合はいかがですか?」
「……ずっと苦しかったのに、だいぶ楽になってます……」
「本当に? 前みたいに、嘘じゃないよね?」
「ええ、本当よ。自分でも驚いているくらい……」
ゆっくりと話すお母さんの顔色は、再会してから今日までの間で、一番良かった。
私、お母さんを助けられたんだ……良かった、本当に良かった……!
「エリン、ありがとう……お母さんのために、ずっと寝ないで頑張ってくれて……オーウェンさんも、ずっとエリンを支えてくれて、ありがとうございました」
「いえ、当然のことをしたまでです」
「うぅ、お母さーん!! うわぁぁぁん!!」
私はお母さんを助けられた喜び、そしてずっと続いていた緊張の糸が切れたのもあって、お母さんに抱きつきながら、子供のように声をあげて泣いた。
城に連れていかれて、ずっとずっと勉強をさせられて、薬も作らされて……つらいと思ったことは数え切れない。でも、今思うと……それもお母さんを助けるための試練だったのかもしれない――
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