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第九話 両親と継母の関係

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「んー……お手洗い……」

 その日の真夜中、私はお手洗いに向かう為に、半分寝ぼけた状態で廊下を歩いていました。すると、とある部屋から漏れる光が、暗い廊下の一部を照らしていました。

 こんな夜中に起きているのなんて、彼しかいませんわ。今日も訓練で大変そうでしたし、様子を見に行きましょう。

「カイン様、マシェリーですわ」
「マシェリー? どうぞ」
「失礼いたします」

 私はノックをしてから部屋に入ると、そこにはカイン様の他に、セバス様が立っておられました。

「これはこれは……こんばんは、マシェリー様」
「こんばんは、カイン様、セバス様。夜分遅くに申し訳ございません。お花を摘みに向かう途中、明かりが漏れていたので様子を見に来たのです」
「そうだったんだね。これからセバスに紅茶を出してもらうつもりだったんだけど、よかったら一緒にどうだ?」
「まあ、是非いただきたいわ。でもその前に……」
「ええ、どうぞごゆっくり行ってらっしゃいませ。ワタクシはその間に準備しておりますので」

 お気遣いに感謝をしながら、私は手早くお手洗いを済ませて戻ってくると、そこには既に紅茶が用意されていました。

 ん~……とても良い香りですわ。コルエに邪魔をされないお茶の時間というのは、なんて幸せなのでしょう。

「ではワタクシはこれで失礼します、お二人でどうぞごゆっくり」
「あ……紅茶、ありがとうございました」
「ワタクシには勿体ないお言葉ですな。では」

 はあ、せっかくの機会でしたから、セバス様も交えてお話をしたかったのですが、仕方がありませんわ。カイン様との優雅な真夜中の紅茶としゃれ込みましょう。

「なにをされていたのですか?」
「騎士団の訓練メニューの組み直しだよ。今日の訓練で、まだ改善の余地があったからね」
「……本当に頑張っていらっしゃるのですね、私の国では、騎士団長はそんなに働いておりませんでしたわ。訓練は指示をするだけ、メニューだって別の人が考えておりました」
「普通はそうだろうね。俺は事情が事情だから、たくさん頑張って認めてもらわないといけないのさ」

 うぅ、さっきの男性達の言葉が頭に過ぎりますわ。それと同時に、激しい怒りも込み上げてきます。

「こんなに頑張っているのに……どうして……!」
「やはりなにかあったんだね」
「……ええ、実は……あなたを悪く言う兵士がいて。カイン様は頑張っていらっしゃるのに……私、悔しくて……!」
「俺の事をそんな風に言ったのは、君が初めてだ」
「言いたくもなりますよ! もう……紅茶を飲んでリフレッシュですわ」

 紅茶を口に入れると、口いっぱいにお花の香りが広がって……何とも美味です。そして、イライラしていたのも、少しだけ治まりましたわ。

 せっかく怒りも収まり、ゆっくりと話す時間があるのですから、カイン様と会話を楽しみましょう。

「カイン様のお父様って騎士団長だったんですよね? どんな方だったんですか?」
「父は……頑固な人だったよ。それにとても情熱的で、曲がった事を嫌い、悪は絶対に許さない、そんな人だった。その性格故か、訓練は熾烈を極めていたが、父の人望のおかげでみんなついていけてたんだ。俺はそんな父に憧れ、父のような騎士団長になりたいと思った」

 きっと立派なお父様だったのでしょうね……憧れますわ。もちろん私のお父様も、国の為にその身を捧げた偉大なる王でしたから、とても尊敬しております。

「父は、ヴァンパイアが住む谷の近くに野営をしていた時に母と知り合い、そのまま恋に落ちて結婚し……俺が生まれた。当然、世間の当たりは強かったよ。父も母も強い人で……周りの声に負けずに、俺を育ててくれた。母も批判に負けず、俺を愛情深く育ててくれた」
「素晴らしいお父様とお母様ですね」
「ああ、俺の自慢の両親だ。だが……父は遠征中に落盤事故に巻き込まれ、部下を庇って亡くなった。母も俺が幼い頃に体を壊し、そのまま帰らぬ人となった。それからは、俺はずっと一人だ」

 ……つらい過去を背負っているのは理解しておりましたが……想像以上に重くて、悲しくて……いつの間にか涙が零れておりました。

「どうして君が泣くんだ? ほら、元気出して」
「大変な思いをされたんだって思ったら、つい……」
「君だって大変だったじゃないか。それなのに人の心配ばかりして……全く君は、本当に優しいな」

 そんな、優しいだなんて……私には勿体無いお言葉ですわ。私はただ、自分の事よりも他の方が幸せになってくれた方が嬉しいだけですもの。

 だからといって不当な扱いを受けて追放されたり、奴隷落ちがしたいわけではありませんけど!

「マシェリーのご両親はどんな人だったんだ?」
「私の? お父様は国王として、民を愛し、国をより良いものにしようと尽力した、偉大なお方ですわ。お忙しいのにも関わらず、私の誕生日には、必ずお祝い事を用意してくださって……」
「とても立派なお父上だったんだね」
「はい、とても。お母様は厳しいお方でしたが、とても慈愛に満ちておりました。あまり体が丈夫では無かったので、ベッドに横になっている事が多かったんですが、それでも調子が良い時は、私の為に時間を割いてくださいましたわ」

 目を閉じれば、お二人の姿が鮮明に思い出せますわ……今ではもう遠い過去のように思えますが、それでも私の心には、お二人の事が深く刻み込まれています。

「なんだか、俺達の母は似ているかもしれないな」
「そうですわね。ただ……お二人共、病気で亡くなってしまったんです。先にお母様が亡くなって、その後お父様が新しい方と結婚し、義妹が生まれましたわ」
「それが、以前話していた……」
「ええ」
「……確認したいんだが」
「なんでしょう?」
「ご両親の病気の事と、新しい母の事だ」

 ……? そんな事をお聞きになって何になるのでしょう? 別に隠す必要は無いので、話すのは構わないのですが、少し気になりますわ。

「私と同じような症状の病気ですわ。私はきっと、お二人の遺伝で体が弱いのかもしれませんね。お義母様に関してですが……そうですね、お母様とご友人で、お父様とも交流があった方ですわ。お二人共、とても信頼されていたんですが……ご存じの通り、裏では私を虐げておりましたの」

 今思うと、最初からお父様に相談していれば済んだ話かもしれませんが、多忙を極めるお父様に余計な心配をかけない為に黙っていたのが、裏目に出てしまいましたね。

「同じ症状……親しい……まさか、な……」
「どうかされましたか?」
「いや、何でもない。教えてくれてありがとう」
「いえ……なんだか顔色が優れませんが、どうかされましたか?」
「なんでもないよ。さあ、もう夜も更けてきた。そろそろ休んだ方がいい」
「……わかりましたわ」

 カイン様に促されて立ち上がったものの、明らかに調子が悪そうなカイン様を放っておく事はできません。私に出来る事……そうだ、一つだけあるじゃないですか。

「あの、私の血があれば……元気になりますか?」
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