【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜

ゆうき

文字の大きさ
4 / 56

第四話 婚約破棄!?

しおりを挟む
「……はい? 今なんと仰いましたか?」
「だから、君との婚約を破棄して、コレットと婚約をするんだ」

 同じことを二度言わされたからか、ヴィルイ様は少し眉間にシワを寄せていた。
 聞き間違いかと思ったけど、私の耳がおかしくなったわけじゃなかったようだ。

 婚約破棄なんて、冗談じゃない。結婚が出来なかったら、私はこの屋敷を出ることが出来ないわ!

「そんな話、私は何も聞いておりませんし、納得できるはずがありませんわ!」
「君が納得いかなくても、これは既にワーズ家とジョレッド家の間で話し合い、両家共に了承していることだ」
「っ……! どうしてそんなことになったのですか!?」
「それは、自分がよく知っていることだろう?」
「わ、私が?」
「エルミーユ、君はコレットに日常的に肉体的にも、精神的にも酷いことをしてきたそうじゃないか」
「はっ……?」

 ヴィルイ様の仰っていることが全く意味がわからなくて、変な声が出てしまった。

 私はコレットにそんなことなどしていない。むしろ、日常的に酷いことをされているのは、私の方だ。

「暴力を振るったり、食事を抜いたり、寒い部屋に放置したり、随分とやりたい放題だったそうだね。コレットから全て聞いたよ」

 だから、それは私が幼い頃からされていたことだ。
 もしかしてコレットは、私がされていたことを、全部自分がされていたことに置き換えて話したの?

「そ、そんなことはしておりませんわ。むしろそれは――」
「ぐすんっ、大好きなエルミーユお姉様とはいえ、毎日つらくて……お父様とお母様に相談しても聞いてもらえなくて……それで、ヴィルイ様ならなんとかしてくれると思って……」

 私の言葉を邪魔するように、コレットは涙声で弱音を漏らす。

 傍から見れば、とても可哀想で儚げな少女に見えるかもしれない。
 でも、私は見逃さなかった。顔を覆う両手の隙間から見えた、嫌らしく上がる口角を。

「可哀想なコレット……ご両親の弱みを握ってまで、コレットを虐げていると聞いた時は、耳を疑ったよ。エルミーユが、そんな酷い人だとは思っても無かったからね」
「よ、弱みって……?」
「君の出生のことだ。君のお父上は、使用人だった女性に襲われたことで、君が生まれたが、それをお父上が襲ったと偽りの噂を流すと、脅したそうじゃないか。ご本人からも、脅されていると直接聞いている」
「なっ!?」

 ヴィルイ様から語られた内容の衝撃は、凄まじいものだった。
 まるで、頭の先からつま先まで、強い稲妻が走ったかのようだ。

「それは違います! 虐げていることはコレットの嘘ですし、私の出生のことは本当です! 私のお母様は――」
「ヴィルイ様、可哀想なエルミーユお姉様をあまりいじめないで上げてください。きっと真実を受け入れられなくて、あたしをいじめて鬱憤を晴らしたかったんですよ」
「ヴィルイ様、私を信じてください!」
「エルミーユ、これを見てもまだ同じことが言えるのかい?」

 ヴィルイ様は、そっとコレットのドレスの袖口を上げる。
 そこにあったのは、痛々しく刻まれた切り傷や、青あざだった。

「この傷は、君がやったものだね」
「い……いえ、違います」
「口では何とでも言える。この傷以外にも、体全体にたくさん傷があるのを、この目で見させてもらったよ」

 まだ嫁入り前の若い女性が、体中にある傷を殿方に見せたというのも気になるが、どうしてそんな傷があるのかの方が重要だ。

 私が知る限りでは、腕にあんな怪我はなかった。
 それに、ちょっと転んですりむくだけで大騒ぎをするコレットが、そんなにたくさんの傷がある状態で、耐えられるとも思えない。

「もう言い訳をする必要はないよ。とにかく、コレットの話を聞いた僕は、君との婚約を解消することに決めた。それを決めてから、君と関わるのも嫌になって、極力関わらないようにしていた」

 最近冷たい態度を取っていたのは、そういうことだったの?
 いくら愛し合っていない関係だったとはいえ、嘘を信じ込んで態度を一転させるのは、納得できるものじゃない。

「それでね、親身に聞いてくれるヴィルイ様のことを、いつの間にか好きになっちゃって……エルミーユお姉様には申し訳ないけど、自分の気持ちに嘘をつけないの」
「僕も、コレットと交流を続けているうちに、彼女の優しさや愛らしさに心をを奪われてしまったから、僕から婚約を申し出たんだ」
「あたし、中々婚約者に恵まれなかったから、本当に嬉しかった! エルミーユお姉様なら、祝福してくれるよね?」

 さっきまでめそめそしていたのが嘘のように、コレットは小首を傾げながら、ニッコリと微笑む。

 祝福なんて、出来るはずもない。
 今だって、怒りや悲しみといった負の感情を発散させるために、テーブルの下で握り拳を作っているくらいだ。

 でも、ここでコレットとヴィルイ様に何を言っても、決定は覆ることは出来ないと思う。
 それなら……今の私に出来るのは、とりあえずこの場を乗り切って、お父様に直談判をすることだろう。

「あれ、エルミーユお姉様? 急に立ち上がってどうしたの?」
「少し体調がすぐれないから、今日は失礼させてもらうわ。あとはお二人でどうぞ」
「まだコレットの傷についての説明と謝罪を受けていないが?」
「何度聞かれても、私の答えは変わりません。では、失礼いたしますわ」

 私は丁寧にお辞儀をしてから、二人の前から立ち去った。

 あまりにも色々な情報を頭に詰め込んだせいで、少し眩暈がするけれど、この地獄から逃げだすために、立ち止まってはいられない。早くお父様とお義母様に事情をお伺いしないと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を罵った皆様、お元気かしら。今、辺境伯が私への愛を叫んでいます。

百谷シカ
恋愛
「君みたいな頭のおかしい女とは結婚できん! 怪しすぎる!!」 私はシビッラ伯爵令嬢スティナ・シスネロス。 生まれつき霊感が強くて、ちょっと頭を誤解されがち。 そして婚約破棄の直後、うっかり軽く憑りつかれちゃった。 アチャー……タイミング悪すぎだっつーの。 修道院にぶち込まれそうになったところで、救いの手が差し伸べられた。 姉の婚約者が、幽霊に怯える辺境伯に相談役として紹介してくれたのだ。 若くして爵位を継いだ、やり手のフロールマン辺境伯。 クールで洗練されていて、とても幽霊なんて信じてない感じだけど…… 「私の名はジークフリード・マイステルだ。よろしッ……ヒィッ!!」 「あ」 ……見えているのね。 そして、めっちゃ怯えてる。 いいでしょう! 私がお助けいたしましょう! 「ぎゃあ! ああっ、嫌ッ! スティナ! もうダメぇっ!!」 今夜もいい声ですねぇッ!! (※この物語には幽霊が登場しますが、たぶん恐くはありません)

私を溺愛している婚約者を聖女(妹)が奪おうとしてくるのですが、何をしても無駄だと思います

***あかしえ
恋愛
薄幸の美少年エルウィンに一目惚れした強気な伯爵令嬢ルイーゼは、性悪な婚約者(仮)に秒で正義の鉄槌を振り下ろし、見事、彼の婚約者に収まった。 しかし彼には運命の恋人――『番い』が存在した。しかも一年前にできたルイーゼの美しい義理の妹。 彼女は家族を世界を味方に付けて、純粋な恋心を盾にルイーゼから婚約者を奪おうとする。 ※タイトル変更しました  小説家になろうでも掲載してます

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに、なぜか潔癖公爵様に溺愛されています!〜

海空里和
恋愛
まるで物語に出てくる「悪役令嬢」のようだと悪評のあるアリアは、魔法省局長で公爵の爵位を継いだフレディ・ローレンと契約結婚をした。フレディは潔癖で女嫌いと有名。煩わしい社交シーズン中の虫除けとしてアリアが彼の義兄でもある宰相に依頼されたのだ。 噂を知っていたフレディは、アリアを軽蔑しながらも違和感を抱く。そして初夜のベッドの上で待っていたのは、「悪役令嬢」のアリアではなく、フレディの初恋の人だった。 「私は悪役令嬢「役」を依頼されて来ました」 「「役」?! 役って何だ?!」  悪役令嬢になることでしか自分の価値を見出だせないアリアと、彼女にしか触れることの出来ない潔癖なフレディ。 溺愛したいフレディとそれをお仕事だと勘違いするアリアのすれ違いラブ!

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました

おりあ
恋愛
 アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。 だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。  失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。  赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。 そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。  一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。  静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。 これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。

処理中です...