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第六十五話 力を合わせて

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「こ、これは……」

 サラ様の家を飛び出して、前に精霊様と出会った場所に向かう途中、既に森の破壊によって生まれてしまった痛々しい傷跡が、私達の前に現れた。

 木は切り倒され、花や小さな植物は無残に踏み荒らされて……薬も使ったのか、一部の植物は腐り始めていた。

「な、なんということじゃ……我々が親しんだ森が、こんな無残な姿に……」

 オーウェン様におんぶをされてここまで来たリリアーヌ様は、今までで見たことがない怒りの形相を浮かべながら、変わり果てた森を見つめていた。

 この森とは付き合いが浅い私ですら、この光景を前にして、怒りと悲しみで胸がいっぱいになっているのだから、長年住んでいた人の気持ちは、私なんかでは計り知れないだろう。

「リリアーヌ殿、申し訳ないがエスコートはここまででよろしいでしょうか? もしかしたら、森を破壊した連中が残っている可能性があるので。見た感じでは誰もいませんが、念のために」
「わかりました。ここまで運んでくれて、感謝いたします」
「リリアーヌばあちゃんは、オレが守るから心配すんなよ!」
「ありがとうねぇ、ヨハンちゃん」

 オーウェン様と同じ様に、サラ様をおんぶしてここまで来たヨハンさんは、自信たっぷりに言い切って見せた。

 人を一人おんぶした状態で守れるのかという疑問はもっともだけど、人一倍今回のことに気合が入ってるから、気合いでどうにかしちゃいそうだわ。とっても心強い!

「ねえねえ、その精霊様ってどこにいるの?」
「一応、前に会った所に向かっているのだけど……」

 改めて聞かれると、どこに精霊様がいるかはわからない。前にいた場所にいるとは限らないし……。

「それなら、私にお任せください。私は薬を作る能力は全くございませんが、代わりに精霊様に関する能力には自信があります」

 ボロボロになってしまった服の代わりに、サラ様の服を着たジュリィ様は、その場で手を組んで目を閉じる。すると、傷ついた植物達が共鳴するように、サワサワと音を立て始めた。

「……見つけました。こちらです!」

 ジュリィ様の案内の元、変わり果てた森の中を進んで行くと、完全に破壊されて土が露出してしまった場所に、精霊様は倒れていた。

「わわっ、あれが精霊様!? 倒れてるよ!」
「これは……」

 急いで精霊様の状態を確認すると、まだ少し動いてはいるものの、体のほとんどが枯れ果てて、今にも死んでしまいそうな状態だった。

 もしかして、森を守るために傷ついて、こんな酷い姿に……!?

『ぐっ……な、汝らは……森は、我が……』
「喋らないでください! すぐに助けますから!」
「エリン、何か方法があるのか?」
「私は一応人間の薬を作るのが専門なので、植物を治す薬は作ったことはありません。ですが、前に植物に使う栄養剤の作り方を本で読んだことがあります。一か八かではありますが……その薬を作って与えれば、元気になるかもしれません」

 偉そうに言っておいてなんだけど、正直自信は無い。だってさっき言った通り、私が主に勉強したのは人間用の薬。一応栄養剤を作らされたことはあるけど、相手は精霊様……効くかどうかは未知数だ。

 でも、ここでただボーっとしていても、事態はなにも良くならない。それなら、行動するしかないじゃない!

「それを作るには、何が必要なんだ?」
「油かすと水があれば、簡単に作れるんですけど……それで作るには、一ヶ月くらいの発酵が必要なんです。なので、油かすの代用として使えるルユという植物を使います」
「ルユ……? なんだか可愛い名前だね!」
「ルユですか。確か葉の先端だけが黄色くなるという特徴の植物ですよね」

 私が説明をする前に、ジュリィ様が簡単に説明をしてくれた。おかげで説明の手間が省けたわ。

「仰る通りです。ルユは油かすと同じ様な成分を持っていて、細かくしたものを水に入れて混ぜて火に掛けると、植物の栄養剤になるんです」
「それじゃあ、それを採ってくればいいんですね! でも、そんな植物なんてこのへんに生えてたか……?」

 私もその心配がある。ルユは一つの場所に異様に群生し、あまり生息域を広げない性質がある。だから、場所がわからないと見つけることが困難なの。

「心配はいらんよ。その植物なら、何度も見たことがあるからねぇ。おひたしやサラダにすると、とてもおいしいのよ」
「さっすがリリアーヌばあちゃん! んじゃオレとリリアーヌばあちゃんで採りに行ってくるんで、待っててください!」

 ヨハンさんは、リリアーヌ様を軽々とおんぶすると、人をおんぶしてるとは思えないような速度で走りだした。

 二人に任せておけば、きっとルユに関しては大丈夫だろう。あと必要なのは水だけだ。

「それじゃあ、俺とココで水を探しに行ってくるよ」
「お願いします。精霊様とサラ様は、私達にお任せください!」
「お兄ちゃん、確かここに来る時に、川があったよね? そこに行けばいいよね!」
「その通りだ。ココは賢いな。さあ、行こう」

 いつも持ち歩いている薬師セットの中にあった、水を入れておくのに適した獣の皮の袋を手渡すと、オーウェン様とココちゃんは、水を探してその場を走り去った。

 偉そうに任せてくれとは言ったけど、今の私にはルユを栄養剤にするための準備して、二人を励ますこと以外、何も出来ることがない。

 私にもっと力があれば、二人の苦しみを和らげてあげられるかもしれないのに……自分の力の無さが情けない。

 ……いや、みんな一丸となって頑張っているんだから、悲観なんてしてないで、やれることをやらなきゃね。
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