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第二十八話 廃墟の教会
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「み、見えてきました……あの町に、教会があります……!」
夕焼け空が美しさと若干の寂しさを演出し始めた頃、私達は無事に教会がある町へと到着することが出来た。
道中はまだ幼い二人に会わせてゆっくりと歩き、途中で適度に休憩しながら進んだからか、オーウェン様が事前に言った通り、夕方までかかってしまったわね。
「……あれが、町……?」
確かに今、ルーク君は町という単語を使った。でも、私達の前にあるのは……ボロボロになった民家や、もはや瓦礫となって原型すらわからない建物に支配された場所だった。
「…………」
オーウェン様から聞いていたから、既にわかってはいたことだけど……こんなに酷い有様だったなんて。夕焼けに染まる廃墟の町を見ているだけで、胸を締め付けられるような痛みと悲しみを感じる。
「三人とも、絶対に俺から離れるな。大丈夫、俺の近くなら安全だ」
「な、なんかボロボロで不気味……怖い……でも、わたしだってアトレの一員なんだから……頑張る!」
ふんっと握り拳を作るココちゃんを見ていたら、私も頑張らないとと改めて思った。
それにしても、瓦礫や元民家には、あちこちに死角がある。悪いことをしてる人が潜んでいても、これではわからないだろう。用心しなきゃ。
「視線や敵意を向けられている感じはしないな……」
「ボロボロな町ですけど……少しだけ残っている人達は、良い人ばかりなので……大丈夫ですよ」
「そうか。それで、教会はどっちだ?」
「ここを真っ直ぐ行けば……見えてきます」
ルーク君は大丈夫と言っていたけど、まだ心配なのもあり、周りを警戒しながら進んで行くと、突然ルーク君が足を止めた。
「あっ、見えました。あれが教会です」
ルーク君の指差す方に、石で出来た大きな建物が静かに佇んでいた。あちこち破損しているし、ひび割れもしているせいで、いつ倒壊してもおかしくなさそうだ。
「あ、あそこに住んでいるの? 今にも壊れちゃいそう……」
「大丈夫ですよ……みんなに紹介したいので、一緒に来てください」
ココちゃんの不安ももっともだと思いながら、私は再びルーク君の後ろをついて行く。
近くで見てみると、さっきよりも壁のひび割れが目立つわね。これで倒壊しないで保っていられているのが不思議なくらいだ。
「あー! ルークが帰ってきたー!」
教会の入口のところで、地面に絵を描いて遊んでいた小さな女の子が、大声をあげて教会に入っていった。それから間もなく、たくさんの子供達が走ってきた。
数は……ルーク君を入れて十二人だわ。一体誰が調子の悪い子なのかしら? パッと見ただけではわからないけど、少なくとも一つだけわかることがある。
それは、みんなルーク君と似たような症状が見られるということだ。それに、パーチェで見た子供と比べて、全体的に身長が小さい気がする。
「こらっ、ルーク! 勝手に出て行って! 心配したのよ!」
「ご、ごめんなさい……アンヌ」
子供達の中で一番年上っぽい女の子が、ルーク君の前に立って叱り始める。
アンヌと呼ばれた金髪の女の子は、肩より少し長い髪を一つ結びにしているのだが、その髪に全く艶が無い。これも、きっと栄養が足りてなくて髪が痛んでいるのだろう。
「それで、その人達は?」
「あ、アトレっていう薬屋さん達だよ。ぼくのお願いを聞いてくれたんだ……」
「えぇ……? 薬屋さんが、うちらのなけなしのお金で引き受けてくれるわけないでしょう?」
「本当だよ! ねっ……エリンさん」
すがるような目を向けてきたルーク君に、私は小さく頷いて見せた。
「初めまして、アンヌ様。私は薬屋アトレの代表で薬師の、エリンといいます。今日はルーク君の依頼を受けて参りました」
「同じく、アトレのオーウェンと申します」
「あたしはココ! アトレの一人だよ~!」
「う、うちはアンヌです。一応この教会の子供達の、一番の年長者です」
アンヌ様と握手を交わしたことで、彼女の手が驚く程細くて、肉付きが無いことに気が付いた。肌もかなり荒れていて、握手しただけでザラザラしているのがわかる。
アンヌ様も、かなり重度の栄養失調になっているみたいね……やっぱりこの環境をどうにかしない限り、その場しのぎで治療をしても意味が無さそうだ。
「えっと、改めて確認したいんですけど……本当にルークの依頼を受けて来てくれたんですか?」
「はい。ちゃんと報酬はいただいているので、ご安心ください」
「うちらは薬師の方に診てもらうお金も、薬のお金も支払う余裕なんて……」
「実は、アトレはまだ開いたばかりの薬屋でして。ルーク君は最初の依頼者ということで、特別価格で引き受けたんです」
ちゃんと説明をしたつもりだったんだけど、アンヌ様はいまいち信用できていないのか、怪訝そうな表情を浮かべたままだった。
うーん、どうすれば信用してもらえるのだろうか? こういう時にもっと話術があれば、信用してもらえるかもしれないのに……。
そんなことを思っていると、一人の女性が教会の中から出てきた。
「あら、話し声がすると思ったら、お客様でしたのね」
「あっ、シスター! この人達は、ルークが連れてきた薬師の人達らしいの」
「薬師? まあ、こんなところまでご苦労様です。ひょっとして、あの子を診てくれるのですか?」
「はい。そのために、私達はここまで伺わせていただいたので」
「何とお優しい……これもきっと、精霊様のお導きに違いありませんわ」
彼女はとても嬉しそうに微笑み、目じりに涙を貯めながら、両手を組んで精霊様に感謝をささげた。
こういうのは、いかにも聖職者って感じだわ。
「申し遅れましたわ。私はこの教会でシスターをしております、セシリアと申します」
「こちらこそ初めまして。薬屋アトレの責任者で薬師のエリンです。こちらはオーウェンとココです」
セシリアと名乗った女性は、修道服を着ている美しい方だった。チラッと見える肌や雪のような白い髪は、とても艶がある。目立たない程度のお化粧も、彼女の良さを引き立てている。
一見すると、とても優しそうな美しいシスターだけど……おかしくない? どうして子供達はこんなにボロボロなのに、シスターだけはこんなに綺麗なの……?
「アトレの皆様、本当にありがとうございます。もっとおもてなしをさせていただきたいのですが……丁度子供達の夕食の準備をしているところでして」
「いえいえ、お構いなく。それじゃあアンヌ様、患者の所に案内してもらえますか?」
「はい、こちらです」
セシリア様への疑問で胸がモヤモヤするけど、それよりも今は早く患者の状態を確認しなくちゃね。
夕焼け空が美しさと若干の寂しさを演出し始めた頃、私達は無事に教会がある町へと到着することが出来た。
道中はまだ幼い二人に会わせてゆっくりと歩き、途中で適度に休憩しながら進んだからか、オーウェン様が事前に言った通り、夕方までかかってしまったわね。
「……あれが、町……?」
確かに今、ルーク君は町という単語を使った。でも、私達の前にあるのは……ボロボロになった民家や、もはや瓦礫となって原型すらわからない建物に支配された場所だった。
「…………」
オーウェン様から聞いていたから、既にわかってはいたことだけど……こんなに酷い有様だったなんて。夕焼けに染まる廃墟の町を見ているだけで、胸を締め付けられるような痛みと悲しみを感じる。
「三人とも、絶対に俺から離れるな。大丈夫、俺の近くなら安全だ」
「な、なんかボロボロで不気味……怖い……でも、わたしだってアトレの一員なんだから……頑張る!」
ふんっと握り拳を作るココちゃんを見ていたら、私も頑張らないとと改めて思った。
それにしても、瓦礫や元民家には、あちこちに死角がある。悪いことをしてる人が潜んでいても、これではわからないだろう。用心しなきゃ。
「視線や敵意を向けられている感じはしないな……」
「ボロボロな町ですけど……少しだけ残っている人達は、良い人ばかりなので……大丈夫ですよ」
「そうか。それで、教会はどっちだ?」
「ここを真っ直ぐ行けば……見えてきます」
ルーク君は大丈夫と言っていたけど、まだ心配なのもあり、周りを警戒しながら進んで行くと、突然ルーク君が足を止めた。
「あっ、見えました。あれが教会です」
ルーク君の指差す方に、石で出来た大きな建物が静かに佇んでいた。あちこち破損しているし、ひび割れもしているせいで、いつ倒壊してもおかしくなさそうだ。
「あ、あそこに住んでいるの? 今にも壊れちゃいそう……」
「大丈夫ですよ……みんなに紹介したいので、一緒に来てください」
ココちゃんの不安ももっともだと思いながら、私は再びルーク君の後ろをついて行く。
近くで見てみると、さっきよりも壁のひび割れが目立つわね。これで倒壊しないで保っていられているのが不思議なくらいだ。
「あー! ルークが帰ってきたー!」
教会の入口のところで、地面に絵を描いて遊んでいた小さな女の子が、大声をあげて教会に入っていった。それから間もなく、たくさんの子供達が走ってきた。
数は……ルーク君を入れて十二人だわ。一体誰が調子の悪い子なのかしら? パッと見ただけではわからないけど、少なくとも一つだけわかることがある。
それは、みんなルーク君と似たような症状が見られるということだ。それに、パーチェで見た子供と比べて、全体的に身長が小さい気がする。
「こらっ、ルーク! 勝手に出て行って! 心配したのよ!」
「ご、ごめんなさい……アンヌ」
子供達の中で一番年上っぽい女の子が、ルーク君の前に立って叱り始める。
アンヌと呼ばれた金髪の女の子は、肩より少し長い髪を一つ結びにしているのだが、その髪に全く艶が無い。これも、きっと栄養が足りてなくて髪が痛んでいるのだろう。
「それで、その人達は?」
「あ、アトレっていう薬屋さん達だよ。ぼくのお願いを聞いてくれたんだ……」
「えぇ……? 薬屋さんが、うちらのなけなしのお金で引き受けてくれるわけないでしょう?」
「本当だよ! ねっ……エリンさん」
すがるような目を向けてきたルーク君に、私は小さく頷いて見せた。
「初めまして、アンヌ様。私は薬屋アトレの代表で薬師の、エリンといいます。今日はルーク君の依頼を受けて参りました」
「同じく、アトレのオーウェンと申します」
「あたしはココ! アトレの一人だよ~!」
「う、うちはアンヌです。一応この教会の子供達の、一番の年長者です」
アンヌ様と握手を交わしたことで、彼女の手が驚く程細くて、肉付きが無いことに気が付いた。肌もかなり荒れていて、握手しただけでザラザラしているのがわかる。
アンヌ様も、かなり重度の栄養失調になっているみたいね……やっぱりこの環境をどうにかしない限り、その場しのぎで治療をしても意味が無さそうだ。
「えっと、改めて確認したいんですけど……本当にルークの依頼を受けて来てくれたんですか?」
「はい。ちゃんと報酬はいただいているので、ご安心ください」
「うちらは薬師の方に診てもらうお金も、薬のお金も支払う余裕なんて……」
「実は、アトレはまだ開いたばかりの薬屋でして。ルーク君は最初の依頼者ということで、特別価格で引き受けたんです」
ちゃんと説明をしたつもりだったんだけど、アンヌ様はいまいち信用できていないのか、怪訝そうな表情を浮かべたままだった。
うーん、どうすれば信用してもらえるのだろうか? こういう時にもっと話術があれば、信用してもらえるかもしれないのに……。
そんなことを思っていると、一人の女性が教会の中から出てきた。
「あら、話し声がすると思ったら、お客様でしたのね」
「あっ、シスター! この人達は、ルークが連れてきた薬師の人達らしいの」
「薬師? まあ、こんなところまでご苦労様です。ひょっとして、あの子を診てくれるのですか?」
「はい。そのために、私達はここまで伺わせていただいたので」
「何とお優しい……これもきっと、精霊様のお導きに違いありませんわ」
彼女はとても嬉しそうに微笑み、目じりに涙を貯めながら、両手を組んで精霊様に感謝をささげた。
こういうのは、いかにも聖職者って感じだわ。
「申し遅れましたわ。私はこの教会でシスターをしております、セシリアと申します」
「こちらこそ初めまして。薬屋アトレの責任者で薬師のエリンです。こちらはオーウェンとココです」
セシリアと名乗った女性は、修道服を着ている美しい方だった。チラッと見える肌や雪のような白い髪は、とても艶がある。目立たない程度のお化粧も、彼女の良さを引き立てている。
一見すると、とても優しそうな美しいシスターだけど……おかしくない? どうして子供達はこんなにボロボロなのに、シスターだけはこんなに綺麗なの……?
「アトレの皆様、本当にありがとうございます。もっとおもてなしをさせていただきたいのですが……丁度子供達の夕食の準備をしているところでして」
「いえいえ、お構いなく。それじゃあアンヌ様、患者の所に案内してもらえますか?」
「はい、こちらです」
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