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第四十話 起死回生の一手
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■オーウェン視点■
無事にエリンに後を追わせることに成功した俺は、無駄に数が多い敵の兵に囲まれていた。
とはいっても、その兵達は既に意識を失ってその場に倒れているがな。
「……そんな木製のおもちゃの剣で、俺の部下を全員倒すなんてな」
「道具は使い方しだいということだ」
連中のボスであろう男は、面倒くさそうに溜息を吐くその姿は、見ているだけで無性に神経を逆撫でしてくる。
「数だけ揃えて強い気になっている、貴様らのような犯罪組織には、一生かけてもわからないだろうがな」
「犯罪組織だと? なんのことやら」
「とぼけるな。貴様らの首にあるその模様、あの犯罪組織……クライムのシンボルマークだろう?」
「…………」
クライム――それは以前エリンに話した、国を大混乱に陥れた、犯罪組織の名だ。
奴らはおとぎ話に出てくる獅子をモチーフにした模様を、自分達のシンボルマークにしていて、それを首に刻み込んでいた。それを覚えていたということだ。
……いや、覚えていたというのは少々語弊がある。忘れたくても、まるで呪いの様に記憶に刻み込まれていて、忘れられないんだ。
「さすがはヴァリア家の生き残りと言っておこう」
「……そちらも気づいていたか」
「当然だ。その人間離れの剣術に、家紋が刻まれたこの剣を見れば、バカでもわかる」
男は、腰のベルトに収められた俺の剣を手に取ると、ニヤニヤと笑いながら、ぺろりと平地を舐めた。
明らかに、俺を挑発している行為なのはわかっている。わかっているが……今は亡き父と母の形見に汚らわしいことをしている奴の姿は、あまりにも許しがたいものだ。
「そういえば、自己紹介をしていなかったな。俺の名はマルヴィス。かつてはクライムの幹部として働いていた人間だ。今は各地に散った仲間を集め、新生したクライムで活動をしている」
幹部……そうだ、確か逃したクライムの人間の中に、幹部が一人いたという話を聞いたことがある。
俺はまだ当時は騎士団に入りたてで、幹部の顔は知らなかったから、すぐに奴が幹部と気づくことが出来なかった。
あれからも逃げのびていたどころか、性懲りもなく悪さをしていたのには驚いたが、国が大々的にクライムの根絶やしに動いていないところをみるに、以前のような大規模な活動は、まだしていないと予測できる。
だが、放置することは出来ない。既に犠牲となった教会の子供達のために、そしてこれからの子供達……いや、クロルーツェの民のために、ここで奴を止める!
「俺の名はオーウェン・ヴァリア。今は亡き父と母の遺志を継ぎ、貴様らクライムをここで根絶やしにさせてもらう!」
「威勢がいいな。それにその目……懐かしい。母親によく似ている」
「貴様、母を知っているのか?」
「そりゃあ、俺は元幹部だからな。人質となったあの女とは面識があるぜ」
俺の質問に答えたマルヴィスは、不敵な笑みを浮かべながら、俺の剣を鞘から抜いた。
「最初から最後まで、あの女は俺達に反抗的な態度を取ってきてよ。ムカついてボロ雑巾の様に痛めつけたんだが、態度は変わらなかった。殺される寸前になっても、一言も助けを乞うことはしなかった……まったく忌々しい女だった」
「……貴様、今なんと言った? 俺の耳がおかしくなっていなければ……母を痛めつけたと言ったのか?」
「ああ、言ったぜ? 俺以外の奴らも、鬱憤を晴らすように痛めつけてたぜ。まあ、大体は俺がやったがな。生意気な奴だったが、痛めつけた時はすっきりしたぜ」
「貴様……!!」
怒りが頂点に達した俺は、手に持った剣を振りかぶった状態で、マルヴィスに真っ直ぐ走りだした。
絶対に許さない。必ず俺の手でこいつを倒す。こんなおもちゃの剣でも、首や腹部に当てれば、周りの奴らと同じ様に、意識を刈り取ることは出来る!
「おーおー、怖い怖い」
「っ……!?」
剣がマルヴィスの首を捉えようとした瞬間、奴は近くに倒れていた部下を無理やり立たせて自分の前に持っていくことで、俺の攻撃を防ぐ盾にしようとした。
それにいち早く気づけたおかげで、なんとか攻撃を止めることは出来た。
「貴様、味方を盾に……!?」
「味方? こいつらはお前に負けた時点で、既に俺の味方じゃない。味方と言うのは、俺の命令に忠実に従う道具のことさ!」
マルヴィスはゲラゲラと高笑いをしながら、立たせた部下を俺に向かって押し出してきた。
こいつ、味方を何だと思っているんだ!? 盾にするのも想定外だったが、まさか俺に押し付けて体勢を崩してくるなんて!? なんとか部下を受け止めることには成功したが、体勢を大きく崩してしまった!
「はっ、そうやって変な所で騎士様の顔を見せるから、お前らヴァリア家は負けるんだよ!」
マルヴィスは俺の剣を振り上げると、躊躇なくその剣を振り下ろしてきた。
こいつ、味方ごと俺を斬るつもりなのか!?
「ぐっ……うおぉぉぉぉ!!」
俺は雄たけびを上げながら、押し付けられた男を抱えて横に飛んだ。その咄嗟の行動のおかげで、奴の剣は虚しく空を切るだけに終わった。
「良い反射神経だな。さすがは国を守った名門、ヴァリス家の血は偉大だぜ」
「黙れ! それ以上の侮辱は、俺が許さない!!」
「おかしいな、俺は褒めたつもりなのだが?」
どこまでも俺のことをバカにするマルヴィスは、力任せに剣を何度も振り、俺に攻撃してきた。
剣筋はあまり良いものとは言えないが、その力強さは本物だった。一発受け流しただけで、剣を握る両手がしびれる。しかも、たった一発で俺の剣に大きな割れ目が入ってしまった。
使い手の腕が悪くても、十分すぎる威力を出してしまう剣……さすがは両親が残してくれた剣だ。まさか、それが俺の敵になるとは思ってもなかったがな……。
どうする? あと一発でも剣を受け止めれば、この剣は粉々に破壊されるだろう。素手で戦うという手もあるが……俺は武術に関してはあまり得意ではないから、現実的な手ではない。
あとは、周りで倒れている連中から、武器を拝借する手もあるが……連中の使っている武器が、大剣やナイフ、弓が大多数を占めていて、俺が使えそうな長剣がないから、この手も厳しいだろう。
……考えろ! 今俺に出来る全てを……何かこの状況を打破できる手を……そうだ!
「…………」
「どうした、随分と元気がなくなったな。命乞いでも考えているのか? 俺に忠誠を誓いながら、靴を舐めるのなら許してやらないこともないぞ?」
「ふん、誰がそんなことをするか」
「そうかよ。ならさっさと死ぬがいい!」
マルヴィスに、ジリジリと間合いを詰められていく。このままでは、剣の間合いに入って……斬られる。
それを防ぐために、俺は後退しながら、足元に転がっていた石をいくつも拾って、マルヴィスに投げつけた。
「はっ、いまさらそんな石ころで何が出来る!」
「黙れ! くそっ、来るな!」
「くっ……くくっ……あはははは! 元気がなくなったと思ったら、今度は弱腰か!? ヴァリア家の名前が泣いてるぜ!?」
ただの石を投げたところで、有効打になんてなるはずもない。現にマルヴィスは、余裕綽々と言わんばかりに高笑いをしている。
「くそっ……! ならこれはどうだ!」
「む……?」
石の次は、俺が使っていた木の剣を投げつけた。さすがに獲物を投げるとは思ってなかったようで、一瞬驚いてはいたものの、手に持っていた剣で簡単に防がれてしまった。
「随分と思い切った行動をするな。だが、そんな投げやりな行動をとった時点で、お前の負けだ!」
勝ち誇ったように口角を上げるマルヴィスに、俺は鞄から小さな袋を取り出し、先程と同じ様にマルヴィスに投げつけ――ることはせず、地面に思い切り叩きつけた。
「ついに俺に投げる冷静さも無くなったのか! お前にはガッカリ……うおっ!?」
袋を地面に叩きつけてから間もなく、辺りは眩い閃光に包まれた。
今投げつけたのは、エリンから貰った目くらましの薬だ。これで隙を作って剣を奪う作戦――だったのだが、マルヴィスは固く目を瞑っていた。
「愚かな男め。さきほどの女を逃がすために、目くらましを使ったお前なら、また使うのは予測できた!」
勝ち誇ったように笑っているところに悪いが……勝負は決した。もちろん、俺の勝ちでな。
無事にエリンに後を追わせることに成功した俺は、無駄に数が多い敵の兵に囲まれていた。
とはいっても、その兵達は既に意識を失ってその場に倒れているがな。
「……そんな木製のおもちゃの剣で、俺の部下を全員倒すなんてな」
「道具は使い方しだいということだ」
連中のボスであろう男は、面倒くさそうに溜息を吐くその姿は、見ているだけで無性に神経を逆撫でしてくる。
「数だけ揃えて強い気になっている、貴様らのような犯罪組織には、一生かけてもわからないだろうがな」
「犯罪組織だと? なんのことやら」
「とぼけるな。貴様らの首にあるその模様、あの犯罪組織……クライムのシンボルマークだろう?」
「…………」
クライム――それは以前エリンに話した、国を大混乱に陥れた、犯罪組織の名だ。
奴らはおとぎ話に出てくる獅子をモチーフにした模様を、自分達のシンボルマークにしていて、それを首に刻み込んでいた。それを覚えていたということだ。
……いや、覚えていたというのは少々語弊がある。忘れたくても、まるで呪いの様に記憶に刻み込まれていて、忘れられないんだ。
「さすがはヴァリア家の生き残りと言っておこう」
「……そちらも気づいていたか」
「当然だ。その人間離れの剣術に、家紋が刻まれたこの剣を見れば、バカでもわかる」
男は、腰のベルトに収められた俺の剣を手に取ると、ニヤニヤと笑いながら、ぺろりと平地を舐めた。
明らかに、俺を挑発している行為なのはわかっている。わかっているが……今は亡き父と母の形見に汚らわしいことをしている奴の姿は、あまりにも許しがたいものだ。
「そういえば、自己紹介をしていなかったな。俺の名はマルヴィス。かつてはクライムの幹部として働いていた人間だ。今は各地に散った仲間を集め、新生したクライムで活動をしている」
幹部……そうだ、確か逃したクライムの人間の中に、幹部が一人いたという話を聞いたことがある。
俺はまだ当時は騎士団に入りたてで、幹部の顔は知らなかったから、すぐに奴が幹部と気づくことが出来なかった。
あれからも逃げのびていたどころか、性懲りもなく悪さをしていたのには驚いたが、国が大々的にクライムの根絶やしに動いていないところをみるに、以前のような大規模な活動は、まだしていないと予測できる。
だが、放置することは出来ない。既に犠牲となった教会の子供達のために、そしてこれからの子供達……いや、クロルーツェの民のために、ここで奴を止める!
「俺の名はオーウェン・ヴァリア。今は亡き父と母の遺志を継ぎ、貴様らクライムをここで根絶やしにさせてもらう!」
「威勢がいいな。それにその目……懐かしい。母親によく似ている」
「貴様、母を知っているのか?」
「そりゃあ、俺は元幹部だからな。人質となったあの女とは面識があるぜ」
俺の質問に答えたマルヴィスは、不敵な笑みを浮かべながら、俺の剣を鞘から抜いた。
「最初から最後まで、あの女は俺達に反抗的な態度を取ってきてよ。ムカついてボロ雑巾の様に痛めつけたんだが、態度は変わらなかった。殺される寸前になっても、一言も助けを乞うことはしなかった……まったく忌々しい女だった」
「……貴様、今なんと言った? 俺の耳がおかしくなっていなければ……母を痛めつけたと言ったのか?」
「ああ、言ったぜ? 俺以外の奴らも、鬱憤を晴らすように痛めつけてたぜ。まあ、大体は俺がやったがな。生意気な奴だったが、痛めつけた時はすっきりしたぜ」
「貴様……!!」
怒りが頂点に達した俺は、手に持った剣を振りかぶった状態で、マルヴィスに真っ直ぐ走りだした。
絶対に許さない。必ず俺の手でこいつを倒す。こんなおもちゃの剣でも、首や腹部に当てれば、周りの奴らと同じ様に、意識を刈り取ることは出来る!
「おーおー、怖い怖い」
「っ……!?」
剣がマルヴィスの首を捉えようとした瞬間、奴は近くに倒れていた部下を無理やり立たせて自分の前に持っていくことで、俺の攻撃を防ぐ盾にしようとした。
それにいち早く気づけたおかげで、なんとか攻撃を止めることは出来た。
「貴様、味方を盾に……!?」
「味方? こいつらはお前に負けた時点で、既に俺の味方じゃない。味方と言うのは、俺の命令に忠実に従う道具のことさ!」
マルヴィスはゲラゲラと高笑いをしながら、立たせた部下を俺に向かって押し出してきた。
こいつ、味方を何だと思っているんだ!? 盾にするのも想定外だったが、まさか俺に押し付けて体勢を崩してくるなんて!? なんとか部下を受け止めることには成功したが、体勢を大きく崩してしまった!
「はっ、そうやって変な所で騎士様の顔を見せるから、お前らヴァリア家は負けるんだよ!」
マルヴィスは俺の剣を振り上げると、躊躇なくその剣を振り下ろしてきた。
こいつ、味方ごと俺を斬るつもりなのか!?
「ぐっ……うおぉぉぉぉ!!」
俺は雄たけびを上げながら、押し付けられた男を抱えて横に飛んだ。その咄嗟の行動のおかげで、奴の剣は虚しく空を切るだけに終わった。
「良い反射神経だな。さすがは国を守った名門、ヴァリス家の血は偉大だぜ」
「黙れ! それ以上の侮辱は、俺が許さない!!」
「おかしいな、俺は褒めたつもりなのだが?」
どこまでも俺のことをバカにするマルヴィスは、力任せに剣を何度も振り、俺に攻撃してきた。
剣筋はあまり良いものとは言えないが、その力強さは本物だった。一発受け流しただけで、剣を握る両手がしびれる。しかも、たった一発で俺の剣に大きな割れ目が入ってしまった。
使い手の腕が悪くても、十分すぎる威力を出してしまう剣……さすがは両親が残してくれた剣だ。まさか、それが俺の敵になるとは思ってもなかったがな……。
どうする? あと一発でも剣を受け止めれば、この剣は粉々に破壊されるだろう。素手で戦うという手もあるが……俺は武術に関してはあまり得意ではないから、現実的な手ではない。
あとは、周りで倒れている連中から、武器を拝借する手もあるが……連中の使っている武器が、大剣やナイフ、弓が大多数を占めていて、俺が使えそうな長剣がないから、この手も厳しいだろう。
……考えろ! 今俺に出来る全てを……何かこの状況を打破できる手を……そうだ!
「…………」
「どうした、随分と元気がなくなったな。命乞いでも考えているのか? 俺に忠誠を誓いながら、靴を舐めるのなら許してやらないこともないぞ?」
「ふん、誰がそんなことをするか」
「そうかよ。ならさっさと死ぬがいい!」
マルヴィスに、ジリジリと間合いを詰められていく。このままでは、剣の間合いに入って……斬られる。
それを防ぐために、俺は後退しながら、足元に転がっていた石をいくつも拾って、マルヴィスに投げつけた。
「はっ、いまさらそんな石ころで何が出来る!」
「黙れ! くそっ、来るな!」
「くっ……くくっ……あはははは! 元気がなくなったと思ったら、今度は弱腰か!? ヴァリア家の名前が泣いてるぜ!?」
ただの石を投げたところで、有効打になんてなるはずもない。現にマルヴィスは、余裕綽々と言わんばかりに高笑いをしている。
「くそっ……! ならこれはどうだ!」
「む……?」
石の次は、俺が使っていた木の剣を投げつけた。さすがに獲物を投げるとは思ってなかったようで、一瞬驚いてはいたものの、手に持っていた剣で簡単に防がれてしまった。
「随分と思い切った行動をするな。だが、そんな投げやりな行動をとった時点で、お前の負けだ!」
勝ち誇ったように口角を上げるマルヴィスに、俺は鞄から小さな袋を取り出し、先程と同じ様にマルヴィスに投げつけ――ることはせず、地面に思い切り叩きつけた。
「ついに俺に投げる冷静さも無くなったのか! お前にはガッカリ……うおっ!?」
袋を地面に叩きつけてから間もなく、辺りは眩い閃光に包まれた。
今投げつけたのは、エリンから貰った目くらましの薬だ。これで隙を作って剣を奪う作戦――だったのだが、マルヴィスは固く目を瞑っていた。
「愚かな男め。さきほどの女を逃がすために、目くらましを使ったお前なら、また使うのは予測できた!」
勝ち誇ったように笑っているところに悪いが……勝負は決した。もちろん、俺の勝ちでな。
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