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第二十六話 モヤモヤとドキドキ

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「なんだって?」
「異様に痩せていて、尻餅をついてしまうほどの筋力の低下……顔色が悪くて、肌荒れも酷く、元気も無くて、気分の落ち込み方も人一倍です。まあ、これに関しては性格かもしれませんが……」
「それが、栄養失調の症状なのか?」
「ほんの一例ですが……その通りです」

 短い時間しか接していないとはいえ、あれだけわかりやすい症状なら、少し見ただけで簡単にわかる。そして、栄養失調になるくらいの生活をしているとなると、あの服やお金が無いことも頷ける。

 しかし……そうなると、一つ疑問が出てくる。

「実は、ルークの話を聞いていた時、違和感を感じていたんだ。教会には、国から援助がされる制度になっている。なのに、あのボロボロな服……それに加えて今のエリンの話……不自然でしかない」
「支援の制度については、私は何も知らないので、何とも言えませんが……私も似たような疑問を持ってました」

 さっきオーウェン様が言っていた支援の話が本当なら、ちゃんとご飯は食べられているだろうし、服もそれなりのものを着られるはずだわ。

 でも、ルーク君は見ての通り……明らかに支援を受けている教会の子とは思えないような状態だ。

「それで、治せるのか?」
「治せる……と言いたいですが、絶対とは言えないです。聖女の薬で治せても、栄養失調になった元を断たないと、また再発してしまいますから」

 栄養失調は、その名の通り栄養が不足して起こる病気だ。原因である栄養をちゃんと取らないと治らない以上、聖女の薬を使って治しても、すぐに再発してしまう。

「それなら、栄養のある物を食べさせよう。栄養失調の人間に良い食べ物はなんだ?」
「お魚とか、卵とか……あとはニンジンとかカボチャといった野菜ですね。同じ様な成分を含んだ薬草も効果的です」
「それなら、丁度少し蓄えがあるな。よし、急いで作ってあげるとしよう」
「それなら私は、栄養失調に効く薬草を探してきます」
「一人で大丈夫か?」
「はい。すぐに戻ってくるので、ご飯の方をお願いします」
「わかった。気を付けてな」

 オーウェン様に見送られながら、私は森の中に入る。一人で森に来るのは少し緊張するけど、少しでも時間を短縮しないといけないから、ワガママは言っていられない。

「どこにあるかしら……あっ、あった!」

 森に入ってからさほど時間が経たないうちに、私はとある植物を見つけた。

 小さくて白い花が可愛らしいその植物は、葉っぱをすりつぶすと中々に酷い匂いがするけど、栄養がとっても豊富な植物だ。

「ルーク君の分だけだから、少なくても問題なさそうだけど……念の為、少し多めにいただいておこう」

 両手で持てる程度の量を採取した私は、急いで家に帰ってきた。ちょっとしか走ってないのに息が上がるなんて、運動が足りていない証拠だわ……。

「ただいま~」
「あ、おかえりエリンお姉ちゃん! 早かったね!」
「ええ。薬草が思ったより早く見つかったの」
「その植物……見たことがあります」
「色々な所に生えてる植物だから、ルーク君も見たことがあるのかもしれないわね」
「わたしもその可愛いお花の植物、見たことあるよ! えっへん!」
「ふふっ、ココちゃんもルーク君も凄いわね」

 ココちゃんとルーク君を褒めてから、私は台所で料理をするオーウェン様の隣に立った。

「おかえり。目的の物は見つかったか?」
「はい、思ったよりも簡単に見つかりました。それで、鍋を使いたいんですけど、使っていいですか?」
「ああ。ゆで卵を茹でるのに使っている鍋が空くから、それを使うといいよ」
「ありがとうございます」

 オーウェン様は、素早くゆで卵を鍋から取り出すと、私に空いた鍋を渡してくれた。

 さて、早速作るとしよう……といっても、特に難しいことは無いわ。採ってきた薬草を良く洗い、水を張った鍋で煮るだけだからね。

「……なんか、そうやって並んで料理をしてると……お父さんとお母さんが仲良く料理をしてるみたい……」
「んふっ!?」

 後ろで私達を見ていたルーク君が、ボソッと呟く。

 そ、それって……私とオーウェン様が、夫婦っていうことになるわよね!?

「あーそれわかるー! やっぱり二人ってお似合いだよねー!」
「ココちゃんまで、何を言っているの!?」
「ご、ごめんなさい! 嫌でしたか……?」
「い、嫌ってわけじゃないわ。それに、怒ってるわけでもないんだけど……な、なんて説明すれば……」
「不束者の兄ですが、何卒よろしくお願いしますってやつだね!」
「ココちゃん、どこでそんな言葉を覚えてきたの!?」

 ああもう、どうやって説明をすれば……拒否したらオーウェン様に失礼だし、だからって肯定をすると、オーウェン様に嫌な思いをさせちゃうかもしれないし……!

「ココ、ルーク。あまりエリンを困らせるようなことを言ってはいけないよ」
「むぅ~……」
「それに、エリンには俺よりも素敵な人がきっと現れるさ」
「…………」

 なんだろう、オーウェン様の言葉を聞いていたら、凄く胸の奥がモヤモヤする。この感じは、薬作りがうまくいかなくて焦っている時の感じと似ている。

「……あれ?」

 モヤモヤから少しでも気が逸れるように、チラッと横目でオーウェン様の顔を見ると、ほんのりと頬が赤くなっているのが見て取れた。

 口では特に気にしていないような感じだったけど……もしかして……実は気に障って怒らせてしまった?

「どうかしたか?」
「いえ、オーウェン様を不快な気分にさせてしまったかと思って……申し訳ありません」
「どうしてエリンが謝る? 俺は別に不快な気分になんてなっていないよ」
「でも、顔が赤いですよ? 顔に出るくらい不快に思ったんじゃ……」
「な、なんだって? そうか……いや、気にしなくていい」
「そうですか……ならよかったです」

 オーウェン様がいつもはしないような、少し困ったような表情を見てたら、モヤモヤはいつの間にかドキドキに変わっていて……そのまま薬茶とオーウェン様の料理が出来るまで、私は妙に落ち着かない気分を味わって過ごした。
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