上 下
34 / 115

第三十四話 お別れ会

しおりを挟む
 ついに向かえた満月の日。その日の夜はルーク君のお別れ会をするということで、私達もせっかくだからと食堂に呼ばれていた。

「月が綺麗ですね」
「ああ、そうだな。今日の昼まで雨が降っていたのが、嘘のような星空だ」

 無事に晴れたことに喜びつつ、私達はルーク君の門出を祝う子供達に視線を移した。やはりみんな寂しいようで、涙ぐみながらお祝いとお別れの言葉を伝える姿が、とても印象的で、私までちょっと泣いちゃいそうになってしまった。

 ……ちなみにだけど、その輪にはココちゃんも加わっていて、泣いちゃっている子供達を励ましていた。

 優しいというか、頼もしいというか……こういうところは、オーウェン様と似ているわね。さすが兄妹だ。

「エリン様、オーウェン様。本日はお別れ会に参加してくださり、ありがとうございます」
「いえいえ、我々も彼とは交流がありますから」
「ふふっ、お優しいのですね」

 にっこりと安心感を覚えさせる優しい笑みを浮かべるセシリア様に、オーウェン様は怪しまれないように温和な対応を取る。

 こうして話してると、とても穏やかで優しそうな人に見えるけど……まだこの方への疑惑が晴らせていない以上、警戒を怠らないようにしなくちゃ。

「そうだ、うちらからルークにプレゼントがあるの。はい、これ!」
「わぁ……綺麗なお花……!」

 子供達を代表して、アンヌ様が小さな花束をルーク君に手渡した。

 花束と言っても、花はほとんど無く、雑草が大半を占めているけど、そこにはみんなの気持ちが込められているように思えた。

 実際に、受け取ったルーク君は涙を流して喜んでいるもの。本人が嬉しければ、見た目なんて関係ないでしょう?

「さあ、そろそろ夕食にしましょうか。今日は特別に、シチューを用意したわよ」
「し、シチュー……!? あの、シスター……ぼくなんかのお別れ会のために、そんなご馳走を用意したら、精霊様に怒られちゃうよ……!」
「何を言っているんですか。いつも精霊様の教えを守って生活をしているんですから、たまには贅沢をしても精霊様は怒りませんよ」

 あ、あれ……ちょっとこれは予想外かも。教えに厳しいと聞いていたから、特別な席でも変わらず厳しいとばかり思ってたのに……。

「今回のシチューは上手く出来たから、みんな安心していいぞ」
「え、わざわざルークのために作ってくれたんですか……?」
「ええ。せっかくですから、セシリア殿の許可を貰って、作らせてもらいました」

 そ、そうだったんだ……全然知らなかったわ。この会が始まる前まで、私は看病と他の薬を作るのに手いっぱいになってて、周りを気にする余裕がなかったの。

 とはいっても、これは完全に言い訳よね。ちゃんと周りは把握しなきゃ……反省。

「それじゃあ、お鍋を持ってくるからここで待っててくださいね」
『はーい!』

 もう待ちきれないといわんばかりに、ソワソワし始める子供達をにこやかに待っていたが、なかなかセシリア様は戻ってこなかった。

 もしかしたら、何か問題でもあったのかもしれない。それか……何か悪だくみを……。

「オーウェン様」
「ああ。様子を見にいこう」
「すぐに戻ってくるから、みんなここにいてね!」
「お兄ちゃん、私は?」
「何かあったら、皆を守る役目だ」
「うん、まっかせてー!」

 心配そうに眉尻を下げている子供達をなだめながら、ココちゃんにこの場を任せた私達は、急いで会場を後にする。

 今の状態で、何か悪だくみを出来るのかと考えると、私の薬バカな頭では思いつかなった。何事も無ければいいんだけど……そう思った私の前に、ゆっくりと歩いてこちらに向かってくるセシリア様の姿があった。

「あら、どうかされましたか?」
「戻ってこないから、心配して探しに来たんですよ!」
「それは大変申し訳ありませんでしたわ。鍋敷きがなかったので、倉庫の中を探してたんです」

 な、鍋敷きって……てっきりなにか事件があったのかとか、やっぱり悪いことをしていたんだとか、いろいろ考えていたのに……拍子抜けも良いところだわ。

 でも、何事も無いというのは良いことだ。このままあの子が完治して、出来ればこの教会の子達の栄養失調も改善して、家に帰るまで何事も無ければいいんだけど。


 ****


「おいしかったね~!」

 無事にルーク君のお別れ会がお開きとなり、私達は患者が寝ている部屋に向かって歩いていた。

 ココちゃんはよほど食べたのか、それとも大満足したのか。満面の笑みでお腹を撫でていた。

 ちなみに私とオーウェン様は、ほとんど食べずに教会の子達にあげたわ。こんな日くらい、たくさん食べても罰はあたらないでしょうし。

「さすがオーウェン様の料理でしたね。みんな大絶賛で食べてましたよ!」
「ああやって喜んでもらえると、作り甲斐があるものだ」
「その気持ち、わかるかもです。私の場合は、自分や大切な人が治って喜んでる姿を見ると、やりがいがあるって思います」
「二人共似てるんだね~! 相性バッチリともいう? やっぱり結婚だね!」
「ココちゃん!?」

 もうっ、ココちゃんってば最近そればかりじゃない! 確かにオーウェン様は素晴らしい男性だし、とーってもカッコいいけど、私には釣り合わないから。だから……そう、私達は仕事仲間! それ以上でもそれ以下でも……。

 ……無い、かな。うん無いよね……なんか急に気分が落ち込んできたかも……。

「あまりエリンを困らせるようなことを言わないようにな。さて、彼女の様子を見つつ、頃合いを見てセシリア殿、を……!?」
「ど、どうかしましたか?」
「……無いんだ」
「無い? お兄ちゃん、何が無いの?」
「俺の剣が……両親の形見が無いんだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

処理中です...