上 下
8 / 115

第八話 絶体絶命

しおりを挟む
「……はぁ」

 森に入って三日目の朝。私は大きな木を背にして座り込みながら、大きく溜息を漏らした。

 もっと早く抜けられると思っていたのだけど、森は想像以上に広かった。それに加えて、ずっと離宮で薬を作っていたことによる体力と筋力の低さも相まって、思うように進めない。

 こんなことになるなら、もっと体を鍛えておけばよかった。でも、日に日に薬のノルマが増えていたから、体をしっかりと鍛えられるほどの時間を確保するのは、あまり現実的ではなかった。

「休んでても仕方がないわね。少しでも進まないと」

 私は土で汚れた足に、やや無理やり力を入れて立ち上がると、奥に向かって進んで行く。

 進むといっても、こっちで合っているかの保証はない。なにせ、町がある方角なんてわからないし、その方角自体も知る方法がない。

「あ、この野草……たしか一応食べられるはずだわ……」

 進む途中、薬を作る時に使う野草を見つけた私は、そのまま野草に噛り付いた。苦くておいしくないけど、栄養価は結構高かったと記憶している。

「この真っ赤な果実も、おいしくはないけど、水分が豊富に入ってたはず。この木の実は……毒があるからダメ。この紫色のキノコ……うん、明らかに毒っぽい」

 今まで勉強した薬の知識を活かして、食べられるものを選別して集めていく。これが出来るおかげで、三日も生き延びられていると言っても過言ではない。

 ちなみにだけど、ハウレウから貰った食べ物や水は、もう無くなってしまっている。

「……あっ! あそこに見えるのは……リンゴだわ!」

 食料を探しながら進んでいると、リンゴの木が群生している場所を見つけた。まだ青いのもあったけど、半分くらいは赤く熟していて、とてもおいしそうだ。

 いくつかいただいていけば、しばらくの間は食料に困ら無さそうだ。筋力が無いから、たくさんは持っていけないのが悔やまれるけど、仕方がない。

「それじゃあありがたく……あれ?」

 あともう少しでリンゴの木に到着というところで、何かがリンゴの木の上にいるのを見つけた。

 そこにいたのは……真っ白な体に、顔に赤い模様が入っている猿だった。

「も、もしかして……アカジサル? もうほとんど見かけない珍しい猿のはずなのに、こんな森の中に生き残りがいたの?」

 アカジサルは、元々真っ白な体毛の猿だけど、雌へアピールするために、赤い果実を潰して得た果汁を顔に塗る習性がある。それが文字に見えるからアカジサルと呼ばれている。

 見た目は白くて綺麗な猿だけど、彼らはとある理由で、とても危険な動物として、駆除されたと聞いたことがある。

「まだ生き残りがいたことは驚きね……絡まれる前にここを立ち去ろう」
「…………」
「き、気づかれた……?」

 立ち去る前に、アカジサル達と視線がぶつかってしまった。まだ敵と認識はされてないのか、ジッと見てくるだけで、襲ってくる気配は無い。

 このままゆっくりと後ろに下がっていけば、敵意が無いと思ってもらえるだろう。そう考えて後ずさりをしていると、少し太めの枝を踏んでしまった。

 枝なんて、踏めば当然折れてしまう。その音が思ったよりも大きかったせいか、アカジサルは甲高い鳴き声を上げながら、私に向かって一直線に向かってきた。

「きゃあ!? に、逃げなきゃ!!」

 私はスカートの裾が木の枝に引っ掛からないように持ちながら、全速力で逃げる。

 彼らには絶対に捕まってはいけない。それどころか、引っかかれたり噛まれたりしてもいけない。それがわかっている私は、とにかく全速力で走った。

「はぁ……はぁ……あっ!!」

 元々体力がないうえに、慣れない外の生活による疲労もあってか、私は足をもつれさせて転んでしまった。

 このままだと、私は彼らに殺されてしまう。しかし、逃げたくても疲労で体が思うように動いてくれない。

 ここまでなのだろうか。せっかくハウレウ達が私を逃がして、自由にしてくれたのに、彼らの努力と好意を無駄にするというの?

 ……そんなの、嫌だ!!

「最後の最後まで、あがいてやる! すうぅぅぅぅ……あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 体は動かない。戦う力もない。そんな私に思いついたことは、大声を出してアカジサル達を驚かして追い払うことだった。

 これがうまくいくかなんて保証は無い。むしろ、彼らを余計に興奮させてしまうだけかもしれない。それでも、黙ってやられるよりかは、幾分良いと思う。

「……キー!!」
「っ……!」

 一瞬だけ怯んでくれたけど、結局逃げださなかったアカジサル達は、私の顔を丸呑みにしようと、大きく口を開けながら飛びついてきた。

 これは、もうダメだ……そう思った瞬間、私に噛みつこうとしていたアカジサルの顔に、どこからか飛んできた大きな石が直撃した。

「い、今のは……」

 驚いたのは私だけじゃなかった。彼らもどこから攻撃されたのか分からず、辺りを警戒している。

 一体誰なの? 私を助けてくれたけど、まだ味方かどうかわからないし、油断は絶対にしてはいけない……そう思っていると、草陰から人影が飛び出してきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ
ファンタジー
 オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。  レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。    十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。 「私の娘になってください。」 と。  養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。 前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~

誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。

木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。 それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。 誰にも信じてもらえず、罵倒される。 そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。 実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。 彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。 故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。 彼はミレイナを快く受け入れてくれた。 こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。 そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。 しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。 むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。

蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。 しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。 自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。 そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。 一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。 ※カクヨムさまにも掲載しています。

実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。 しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。 彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。 知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。 新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。 新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。 そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

処理中です...