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第七十一話 手に入れた手がかり
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「そうですよね、知らないですよね……えっ、知ってる!?」
「なんだって? 彼は知っているのか?」
「は、はい! 確かにそう言っていました!」
精霊様から言葉がわかるようになる葉っぱを貰っていないオーウェン様に、興奮しながら頷いた。
まさか、本当に知っているとはビックリだわ! アドバイスをくれたサラ様には、感謝してもしきれない!
『その花は、とある地域にしか咲かない、とても貴重な花だ』
「その場所を教えてもらえませんか!? 私、故郷を探してて! その花が記憶に残っている、唯一の故郷の手がかりなんです!」
『汝も訳ありのようだな。よかろう、今回の礼として、その花がある場所を教えよう』
精霊様は、自分の枝を伸ばすと、まだ荒れたままの地面に何かを描き始めた。
これは……どうやら地図の様ね。私達が今いるクロルーツェと、元々私がいたアンデルクが描かれているわ。
『我らがいるオーリボエは、クロルーツェの南に位置している。そしてその花は、この辺りに生息している』
精霊様が指示した場所は、アンデルクの西の端っこだった。クロルーツェはアンデルクの東にあるから、ここに行くにはアンデルクを横断しないといけないわね……。
『絵ではわからないだろうが、ここは深い森と高い山がある厳しい土地だ。行くのなら止めはしないが、相応の覚悟をして行くのだな』
「わかりました。教えてくださり、ありがとうございました」
『礼には及ばん』
短く答えた精霊様は、再び地面の中へゆっくりと帰っていった。
細かい位置や現地の詳しい情報はわからないけど、これは非常に大きな一歩だわ! ここにいけば、故郷があるかもしれない。お母さんに会えるかもしれない!
「精霊が何を言っているのかはわからなかったが、おおよその内容は伝わった。よかったな、エリン」
「はいっ! 本当に……本当嬉しいです!」
私はあまりにも嬉しくて、ここが外だということも忘れて、オーウェン様に抱きついてしまった。
しかし、オーウェン様は驚いたり怒ったりせずに、良かったなと繰り返しながら、わたしの頭を優しく撫で続けてくれた――
****
翌朝、サラ様の容体もだいぶ安定してきたということで、私達は帰宅の準備を進めていた。
前の教会の時もそうだったけど、この別れる直前の時間って、凄く寂しくて苦手だわ。
「エリンさん、忘れ物はありませんか?」
「大丈夫ですよ、ヨハンさん」
「それならよかった! あ、そうだ! ココちゃん、この本を上げるよ」
「これ、オーリボエに来る時にお話してくれたやつ!?」
「その通り! こっちの本が原作の小説で、こっちが絵本さ。ココちゃんの歳なら、絵本の方がおすすめだな! 小説は大人になったら読むといいよ!」
「わかった! ありがとうヨハンお兄ちゃん! えへへ、大好き~!」
ココちゃんは何とも可愛らしいことを言いながら、ヨハンさんにギュッと抱きついた。ヨハンさんも笑顔で受け止めながら、頭をワシャワシャと撫でた。
何とも微笑ましい光景なんだけど……それをよしと思わない人物が、若干二名ほどいたことに、私はすぐに気づけなかった。
「ヨハン、俺はまだココを嫁に出す気は無いんだが?」
「は、はぁ!? なんか変な勘違いしてませんか!?」
「ヨハン君……まさか、浮気……?」
「サラまで、どうしてそうなるんだよ!?」
盛大に勘違いをされて二人に詰め寄られる中、リリアーヌ様がゆらゆらと体を揺らしながらやってくると、今まで見たことがないような鬼の形相を浮かべていた。
「ヨハンちゃんや……サラを裏切るなんて、ワシが許さんぞ……?」
「ひぃ!? だからオレはサラ一筋だから! それ以外の人と結婚なんてするつもりは無いから!」
「よ、ヨハン君ってば……恥ずかしいよ」
「うむうむ、それなら良い」
……一体何を見せられていたのだろうか。よくわからないけど……。
「……うふふっ……あはははっ!」
なんだかおかしくなってしまった私は、お腹を抱えて笑った。それにつられて、みんなも同じ様に楽しそうに笑い……静かな家の周りが、笑い声に包まれた。
やっぱりみんな元気で、楽しく笑っているのは素晴らしいことだ。ここにジュリィ様もいれば完璧だったのだけど、もう忙しくて来れないと、昨日帰る前に教えてくれたの。
その時に、互いに別れと深い感謝の言葉を述べてから、とある約束をした。必ず再会をして、また一緒にお茶を飲もう。その時は知人ではなく、友人として……ってね。
「よし、全部まとめ終わったわ。オーウェン様、ココちゃん、出発しましょう」
ここに来る時に持ってきたものに加えて、頂いたお土産も持って外に出る。外はサラ様の回復を祝福しているかのような、雲一つない青空だった。
「改めてお礼を言わせてください。この度は孫を助けていただき、本当にありがとうございました」
「皆様へのご恩は……決して忘れません」
「エリンさん、オーウェン先輩、ココちゃん、俺の大切な人を助けてくださり、ありがとうございました! 落ち着いたら手紙出しますから! それと、なにかあったら、地の果てまで駆け付けますから、必ず声をかけてくださいね! では……薬屋アトレの繁栄、そして皆様のこれからの道に光があるように……敬礼っ!!」
「皆さん、お元気で!」
それぞれの言葉と想いを背に受けながら、私達はサラ様の家を出発した。
短い時間しか過ごしていないのに、とても長い時間いたように感じる。それくらい、濃密な時間を過ごしたということね。
「来る時はどうなることかと思ってましたけど、何とかなってよかったです」
「エリンお姉ちゃんなら、絶対大丈夫って……あれ、なんだろう? なんか地面から生えてきてるよ……」
町から馬車に乗って帰るために、森の中を歩いていると、突然道沿いを覆うように、可愛らしい芽がいくつも生えてきて……色とりどりの花を咲かせた。
「わぁ、一斉にお花が咲いた!?」
「もしかして、精霊様が?」
「きっとそうだろう。俺達への感謝の気持ちなのかもしれないな」
サラ様の元気な姿、皆さんの感謝の気持ち。それらの全てが今回の成功を示唆し、同時に私の達成感へと繋がっていた。
皆さん……これからもお元気で。いつかどこかで、また会いましょう!
「なんだって? 彼は知っているのか?」
「は、はい! 確かにそう言っていました!」
精霊様から言葉がわかるようになる葉っぱを貰っていないオーウェン様に、興奮しながら頷いた。
まさか、本当に知っているとはビックリだわ! アドバイスをくれたサラ様には、感謝してもしきれない!
『その花は、とある地域にしか咲かない、とても貴重な花だ』
「その場所を教えてもらえませんか!? 私、故郷を探してて! その花が記憶に残っている、唯一の故郷の手がかりなんです!」
『汝も訳ありのようだな。よかろう、今回の礼として、その花がある場所を教えよう』
精霊様は、自分の枝を伸ばすと、まだ荒れたままの地面に何かを描き始めた。
これは……どうやら地図の様ね。私達が今いるクロルーツェと、元々私がいたアンデルクが描かれているわ。
『我らがいるオーリボエは、クロルーツェの南に位置している。そしてその花は、この辺りに生息している』
精霊様が指示した場所は、アンデルクの西の端っこだった。クロルーツェはアンデルクの東にあるから、ここに行くにはアンデルクを横断しないといけないわね……。
『絵ではわからないだろうが、ここは深い森と高い山がある厳しい土地だ。行くのなら止めはしないが、相応の覚悟をして行くのだな』
「わかりました。教えてくださり、ありがとうございました」
『礼には及ばん』
短く答えた精霊様は、再び地面の中へゆっくりと帰っていった。
細かい位置や現地の詳しい情報はわからないけど、これは非常に大きな一歩だわ! ここにいけば、故郷があるかもしれない。お母さんに会えるかもしれない!
「精霊が何を言っているのかはわからなかったが、おおよその内容は伝わった。よかったな、エリン」
「はいっ! 本当に……本当嬉しいです!」
私はあまりにも嬉しくて、ここが外だということも忘れて、オーウェン様に抱きついてしまった。
しかし、オーウェン様は驚いたり怒ったりせずに、良かったなと繰り返しながら、わたしの頭を優しく撫で続けてくれた――
****
翌朝、サラ様の容体もだいぶ安定してきたということで、私達は帰宅の準備を進めていた。
前の教会の時もそうだったけど、この別れる直前の時間って、凄く寂しくて苦手だわ。
「エリンさん、忘れ物はありませんか?」
「大丈夫ですよ、ヨハンさん」
「それならよかった! あ、そうだ! ココちゃん、この本を上げるよ」
「これ、オーリボエに来る時にお話してくれたやつ!?」
「その通り! こっちの本が原作の小説で、こっちが絵本さ。ココちゃんの歳なら、絵本の方がおすすめだな! 小説は大人になったら読むといいよ!」
「わかった! ありがとうヨハンお兄ちゃん! えへへ、大好き~!」
ココちゃんは何とも可愛らしいことを言いながら、ヨハンさんにギュッと抱きついた。ヨハンさんも笑顔で受け止めながら、頭をワシャワシャと撫でた。
何とも微笑ましい光景なんだけど……それをよしと思わない人物が、若干二名ほどいたことに、私はすぐに気づけなかった。
「ヨハン、俺はまだココを嫁に出す気は無いんだが?」
「は、はぁ!? なんか変な勘違いしてませんか!?」
「ヨハン君……まさか、浮気……?」
「サラまで、どうしてそうなるんだよ!?」
盛大に勘違いをされて二人に詰め寄られる中、リリアーヌ様がゆらゆらと体を揺らしながらやってくると、今まで見たことがないような鬼の形相を浮かべていた。
「ヨハンちゃんや……サラを裏切るなんて、ワシが許さんぞ……?」
「ひぃ!? だからオレはサラ一筋だから! それ以外の人と結婚なんてするつもりは無いから!」
「よ、ヨハン君ってば……恥ずかしいよ」
「うむうむ、それなら良い」
……一体何を見せられていたのだろうか。よくわからないけど……。
「……うふふっ……あはははっ!」
なんだかおかしくなってしまった私は、お腹を抱えて笑った。それにつられて、みんなも同じ様に楽しそうに笑い……静かな家の周りが、笑い声に包まれた。
やっぱりみんな元気で、楽しく笑っているのは素晴らしいことだ。ここにジュリィ様もいれば完璧だったのだけど、もう忙しくて来れないと、昨日帰る前に教えてくれたの。
その時に、互いに別れと深い感謝の言葉を述べてから、とある約束をした。必ず再会をして、また一緒にお茶を飲もう。その時は知人ではなく、友人として……ってね。
「よし、全部まとめ終わったわ。オーウェン様、ココちゃん、出発しましょう」
ここに来る時に持ってきたものに加えて、頂いたお土産も持って外に出る。外はサラ様の回復を祝福しているかのような、雲一つない青空だった。
「改めてお礼を言わせてください。この度は孫を助けていただき、本当にありがとうございました」
「皆様へのご恩は……決して忘れません」
「エリンさん、オーウェン先輩、ココちゃん、俺の大切な人を助けてくださり、ありがとうございました! 落ち着いたら手紙出しますから! それと、なにかあったら、地の果てまで駆け付けますから、必ず声をかけてくださいね! では……薬屋アトレの繁栄、そして皆様のこれからの道に光があるように……敬礼っ!!」
「皆さん、お元気で!」
それぞれの言葉と想いを背に受けながら、私達はサラ様の家を出発した。
短い時間しか過ごしていないのに、とても長い時間いたように感じる。それくらい、濃密な時間を過ごしたということね。
「来る時はどうなることかと思ってましたけど、何とかなってよかったです」
「エリンお姉ちゃんなら、絶対大丈夫って……あれ、なんだろう? なんか地面から生えてきてるよ……」
町から馬車に乗って帰るために、森の中を歩いていると、突然道沿いを覆うように、可愛らしい芽がいくつも生えてきて……色とりどりの花を咲かせた。
「わぁ、一斉にお花が咲いた!?」
「もしかして、精霊様が?」
「きっとそうだろう。俺達への感謝の気持ちなのかもしれないな」
サラ様の元気な姿、皆さんの感謝の気持ち。それらの全てが今回の成功を示唆し、同時に私の達成感へと繋がっていた。
皆さん……これからもお元気で。いつかどこかで、また会いましょう!
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