96 / 97
第九十六話 破滅への道
しおりを挟む
「みなさん、大丈夫です!!」
菌が入った瓶が割れることで、会場中がパニックに陥りそうになるが、それを事前に防ぐために、私は人生で一番と言っていいくらいの大声をあげた。
「その液体の菌は、既に無毒化されています!」
「なにを言っている? 私の作ったこいつは完璧だ! 無毒化なんてされるはずがない!」
「残念ね。その菌を更に詳しく研究して、体内に入りこむ前に菌を無毒化する薬を開発したの。それを事前にこの会場中に散布してあるのよ! 毒性を強めることばかりに注視して、菌自体の体制を疎かにしたのが仇となったわね!」
「そ、そんな馬鹿な!? 薬を作るだけではなく、無毒化までしただと!? お前程度の薬師が!?」
「私だけの力じゃないわ! 多くの人の助けをもらって、完成にこぎつけたの! 全ては、あなたを確実に捕まえる為に!」
ヘレナ様が同じ様な方法で交渉をしてきたから、追い詰められたらマグナスも同じ様なことをするかもしれないと思い、菌と薬の研究を続けていた甲斐があったというものだ。
……もしかしたら、あの交渉はこのことを暗に知らせるためにしていたとか? さすがに考えすぎね。
「もうあなたに打つ手は残されていない。諦めて捕まりなさい!」
「ふざ、ふざけるな! 私は……私は悪くない! 全ては、貴様らが悪いのだ!」
貴族達の罵詈雑言が飛び交う中、私はゆっくりとマグナスの元へと歩み寄る。
もう何もしなくても、マグナスは逃げることは出来ないとはいえ、個人的に最後に話しておきたかった。
「……どう? 散々馬鹿にした人間によって、奈落の底に叩き落とされた気持ちは?」
私は、さっきまでとは打って変わり、マグナスにしか聞こえないくらいの小声で、そっと囁く。
「き、貴様さえ……貴様さえいなければぁ……!!」
「ふふ、良い顔ね。おかげで、ほんの少しだけスッキリしたわ。とはいっても、私が真の意味でスッキリするのは、あなたが全てを失い、大衆の前で、大罪人として処刑された時だけど」
「しょ、処刑……!?」
「当然でしょう? あなたは下らない復讐心と自尊心で、国どころか世界を滅ぼしかねないことをした。処刑されるのは当然だと思うわよ」
「い、嫌だ! 貴様らを道ずれにするならともかく、そんな無様な死に方なんてしたくない! エリシア、私にできることなら何でもする! 謝れと言うなら、土下座だってする! だから、許してくれ!!」
あれだけ横暴だったマグナスが、こんなに弱々しくなるなんてね。
土下座をする姿は見たいのが本音だけど、性悪女だと誤解されて、サイラス君に嫌われるわけにはいかない。
でも、そうね……このまま素直に駄目と伝えても、私の復讐にはならない。少しだけ、からかっちゃいましょう。
「そうね……考えてあげてもいいわ」
「本当か!?」
「ええ。考えるわ……うん、駄目。許さない」
「は……?」
まだ可能性があると思って明るくなった表情が、たったの一言で固まり、そこからみるみると青ざめていった。
「許してほしいんでしょ? それで許すか考えた。それで、許さないと結論付けた」
「貴様ぁ!! 私を誰だと思っている!? 私は、この国の最大手の薬師ギルドの長なのだぞ!」
「こんなことを起こしておいて、まだ立場に縋るの? そもそも、大事件を引き起こしておいて、まだその座にいられるのが不思議だわ」
「な、なにが言いたい……!?」
「最低でも、ギルド長は解任、家は爵位剥奪は免れないでしょうね。まあ、処刑も免れないでしょうから、どのみち全てを失うしか道はないわ」
自分に待つ未来は、破滅と死しかない。それを悟ったマグナスは、嫌だとか、死にたくないとか、自分は偉いんだとか、ブツブツ言いながら、ピクリとも動かなくなってしまった。
「さようなら、愚かな人。あなたが破滅してくれて、やっと私はなんのしがらみもなく、幸せな未来へと羽ばたける。本当に……とても幸せよ」
最後に満面の笑みをマグナスに向けてから、国王様に会釈をすると、騎士団の人達が押し寄せて来て、マグナスを連行していった。
……これで、やっと終わったのね。前代未聞の感染病との戦いも、私の復讐も。
菌が入った瓶が割れることで、会場中がパニックに陥りそうになるが、それを事前に防ぐために、私は人生で一番と言っていいくらいの大声をあげた。
「その液体の菌は、既に無毒化されています!」
「なにを言っている? 私の作ったこいつは完璧だ! 無毒化なんてされるはずがない!」
「残念ね。その菌を更に詳しく研究して、体内に入りこむ前に菌を無毒化する薬を開発したの。それを事前にこの会場中に散布してあるのよ! 毒性を強めることばかりに注視して、菌自体の体制を疎かにしたのが仇となったわね!」
「そ、そんな馬鹿な!? 薬を作るだけではなく、無毒化までしただと!? お前程度の薬師が!?」
「私だけの力じゃないわ! 多くの人の助けをもらって、完成にこぎつけたの! 全ては、あなたを確実に捕まえる為に!」
ヘレナ様が同じ様な方法で交渉をしてきたから、追い詰められたらマグナスも同じ様なことをするかもしれないと思い、菌と薬の研究を続けていた甲斐があったというものだ。
……もしかしたら、あの交渉はこのことを暗に知らせるためにしていたとか? さすがに考えすぎね。
「もうあなたに打つ手は残されていない。諦めて捕まりなさい!」
「ふざ、ふざけるな! 私は……私は悪くない! 全ては、貴様らが悪いのだ!」
貴族達の罵詈雑言が飛び交う中、私はゆっくりとマグナスの元へと歩み寄る。
もう何もしなくても、マグナスは逃げることは出来ないとはいえ、個人的に最後に話しておきたかった。
「……どう? 散々馬鹿にした人間によって、奈落の底に叩き落とされた気持ちは?」
私は、さっきまでとは打って変わり、マグナスにしか聞こえないくらいの小声で、そっと囁く。
「き、貴様さえ……貴様さえいなければぁ……!!」
「ふふ、良い顔ね。おかげで、ほんの少しだけスッキリしたわ。とはいっても、私が真の意味でスッキリするのは、あなたが全てを失い、大衆の前で、大罪人として処刑された時だけど」
「しょ、処刑……!?」
「当然でしょう? あなたは下らない復讐心と自尊心で、国どころか世界を滅ぼしかねないことをした。処刑されるのは当然だと思うわよ」
「い、嫌だ! 貴様らを道ずれにするならともかく、そんな無様な死に方なんてしたくない! エリシア、私にできることなら何でもする! 謝れと言うなら、土下座だってする! だから、許してくれ!!」
あれだけ横暴だったマグナスが、こんなに弱々しくなるなんてね。
土下座をする姿は見たいのが本音だけど、性悪女だと誤解されて、サイラス君に嫌われるわけにはいかない。
でも、そうね……このまま素直に駄目と伝えても、私の復讐にはならない。少しだけ、からかっちゃいましょう。
「そうね……考えてあげてもいいわ」
「本当か!?」
「ええ。考えるわ……うん、駄目。許さない」
「は……?」
まだ可能性があると思って明るくなった表情が、たったの一言で固まり、そこからみるみると青ざめていった。
「許してほしいんでしょ? それで許すか考えた。それで、許さないと結論付けた」
「貴様ぁ!! 私を誰だと思っている!? 私は、この国の最大手の薬師ギルドの長なのだぞ!」
「こんなことを起こしておいて、まだ立場に縋るの? そもそも、大事件を引き起こしておいて、まだその座にいられるのが不思議だわ」
「な、なにが言いたい……!?」
「最低でも、ギルド長は解任、家は爵位剥奪は免れないでしょうね。まあ、処刑も免れないでしょうから、どのみち全てを失うしか道はないわ」
自分に待つ未来は、破滅と死しかない。それを悟ったマグナスは、嫌だとか、死にたくないとか、自分は偉いんだとか、ブツブツ言いながら、ピクリとも動かなくなってしまった。
「さようなら、愚かな人。あなたが破滅してくれて、やっと私はなんのしがらみもなく、幸せな未来へと羽ばたける。本当に……とても幸せよ」
最後に満面の笑みをマグナスに向けてから、国王様に会釈をすると、騎士団の人達が押し寄せて来て、マグナスを連行していった。
……これで、やっと終わったのね。前代未聞の感染病との戦いも、私の復讐も。
226
お気に入りに追加
1,399
あなたにおすすめの小説
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

白い結婚のはずでしたが、王太子の愛人に嘲笑されたので隣国へ逃げたら、そちらの王子に大切にされました
ゆる
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」
オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。
「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」
そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。
「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」
このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。
オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。
愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん!
王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。
冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します

公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――

【完結】愛されることがないのは理解できましたが、最愛の人として紹介された存在が見えないのですが?
かとるり
恋愛
「リリアン、お前を愛することはない」
婚約が決まったばかりだというのに、ハーシェル王子は公爵令嬢リリアンにそう告げた。
リリアンはハーシェル王子の考えを受け入れたが、数日後、ハーシェル王子は驚くべき事を言い出したのだ。
「リリアン、紹介したい者がいる。エルザだ」
ハーシェル王子の視線は誰もいないはずの空間に向けられていた。
少なくともリリアンには誰かがいるようには見えなかった。

お望み通り、別れて差し上げます!
珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」
本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる