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第八十二話 未知への準備

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 翌日。窓から差し込む日差しによって目を覚ました私は、現状を目の当たりにして戸惑っていた。

 昨日のことは思い出せないし、頭は痛いし、オーウェン様と同じベッドで、しかも抱きついて寝てたみたいだし……一体昨日何があったのかしら……?

「……ダメだ、思い出せない……」

 思い出そうとすると、何故か頭に霧がかかったような感じがして、思い出すことが出来ない。それに加えて、頭痛も酷いから尚更ダメみたい。

 ……とりあえず考えても仕方がない。今は……そうね、せっかくオーウェン様とこうしてくっついていられているのだから、オーウェン様が起きるまでこうしていたい。

「ふふっ……可愛い寝顔」

 いつも凛々しくて頼りになるオーウェン様だけど、寝顔はココちゃんによく似ていて、とても可愛いのよ。せっかくだし、ちょっとほっぺを触ってみようかしら……?

「思ったより硬いのね……自分のと比べると、よくわかるなぁ」

 自分とオーウェン様のほっぺの柔らかさを比べていると、オーウェン様は目を半分開けて、私のことをジッと見つめてきた。

「あ、おはようございます。ごめんなさい。起こしちゃいましたね」
「おはよう……なにかしていたのか?」
「なにもしてませんよ?」

 さすがに寝顔を観察しながらほっぺを触っていたなんて言ったら、オーウェン様とはいえ嫌がるかもしれないから、ここは黙っておこう。

「私、昨日のことを思い出せないんですけど……何があったんでしょうか?」
「船長殿に奢ってもらったのが酒だったようで、一口飲んだら……寝落ちしてしまったんだ」
「そうだったんですか!? 一口で酔いつぶれるなんて……ご迷惑をおかけして申し訳ありません!」
「全然大丈夫だよ」

 まさか、そんなことになっていたなんて、思ってもなかった。またオーウェン様に迷惑をかけちゃうなんて、本当に自分が情けない。

「気分はどうだ?」
「頭が痛いですけど、それくらいです」
「それは大変だ。確か、家で頭痛薬を作っていたよな?」
「はい、一応。小さな瓶に入ってるはずです。ラベルに頭痛薬と書いてあるので、すぐにわかるはずです」
「わかった。ちょっと待っててくれ」

 オーウェン様は静かに立ち上がると、部屋の外に出て行った。それから間もなく、水の入ったコップを持って戻ってきた。

「宿の主人から、水を貰ってきたよ。薬は……これか。一人で飲めそうか?」
「大丈夫ですよ、子供じゃないんですから」
「……そ、そうだな」

 なんだか歯切れの悪い言い方に引っ掛かりつつも、準備してもらった薬を飲んだ。

 うっ……この薬、自分では初めて飲んだけど、想像以上に苦みが強いわね……もうちょっと苦みが抑えられる作り方を勉強しておこうかしら……。

「次の船の出航までまだ時間はあるから、もう少し休んでいるといい」
「わかりました」

 私は再び布団に横になると、オーウェン様は私が寒くないように毛布を直してくれたうえに、私のことをそっと抱き寄せた。

 あ、朝から刺激が強い……! こんなことをされたら、嬉しさとドキドキで一日持ちそうもない。

 ……ここ最近は、オーウェン様といつも以上に仲良くさせてもらって、とても幸せなんだけど、あとでこの幸せの反動が来たりしないわよね?


 ****


 あれから三日後、私とオーウェン様は、無事にフラーブ川を使って、アンデルクの西にまで来ることが出来た。

 さて、精霊様が教えてくれた場所に行くためには、ここからは歩いて行かないといけない。それも、地元の人に聞いた限りでは、地元の人でもあまり行かない山の向こうだそうだ。

「想像以上に過酷な旅になりそうですね……オーウェン様、もし嫌なら帰っても……」
「途中で離脱するような真似はするつもりはない。それよりも、アトレこそ大丈夫か?」
「もちろん大丈夫です! 故郷で待つお母さんの元に帰るためなら、たとえ火の中水の中です!」
「その意気だ。火なら俺が全てこの剣で薙ぎ払い、水の中は俺が人工呼吸をするから問題ない」
「なんか後半おかしくないですか!?」
「半分冗談さ」
「半分は本気なんですね!?」

 オーウェン様にしては、珍しく冗談を言い続けるなと思うと同時に、肩の力が抜けていることに気が付いた。

 もしかして、オーウェン様はこれをするために冗談を……? さ、さすがオーウェン様!

「森の歩き方については問題無いと思うが、相手は踏み入ったことがない土地だ。準備は念入りにしておこう」
「準備……何を準備しますか?」
「とりあえず寝床と、なにかあった時の食料と水が欲しい。現地調達は出来るだろうが、万が一何も手に入らなかったらマズいからな」
「わかりました。お金はありますし、しっかり揃えましょう!」

 今までアトレにきた依頼で稼いだお金に加えて、私がこっそりと貯めていたお金もあるから、買い物は全然余裕だった。

 買ったものは、二人で寝られるキャンプ用の寝具とテント、あとは食料と水と薬の素材をいくつか買い足した。

 改めて見ると、結構な大荷物……特にオーウェン様の負担が増えてしまったけど、これで未知の土地を超えることなんて出来るのかしら?

「この辺りの地図も購入しておいた。目的地も範囲に入っている。この地図と、方位磁石を使って進んで行こう」
「地図と磁石だけで行けるんですか?」
「ああ。こういう技術は、騎士をしていた時に全て叩きこまれていてね。野営も任せてくれ」

 な、なんて頼もしい……! 頼もしすぎて、後光が差しているように見えるわ! 私の愛する人って、本当に色々と凄すぎて、私なんかじゃ釣り合わないってつくづく思っちゃう。

「アトレ、その顔……あれだろう? 自分じゃ俺に釣り合わないとか思ったんだろう?」
「すごい、どうしてわかるんですか?」
「伊達に恋人をしているわけじゃないからな。これくらいはわかるさ」

 簡単に言うけど、相手の考えを読むなんて、至難の業だと思う。実はオーウェン様もどこかの精霊様から力を貰っているとか、そういうオチじゃないわよね?

 なんて……変なことを考えてないで、早く出発しましょう。ここからどれくらいかかるかわからないし、慎重に行かないとね。
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