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第五十一話 元気な後輩騎士
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どうして騎士団の後輩がここに来たのだろう? この方も、エクシノ様みたいにオーウェン様をバカにしに来たとか?
この方の雰囲気からして、そういう陰湿なことをやるようには見えないけど……人間は見た目だけでは判断できない。
「本当に久しぶりだな。また会えて本当に嬉しいよ」
「オレも嬉しいです! あっ、オレはクロルーツェ騎士団所属、ヨハンと申します! すみません、さっきのお話が聞こえてきちゃってまして……ごほんっ、オーウェン先輩、おめでとうございます!」
ヨハン様は、ビシッと敬礼を決めながら、祝福の言葉を伝え始めた。
「お嬢さん、オーウェン先輩は訓練の時は厳しいですが、それ以外のところはとてもやさしく、情に厚く、料理も出来てこのルックス! 最高の男なんですよ! オレが保証します! だから、末永く仲良くしてあげてください!」
「は、はい」
……あ、あれ……? なんだかもの凄く祝福されてる? それに、オーウェン様のことを慕っているような言葉まで……。
オーウェン様も、会えて嬉しそうな反応をしていたし……悪い人じゃないのだろうか?
「えっと、申し遅れました。私はエリン。薬屋アトレの責任者で、薬師を務めております」
「私はココだよ! よろしくね!」
「エリンさん、よろしくお願いします! いやーそれにしても、ココちゃんは大きくなったねぇ!」
「わたしのこと、知ってるの?」
「実は、まだ小っちゃい頃に会ってるよ! さすがに覚えてないか~!」
確か、以前聞いたオーウェン様のお話では、事件があったのはオーウェン様が十五歳、ココちゃんが二歳の時だったはずだから、覚えてないのも無理はないわね。
「立ち話もなんですので、中にどうぞ」
「ややっ、これはこれは、ご丁寧にありがとうございます!」
空は既に真っ暗で、夜風もだいぶ冷たくなってきた外で話を聞くのは、さすがに申し訳ない。それに、どうやら本当に悪い人じゃなさそうだから、素直に家の中に案内した。
「よければ、こちらをどうぞ。お仕事をしていたということなので、疲労回復がある薬茶です」
「おぉ、なにからなにまでありがたい! よろこんでいただきます!」
私は、家にストックしてあった薬草を煎じてお茶にすると、ヨハン様に手渡した。すると、ヨハン様はまるで子供ように大喜びしながら、お茶に口を付けた。
ここまで喜んでもらえると、出した甲斐があったというものだわ。
「ヨハン、すまないが俺はすぐに夕飯の支度をしなければならなくてな。料理しながら話を聞いていても構わないか?」
「全然大丈夫ですよ! あ、手伝いしましょうか!?」
「ありがとう。だが、客人にそんなことはさせられない。気持ちだけ受け取っておくよ」
ヨハン様の申し出をやんわりと断ったオーウェン様は、先程買ってきた食材を使って、ビーフシチューを作り出した。
その手慣れた手さばきは、何度見ても本当に惚れ惚れする。お付き合いを始めたからなのか、いつも以上に惚れ惚れしてしまっている気がする。
「いや~! 今まで僻地の駐在所に勤務していて、オーウェン先輩に会いに来れなくて……手紙を出そうにも、屋敷も無くなっていてどこに行ったのかもわからず、完全に疎遠になってしまっていたんですけど、最近こっちに異動になったんですよ! それで戻ってきたら、こっちの騎士団の仲間から、最近オーウェン先輩がとある事件の参考人として、騎士団に来ていた話を聞いて、居ても立っても居られなくなっちゃって!」
「は、はぁ……」
「それで、仕事終わりに来てみたら、まさか本当にいるなんて! しかも、こんなに可愛い彼女さんもいるとは! あ、お茶おいしいです!」
「それはなにより……」
……この人、ずっと元気に喋っているけど、疲れたりしないのだろうか? 私が真似したら、五分で力尽きそう。
「それで、オーウェン先輩とはどこまでいきました? キスとかしました?」
「きっ……!?」
「エリンお姉ちゃん、もうそこまでやっちゃったの!? きゃー!」
き、ききき、キスって……!? た、確かに一応告白をされた時にしてもらったけど……ダメだ、思い出したら体中が熱くなるし、顔がにやけちゃう!
「その反応……もしかして、それより先もしていたり!? かーっ、羨ましいですよ! 後学のために、どんな感じだったのか教えてもらえませんか!?」
「おい、あまりエリンを困らせるな」
「いっでぇ!?」
すたすたと私達のいるテーブルのところに戻ってきたオーウェン様のデコピンがヨハン様の後頭部に直撃した。
結構いい音がしたけど、大丈夫かしら……?
「オーウェン先輩のデコピンは、相変わらず痛いのなんの!」
「オーウェン様と、仲良しなんですね」
「ええ、それはもう! 異動が無ければ、もっと早く会いに来れたんですけどね。ここだけの話、騎士団の連中は、ヴァリア家のことを悪く言ってますけど、オレは全然そんなことないんで! むしろ、国と民のために最善を尽くそうとしたヴァリア家の方々を、尊敬してるくらいなんですよ!」
……もしかして、オーウェン様が以前仰っていた、唯一の味方ってこの人のことなのかしら? うん、きっとそうだ!
どんな人なのかちょっと気になっていたんだけど、本当にオーウェン様を慕ってくれる人で、安心したわ。
「っと……熱くなりすぎちゃいました! 失敬失敬!」
「いえいえ。それでヨハン様、今日は一体どんなご用件で?」
「ヨハン様ぁ!? オレはそんなかしこまった呼ばれ方される器じゃないんで、もっと適当な呼び方でいいですよ!」
「そういうわけには……」
「オレは平民の出身なんで、そんな呼ばれ方をされたら変な感じなんですよ~! お願いしますよ~!」
「で、では……ヨハンさん。改めてお聞きしますが、どのようなご用件で?」
もう一度ヨハンさんに用件を聞くと、ふぅ……と小さく溜息を漏らしてから、口を開いた。
「オーウェン先輩に会いたかったってのもあるんですけど……実は、アトレに仕事の依頼をしたくて」
「依頼? どんなものでしょう?」
「俺の幼馴染が病気になってしまって。しかもその症状が……体が植物になってしまうというものなんです」
この方の雰囲気からして、そういう陰湿なことをやるようには見えないけど……人間は見た目だけでは判断できない。
「本当に久しぶりだな。また会えて本当に嬉しいよ」
「オレも嬉しいです! あっ、オレはクロルーツェ騎士団所属、ヨハンと申します! すみません、さっきのお話が聞こえてきちゃってまして……ごほんっ、オーウェン先輩、おめでとうございます!」
ヨハン様は、ビシッと敬礼を決めながら、祝福の言葉を伝え始めた。
「お嬢さん、オーウェン先輩は訓練の時は厳しいですが、それ以外のところはとてもやさしく、情に厚く、料理も出来てこのルックス! 最高の男なんですよ! オレが保証します! だから、末永く仲良くしてあげてください!」
「は、はい」
……あ、あれ……? なんだかもの凄く祝福されてる? それに、オーウェン様のことを慕っているような言葉まで……。
オーウェン様も、会えて嬉しそうな反応をしていたし……悪い人じゃないのだろうか?
「えっと、申し遅れました。私はエリン。薬屋アトレの責任者で、薬師を務めております」
「私はココだよ! よろしくね!」
「エリンさん、よろしくお願いします! いやーそれにしても、ココちゃんは大きくなったねぇ!」
「わたしのこと、知ってるの?」
「実は、まだ小っちゃい頃に会ってるよ! さすがに覚えてないか~!」
確か、以前聞いたオーウェン様のお話では、事件があったのはオーウェン様が十五歳、ココちゃんが二歳の時だったはずだから、覚えてないのも無理はないわね。
「立ち話もなんですので、中にどうぞ」
「ややっ、これはこれは、ご丁寧にありがとうございます!」
空は既に真っ暗で、夜風もだいぶ冷たくなってきた外で話を聞くのは、さすがに申し訳ない。それに、どうやら本当に悪い人じゃなさそうだから、素直に家の中に案内した。
「よければ、こちらをどうぞ。お仕事をしていたということなので、疲労回復がある薬茶です」
「おぉ、なにからなにまでありがたい! よろこんでいただきます!」
私は、家にストックしてあった薬草を煎じてお茶にすると、ヨハン様に手渡した。すると、ヨハン様はまるで子供ように大喜びしながら、お茶に口を付けた。
ここまで喜んでもらえると、出した甲斐があったというものだわ。
「ヨハン、すまないが俺はすぐに夕飯の支度をしなければならなくてな。料理しながら話を聞いていても構わないか?」
「全然大丈夫ですよ! あ、手伝いしましょうか!?」
「ありがとう。だが、客人にそんなことはさせられない。気持ちだけ受け取っておくよ」
ヨハン様の申し出をやんわりと断ったオーウェン様は、先程買ってきた食材を使って、ビーフシチューを作り出した。
その手慣れた手さばきは、何度見ても本当に惚れ惚れする。お付き合いを始めたからなのか、いつも以上に惚れ惚れしてしまっている気がする。
「いや~! 今まで僻地の駐在所に勤務していて、オーウェン先輩に会いに来れなくて……手紙を出そうにも、屋敷も無くなっていてどこに行ったのかもわからず、完全に疎遠になってしまっていたんですけど、最近こっちに異動になったんですよ! それで戻ってきたら、こっちの騎士団の仲間から、最近オーウェン先輩がとある事件の参考人として、騎士団に来ていた話を聞いて、居ても立っても居られなくなっちゃって!」
「は、はぁ……」
「それで、仕事終わりに来てみたら、まさか本当にいるなんて! しかも、こんなに可愛い彼女さんもいるとは! あ、お茶おいしいです!」
「それはなにより……」
……この人、ずっと元気に喋っているけど、疲れたりしないのだろうか? 私が真似したら、五分で力尽きそう。
「それで、オーウェン先輩とはどこまでいきました? キスとかしました?」
「きっ……!?」
「エリンお姉ちゃん、もうそこまでやっちゃったの!? きゃー!」
き、ききき、キスって……!? た、確かに一応告白をされた時にしてもらったけど……ダメだ、思い出したら体中が熱くなるし、顔がにやけちゃう!
「その反応……もしかして、それより先もしていたり!? かーっ、羨ましいですよ! 後学のために、どんな感じだったのか教えてもらえませんか!?」
「おい、あまりエリンを困らせるな」
「いっでぇ!?」
すたすたと私達のいるテーブルのところに戻ってきたオーウェン様のデコピンがヨハン様の後頭部に直撃した。
結構いい音がしたけど、大丈夫かしら……?
「オーウェン先輩のデコピンは、相変わらず痛いのなんの!」
「オーウェン様と、仲良しなんですね」
「ええ、それはもう! 異動が無ければ、もっと早く会いに来れたんですけどね。ここだけの話、騎士団の連中は、ヴァリア家のことを悪く言ってますけど、オレは全然そんなことないんで! むしろ、国と民のために最善を尽くそうとしたヴァリア家の方々を、尊敬してるくらいなんですよ!」
……もしかして、オーウェン様が以前仰っていた、唯一の味方ってこの人のことなのかしら? うん、きっとそうだ!
どんな人なのかちょっと気になっていたんだけど、本当にオーウェン様を慕ってくれる人で、安心したわ。
「っと……熱くなりすぎちゃいました! 失敬失敬!」
「いえいえ。それでヨハン様、今日は一体どんなご用件で?」
「ヨハン様ぁ!? オレはそんなかしこまった呼ばれ方される器じゃないんで、もっと適当な呼び方でいいですよ!」
「そういうわけには……」
「オレは平民の出身なんで、そんな呼ばれ方をされたら変な感じなんですよ~! お願いしますよ~!」
「で、では……ヨハンさん。改めてお聞きしますが、どのようなご用件で?」
もう一度ヨハンさんに用件を聞くと、ふぅ……と小さく溜息を漏らしてから、口を開いた。
「オーウェン先輩に会いたかったってのもあるんですけど……実は、アトレに仕事の依頼をしたくて」
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