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第二十二話 薬屋、その名はアトレ
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「へぇ~! ここがギルドなんだ! わたし、始めて来たよ!」
ロドルフ様から推薦状を貰った私は、二人と一緒にその足でギルドへと足を運んだ。どうやらココちゃんはギルドが初めての様で、終始楽しそうに中を見学していた。
「すみません、少しよろしいですか?」
「おや、確かあなたは薬師志望の方でしたね。ご用件をお伺いします」
「以前薬師になるには、推薦状が必要と仰っていたので、貰ってきたのですが……」
「推薦状を? 失礼ですが、どなたからのでしょうか?」
「ロドルフという、パーチェの外れに住んでいる薬師です。元々はヴァリア家に仕えていた薬師です」
私の代わりにオーウェン様が答えると、以前来た時と同じ受付の女性は、少し目を丸くして驚いたような表情をしていた。
「かしこまりました。ではこちらで推薦状に不備がないか確認いたしますので、お待ちいただけますか?」
「わかりました。ちなみにそれは、どれぐらいかかりますか?」
「不備が無ければ、大体一時間くらいで終わる予定でございます。不備が無いのが確認された後は、申込書類を書いてもらって審査になるのですが、それが何日かかかります」
私達以外にも申し込む人はいるだろうし、他の仕事だってあるだろうから、時間がかかるのは仕方ないわね。むしろ、不備の確認をそんなに早くやってもらえて感謝したいくらいだ。
「では、頃合いを見て戻ってきます」
「かしこまりました」
受付の女性に推薦状を預けた私達は、ギルドのロビーにおかれた椅子に腰を掛けた。
ふぁぁ……朝から動きっぱなしだったからか、ちょっと眠くなってきちゃった。
「…………」
「あら、ココちゃんも眠いの?」
「うん……」
「病み上がりでまだ完全に体力が戻っていないのに、たくさん遊んだから疲れたのだろう。少し時間がかかるようだから、休んでるといい」
「そうする……ふぁ~……」
小さく欠伸をしたココちゃんは、オーウェン様の膝に自分の頭を乗せて目を閉じた。それから間もなく、すやすやと寝息を立て始めた。
「ふふっ、起きている時も可愛いですけど、寝顔もとても可愛いですね」
「ああ。この寝顔は、赤ん坊の頃から全然変わらないよ」
オーウェン様は、とても慈愛に満ちた目でココちゃんを見つめながら、自分と同じ赤い髪を撫でると、ココちゃんはくすぐったそうに身をよじった。
その姿が、とても優しくて……私の目には、オーウェン様のその姿がとても素敵に見えた。
「エリンも眠いなら、少し眠るといい。片膝はココで埋まってるから、もう片方なら貸せるが?」
「だ、大丈夫です!」
も、もうオーウェン様ったら。たまに恥ずかしいことを平気で言ったりやったりするから困るわ。
初めて会った時もお姫様抱っこをされたし、町中でエスコートという名目で手を繋いだし……挙句の果てには、人がいるのに膝枕って……さすがに恥ずかしい。
でも、眠いのは確かだし、このまま座った状態で……少し仮眠を……ぐぅ……。
****
「エリン、起きるんだ」
「……ふぇ……?」
誰かに起こされて、寝ぼけながら目を開けると、そこは見たことがない部屋だった。
私、どうしてこんな所に……って、ここはギルドのロビーじゃない。私ったら、なに寝ぼけているのよ。
「どうやら終わったみたいだ。行ってみよう」
「はい」
ココちゃんをおんぶしたオーウェン様と一緒に受付に行くと、受付の女性はニッコリと微笑んだ。
「お待たせしてしまって申し訳ありませんでした。推薦状には不備が無かったので、このまま書類を書いていただき、最終的に薬師の職について問題ないか審査をいたします」
「わかりました。書類というのは?」
「こちらです」
私の前に、一枚の紙と羽ペンが置かれた。
これを書いていけばいいのね……えっと、名前はエリン……こっちの空欄は何かしら? 後で聞くとして……住所は……なんて書けばいいのだろう?
「失礼。今住んでいる家が、少し離れた森の中にあるのですが、その場合はどうすればいいでしょうか?」
「では、紙の一番下にある備考という欄があるので、そこにパーチェからの行き方を書いてください」
どうすればいいか考えていると、オーウェン様が簡単に聞いてくれた。それがとても安心感につながったようで、そこからはスラスラと書き進められたわ。
しかし、どうしてもわからない部分が残っていた。
「あの、彼と彼女と一緒に仕事をしたいんですけど、それは可能なんですか?」
「薬師となると、同じく推薦状の類が必要になります」
「いえ、二人には薬を作ってもらうのではなく、私の手伝いをしてもらいたいんです」
「助手という形でしたら可能です。この書類のこの欄に、お二人の名前を記載してください。注意点として、万が一助手のお二人が薬を作ったことが発覚した際は、あなたが責任者として責任を取る形になりますが、よろしいですか?」
「はい、大丈夫です。私が書いて良いんですか?」
「ご本人様がいらっしゃるので、できればご本人様に書いていただきたいです」
そうなると、気持ちよさそうに寝ているココちゃんを起こさないとならないのね。ちょっと心苦しいけど……。
「俺が起こすよ。ココ、起きてくれ」
「んっ……なぁに……?」
「手続きをするために、ココの名前が必要なんだ。ちょっと書いてくれないか?」
「名前? わかった……」
完全に寝ぼけたままではあったが、ココちゃんは所定の欄にしっかりと名前を書いてくれた。
「お兄ちゃん、これでいい~?」
「ああ、大丈夫。ありがとう」
「うん……わたし、もうちょっとだけ寝る……ぐぅ……」
再びオーウェン様におんぶをされたココちゃんは、一分もしないうちに眠ってしまった。
やっぱり、まだちゃんと体力が戻っていないのね。仕事が始められたとしても、ココちゃんには無理をさせないようにしないと。
「……よし、俺の名前も書いたよ」
「ありがとうございます。あの、私の名前を書く欄の隣にも空欄がありますが、これは何を書けばいいのですか?」
「そちらは複数人でやる方が、自分達の総称を書くための欄でございます」
「なんとか屋、みたいな感じでしょうか?」
「その認識で問題ございません。あくまで任意ですので、空欄でも構いません」
うーん、せっかくだから何か名前を付けたいわね。その方が、きっと宣伝とかもしやすいだろうし……。
「エリン、君の好きな名前で書いてくれ。もちろん、不要ならそれでもかまわない」
「わかりました。では……」
少し考えた私は、とある言葉が頭に浮かんできた。それをそのまま書類に書き込んだ。
「アトレ……確か、遠い国の言葉で魅力という意味だったな。良い名前じゃないか」
「そうなんですか? 名前を考えてたら、この言葉が浮かんできたんです」
「そういう直感で決めた方が良いのかもしれないな」
「アトレでよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
「かしこまりました。では以上で手続きを終了いたします。審査が終わりましたら、記載いただいた住所に結果をお送りいたします」
「わかりました。では失礼します」
これ以上ギルドにいてもしょうがない。そう思った私は、オーウェン様と一緒にギルドを後にして帰路に着いた。
「無事に進めているみたいで安心したよ」
「これもオーウェン様のおかげです。本当にありがとうございます」
「俺は大したことはしてないよ」
フッと優しく笑うオーウェン様の姿に、私の胸が何故か大きく跳ねた。
こ、ここでその笑顔は反則だと思うわ! だって……あまりにもカッコよくて、素敵にしか見えないもの!
ロドルフ様から推薦状を貰った私は、二人と一緒にその足でギルドへと足を運んだ。どうやらココちゃんはギルドが初めての様で、終始楽しそうに中を見学していた。
「すみません、少しよろしいですか?」
「おや、確かあなたは薬師志望の方でしたね。ご用件をお伺いします」
「以前薬師になるには、推薦状が必要と仰っていたので、貰ってきたのですが……」
「推薦状を? 失礼ですが、どなたからのでしょうか?」
「ロドルフという、パーチェの外れに住んでいる薬師です。元々はヴァリア家に仕えていた薬師です」
私の代わりにオーウェン様が答えると、以前来た時と同じ受付の女性は、少し目を丸くして驚いたような表情をしていた。
「かしこまりました。ではこちらで推薦状に不備がないか確認いたしますので、お待ちいただけますか?」
「わかりました。ちなみにそれは、どれぐらいかかりますか?」
「不備が無ければ、大体一時間くらいで終わる予定でございます。不備が無いのが確認された後は、申込書類を書いてもらって審査になるのですが、それが何日かかかります」
私達以外にも申し込む人はいるだろうし、他の仕事だってあるだろうから、時間がかかるのは仕方ないわね。むしろ、不備の確認をそんなに早くやってもらえて感謝したいくらいだ。
「では、頃合いを見て戻ってきます」
「かしこまりました」
受付の女性に推薦状を預けた私達は、ギルドのロビーにおかれた椅子に腰を掛けた。
ふぁぁ……朝から動きっぱなしだったからか、ちょっと眠くなってきちゃった。
「…………」
「あら、ココちゃんも眠いの?」
「うん……」
「病み上がりでまだ完全に体力が戻っていないのに、たくさん遊んだから疲れたのだろう。少し時間がかかるようだから、休んでるといい」
「そうする……ふぁ~……」
小さく欠伸をしたココちゃんは、オーウェン様の膝に自分の頭を乗せて目を閉じた。それから間もなく、すやすやと寝息を立て始めた。
「ふふっ、起きている時も可愛いですけど、寝顔もとても可愛いですね」
「ああ。この寝顔は、赤ん坊の頃から全然変わらないよ」
オーウェン様は、とても慈愛に満ちた目でココちゃんを見つめながら、自分と同じ赤い髪を撫でると、ココちゃんはくすぐったそうに身をよじった。
その姿が、とても優しくて……私の目には、オーウェン様のその姿がとても素敵に見えた。
「エリンも眠いなら、少し眠るといい。片膝はココで埋まってるから、もう片方なら貸せるが?」
「だ、大丈夫です!」
も、もうオーウェン様ったら。たまに恥ずかしいことを平気で言ったりやったりするから困るわ。
初めて会った時もお姫様抱っこをされたし、町中でエスコートという名目で手を繋いだし……挙句の果てには、人がいるのに膝枕って……さすがに恥ずかしい。
でも、眠いのは確かだし、このまま座った状態で……少し仮眠を……ぐぅ……。
****
「エリン、起きるんだ」
「……ふぇ……?」
誰かに起こされて、寝ぼけながら目を開けると、そこは見たことがない部屋だった。
私、どうしてこんな所に……って、ここはギルドのロビーじゃない。私ったら、なに寝ぼけているのよ。
「どうやら終わったみたいだ。行ってみよう」
「はい」
ココちゃんをおんぶしたオーウェン様と一緒に受付に行くと、受付の女性はニッコリと微笑んだ。
「お待たせしてしまって申し訳ありませんでした。推薦状には不備が無かったので、このまま書類を書いていただき、最終的に薬師の職について問題ないか審査をいたします」
「わかりました。書類というのは?」
「こちらです」
私の前に、一枚の紙と羽ペンが置かれた。
これを書いていけばいいのね……えっと、名前はエリン……こっちの空欄は何かしら? 後で聞くとして……住所は……なんて書けばいいのだろう?
「失礼。今住んでいる家が、少し離れた森の中にあるのですが、その場合はどうすればいいでしょうか?」
「では、紙の一番下にある備考という欄があるので、そこにパーチェからの行き方を書いてください」
どうすればいいか考えていると、オーウェン様が簡単に聞いてくれた。それがとても安心感につながったようで、そこからはスラスラと書き進められたわ。
しかし、どうしてもわからない部分が残っていた。
「あの、彼と彼女と一緒に仕事をしたいんですけど、それは可能なんですか?」
「薬師となると、同じく推薦状の類が必要になります」
「いえ、二人には薬を作ってもらうのではなく、私の手伝いをしてもらいたいんです」
「助手という形でしたら可能です。この書類のこの欄に、お二人の名前を記載してください。注意点として、万が一助手のお二人が薬を作ったことが発覚した際は、あなたが責任者として責任を取る形になりますが、よろしいですか?」
「はい、大丈夫です。私が書いて良いんですか?」
「ご本人様がいらっしゃるので、できればご本人様に書いていただきたいです」
そうなると、気持ちよさそうに寝ているココちゃんを起こさないとならないのね。ちょっと心苦しいけど……。
「俺が起こすよ。ココ、起きてくれ」
「んっ……なぁに……?」
「手続きをするために、ココの名前が必要なんだ。ちょっと書いてくれないか?」
「名前? わかった……」
完全に寝ぼけたままではあったが、ココちゃんは所定の欄にしっかりと名前を書いてくれた。
「お兄ちゃん、これでいい~?」
「ああ、大丈夫。ありがとう」
「うん……わたし、もうちょっとだけ寝る……ぐぅ……」
再びオーウェン様におんぶをされたココちゃんは、一分もしないうちに眠ってしまった。
やっぱり、まだちゃんと体力が戻っていないのね。仕事が始められたとしても、ココちゃんには無理をさせないようにしないと。
「……よし、俺の名前も書いたよ」
「ありがとうございます。あの、私の名前を書く欄の隣にも空欄がありますが、これは何を書けばいいのですか?」
「そちらは複数人でやる方が、自分達の総称を書くための欄でございます」
「なんとか屋、みたいな感じでしょうか?」
「その認識で問題ございません。あくまで任意ですので、空欄でも構いません」
うーん、せっかくだから何か名前を付けたいわね。その方が、きっと宣伝とかもしやすいだろうし……。
「エリン、君の好きな名前で書いてくれ。もちろん、不要ならそれでもかまわない」
「わかりました。では……」
少し考えた私は、とある言葉が頭に浮かんできた。それをそのまま書類に書き込んだ。
「アトレ……確か、遠い国の言葉で魅力という意味だったな。良い名前じゃないか」
「そうなんですか? 名前を考えてたら、この言葉が浮かんできたんです」
「そういう直感で決めた方が良いのかもしれないな」
「アトレでよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
「かしこまりました。では以上で手続きを終了いたします。審査が終わりましたら、記載いただいた住所に結果をお送りいたします」
「わかりました。では失礼します」
これ以上ギルドにいてもしょうがない。そう思った私は、オーウェン様と一緒にギルドを後にして帰路に着いた。
「無事に進めているみたいで安心したよ」
「これもオーウェン様のおかげです。本当にありがとうございます」
「俺は大したことはしてないよ」
フッと優しく笑うオーウェン様の姿に、私の胸が何故か大きく跳ねた。
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