【完結済】婚約者の王子に浮気されていた聖女です。王子の罪を告発したら婚約破棄をされたので、外で薬師として自由に生きます!

ゆうき

文字の大きさ
上 下
58 / 115

第五十八話 森の守り神

しおりを挟む
 何もない地面から突然生えてきた木は、突然言葉を発しながら人間のように動いていた。幹の部分には黒で表された目と口があり、禍々しさに拍車がかかっている。

『我の森を破壊した、悪しき人間どもよ……森を立ち去れ!』
「きゃあ!?」

 私達に向かって、木の枝が四方八方から襲い掛かってくるが、オーウェン様が全て斬ってくれたおかげで、どこもケガをせずに済んだ。

「いきなり攻撃してくるとは、随分と手荒い生き物だな……大丈夫か?」
「な、なんとか……あ、あれはなんですか!? 木のバケモノ!?」
「わからない。こんな生き物がいるなんて、聞いたこともない……一体何者だ?」
『我はこの森の守る精霊なり。森を傷つける者は、誰であろうと許さぬ!』

 バケモノじゃなくて、精霊様!? そういえば、町の人が森の神様とか言っていた……それは、神様じゃなくて精霊様だったということ!?

「せ、精霊様!? まさか、本当に存在していたの!?」
「どういうことだ?」
「あの木が言ってたんです。自分は精霊だって! 精霊様、私達は森を傷つけに来たのではありません!」
『黙れ! わざわざ傷ついた場所にやって来るなど、奴の仲間に決まっている!』

 精霊様は再び枝を伸ばし、さらに地面から木の根っこまでも伸ばしてきたが、これもオーウェン様が斬って守ってくれた。

 あの精霊様からは、強い怒りを感じる。なんとかして私達に悪意が無いことを伝えないと……そうだわ! 城にいた時に、守り神である精霊様に感謝と安寧を祈っていた時のように、敵意が無いと強く想って祈れば、伝わるかもしれない!

「オーウェン様、少し時間を稼いでもらえますか?」
「何か手があるのか?」
「私の力で、精霊様を説得します!」
「わかった、俺に任せろ!」

 頼もしいオーウェン様に頷いてから、その場で膝をついて手を組み、祈り始める。

「お願い、私の声を聞いて。私達はあなたや森を傷つけに来たのではないの。私達は、ただとある人を助けたいだけなの!」

 私の祈りに呼応して、私の体が光に包まれていく。その光は、精霊様の体も包み込んでいき……すぐに消えていった。

 すると、精霊様は攻撃に使っていた枝や根っこを収め、大人しくなってくれた。

『なるほど、汝も我ら精霊と祈りを通して心を通わし、対話する力を持っているようだな』

 ……? 今の言い方だと、私以外にも聖女の力を持っていた人がいたように聞こえる。ひょっとしたら、この精霊様に祈りを捧げる聖女が、この辺りにもいるのかもしれないわ。

『確かに汝らに悪意が無いことは伝わった。しかし、信用したわけではない。一刻も早く、森から立ち去るがいい』
「で、でも……」
「一体、精霊は何を話しているんだ? 俺には唸り声をあげてるようにしか聞こえないんどご……」
「見逃してあげるから、森から立ち去れって言ってます」
「なるほど。だが、調べきっていないのに立ち去るのもな……なんとか説得できないか?」
『愚か者め。我が直接言わないと理解が出来ないらしい。ふんっ!』

 精霊様は自分の体を一振りして葉っぱを一枚落とす。その葉っぱはヒラヒラと踊りながら、オーウェン様の手の中に納まった。

「この葉っぱは……?」
『その葉を持っていれば、一時的にだが汝にも我の言葉がわかるようにした。これで問題あるまい』
「ほ、本当に喋っているな……あなたのご厚意、痛み入ります。俺の名はオーウェン・ヴァリア。彼女はエリンです」
『自己紹介など不要だ。改めて警告する。この森を立ち去れ』
「そ、そういうわけにはいかないんです! とある女の子が、体が植物になってしまう、珍しい病気になってしまったので、治す手掛かりを探しに来たんです!」
『……病気? ほう、病気か……我はその人間と病気について知っている』

 知っている!? それなら治し方も知っていたりしないかしら!? 治す方法さえわかれば、私の薬で治せるかもしれない!

 そう思って喜んでいた私に突きつけられた言葉は、あまりにも想定外の物だった。

『病気などではない。その人間……いや、罪人はこの森を破壊した罪として、我に呪われたのだ』
「はっ……? の、呪い……?」

 精霊様の言葉に対して、私はなんとも間抜けな声で復唱することしかできなかった。

 病気だと思っていたものは、本当は呪いだったなんて……そんな非現実的なものなんて信じられないし、サラ様が呪いをかけられるような罪人だとも思えない。

 でも、現実として体は植物になっていってるし、サラ様は何か隠しているみたいだし……わからないことが多すぎて、頭がパンクしそう!

「本当に、サラ殿がこの森を破壊したのですか?」
『嘘ではない。なぜなら、奴を罪人として連れてきたのは、遥か昔に我と契約をして、この地の森と民、そしてオーリボエを守ってきた一族、グランディーゾ家の家長なのだからな』

 家長って、確かエクシノ様のことよね? こんなところでも絡んでくるなんて、やっぱり今回の一件は、エクシノ様が大きく絡んでいそうだわ。

『あの日、この森に多くの人間がやって来て、森を破壊し始めた。我はすぐに人間ども追い払ったのだが……見ての通りだ。その後、グランディーゾはあの罪人を我の元に連れてくるや否や、森を破壊する人間の主犯を見つけたと我に伝えた。連れてこられた罪人も、それを潔く認めていた。だから我は、その罰として呪いをかけた。それが汝の言う、植物になる病だ』
「認めたって……そんな……」

 サラ様が、そんな酷いことをするわけがないと言いたかった。

 でも、サラ様は何かを隠していたし、精霊様の言葉が本当なら、症状が出始めた日に、一人で森に来たと言っていたことが、嘘になるし、自分の境遇を受け入れて、諦めているような感じだった……。

 どうしてサラ様は一人で森に来たとか、何もなかったって嘘をついたのだろうか? やっぱり森を破壊しようとしたことを隠すため……?

 ……ダメだ。信じたくないけど、今の私にはサラ様が絶対に無罪だと言える材料がない。むしろ、怪しい部分の方が多い。

「サラ殿が、主犯という証拠は?」
『信頼するグランディーゾ家の当主と、本人が認めているのだ。証拠など不要だ』
「……なるほど。では最後に、もう一つだけお聞きしたいのですが」
『我は森の再生で忙しい。手短に済ませろ』
「ありがとうございます。グランディーゾ家の家長についてですが、彼はなにやら常人には出来ない力を持っていました。精霊様は、なにかご存じありませんか?」
『その力は、我が分け与えたものだ』

 あ、あれは精霊様の力だったのね……驚いたけど、それなら納得できるし、最近ずっと感じていた不思議な気配の正体も説明がつく。

 だって、気配を感じていた時は、エクシノ様の力を見た時や、精霊様が住む森にあるオーリボエに来た時、呪われたサラ様を診た時、そして精霊様を前にした時……どれも何かしらの形で、精霊様が関わっているものばかりでしょう?

『今回の一件で心を痛めたグランディーゾ家の当主が、今後二度とこのようなことが起こらないように、森と民を守る力を欲していた。我としても利用価値があったから、力の一部を奴に与えた』
「あの力は、そうやって手に入れたのか……」
『だが、森の破壊によって、森と共にある我の力も消耗してしまった。更に破壊された森の再生、罪人への罰……多くの力を使い、我の力はだいぶ弱まってしまった。森の再生が終わった後は、しばらくは眠りにつくつもりだ』
「……質問に答えていただき、ありがとうございました。では、我々はこれで失礼します」
「ま、待ってください! どうしても治してくれないのですか!?」
『ならん。もう汝らと話すことは無い』

 吐き捨てるようにそう言うと、精霊様は地面の中に沈んでいってしまった。

 せっかく原因がわかって、精霊様にも私の想いが少しでも伝わったというのに、一番大事な治療については、光明が全く見えない。

 むしろ、病気じゃなくて呪いと知ってしまったことで、私の力ではどうする事も出来ないと痛感させられただけだった。

「オーウェン様、どうして精霊様を一緒に説得してくれなかったんですか!?」
「彼は俺達を信用していないと言っていただろう? あのまま無理に話をしても、余計に話がこじれ、下手したらエリンもサラ殿と同じ道を辿ってしまうと思ったんだ」
「そ、そんなこと……」

 無い、とは言えなかった。力が弱まったと本人は言っていたけど、その気になれば私達を呪うことも、殺すことも簡単だろう。それくらい、精霊というのは特別な存在だ。

 だからといって、サラ様を見捨てることなんて出来ない……私は、どうすればいいの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?

なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」 顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される 大きな傷跡は残るだろう キズモノのとなった私はもう要らないようだ そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった このキズの謎を知ったとき アルベルト王子は永遠に後悔する事となる 永遠の後悔と 永遠の愛が生まれた日の物語

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

処理中です...