【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜

ゆうき

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第四十六話 黒幕の正体

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 あれから三日後、私とブラハルト様は、アセット家の屋敷へとやってきた。
 前回のパーディーで伺った時は、たくさんの来賓の方々で賑わっていたけど、今日はとても静かだ。

「いらっしゃいませ、ブラハルト・アルスター様、エルミーユ・アルスター様。ご主人様は、客間でお待ちですわ」
「わかりました。案内をお願いできますか?」
「承知いたしました」

 出迎えてくれた男性の使用人の案内の元、私達は客間へと通された。
 そこには、パーティー会場でもお見かけたアセット子爵が、やや落ち着かない感じで座っていた。

「あ、ああ! ようこそブラハルト伯爵、エルミーユ夫人!」
「ごきげんよう、アセット子爵。本日はお忙しい中お時間いただき、誠に感謝いたします」
「ごきげんよう。前回はご挨拶が出来なくて、大変申し訳ございませんでした。それと、私情で大切なパーティーに水を差してしまったこと、深くお詫び申し上げます」

 ブラハルト・アルスターの妻は人様のパーティーを台無しにした上に、謝罪の一つも出来ない人間だと思われないように、早々に謝罪をした。

「いえいえ、お気になさらず! ささっ、どうぞおかけになってください!」
「寛大なお言葉、誠にありがとう存じますわ」

 アセット子爵に感謝を伝えてから、私達はソファに腰を下ろした。

「そ……それで、お話とはなんでしょうか?」
「以前アセット家で開かれたパーティーで、我々は何者かの襲撃に合いました」
「襲撃ですって……!? そ、それはとても大変な目に合われたのですね!」

 驚きながらも、心配しているような素振りをしているが、先程よりも落ち着きが無くなり、目の焦点もあちこちに行っている。明らかに動揺している人間の反応だ。

「俺と使用人のマリーヌは、襲われた時の記憶が曖昧なのですが、妻だけはすべて覚えていました。どうやら、屋敷のとある部屋に連れていかれ、何者かに薬を嗅がされたそうでして。その誘導した人物が、アセット家の使用人だったそうです」
「…………」

 言葉はなにも返ってこない。だが、アセット子爵の顔色はどんどんと悪くなり、滝のような冷や汗が流れ始めていた。

 なんだか、これでは私達の方が悪人で、アセット子爵をいじめているように思えてきて、気の毒に感じてきた。

「こちらをご確認ください。この二枚の似顔絵は、妻の証言を元にして、俺が描いたものです。一枚目が妻を襲った人物、二枚目が妻を部屋まで誘導した、この家の使用人です。当然、見覚えはあるでしょう?」
「し、知りませんよ!」
「そうですか。ではこの男は、妻を襲うために屋敷に侵入していたということですね。多くの家が招待されたパーティーで侵入者など、とんだ失態ですね」
「そ、そんなことはありません! もし本当に侵入者なんていれば、彼らの計画が!」
「計画、ですか」
「…………」

 アセット子爵は咄嗟に口を抑えるが、もうすべてが遅かった。
 まさに、盛大な自爆をしたという言葉がぴったりな状況だ。

「アセット子爵。私は、あなたがとても優しいお方だと存じております。そんなあなたが、誰かを襲うようなことを支持するとは、到底思えませんの」
「…………」
「私も夫も、もしあなた方が関わっていたとしても、あなたに報復するつもりはありません。だから、教えていただけませんか? 一体誰に頼まれて、こんなことをしたのかを」

 諭すように伝えると、アセット子爵は頭を抱えて考え込む。
 きっと、彼にとってはとても重要な選択に迫られているのだろう。だから、私もブラハルトも、焦らせずにじっと待つ。

 すると、アセット子爵は、ポツリポツリと何かを話し始めた。

「わ、私は……彼らが行う計画のために、我が家でパーティーを開くことと……アルスター夫妻を、定刻になったら指定された部屋に誘導することと……臨時の使用人を一人使ってくれと頼まれただけです……!」
「どうして、こんなことに手を貸したのですか?」
「い、言うことを聞かなければ……家族や使用人達がどうなってもいいのかと脅されて……うぅ、記憶が無くなる作用がある薬を使うから、絶対にバレないと言っていたのに……話が違う……!」

 なるほど、事前にそう聞いていたのなら、使用人を使っても大丈夫だと思ったのね。
 本当に、今回はこの頭があって良かったと、心の底から思えるわ。

「でもまさか、お二人がそんな危険な目に合うなんて! 本当に、本当に申し訳ない! 私はどうなってもいいし、お詫びもする! だか。どうか家族と使用人達には手を出さないでくれ!」

 アセット子爵は、私達の前で土下座をして、私達に謝罪と懇願をする。

 貴族の家長として、土下座までして心の底から謝罪をし、大切な人達を守ろうとするその姿勢は、家長として立派な行動だ。心の底から敬意を表したい。

「頭を上げてください。あなただって、被害者ではありませんか」
「彼女の言う通りです。真に裁かれるべきは、あなたのような心優しき人物を利用した、黒幕です」
「えっ……私を許してくれるのですか……?」
「はい。ですから、頭を上げてください」
「あ、ありがとうございます……ありがとうございます……!」

 私とブラハルト様は、アセット子爵の肩にそっと手を置き、優しく声をかけると、アセット子爵はポロポロと大粒の涙を流しながら、何度も頭を下げた。

 こんなことに利用されてしまったことへの心労は、私には想像もできないくらいだろう。

「それで、あなたを脅したのは、誰ですか?」
「……エルミーユ夫人のご実家である、ワーズ家です」
「わ、ワーズ家!?」

 一体黒幕は誰なのか……その問いを、アセット子爵が少し落ち着いた頃に、ブラハルト様が投げかけた。
 その回答を聞いた私は、部屋中に大きな声を響かせてしまった。

 まさか、こんな所でまた実家の名前を聞くとは思ってなかった……どこまであの人達は
私の幸せの邪魔をすれば気が済むの!?

「なるほど、ワーズ家ですか……今回の一件の実行理由や、計画の内容についてなどは言っていましたか?」
「わ、私もそれは気になりました。それで、ワーズ家の使者に聞いたのですが……答えてくれませんでした。それ以外にも、こちらの話を聞く気がなかったと言いますか……終始ふざけたような感じで、はぐらかされてしまって……」

 そんな人間を使者として送るのもどうかと思うけど、ワーズ家にそんな不誠実なお方はいなかったはずだ。
 もしかしたら、私がいなくなった後に雇った人の可能性もあるけど、そんな役を新しく雇ったばかりの人を使うのかしら?

「……アセット子爵、その使者について教えていただけますか?」
「随分と陽気な使者でした。常に人を小馬鹿にするようにヘラヘラしていると言いますか、不誠実の塊と言いますか……」
「その使者の名前は聞いていますか?」
「確か、ファソンと名乗っておりました」
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