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第三十四話 お別れ会
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ついに向かえた満月の日。その日の夜はルーク君のお別れ会をするということで、私達もせっかくだからと食堂に呼ばれていた。
「月が綺麗ですね」
「ああ、そうだな。今日の昼まで雨が降っていたのが、嘘のような星空だ」
無事に晴れたことに喜びつつ、私達はルーク君の門出を祝う子供達に視線を移した。やはりみんな寂しいようで、涙ぐみながらお祝いとお別れの言葉を伝える姿が、とても印象的で、私までちょっと泣いちゃいそうになってしまった。
……ちなみにだけど、その輪にはココちゃんも加わっていて、泣いちゃっている子供達を励ましていた。
優しいというか、頼もしいというか……こういうところは、オーウェン様と似ているわね。さすが兄妹だ。
「エリン様、オーウェン様。本日はお別れ会に参加してくださり、ありがとうございます」
「いえいえ、我々も彼とは交流がありますから」
「ふふっ、お優しいのですね」
にっこりと安心感を覚えさせる優しい笑みを浮かべるセシリア様に、オーウェン様は怪しまれないように温和な対応を取る。
こうして話してると、とても穏やかで優しそうな人に見えるけど……まだこの方への疑惑が晴らせていない以上、警戒を怠らないようにしなくちゃ。
「そうだ、うちらからルークにプレゼントがあるの。はい、これ!」
「わぁ……綺麗なお花……!」
子供達を代表して、アンヌ様が小さな花束をルーク君に手渡した。
花束と言っても、花はほとんど無く、雑草が大半を占めているけど、そこにはみんなの気持ちが込められているように思えた。
実際に、受け取ったルーク君は涙を流して喜んでいるもの。本人が嬉しければ、見た目なんて関係ないでしょう?
「さあ、そろそろ夕食にしましょうか。今日は特別に、シチューを用意したわよ」
「し、シチュー……!? あの、シスター……ぼくなんかのお別れ会のために、そんなご馳走を用意したら、精霊様に怒られちゃうよ……!」
「何を言っているんですか。いつも精霊様の教えを守って生活をしているんですから、たまには贅沢をしても精霊様は怒りませんよ」
あ、あれ……ちょっとこれは予想外かも。教えに厳しいと聞いていたから、特別な席でも変わらず厳しいとばかり思ってたのに……。
「今回のシチューは上手く出来たから、みんな安心していいぞ」
「え、わざわざルークのために作ってくれたんですか……?」
「ええ。せっかくですから、セシリア殿の許可を貰って、作らせてもらいました」
そ、そうだったんだ……全然知らなかったわ。この会が始まる前まで、私は看病と他の薬を作るのに手いっぱいになってて、周りを気にする余裕がなかったの。
とはいっても、これは完全に言い訳よね。ちゃんと周りは把握しなきゃ……反省。
「それじゃあ、お鍋を持ってくるからここで待っててくださいね」
『はーい!』
もう待ちきれないといわんばかりに、ソワソワし始める子供達をにこやかに待っていたが、なかなかセシリア様は戻ってこなかった。
もしかしたら、何か問題でもあったのかもしれない。それか……何か悪だくみを……。
「オーウェン様」
「ああ。様子を見にいこう」
「すぐに戻ってくるから、みんなここにいてね!」
「お兄ちゃん、私は?」
「何かあったら、皆を守る役目だ」
「うん、まっかせてー!」
心配そうに眉尻を下げている子供達をなだめながら、ココちゃんにこの場を任せた私達は、急いで会場を後にする。
今の状態で、何か悪だくみを出来るのかと考えると、私の薬バカな頭では思いつかなった。何事も無ければいいんだけど……そう思った私の前に、ゆっくりと歩いてこちらに向かってくるセシリア様の姿があった。
「あら、どうかされましたか?」
「戻ってこないから、心配して探しに来たんですよ!」
「それは大変申し訳ありませんでしたわ。鍋敷きがなかったので、倉庫の中を探してたんです」
な、鍋敷きって……てっきりなにか事件があったのかとか、やっぱり悪いことをしていたんだとか、いろいろ考えていたのに……拍子抜けも良いところだわ。
でも、何事も無いというのは良いことだ。このままあの子が完治して、出来ればこの教会の子達の栄養失調も改善して、家に帰るまで何事も無ければいいんだけど。
****
「おいしかったね~!」
無事にルーク君のお別れ会がお開きとなり、私達は患者が寝ている部屋に向かって歩いていた。
ココちゃんはよほど食べたのか、それとも大満足したのか。満面の笑みでお腹を撫でていた。
ちなみに私とオーウェン様は、ほとんど食べずに教会の子達にあげたわ。こんな日くらい、たくさん食べても罰はあたらないでしょうし。
「さすがオーウェン様の料理でしたね。みんな大絶賛で食べてましたよ!」
「ああやって喜んでもらえると、作り甲斐があるものだ」
「その気持ち、わかるかもです。私の場合は、自分や大切な人が治って喜んでる姿を見ると、やりがいがあるって思います」
「二人共似てるんだね~! 相性バッチリともいう? やっぱり結婚だね!」
「ココちゃん!?」
もうっ、ココちゃんってば最近そればかりじゃない! 確かにオーウェン様は素晴らしい男性だし、とーってもカッコいいけど、私には釣り合わないから。だから……そう、私達は仕事仲間! それ以上でもそれ以下でも……。
……無い、かな。うん無いよね……なんか急に気分が落ち込んできたかも……。
「あまりエリンを困らせるようなことを言わないようにな。さて、彼女の様子を見つつ、頃合いを見てセシリア殿、を……!?」
「ど、どうかしましたか?」
「……無いんだ」
「無い? お兄ちゃん、何が無いの?」
「俺の剣が……両親の形見が無いんだ」
「月が綺麗ですね」
「ああ、そうだな。今日の昼まで雨が降っていたのが、嘘のような星空だ」
無事に晴れたことに喜びつつ、私達はルーク君の門出を祝う子供達に視線を移した。やはりみんな寂しいようで、涙ぐみながらお祝いとお別れの言葉を伝える姿が、とても印象的で、私までちょっと泣いちゃいそうになってしまった。
……ちなみにだけど、その輪にはココちゃんも加わっていて、泣いちゃっている子供達を励ましていた。
優しいというか、頼もしいというか……こういうところは、オーウェン様と似ているわね。さすが兄妹だ。
「エリン様、オーウェン様。本日はお別れ会に参加してくださり、ありがとうございます」
「いえいえ、我々も彼とは交流がありますから」
「ふふっ、お優しいのですね」
にっこりと安心感を覚えさせる優しい笑みを浮かべるセシリア様に、オーウェン様は怪しまれないように温和な対応を取る。
こうして話してると、とても穏やかで優しそうな人に見えるけど……まだこの方への疑惑が晴らせていない以上、警戒を怠らないようにしなくちゃ。
「そうだ、うちらからルークにプレゼントがあるの。はい、これ!」
「わぁ……綺麗なお花……!」
子供達を代表して、アンヌ様が小さな花束をルーク君に手渡した。
花束と言っても、花はほとんど無く、雑草が大半を占めているけど、そこにはみんなの気持ちが込められているように思えた。
実際に、受け取ったルーク君は涙を流して喜んでいるもの。本人が嬉しければ、見た目なんて関係ないでしょう?
「さあ、そろそろ夕食にしましょうか。今日は特別に、シチューを用意したわよ」
「し、シチュー……!? あの、シスター……ぼくなんかのお別れ会のために、そんなご馳走を用意したら、精霊様に怒られちゃうよ……!」
「何を言っているんですか。いつも精霊様の教えを守って生活をしているんですから、たまには贅沢をしても精霊様は怒りませんよ」
あ、あれ……ちょっとこれは予想外かも。教えに厳しいと聞いていたから、特別な席でも変わらず厳しいとばかり思ってたのに……。
「今回のシチューは上手く出来たから、みんな安心していいぞ」
「え、わざわざルークのために作ってくれたんですか……?」
「ええ。せっかくですから、セシリア殿の許可を貰って、作らせてもらいました」
そ、そうだったんだ……全然知らなかったわ。この会が始まる前まで、私は看病と他の薬を作るのに手いっぱいになってて、周りを気にする余裕がなかったの。
とはいっても、これは完全に言い訳よね。ちゃんと周りは把握しなきゃ……反省。
「それじゃあ、お鍋を持ってくるからここで待っててくださいね」
『はーい!』
もう待ちきれないといわんばかりに、ソワソワし始める子供達をにこやかに待っていたが、なかなかセシリア様は戻ってこなかった。
もしかしたら、何か問題でもあったのかもしれない。それか……何か悪だくみを……。
「オーウェン様」
「ああ。様子を見にいこう」
「すぐに戻ってくるから、みんなここにいてね!」
「お兄ちゃん、私は?」
「何かあったら、皆を守る役目だ」
「うん、まっかせてー!」
心配そうに眉尻を下げている子供達をなだめながら、ココちゃんにこの場を任せた私達は、急いで会場を後にする。
今の状態で、何か悪だくみを出来るのかと考えると、私の薬バカな頭では思いつかなった。何事も無ければいいんだけど……そう思った私の前に、ゆっくりと歩いてこちらに向かってくるセシリア様の姿があった。
「あら、どうかされましたか?」
「戻ってこないから、心配して探しに来たんですよ!」
「それは大変申し訳ありませんでしたわ。鍋敷きがなかったので、倉庫の中を探してたんです」
な、鍋敷きって……てっきりなにか事件があったのかとか、やっぱり悪いことをしていたんだとか、いろいろ考えていたのに……拍子抜けも良いところだわ。
でも、何事も無いというのは良いことだ。このままあの子が完治して、出来ればこの教会の子達の栄養失調も改善して、家に帰るまで何事も無ければいいんだけど。
****
「おいしかったね~!」
無事にルーク君のお別れ会がお開きとなり、私達は患者が寝ている部屋に向かって歩いていた。
ココちゃんはよほど食べたのか、それとも大満足したのか。満面の笑みでお腹を撫でていた。
ちなみに私とオーウェン様は、ほとんど食べずに教会の子達にあげたわ。こんな日くらい、たくさん食べても罰はあたらないでしょうし。
「さすがオーウェン様の料理でしたね。みんな大絶賛で食べてましたよ!」
「ああやって喜んでもらえると、作り甲斐があるものだ」
「その気持ち、わかるかもです。私の場合は、自分や大切な人が治って喜んでる姿を見ると、やりがいがあるって思います」
「二人共似てるんだね~! 相性バッチリともいう? やっぱり結婚だね!」
「ココちゃん!?」
もうっ、ココちゃんってば最近そればかりじゃない! 確かにオーウェン様は素晴らしい男性だし、とーってもカッコいいけど、私には釣り合わないから。だから……そう、私達は仕事仲間! それ以上でもそれ以下でも……。
……無い、かな。うん無いよね……なんか急に気分が落ち込んできたかも……。
「あまりエリンを困らせるようなことを言わないようにな。さて、彼女の様子を見つつ、頃合いを見てセシリア殿、を……!?」
「ど、どうかしましたか?」
「……無いんだ」
「無い? お兄ちゃん、何が無いの?」
「俺の剣が……両親の形見が無いんだ」
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