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第五十五話 植物の少女
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無事に目的地に到着した私は、オーウェン様の手を借りて、無事に新しい土地に足を踏み下ろした。
——その瞬間、不思議な気配を感じた。この、なにかもやっとしたような感じ……あまり気持ちのいいものではない。
この気配、あの葉っぱと同じような感じがする……。
「どうした、大丈夫か?」
「はい。この前話した気配が、急に」
「そうか。それなら、ここには気配の原因がいるということだな。治療に役立つかもしれないから、一回診てから考えよう」
「そうですね。うわぁ~~~……」
気配をなるべく気にしないようにしながら顔を上げる。するとそこは、木々の間からさんさんとお日様の光が入りる場所で、森の中なのに多くの人が行き来する、綺麗な町並みだった。
特に気になったのは、木の上にいくつも家があることだ。ツリーハウスってやつなのかしら? うわさでは聞いたことがあるけど、まさか生で見れるなんて。
「オーリボエは昔から森の中に町を作り、自然と生きる町として、たくさんの自然と過ごしてきたんですよ! オレもこの自然で遊んで体力がついたおかげで、騎士団に入れたんです!」
「偉大な森ということですね」
「そう、その通りです! っと、熱くなってしまいました。彼女の元に案内します」
冒険をする子供のような表情から打って変わって、真剣な表情になったヨハンさんを先頭に、患者のいる場所へと向かって歩き出す。
その途中で、なぜか道行く人にジロジロと見られたり、ヒソヒソと陰口のようなものが聞こえてきた。
もしかして、この町はよそ者はあまり歓迎されないのかしら? あまり良い気分ではないけど、気にしても仕方がない。
そう思いながら歩いて行くと、到着した場所は、町はずれの小さくてボロボロの小屋だった。
しかも、その小屋の周りだけ異様にゴミや石で汚れていて、小屋の壁は落書きが酷い。死ねとか裏切り者とか、心無い言葉が書きなぐられている。
さっきまでの町並みはとても綺麗だったのに、明らかにこの家だけ異質だ。以前行った教会がある町の方が、似合っているんじゃないかとすら思ってしまう。
「これは酷いな……」
「誰かにいじめられてるの!? そんないじめっ子は、わたしがやっつけてやる!」
「一体ここで何かあったんですか?」
「……色々とあったみたいで。今回の件には関係ないと思うので、そっとしてもらえるとありがたいです」
ヨハンさんにしては珍しく歯切れの悪い言い方をしながら、家の扉をノックすると、中から腰の曲がった老婆が出てきた。
「おや、ヨハンちゃん。また来てくれたのねぇ。そちらの方はお友達かい?」
「リリアーヌばあちゃん、この人達は薬屋アトレの方々さ! パーチェの近くで働いてるんだよ!」
「薬屋……ひょっとして、孫を診てくださるのですか?」
「はい。私はエリンと申します。こちらはオーウェン、この子がココといいます」
「ワシはリリアーヌです。わざわざ孫のために、遠い地からありがとうございます」
リリアーヌと名乗ったお婆様は、何度も何度も私達に頭を下げながら、感謝の言葉を重ねた。
「頭をお上げください。それでリリアーヌ殿、お孫さんはどちらに?」
「こちらです」
リリアーヌ様に家の中に通されると、中は外と違って綺麗にされていた。これを見ると、なおさら外の異質さが気になってしまう。
「孫は隣の部屋で寝ております」
「お会いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
リリアーヌ様から許可を貰って隣の部屋に入ると、ベッドに一人の女性が横たわっていた。その周りには、葉っぱが何枚も散りばめられていた。
「あれ……ヨハン君、また来てくれたのね。嬉しい……」
「お、おいサラ! 寝てないとダメだろう!」
顔だけこちらを向けた彼女は、何とか起き上がろうとしたが、ヨハンさんに制止された。
その顔を見ただけで、異質さがよくわかった。だって……右の頬は樹皮みたいな見た目で、真っ白な髪の一部は枝みたいになり、そこから葉っぱが芽吹いていた。
それと、サラ様から例の気配が強く感じられたもの気になったわ。
「彼女が幼馴染のサラです」
「ヨハン君、この人達はどちらさま?」
「突然の来訪、失礼します。私はエリンと申します。薬屋アトレを営んでいるものです。こちらはオーウェンとココといいます」
「サラ、聞いてくれ! オレの憧れのオーウェン先輩が、今は薬屋をやってるって聞いて、診てもらうようにお願いしたら、来てくれたんだよ! 腕の良い人だから、きっと治してもらえるよ!」
きっと治してもらえる……その言葉を耳にした瞬間、思わず胸の奥が大きく跳ねた。
信じていなかったわけじゃないけど、目の前で体が植物になっている人を見て、本当に治せるのか、不安になってしまったからだ。
って、ダメダメ。弱気になってたら治せるものも治せない。しっかりしないと。
「まずは今の状態を診させてもらいます。ココちゃん、手伝ってもらえる?」
「もちろん!」
「俺も手伝うよ」
「お気持ちは嬉しいのですけど、女性の体を診るので……」
「……俺としたことが、配慮に欠けていた。サラ殿、申し訳ない」
「いえ……」
「俺とヨハンは、隣の部屋で待っている。何かあったら声をかけてくれ」
オーウェン様はそう言い残して、心配そうにサラ様を見つめるヨハンさんと一緒に、静かに部屋を出て行った。
「エリンさん、わざわざアタシのために来てくれて、ありがとうございます」
「お礼を言われるようなことじゃありませんよ。それじゃあ、失礼しますね」
私はココちゃんと力を合わせて、サラ様の洋服を脱がせると、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
サラ様の体の半分は既に植物になってしまい、両足に至っては完全に変わり果てた姿になってしまっていた。
わかっていたこととはいえ、改めて診させてもらうと、その異質さが際立つ。どうすればこんな症状が出るの……?
——その瞬間、不思議な気配を感じた。この、なにかもやっとしたような感じ……あまり気持ちのいいものではない。
この気配、あの葉っぱと同じような感じがする……。
「どうした、大丈夫か?」
「はい。この前話した気配が、急に」
「そうか。それなら、ここには気配の原因がいるということだな。治療に役立つかもしれないから、一回診てから考えよう」
「そうですね。うわぁ~~~……」
気配をなるべく気にしないようにしながら顔を上げる。するとそこは、木々の間からさんさんとお日様の光が入りる場所で、森の中なのに多くの人が行き来する、綺麗な町並みだった。
特に気になったのは、木の上にいくつも家があることだ。ツリーハウスってやつなのかしら? うわさでは聞いたことがあるけど、まさか生で見れるなんて。
「オーリボエは昔から森の中に町を作り、自然と生きる町として、たくさんの自然と過ごしてきたんですよ! オレもこの自然で遊んで体力がついたおかげで、騎士団に入れたんです!」
「偉大な森ということですね」
「そう、その通りです! っと、熱くなってしまいました。彼女の元に案内します」
冒険をする子供のような表情から打って変わって、真剣な表情になったヨハンさんを先頭に、患者のいる場所へと向かって歩き出す。
その途中で、なぜか道行く人にジロジロと見られたり、ヒソヒソと陰口のようなものが聞こえてきた。
もしかして、この町はよそ者はあまり歓迎されないのかしら? あまり良い気分ではないけど、気にしても仕方がない。
そう思いながら歩いて行くと、到着した場所は、町はずれの小さくてボロボロの小屋だった。
しかも、その小屋の周りだけ異様にゴミや石で汚れていて、小屋の壁は落書きが酷い。死ねとか裏切り者とか、心無い言葉が書きなぐられている。
さっきまでの町並みはとても綺麗だったのに、明らかにこの家だけ異質だ。以前行った教会がある町の方が、似合っているんじゃないかとすら思ってしまう。
「これは酷いな……」
「誰かにいじめられてるの!? そんないじめっ子は、わたしがやっつけてやる!」
「一体ここで何かあったんですか?」
「……色々とあったみたいで。今回の件には関係ないと思うので、そっとしてもらえるとありがたいです」
ヨハンさんにしては珍しく歯切れの悪い言い方をしながら、家の扉をノックすると、中から腰の曲がった老婆が出てきた。
「おや、ヨハンちゃん。また来てくれたのねぇ。そちらの方はお友達かい?」
「リリアーヌばあちゃん、この人達は薬屋アトレの方々さ! パーチェの近くで働いてるんだよ!」
「薬屋……ひょっとして、孫を診てくださるのですか?」
「はい。私はエリンと申します。こちらはオーウェン、この子がココといいます」
「ワシはリリアーヌです。わざわざ孫のために、遠い地からありがとうございます」
リリアーヌと名乗ったお婆様は、何度も何度も私達に頭を下げながら、感謝の言葉を重ねた。
「頭をお上げください。それでリリアーヌ殿、お孫さんはどちらに?」
「こちらです」
リリアーヌ様に家の中に通されると、中は外と違って綺麗にされていた。これを見ると、なおさら外の異質さが気になってしまう。
「孫は隣の部屋で寝ております」
「お会いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
リリアーヌ様から許可を貰って隣の部屋に入ると、ベッドに一人の女性が横たわっていた。その周りには、葉っぱが何枚も散りばめられていた。
「あれ……ヨハン君、また来てくれたのね。嬉しい……」
「お、おいサラ! 寝てないとダメだろう!」
顔だけこちらを向けた彼女は、何とか起き上がろうとしたが、ヨハンさんに制止された。
その顔を見ただけで、異質さがよくわかった。だって……右の頬は樹皮みたいな見た目で、真っ白な髪の一部は枝みたいになり、そこから葉っぱが芽吹いていた。
それと、サラ様から例の気配が強く感じられたもの気になったわ。
「彼女が幼馴染のサラです」
「ヨハン君、この人達はどちらさま?」
「突然の来訪、失礼します。私はエリンと申します。薬屋アトレを営んでいるものです。こちらはオーウェンとココといいます」
「サラ、聞いてくれ! オレの憧れのオーウェン先輩が、今は薬屋をやってるって聞いて、診てもらうようにお願いしたら、来てくれたんだよ! 腕の良い人だから、きっと治してもらえるよ!」
きっと治してもらえる……その言葉を耳にした瞬間、思わず胸の奥が大きく跳ねた。
信じていなかったわけじゃないけど、目の前で体が植物になっている人を見て、本当に治せるのか、不安になってしまったからだ。
って、ダメダメ。弱気になってたら治せるものも治せない。しっかりしないと。
「まずは今の状態を診させてもらいます。ココちゃん、手伝ってもらえる?」
「もちろん!」
「俺も手伝うよ」
「お気持ちは嬉しいのですけど、女性の体を診るので……」
「……俺としたことが、配慮に欠けていた。サラ殿、申し訳ない」
「いえ……」
「俺とヨハンは、隣の部屋で待っている。何かあったら声をかけてくれ」
オーウェン様はそう言い残して、心配そうにサラ様を見つめるヨハンさんと一緒に、静かに部屋を出て行った。
「エリンさん、わざわざアタシのために来てくれて、ありがとうございます」
「お礼を言われるようなことじゃありませんよ。それじゃあ、失礼しますね」
私はココちゃんと力を合わせて、サラ様の洋服を脱がせると、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
サラ様の体の半分は既に植物になってしまい、両足に至っては完全に変わり果てた姿になってしまっていた。
わかっていたこととはいえ、改めて診させてもらうと、その異質さが際立つ。どうすればこんな症状が出るの……?
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