13 / 115
第十三話 とある貴族の過去
しおりを挟む
「お父様が、お母様を……!?」
重い話になるのは予想していたけど、私の想像の上を行く内容に、思わず目を丸くして驚いてしまった。
「何か事情があったんですよね?」
「ええ。事件があったのは七年前……俺が十五歳で騎士団に入りたてで、ココはまだ二歳の時でした。当時、クロルーツェはとある組織と争いをしておりました」
「組織?」
「巨大な犯罪組織です。詐欺や人攫いに殺しと、犯罪なら何でもやっていた組織です。その組織のせいで、国は大混乱に陥りました」
そんな組織がクロルーツェにいたなんて、驚きだわ。私が知らないだけで、アンデルクにもその話は伝わってたのかもしれないけど。
「その組織を壊滅させるため、父が率いる第二部隊も、各部隊と連携して本拠地に攻め込みました。しかし、その途中で敵の罠にはまり、母が捕まってしまったんです」
「……そ、それでどうなったんですか?」
「敵は母を人質にし、全部隊を撤退させるように要求してきました。その決定権は、上司であり、指揮を任されていた父にあったのですが……父は考えに考えた結果、要求を呑まずに、攻め込みました。国や民のためなら自分達の命なんて二の次だと、父も母も決めていたからです」
……話の結末が、何となく読めてきた。もしこの考えが当たっていたらと思うと、胸が苦しくなる。
「その結果、一気に組織を追い込むことが出来ましたが……敵は大量の火薬を使い、共倒れをしようとしました。その結果、騎士団や一般人に多大な被害を与えて……滅びました。一部生き残りがいて、逃げられてしまったそうですが」
「お母様は、どうなったんですか?」
「交渉決裂によって、組織のボスに殺されました」
「そんな……酷い……」
既に亡くなっているとわかっていたから、お話を聞いていて、もしかしてそうなんじゃないかと思っていたけど……できれば、当たってほしくなかった。
「父はその後、騎士団の一部から、父の判断が悪かったせいで、国と民に大きな傷を負わされたと、非難されるようになりました。それと同時に、父が母を殺したも同然だという声も上がりました」
「非難……? おかしくありませんか? お父様は国のためにつらい選択をされたのに、どうして非難されなければいけないんですか!? それに、あなたのお父様は、お母様を殺してなんていないじゃないですか!」
きっとオーウェン様のお父様は、身を引き裂かれるような思いをして、それでも国のために指示を出したに違いない。それなのに、どうして責められなくてはいけないの?
それに、大切な人を失って悲しんでいる人に向かって、人殺しなんて言うなんて……信じられない!
「民が非難したくなる気持ちも、わからなくはないんです。父が交渉を呑んでいれば、敵が火薬なんて使わなかったかもしれませんからね。勇ましいといえば聞こえはいいですが、無謀だったのも否めません」
「でも、仮に呑んでいたとしても、使わなかった保証はありません! それに、もっと多くの犠牲者が出る可能性もありましたよね!?」
「ええ。ですが……誰かの責任にしたくなるくらい、あの戦いでの犠牲は大きかったのです」
あまりにも理不尽すぎて、薬を作る手を止めて怒りに身を任せてしまったが、悔しそうに俯くオーウェン様を見たら、それ以上何も言えなくなってしまった。
「……ごめんなさい。つらいのはオーウェン様なのに、私の方が感情的になってしまいました」
「気にしないでください。それで、最初は一部からの声でしたが、段々とそれが広がり……父への非難は、一般人にも責められるくらいにまで広がってしまったのです」
「…………」
「結果、父は全ての責任を負わされました。王の勅命で騎士団を追放され、爵位も剥奪されました。それから間もなく、父は心労で体を壊してしまい……俺とココ、そして母に最後まで謝罪をしながら、この世を去りました」
……あまりにも残酷すぎて、言葉が出ない。国と民を守るために決断したのに、結果的に国と民に責められて、そのまま亡くなってしまうなんて……救いが無さすぎる。
「その後、爵位を奪われたヴァリア家は、崩壊するしか道が無かった。当然屋敷も無くなり、住む家を失いました。唯一残ったのは、少量の金と……ヴァリア家に代々伝わる剣だけでした」
「では、その剣はご両親の形見なんですね……」
「ええ、その通りです。当時の俺は、両親を侮辱する連中に復讐をしようとしました。ですが、当時いた唯一の味方が、そんなことは両親は望んでいないと説得してくれて……自分の気持ちを抑えることが出来たのです」
私には、オーウェン様の怒りと悲しみを、全て理解してあげることは出来ない。今の私に出来ることは、話をしっかり聞いて、少しでもオーウェン様に楽になってもらうことだけだ。
「それに、俺には唯一の家族であるココがいました。ココを育てないといけない……そう決めた俺は、残った金を使って人気が無い場所に小屋を建てて、ココとひっそりと暮らしているのです」
「そうだったんですね……つらいことを聞いてしまって、申し訳ありませんでした」
「いえ、俺は大丈夫ですよ」
言葉では強がっているけど、きっと本人は私の想像よりも、はるかにつらいはずだ。なのに、こうして私に変に心配をかけないようにするなんて、本当に強い方だ。
「つまらないうえに、長々と聞かせてしまいましたね。俺はココの所にいるので、薬の方はよろしくお願いします」
「わかりました。完成したら持っていきますので、なにかあったら呼んでください」
地下に戻っていくオーウェン様を見送った私は、ふう……と小さく息を漏らしながら、再び薬の製作に戻った。
「知らなかったとはいえ、傷口を抉るようなことを聞いちゃったな……」
ちょっと気になったから聞いただけだったのに、まさかこんな話が出てくるとは……自分の浅はかさが恨めしい。
……いや、後悔は後ですればいいわね。今私がするべきことは、ココ様を完治させて、オーウェン様に安心してもらうことだ。
重い話になるのは予想していたけど、私の想像の上を行く内容に、思わず目を丸くして驚いてしまった。
「何か事情があったんですよね?」
「ええ。事件があったのは七年前……俺が十五歳で騎士団に入りたてで、ココはまだ二歳の時でした。当時、クロルーツェはとある組織と争いをしておりました」
「組織?」
「巨大な犯罪組織です。詐欺や人攫いに殺しと、犯罪なら何でもやっていた組織です。その組織のせいで、国は大混乱に陥りました」
そんな組織がクロルーツェにいたなんて、驚きだわ。私が知らないだけで、アンデルクにもその話は伝わってたのかもしれないけど。
「その組織を壊滅させるため、父が率いる第二部隊も、各部隊と連携して本拠地に攻め込みました。しかし、その途中で敵の罠にはまり、母が捕まってしまったんです」
「……そ、それでどうなったんですか?」
「敵は母を人質にし、全部隊を撤退させるように要求してきました。その決定権は、上司であり、指揮を任されていた父にあったのですが……父は考えに考えた結果、要求を呑まずに、攻め込みました。国や民のためなら自分達の命なんて二の次だと、父も母も決めていたからです」
……話の結末が、何となく読めてきた。もしこの考えが当たっていたらと思うと、胸が苦しくなる。
「その結果、一気に組織を追い込むことが出来ましたが……敵は大量の火薬を使い、共倒れをしようとしました。その結果、騎士団や一般人に多大な被害を与えて……滅びました。一部生き残りがいて、逃げられてしまったそうですが」
「お母様は、どうなったんですか?」
「交渉決裂によって、組織のボスに殺されました」
「そんな……酷い……」
既に亡くなっているとわかっていたから、お話を聞いていて、もしかしてそうなんじゃないかと思っていたけど……できれば、当たってほしくなかった。
「父はその後、騎士団の一部から、父の判断が悪かったせいで、国と民に大きな傷を負わされたと、非難されるようになりました。それと同時に、父が母を殺したも同然だという声も上がりました」
「非難……? おかしくありませんか? お父様は国のためにつらい選択をされたのに、どうして非難されなければいけないんですか!? それに、あなたのお父様は、お母様を殺してなんていないじゃないですか!」
きっとオーウェン様のお父様は、身を引き裂かれるような思いをして、それでも国のために指示を出したに違いない。それなのに、どうして責められなくてはいけないの?
それに、大切な人を失って悲しんでいる人に向かって、人殺しなんて言うなんて……信じられない!
「民が非難したくなる気持ちも、わからなくはないんです。父が交渉を呑んでいれば、敵が火薬なんて使わなかったかもしれませんからね。勇ましいといえば聞こえはいいですが、無謀だったのも否めません」
「でも、仮に呑んでいたとしても、使わなかった保証はありません! それに、もっと多くの犠牲者が出る可能性もありましたよね!?」
「ええ。ですが……誰かの責任にしたくなるくらい、あの戦いでの犠牲は大きかったのです」
あまりにも理不尽すぎて、薬を作る手を止めて怒りに身を任せてしまったが、悔しそうに俯くオーウェン様を見たら、それ以上何も言えなくなってしまった。
「……ごめんなさい。つらいのはオーウェン様なのに、私の方が感情的になってしまいました」
「気にしないでください。それで、最初は一部からの声でしたが、段々とそれが広がり……父への非難は、一般人にも責められるくらいにまで広がってしまったのです」
「…………」
「結果、父は全ての責任を負わされました。王の勅命で騎士団を追放され、爵位も剥奪されました。それから間もなく、父は心労で体を壊してしまい……俺とココ、そして母に最後まで謝罪をしながら、この世を去りました」
……あまりにも残酷すぎて、言葉が出ない。国と民を守るために決断したのに、結果的に国と民に責められて、そのまま亡くなってしまうなんて……救いが無さすぎる。
「その後、爵位を奪われたヴァリア家は、崩壊するしか道が無かった。当然屋敷も無くなり、住む家を失いました。唯一残ったのは、少量の金と……ヴァリア家に代々伝わる剣だけでした」
「では、その剣はご両親の形見なんですね……」
「ええ、その通りです。当時の俺は、両親を侮辱する連中に復讐をしようとしました。ですが、当時いた唯一の味方が、そんなことは両親は望んでいないと説得してくれて……自分の気持ちを抑えることが出来たのです」
私には、オーウェン様の怒りと悲しみを、全て理解してあげることは出来ない。今の私に出来ることは、話をしっかり聞いて、少しでもオーウェン様に楽になってもらうことだけだ。
「それに、俺には唯一の家族であるココがいました。ココを育てないといけない……そう決めた俺は、残った金を使って人気が無い場所に小屋を建てて、ココとひっそりと暮らしているのです」
「そうだったんですね……つらいことを聞いてしまって、申し訳ありませんでした」
「いえ、俺は大丈夫ですよ」
言葉では強がっているけど、きっと本人は私の想像よりも、はるかにつらいはずだ。なのに、こうして私に変に心配をかけないようにするなんて、本当に強い方だ。
「つまらないうえに、長々と聞かせてしまいましたね。俺はココの所にいるので、薬の方はよろしくお願いします」
「わかりました。完成したら持っていきますので、なにかあったら呼んでください」
地下に戻っていくオーウェン様を見送った私は、ふう……と小さく息を漏らしながら、再び薬の製作に戻った。
「知らなかったとはいえ、傷口を抉るようなことを聞いちゃったな……」
ちょっと気になったから聞いただけだったのに、まさかこんな話が出てくるとは……自分の浅はかさが恨めしい。
……いや、後悔は後ですればいいわね。今私がするべきことは、ココ様を完治させて、オーウェン様に安心してもらうことだ。
31
お気に入りに追加
1,304
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる