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第二十七話 準備段階
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「待たせたな。さあ、出来たぞ」
私の薬茶が完成した後に続くように、オーウェン様は四人分の料理を机に並べた。
作ってくれたのは……これはサラダかしら? レタスの上にカボチャとニンジンが混ぜられたものが乗せてあり、端っこに切られたゆで卵が添えられている。
「かぼちゃとニンジンのサラダだ。本当はもっとしっかりしたものを作りたかったんだが、あまり凝ったものを作ると時間がかかるからな」
「ごくり……本当に良いんですか?」
「ああ。ぜひ食べてくれ」
「……うぅ、ごめんなさい……!」
目の前に置かれたサラダを見ながら喉を鳴らしたルーク君は、少しだけ手を震わせながらサラダを口にした。すると、年相応の明るい笑顔の花が咲いた。
「おいしい……本当においしいです。こんなおいしいものを食べたのは、生まれて初めてです!」
「そうか。そう言ってもらえると、作った甲斐があった。さあ、二人も食べてくれ」
「に、ニンジン……うぅ……」
「ココ」
オーウェン様に促されて、少し嫌々ながらも食べるココちゃんを尻目に、私もサラダを口にする。かぼちゃとニンジンの優しい甘みと風味が口いっぱいに広がって、とってもおいしいわ。
「…………」
「ルーク君、どうしたの? 急に食べる手を止めて……」
「……ぼくだけがこんな良い思いをして良いのかなって……みんな、教えに従ってたくさん食べれないのに……」
「ルーク君……」
こんな時でも一緒に暮らしている人達のことを想い、心を痛めるルーク君のことを、優しく抱きしめてあげた。
「あなたは優しくて、とっても良い子ね。大丈夫、これはあなたのお腹を満たすと同時に、私達を安全に教会まで案内して、みんなを元気にするものなのよ」
「元気を……」
「そうよ。教会に来た私達の元気が無かったら、みんなが不安に思うでしょ?」
「そう、ですね……」
「だから、あなたは何も気にしなくていいのよ」
私の言葉で安心したのか、ルーク君は再びサラダを口にし始めた。
こういう時に、オーウェン様みたいにもっと気の利いたことが言えれば良いのだけど、私には今の言葉が限界だった。
「エリンは優しいな。そういうところ、俺はとても好きだよ」
「きゅ、急にどうしたんですか!?」
「素直に思ったことを伝えただけだ」
「っ……!」
オーウェン様からの、あまりにも真っ直ぐな褒め言葉と好意で照れるのを誤魔化すように、勢いよくサラダを食べ進める。
今の言葉に、特別な意味なんてないはずだ。だというのに、変に意識してドキドキしてしまっている自分がいる。
これは……まだカーティス様のことを優しい人と思い込んでいたころ、カーティス様に褒められた時と似ている。
もしかして、私は……オーウェン様のことを……いやいや、そんなことは……そもそも、まだ出会って間もないというのに、そんな感情を持つはずがないわよね! きっと何かの勘違いだわ!
****
「よし、とりあえず持っていく物はこれくらいでいいかな」
食事の後、仕事場である裏の小屋に来た私は、薬を作るのに必要な品を一式と、さっき使った薬草を袋にまとめた。
結構な大荷物になってしまったけど、患者がどんな状態かこの目で見ていない以上、準備出来ることはしっかりとしておかないといけないわ。
欲を言わせてもらえるなら、もっと多くの薬の材料を持っていきたいけど、家にストックがあるわけではないし、採りにいく時間も無いのが正直なところだ。
「症状を確認してから、現地調達するしかないか……よし、行こう」
私は荷物を持って仕事場を後にすると、外にはすでに準備を済ませた三人が待っていた。オーウェン様の肩には、教会まで行く途中に食べる食料が入った袋がかけられている。
「お待たせしました。ルーク君、調子はどう?」
「えっと、さっきよりかは楽になりました……」
楽になったという言葉は、嘘ではなさそうだ。声にハリが出てきたし、顔色も少し良くなっている。しっかり食べて、少しだけ回復したのだろう。
「行く前に確認だが、教会の場所はどこにあるんだ?」
「えっと……この辺りです」
オーウェン様が広げた地図に視線を落としたルーク君は、とある場所を指差した。そこは、今私が住んでいる国、クロルーツェの北だった。
「本当にここなのか?」
「は、はい……」
「オーウェン様、どうかされたのですか? もしかして、凄く遠いのですか?」
「いや、さほど距離は離れていない。二人に合わせて休憩しながらでも、夕方には到着できるだろう。だが……」
……? なんだろう、随分とはっきりしない言い方だ。もしかして、何か問題があるのだろうか?
「前に、この国が大きな犯罪組織と争っていた話はしただろう?」
「はい、覚えてますが……それがどうしたんですか?」
「ルークが示した場所は、その争いで荒廃してしまった場所なんだ」
そんな……もしかして、ルーク君や他の子達は、その争いに巻き込まれて家族を失った子達ってことなの?
「まさか、まだ人がいるなんてな……何があるかわからない。用心していこう」
「お兄ちゃん、エリンお姉ちゃんとコソコソ何の話をしてるの? わたし達もまぜてよ~!」
「二人は気にしないでいい。さあ、行こうか」
少し不安を残したまま、私達は教会に向けて出発した。
元から色々と疑問に思うことがある依頼だけど……引き受けたからには、最後までしっかりやらないとね。
私の薬茶が完成した後に続くように、オーウェン様は四人分の料理を机に並べた。
作ってくれたのは……これはサラダかしら? レタスの上にカボチャとニンジンが混ぜられたものが乗せてあり、端っこに切られたゆで卵が添えられている。
「かぼちゃとニンジンのサラダだ。本当はもっとしっかりしたものを作りたかったんだが、あまり凝ったものを作ると時間がかかるからな」
「ごくり……本当に良いんですか?」
「ああ。ぜひ食べてくれ」
「……うぅ、ごめんなさい……!」
目の前に置かれたサラダを見ながら喉を鳴らしたルーク君は、少しだけ手を震わせながらサラダを口にした。すると、年相応の明るい笑顔の花が咲いた。
「おいしい……本当においしいです。こんなおいしいものを食べたのは、生まれて初めてです!」
「そうか。そう言ってもらえると、作った甲斐があった。さあ、二人も食べてくれ」
「に、ニンジン……うぅ……」
「ココ」
オーウェン様に促されて、少し嫌々ながらも食べるココちゃんを尻目に、私もサラダを口にする。かぼちゃとニンジンの優しい甘みと風味が口いっぱいに広がって、とってもおいしいわ。
「…………」
「ルーク君、どうしたの? 急に食べる手を止めて……」
「……ぼくだけがこんな良い思いをして良いのかなって……みんな、教えに従ってたくさん食べれないのに……」
「ルーク君……」
こんな時でも一緒に暮らしている人達のことを想い、心を痛めるルーク君のことを、優しく抱きしめてあげた。
「あなたは優しくて、とっても良い子ね。大丈夫、これはあなたのお腹を満たすと同時に、私達を安全に教会まで案内して、みんなを元気にするものなのよ」
「元気を……」
「そうよ。教会に来た私達の元気が無かったら、みんなが不安に思うでしょ?」
「そう、ですね……」
「だから、あなたは何も気にしなくていいのよ」
私の言葉で安心したのか、ルーク君は再びサラダを口にし始めた。
こういう時に、オーウェン様みたいにもっと気の利いたことが言えれば良いのだけど、私には今の言葉が限界だった。
「エリンは優しいな。そういうところ、俺はとても好きだよ」
「きゅ、急にどうしたんですか!?」
「素直に思ったことを伝えただけだ」
「っ……!」
オーウェン様からの、あまりにも真っ直ぐな褒め言葉と好意で照れるのを誤魔化すように、勢いよくサラダを食べ進める。
今の言葉に、特別な意味なんてないはずだ。だというのに、変に意識してドキドキしてしまっている自分がいる。
これは……まだカーティス様のことを優しい人と思い込んでいたころ、カーティス様に褒められた時と似ている。
もしかして、私は……オーウェン様のことを……いやいや、そんなことは……そもそも、まだ出会って間もないというのに、そんな感情を持つはずがないわよね! きっと何かの勘違いだわ!
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「よし、とりあえず持っていく物はこれくらいでいいかな」
食事の後、仕事場である裏の小屋に来た私は、薬を作るのに必要な品を一式と、さっき使った薬草を袋にまとめた。
結構な大荷物になってしまったけど、患者がどんな状態かこの目で見ていない以上、準備出来ることはしっかりとしておかないといけないわ。
欲を言わせてもらえるなら、もっと多くの薬の材料を持っていきたいけど、家にストックがあるわけではないし、採りにいく時間も無いのが正直なところだ。
「症状を確認してから、現地調達するしかないか……よし、行こう」
私は荷物を持って仕事場を後にすると、外にはすでに準備を済ませた三人が待っていた。オーウェン様の肩には、教会まで行く途中に食べる食料が入った袋がかけられている。
「お待たせしました。ルーク君、調子はどう?」
「えっと、さっきよりかは楽になりました……」
楽になったという言葉は、嘘ではなさそうだ。声にハリが出てきたし、顔色も少し良くなっている。しっかり食べて、少しだけ回復したのだろう。
「行く前に確認だが、教会の場所はどこにあるんだ?」
「えっと……この辺りです」
オーウェン様が広げた地図に視線を落としたルーク君は、とある場所を指差した。そこは、今私が住んでいる国、クロルーツェの北だった。
「本当にここなのか?」
「は、はい……」
「オーウェン様、どうかされたのですか? もしかして、凄く遠いのですか?」
「いや、さほど距離は離れていない。二人に合わせて休憩しながらでも、夕方には到着できるだろう。だが……」
……? なんだろう、随分とはっきりしない言い方だ。もしかして、何か問題があるのだろうか?
「前に、この国が大きな犯罪組織と争っていた話はしただろう?」
「はい、覚えてますが……それがどうしたんですか?」
「ルークが示した場所は、その争いで荒廃してしまった場所なんだ」
そんな……もしかして、ルーク君や他の子達は、その争いに巻き込まれて家族を失った子達ってことなの?
「まさか、まだ人がいるなんてな……何があるかわからない。用心していこう」
「お兄ちゃん、エリンお姉ちゃんとコソコソ何の話をしてるの? わたし達もまぜてよ~!」
「二人は気にしないでいい。さあ、行こうか」
少し不安を残したまま、私達は教会に向けて出発した。
元から色々と疑問に思うことがある依頼だけど……引き受けたからには、最後までしっかりやらないとね。
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