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第六十二話 騎士の風上にも置けない!

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 私達と話したいこと? 突然部屋に招いて、周りに誰もいない状態でする話なんて、きっと重要なことに違いない。

「その前に、良ければこちらをどうぞ」

 ジュリィ様は、テーブルの上に置かれていた袋を開けた。すると、中から甘い良い香りが漂ってきた。

 これは、とても美味しそうなクッキーね。形や色もみんな違っていて、見ているだけで楽しめる。

「あれだけ待たされたのですから、お腹がすいたでしょう? 良ければお召し上がりください。ただ、私の部屋にある食べ物は、これしかなくて……」
「全然大丈夫ですよ! でも、いいんですか?」
「はい、どうぞ」
「せっかくの好意だ。ありがたくいただこう」
「そうですね。ありがとうございます、ジュリィ様」

 私はクッキーを一つ手に取り、そのまま口に運ぶ。空腹という極上のスパイスが加わっているおかげか、今まで食べたクッキーのなかで一番おいしく感じられた。

「この優しい甘みが、とてもいいですね……いくらでも食べられそう……それで、お話とはなんでしょうか?」
「今回の一件についてです」

 ジュリィ様は、私とオーウェン様がクッキーを食べたのを見届けてから、自分もクッキーを一つ食べてから、ゆっくりと口を開いた。

「結論からお話しいたします。今回の事件の犯人は、サラ様ではございません」
「えぇ!?」
「エリン、静かに。ということは……やはり」
「お察しの通り、我が主が全て仕組んだことです」

 エクシノ様が……!? 悪い意味で何か関わっているとは思ってここに来たとはいえ、まさか犯人だというのは想定外だった。

 それ以上に想定外だったのは、オーウェン様が驚いたりせず、やっぱりそうだったのか……と言いたげに頷いていたことだ。

「オーウェン様は、エクシノ様が犯人だとわかってたんですか?」
「確証はなかったが、先程の話を聞いて確信していたよ。エクシノ殿の力なら、多くの人員を集めることも、森を破壊する道具を集めることも容易いだろう。それに、サラ殿に振られたという話も、確信する材料になった」
「えっと……?」
「ご説明しましょう。主は自分に絶対に自信を持っていると同時に、人一倍プライドが高いお方です。そんな主はサラ殿に一目惚れをし、求婚をしましたが……」

 そこまで話したジュリィ様は、気まずそうに視線を逸らした。きっと口に出すのも憚られるほど、きっぱりと振られてしまったのね。

「フラれた逆恨みって可能性もありますよね?」
「可能性はある。だが、そもそも古くから精霊と共に森を守ってきたグランディーゾ家の家長であるエクシノ殿が、どうして森を破壊しようとしたのでしょうか?」
「それは……あまりにも身勝手な理由です」

 今まであまり感情を表情に出さなかったジュリィ様は、明確な不快感を表すように、眉間に深いシワを刻んだ。

「実は、主は昔から大のゴルフ好きでして」
「ああ、そういえばそうだったな。騎士団にいる頃に、何度かゴルフの話をしているところを見たことがある」
「そうでしたか。その主は、前々から自分専用のゴルフ場を作りたいと考えていたのです」
「私、ゴルフはよく知らないんですけど……たしか、結構広い土地が必要ですよね? あっ……まさか……!!」
「そのまさかです。主はご先祖様と精霊様が守ってきた森を破壊し、ゴルフ場を作るつもりなのです」

 ジュリィ様から明かされた事件の動機は、あまりにも身勝手すぎて……開いた口が塞がらなかった。

 森を破壊するのは悪いことに違いないけど、それをしなくてはならないような、重要な理由があるのかと思っていた。それが、完全に私利私欲のためだったなんて、絶対に許せない!

「主は考えました。どうすれば森を守る精霊に邪魔をされずに、森を破壊できるか。その結果、考え付いた計画が今回の一件です」
「一体エクシノ殿は、何をしたのですか?」
「さほど難しいことはしておりません。金で雇ったならず者に森を破壊させ、精霊に森が攻撃されていると認知させました。ただ、そこでは本格的な破壊活動は行いませんでした」
「それは、どうしてですか?」
「最初に本格的にやってしまうと、その場で精霊が本気になってしまうからです。あくまで追い払う程度の活動に留め、精霊に森を破壊する人間達がいると認知させた後、とある行動に出ました」

 とある行動……一体なんだろう。きっとろくでもない行動だとは思うけど。

「森の破壊と同時に、自分の恨みを晴らすために、サラ様に罪を全てなすり付け、その悪事を町の人間に言いふらしたのです。それだけではありません。サラ様には、自分に逆らったり、誰かに話したりしたら、大切な方々を殺すと脅して……」
「ひ、酷すぎる……騎士の風上にも置けないわ!」

 ジュリィ様の今の言葉で、ようやくサラ様がどうしてあんな態度を取っていたのかわかった。サラ様は、ヨハンさんやリリアーヌ様を守るために、何も言わずに苦しんでいたんだ。

 そう思うと、エクシノ様への怒りが沸々と胸の奥から湧いてきた。その証拠に、無意識に両手を強く握り、自分の太ももの上に降り降ろしていた。

「三つほど疑問があるのですが、よろしいですか?」
「なんでしょう?」
「どうしてエクシノ殿は、俺達に情報を提供したのか。恨んでいる相手を助けようとしている俺達に、塩を送るような真似をしたのが、少々疑問です」
「先ほどお話しましたが、主は自信とプライドの塊の様なお方です。いくらあなた方に話したところで、計画に支障がないと思ったのでしょう」

 なにそれ、そこまで傲慢でよく家長が務められているわね。その図太さを少し分けてもらいたい。

 ……やっぱり遠慮しておこう。分けてもらったせいで、あんな嫌な性格になってオーウェン様に嫌われたら、一生立ち直れないだろうし

「二つ目ですが、精霊に前に会った時に、森を再生すると言っていました。精霊がいる以上、森の破壊は不可能なのでは?」
「精霊は森の守り神であり、森でもあるのです」
「ど、どういうことでしょうか?」
「私も少し耳にしただけなのですが……森があるから精霊が存在できる。その逆もしかりです。つまり、片方が無くなれば、もう片方も無くなるのです」
「そうか、森を破壊して精霊の力を削げば、邪魔はされにくくなる。そして精霊が力尽きれば、森は完全に死に絶えるということか」
「はい。あの広大な森が、精霊が亡くなると同時に、一瞬にして滅びるでしょう」

 そんな、なんて酷い……どうしてそんな酷いことが出来るの? 私には全くわからないわ……。

「最後に一つ。あなたは聖女として、エクシノ殿……いや、グランディーゾ家に仕えているはずだ。なのに、どうして告発なんてしているんですか?」
「簡単なことです。主がサラ様を恨んでいらっしゃるように、私も主を強く恨んでいるからです」
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