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第三十六話 悪党を追え!

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 ま、マズい……きっと玄関を壊した時の音が聞こえて、様子を見に来たのね。

 別に私達が悪いことをしているわけではないんだけど、事情を知らないアンヌ様が私達を止めたり、大声でセシリア様を呼んだりしたら……!?

「夜分遅くに、大きな音を立てて申し訳ない。だが、緊急を要することが起きておりまして」
「緊急って、どうしたんですか? それに、小屋は誰も入れてはいけないってシスターが……」
「オーウェン様、どうしましょう……話すべきでしょうか?」
「話すより前に、中の確認をしよう。きっとその方が、話がスムーズに進むはずだ」
「あっ……!」

 オーウェン様の言葉に頷いた私は、オーウェン様と一緒に小屋の中に入る。

 そこにあったのは……貴族の部屋なんじゃないかと思うくらい、高級な家具にベッドが置かれていた。

「なるほどな。それならこの辺りには……」

 オーウェンがクローゼットを開けると、綺麗な服がいくつも入っていた。それどころか、机には大量の化粧品と宝石がしまわれていた。

 ……そういうことね。セシリア様は、国からの支援金を正しく使わないどころか、身寄りのない子供を売って更にお金儲けをして、自分の欲を満たしていたのね。

 なんて最低な人……! 子供達には何の罪もないのに、こんな欲求を満たすためだけに犠牲にするなんて! カーティス様も最低だと思ってたけど、セシリア様も最低だわ!

「な、なにこれ……どうしてこんな高そうなものが、この小屋にいっぱいあるんですか!?」
「アンヌ殿、落ち付いて聞いてほしい。今から話すことは、俺達がこの耳で聞いた事実です」

 困惑するアンヌ様を落ち着かせてから、オーウェン様が先程聞いた内容をアンヌ様に伝える。その話を聞いていたアンヌ様は、小刻みに震えていた。

 動揺するのも無理はない……優しいと思っていた人が、裏では酷いことをしていたと知ってしまえば、誰だって動揺する。私だってそうだったもの。

「し、信じられない……ですが、あなた達が嘘をついているとも思えないです……」
「アンヌ様。私達はセシリア様を追って、ルーク君と剣を取り返しに行きます。そして、セシリア様から全てを聞くつもりです」
「そんな、危険じゃありませんか? 支援金を持ってきたのは、兵士だって言ってましたよね?」
「それについては問題ありません。俺はこれでも、剣術を少々嗜んでますから」

 少々って、もはや謙遜を超えた別のものに聞こえてくる。だって、それくらいオーウェン様の剣の腕は凄いんだから!

 ……って、今はその剣が無いじゃない! ど、どうしよう!

「オーウェン様、剣を取られちゃった状態で、どうやって戦うんですか!?」
「……言われてみれば、確かにそうだ。俺としたことが、少々先を急ぎすぎてしまったようだ」

 えぇぇぇ!? ま、まさかのノープラン!? 全然オーウェン様らしくないじゃないの!

 こ、こういう時は私の薬で……でも薬で剣の代わりになる物なんて作れないし、そもそも材料が手元に何も無い! どどど、どうすれば!?

「あの……剣ならあります」
「本当ですか? 申し訳ないが、少し貸してもらえませんか?」
「それは構いませんけど、多分役には立たないかと……」

 そう言いながらも、アンヌ様は走ってその場から離れると、一分もしないうちに帰ってきた。

 その手には、確かに剣が握られていたわ。剣といっても……木で作られたオモチャの剣だったけど。

「ご、ごめんなさい。こんなの役に立たないですよね! でも、うちは剣なんて持ってないし、教会にも無くて……」
「いや、とても助かります。ただ、壊してしまうかもしれません。その時は、弁償させてもらいます」
「べ、弁償だなんてしなくていいですから!」
「オーウェン様、これで大丈夫なんですか?」
「ああ。物は使い方次第でいかようにもなる。父の様に剣術を極めれば、剣が無くても勝てるようになれるんだよ」

 それはもはや、凄いを通り越して、怖い領域に達していると思う……ていうか、剣が無くても勝てるなら、それって騎士っていうのかしら……? 私が知らないだけで、拳で戦う騎士もいるとか?

「ただ、俺達がいない間に何かあるかもしれません。なので、アンナ殿は子供達と共に、ココの元にいてくれませんか? ココには、なにかあった時に俺達に知らせられる道具を持たせているんです」
「……わかりました。ずっとお願いしてばかりで申し訳ないですけど……ルークとシスターのこと、お願いします! このお礼は必ずしますから!」

 頭を何度も下げ、ただ頼むことしか出来ない不甲斐なさに涙を流すアンヌ様の肩に、優しく手を乗せた。

「大丈夫です。必ずあなたの家族を取り返してきますから!」
「ふっ……エリンも言うようになったな。さあ、いくつか証拠を持って、後を追うとしよう」
「あ、待ってください! 夜だと周りが見えないと思うので、これを持っていってください!」

 宝石と化粧品のいくつかを拝借し、アンヌ様からランプを受け取った私は、心配そうに見送るアンヌ様にもう一度頭を下げてから、オーウェン様と共に暗闇に包まれる廃墟の町を進み始めた。

「これは……どうやら間抜けな悪党のしっぽをつかめたようだ」

 オーウェン様の視線の先には、明らかに人のものと思われる足跡があった。

 そっか、ついさっきまでは雨が降っていたから、土がぬかるんでいたのね! だからオーウェン様は、急いで追わなくても大丈夫って判断したのね! 

 こんなことを瞬時に判断できるなんて、オーウェン様ってやっぱり凄いわ……!

 ……いや、浮かれてないで落ち着きなさいよ私。この足跡を見失なわないように、なおかつ気づかれないように進んでいかないとね。

「きゃっ……この辺り、地面がぐしょぐしょだわ」
「大丈夫か? ほら、俺の手を取ってくれ」
「ありがとうございます、オーウェン様」

 こういうところを歩き慣れていないから、もしかしたら転んでしまうかもと思いながら進んでいたところに、オーウェン様の手がスッと出てきた。

 スマートにこういうことが出来る人って、素直に尊敬してしまう。私もこんな感じに気が利くスマートな人になりたいわ。

 ……なんて、呑気なことを考えたら……。

「うわぁぁぁぁぁ!?!?」
「今のって悲鳴ですよね!?」
「そのようだ。今の声……ルークか!?」
「早く行きましょう!」

 オーウェン様と繋いでいる手に力を込めながらも、転ばないように急いで走っていくと、そこは廃墟と化した石造りの建物だった。

「なっ……誰だてめえら!」
「邪魔だ、そこを退け!」

 廃墟の見張りをしていた若い男性に見つかってしまったが、オーウェン様の持っていた木刀が彼のお腹を捉え、簡単に気絶させてしまった。

 あまりにも剣筋が早すぎて、全く目で追えなかった……私が素人だというのもあるだろうけど、それにしたって早すぎる。

「エリン、俺の後ろに」
「は、はい」

 オーウェン様の少し後ろを陣取った私は、ゆっくりと建物の中に入る。すると、中ではルーク君が泣き叫びながら、必死に手を掴むセシリア様から逃げようとしていた――
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