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第二十四話 出来ることから

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 翌日の朝、私はオーウェン様が描いてくれた広告を持って、ギルドへとやってきた。

 ちなみに広告には、アトレの宣伝とイラスト、それと他の依頼書の相場を参考にして考えた料金が書かれている。初めてギルドに来た時に、ちゃんと他の依頼書を見ておいてよかったわ。

 ……今更だけど、相場ってこれで間違えてないわよね? 間違えてたら、後で修正はできるのかしら……ちょっと不安。

「おや、アトレの方ではありませんか。たしか……エリンさん」
「はい。その節はお世話になりました」
「いえいえ、私はただの受付でしかありませんから」

 今日も受付をしていた女性にお礼を伝えてから、今日は……と話を切りだした。

「これを持ってきたので、ギルドで掲載してほしいんです」
「これは、宣伝用のポスターですね。可愛い絵ですね」
「一緒に働いてくれる方が、描いてくださったんです」
「そうだったのですね。では、このポスターを掲載しておきますね」
「ありがとうございます。そうだ、私達が自分で仕事の宣伝をしても良いのでしょうか?」
「はい、もちろんです。あくまで法に触れない程度でお願いしますね」

 それはそうよね。宣伝という名の恐喝をして、無理やり薬を買わせたら、それは立派な犯罪だもの。

「それじゃあ、よろしくお願いします」

 私は受付の女性に広告を任せると、掲示板に薬の依頼が無いか確認をした。この前はあったのだけど、今日は無さそうね。みんな、他の薬師で事足りているのだろう。

 薬師がいらないということは、皆が健康ということだから、喜ばしいことではあるけど……商売をする身であり、多くの人を助けたいという目標を持った私には、少し困る状態ではあるわね。

 だからといって、調子が悪い人がもっと増えればいいとは、これっぽっちも思わないけど。

「さて、帰ろうかな……」

 ギルドを後にして、のんびりと帰路に着いていると、とても仲良しな母娘が目に入った。

 ……私も聖女の力なんかに目覚めなかったら、ああやってお母さんと一緒に、故郷で過ごせたのかしら……。

 ありもしない未来を考えても仕方がないのはわかってるけど……考えてしまうくらい、私の人生はあまりにも嫌な意味で特別だった。

「早く帰って、ココちゃんと遊んであげよう。そうだ、晩御飯のお手伝いもしなくちゃ……あとは……」

 終始ブツブツと、今後のことを考えながら、私はパーチェを後にするのだった――


 ****


「う~ん……」

 家に帰ってきた私は、裏の小屋の周りをジッと見つめていた。

 私が住まわせてもらっている小屋は、森を抜けた開けた場所に建っている。日の辺りも良く、風を遮るものも無い。よく言えば開放的で、悪く言えば何もない場所だ。

「何を見てるの? 一緒に遊ぼうよ~」
「ごめんね、ちょっと考え事をしてて……うん、この辺りなら……薬草が育てられるかもしれないわ」
「え、薬草を!? すご~い! でも、どうして急に?」
「これから先、薬草がたくさん必要になる日が来るかもしれない。その時に、毎回採取をしに行ったり、買いに行ったりしていると、時間がかかるでしょ?」
「確かに! だから自分で作るんだね! なんだか楽しそう!」

 遊んでもらえなくて、不満げに口を尖らせていたココちゃんだったが、薬草を育てると聞いて、太陽にも負けないくらい目を輝かせていた。

「全部の種類を育てられるわけじゃないわよ? 薬草の中には、湿気を好むものがあったり、日陰じゃないと育たないものがあるわ。そういった類の薬草は、この日当たりが良い場所では育てられないの」
「でもでも、それなら日当たりが良いところが好きな薬草なら育てられるよね!」
「その通りよ。ココちゃんはお利口さんね」
「えへへぇ」

 私に頭を撫でられて喜ぶココちゃんがあまりにも可愛くて、思わず変な声が出そうになってしまったわ。実は私って、小さい子が好きだったのかしら……新しい発見をしてしまったかもしれない。

「そうと決まれば、早く行動を起こそうか」
「そうね――って、オーウェン様? いつの間にいらしていたんですか?」
「ココに薬草のことを説明しているぐらいだな」

 それって、それなりに前からいらっしゃったってことじゃない。ココちゃんを撫でてた時に、だらしない顔をしてたかもしれないのに……は、恥ずかしい……。

「植物を育てるとなると、土を耕さないといけないな。あと薬草の種や苗が必要か」
「その通りです。種はパーチェに買いに行けば何とかなると思います。なるべくなら、この辺りで手に入りにくいものが良いですね。問題は、土の方ですね」

 いくら日が当たる場所を好む薬草を育てるといっても、耕されていない土に植えるのは良くないだろう。それに、土の状態によっては育たない可能性もある。

 とはいっても、私は土のことには詳しくないから、植えてみないと何とも言えないのよね……。

「土を耕すのに必要なクワが家に無いから、種を買いに行くついでにパーチェに行こうか」
「良いのですか? 三人分も道具を買ったら、結構お金がかかりますよ? 私が言い出したことなんですから、私のだけでも……」
「俺達は同じアトレの人間だ。仲間外れは良くないと、俺は思うがな」
「そうだよ~! みんなで一緒に頑張ろうよ!」
「オーウェン様……ココちゃん……ありがとうございます。一緒に頑張りましょ……えっ?」

 アトレのために、三人の力を合わせて頑張ろうと決めた矢先、ザザッ! という土を蹴る音が聞こえてきた。それも、少し離れたところから。

 明らかに私達から発された音ではない……どうやらオーウェン様も気づいたようで、真剣な表情で辺りを警戒していた。

「俺達以外の何かが隠れているようだ。近くにいるのはわかっている。大人しく出てこい!」
「ひぃ!? ご、ごめんなさい!」

 小さな悲鳴と共に、丁度私達の位置からは死角になっている小屋の角から、まだ幼い男の子が出てきた。

 この子、誰かしら……年齢的に、ココちゃんのお友達とか? 随分と痩せていて、顔色も良くないし、服もかなりボロボロだけど……。

「ココちゃん、この子とお友達?」
「ううん、知らない子だよ」
「こ、ここって……お薬屋さんのアトレで間違いないですか?」
「ええ、そうよ」
「あ、あの……その……」
「大丈夫よ。私達はあなたをいじめたりしないから、ゆっくり話してみて」

 明らかに怯えている男の子の前で膝をつき、いつもよりもゆっくりとした話し方で伝えると、男の子表情から少しだけ恐怖の色が消えた。

「お、お仕事のお願いをしに来ました……ぼくの大切な人を助けてほしいんです!」
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