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第六十三話 まるで自分のことの様に
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ジュリィ様が、エクシノ様を恨んでいる――そのあまりにも穏やかではない言葉に、私は言葉を詰まらせた。
「それは、俺達がお聞きしてもいい話なのでしょうか?」
「はい。私のことを信用していただくためにも、必要なことでしょう」
ふぅ、と深く深呼吸をしたジュリィ様は、どこか悲しげな表情で自分の境遇を話し始めた。
「私は幼い頃、ここから少し離れたところにある村で、そこを領地としていた貴族の家でお世話になっていました。母にも聖女の力があり、その家が母を保護して……私もそこで生まれたのです。その家の当主はとても気さくな方で、私や母にとても良くしてくださいました」
「しかし、あなたはグランディーゾ家にいる。しかも保護という形ではなく、仕えるという形です」
「はい、仰る通りです。私は、まだ家長になったばかりのエクシノ様に、無理やり連れてこられたのです」
平和で幸せな時を過ごしていたのに、無理やりその幸せを壊されたなんて、まるで自分の話を聞いているみたいだわ……。
所詮は他人のことだろうと言われればそれまでだけど、自分によく似た境遇のせいで、胸が張り裂けてしまいそうだ。
「それだけではありません。あの方は適当な理由をでっちあげて、村も屋敷も……お世話をしてくれていた貴族の人達も、村人も……母も。全員殺したのです!」
「……えっ……?」
ジュリィ様は、体や声を震わせて、今までで一番の感情を表に出した。その姿は、話してくれた内容は嘘ではないという表れだった。
「その時から、いつか主に復讐をしようと。それまでは従順なフリをしていようと……どんな横暴にも歯を食いしばって、耐えて耐えて……母や世話をしてくれた人達、そして村の人達の敵を討つと決めたのです!」
「……そうでしたか。つらい話をさせてしまって、申し訳ない」
「いえ、私が話すべきだと思ったから、そうさせていただいたに過ぎません」
深々と頭を下げるオーウェン様。一方の私は、その場で呆然としながら、涙を流すことしか出来なかった。
だって……ジュリィ様があまりにも可哀想で……彼女の気持ちを思うと、悲しくて……その悲しみを上手く言葉に出せなくて、ただ涙を流すことしかできなかった。
「あっ……も、申し訳ございません! あなたを悲しませるつもりは……!」
「ジュリィ様は何も悪くありません。ただ……私も似たような境遇だったので、共感してしまったというか……」
「エリン……」
一人で涙を流す私に、オーウェン様はハンカチを取り出して涙を優しく拭ってくれた。
人前でそんなことをされたら少し恥ずかしいけど、今はそんなことを気にする余裕なんて無いくらい悲しくて……そして、オーウェン様の優しさが嬉しかった。
「ジュリィ殿。その作戦はいつ頃に行われるんですか?」
「詳しい日程は存じておりません。ただ、先程あなた方と面会する前に、主が雇った人間のリーダーと話をしているのは目撃しております。内容は聞き取れませんでしたが、おそらく作戦の相談でしょう」
相談をしているということは、さすがに今から行うみたいなことはしてこなさそうね。
「とりあえず、今日手に入れた情報を整理して、精霊に伝えよう。信じてくれるかわからないが、今はとにかく彼と強力することが大事だろう」
「そうですね。近いうちに真の黒幕による、大規模な破壊が来るってわかってもらえれば、対策を立ててもらえるかもしれませんしね」
話を聞いてくれるか、そもそもまた会えるかもわからないけど、諦めてたら前には進めないわ。解決目指して頑張らなきゃ!
「長々とお話ししてしまい、申し訳ありませんでした」
「いえ、とても有益な情報が手に入りました。ありがとうございます。では、そろそろ私達は失礼しますね」
「こちらこそ、話を聞いてくださりありがとうございました。出口までお見送りさせていただきます」
ジュリィ様に連れられて、今度こそ玄関までやってきた私達は、彼女からランプを一つ渡されてから、屋敷を後にした。
もう外は真っ暗になってしまっているけど、当然帰るための馬車など用意されていない。このランプで足元を照らしながら、ゆっくりと帰ろう。
「ふぅ……」
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。でも……なんか自分のことみたいな話を聞いて、疲れちゃいました」
「それなら、こうするといい」
そういうと、オーウェン様は私の肩を抱き、そのまま自分の方に抱き寄せてきた。疲れた体に、オーウェン様の体温がじんわりと私の体に広がって、とても心地いい。
「急にどうしたんですか?」
「周りが暗くなってしまったからね。この方が安全だろう?」
逆に歩きにくくなってしまうと思うのだけど、きっとオーウェン様なりの気遣いなのだろうと判断し、素直に頷いてみせた。
……あんな大変な話を聞いた後だというのに、こうしてオーウェン様にくっついていると、内心では喜んでいる自分がいるのが、何とも単純で少し情けないわ。
「それにしても、まさかエクシノ様が全て仕組んでいたのも、オーウェン様が感づいていたのもビックリでした。私なんて、全然わかりませんでした。本当にオーウェン様は凄いですね」
「今までの状況から考えて、もしかしたらと思っていただけだよ」
「それでも凄いです」
もしかしたらって思うだけじゃない。その後も的確に質問したり、終始冷静だったり……私には真似できないことだ。
「それで、これからどうしますか?」
「真実を知れたとはいえ、俺達だけでどうにかできることではない」
「じゃあ、どうすれば……」
「さっき言った通り、もう一度精霊に話をしに行こう。信用してもらえるかわからないが……」
「やっぱりそれしかないですよね」
不安は拭いきれないけど、何もしないよりかは何百倍も良いはずだ。
それに、私の聖女の力を最大まで使って伝えれば、私の気持ちが伝わるかもしれない。サラ様を助けるためにも、とにかく行動しなくちゃ!
「それは、俺達がお聞きしてもいい話なのでしょうか?」
「はい。私のことを信用していただくためにも、必要なことでしょう」
ふぅ、と深く深呼吸をしたジュリィ様は、どこか悲しげな表情で自分の境遇を話し始めた。
「私は幼い頃、ここから少し離れたところにある村で、そこを領地としていた貴族の家でお世話になっていました。母にも聖女の力があり、その家が母を保護して……私もそこで生まれたのです。その家の当主はとても気さくな方で、私や母にとても良くしてくださいました」
「しかし、あなたはグランディーゾ家にいる。しかも保護という形ではなく、仕えるという形です」
「はい、仰る通りです。私は、まだ家長になったばかりのエクシノ様に、無理やり連れてこられたのです」
平和で幸せな時を過ごしていたのに、無理やりその幸せを壊されたなんて、まるで自分の話を聞いているみたいだわ……。
所詮は他人のことだろうと言われればそれまでだけど、自分によく似た境遇のせいで、胸が張り裂けてしまいそうだ。
「それだけではありません。あの方は適当な理由をでっちあげて、村も屋敷も……お世話をしてくれていた貴族の人達も、村人も……母も。全員殺したのです!」
「……えっ……?」
ジュリィ様は、体や声を震わせて、今までで一番の感情を表に出した。その姿は、話してくれた内容は嘘ではないという表れだった。
「その時から、いつか主に復讐をしようと。それまでは従順なフリをしていようと……どんな横暴にも歯を食いしばって、耐えて耐えて……母や世話をしてくれた人達、そして村の人達の敵を討つと決めたのです!」
「……そうでしたか。つらい話をさせてしまって、申し訳ない」
「いえ、私が話すべきだと思ったから、そうさせていただいたに過ぎません」
深々と頭を下げるオーウェン様。一方の私は、その場で呆然としながら、涙を流すことしか出来なかった。
だって……ジュリィ様があまりにも可哀想で……彼女の気持ちを思うと、悲しくて……その悲しみを上手く言葉に出せなくて、ただ涙を流すことしかできなかった。
「あっ……も、申し訳ございません! あなたを悲しませるつもりは……!」
「ジュリィ様は何も悪くありません。ただ……私も似たような境遇だったので、共感してしまったというか……」
「エリン……」
一人で涙を流す私に、オーウェン様はハンカチを取り出して涙を優しく拭ってくれた。
人前でそんなことをされたら少し恥ずかしいけど、今はそんなことを気にする余裕なんて無いくらい悲しくて……そして、オーウェン様の優しさが嬉しかった。
「ジュリィ殿。その作戦はいつ頃に行われるんですか?」
「詳しい日程は存じておりません。ただ、先程あなた方と面会する前に、主が雇った人間のリーダーと話をしているのは目撃しております。内容は聞き取れませんでしたが、おそらく作戦の相談でしょう」
相談をしているということは、さすがに今から行うみたいなことはしてこなさそうね。
「とりあえず、今日手に入れた情報を整理して、精霊に伝えよう。信じてくれるかわからないが、今はとにかく彼と強力することが大事だろう」
「そうですね。近いうちに真の黒幕による、大規模な破壊が来るってわかってもらえれば、対策を立ててもらえるかもしれませんしね」
話を聞いてくれるか、そもそもまた会えるかもわからないけど、諦めてたら前には進めないわ。解決目指して頑張らなきゃ!
「長々とお話ししてしまい、申し訳ありませんでした」
「いえ、とても有益な情報が手に入りました。ありがとうございます。では、そろそろ私達は失礼しますね」
「こちらこそ、話を聞いてくださりありがとうございました。出口までお見送りさせていただきます」
ジュリィ様に連れられて、今度こそ玄関までやってきた私達は、彼女からランプを一つ渡されてから、屋敷を後にした。
もう外は真っ暗になってしまっているけど、当然帰るための馬車など用意されていない。このランプで足元を照らしながら、ゆっくりと帰ろう。
「ふぅ……」
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。でも……なんか自分のことみたいな話を聞いて、疲れちゃいました」
「それなら、こうするといい」
そういうと、オーウェン様は私の肩を抱き、そのまま自分の方に抱き寄せてきた。疲れた体に、オーウェン様の体温がじんわりと私の体に広がって、とても心地いい。
「急にどうしたんですか?」
「周りが暗くなってしまったからね。この方が安全だろう?」
逆に歩きにくくなってしまうと思うのだけど、きっとオーウェン様なりの気遣いなのだろうと判断し、素直に頷いてみせた。
……あんな大変な話を聞いた後だというのに、こうしてオーウェン様にくっついていると、内心では喜んでいる自分がいるのが、何とも単純で少し情けないわ。
「それにしても、まさかエクシノ様が全て仕組んでいたのも、オーウェン様が感づいていたのもビックリでした。私なんて、全然わかりませんでした。本当にオーウェン様は凄いですね」
「今までの状況から考えて、もしかしたらと思っていただけだよ」
「それでも凄いです」
もしかしたらって思うだけじゃない。その後も的確に質問したり、終始冷静だったり……私には真似できないことだ。
「それで、これからどうしますか?」
「真実を知れたとはいえ、俺達だけでどうにかできることではない」
「じゃあ、どうすれば……」
「さっき言った通り、もう一度精霊に話をしに行こう。信用してもらえるかわからないが……」
「やっぱりそれしかないですよね」
不安は拭いきれないけど、何もしないよりかは何百倍も良いはずだ。
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