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第九十四話 復讐の舞台へ
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「ふう、さっぱりした」
あれから数日後の夜。今日も仕事を終えた私は、屋敷の大きなお風呂で綺麗さっぱりリフレッシュしてきた。
あれだけ忙しい毎日を送ってきたというのに、突然ゆっくりする時間がもらえるようになるのだから、人生って本当にどう変わるかわからないものだ。
「エリシア様、よろしければマッサージをいたしますわ」
「ありがとうございます。でも、これからイリス様のところに行くので、またの機会にさせてください」
「かしこまりました。では、身支度だけさせていただきます」
お風呂の面倒をみてくれている使用人に手伝ってもらって身支度を整えた後、私はイリス様の私室へと向かうと、いつもの暖かい笑顔に出迎えられた。
「あら、エリシアちゃん。今日も来てくれたのね」
「はい。具合はどうですか?」
「おかげさまで、だいぶ良くなってきたわ」
ベッドで読書をしていたイリス様の言葉から、嘘は感じられない。本当にあと一歩で完全に回復するだろう。
「他の人はどんどん回復しているのに、私だけ治りが遅くて嫌になっちゃうわ。私も歳かしら?」
「なにを言ってるんですか。イリス様はまだまだお若いですよ。きっと、今まで家長として頑張ったから、大目に休むように体が指示しているんですよ」
「なるほど、エリシアちゃんは励まし上手ね」
「そうでしょうか?」
別に励ますために、お世辞を言ったわけじゃない。本当にそう思ったから言っただけなんだけどね。
「私のことはいいから、サイラスのところにいってらっしゃい。ただでさえ普段から忙しくて、一緒の時間を取れていないのでしょう? 少しでもチャンスがあるなら、一秒でも長く一緒にいなさい。失ってから後悔しても遅いのよ」
どこか寂し気な表情を浮かべるイリス様は、愛する人を失っている。口には出さないけど、その時に何か後悔することがあったのだろう。
だから、私に同じ後悔を味わってほしくない……そんなふうに思っているんじゃないかと感じた。
「……わかりました。何か少しでも体調に変化があったら、必ず声をかけてくださいね」
「ええ、約束するわ。私は絶対に死にたくないもの。可愛い孫を見るまではね!」
「あ、あはは……もうっ、イリス様ったら」
冗談交じりに笑うイリス様の言葉に顔を赤くさせながらも、その場を後にして自室に戻ると、部屋にいたサイラス君は、頬杖をつきながら、うつらうつらと船を漕いでいた。
「サイラス君、こんなところで寝てたら風邪を引いちゃうわよ」
「んー……あ、エリシア。俺の……最愛の人……」
「もうっ、急に恥ずかしいことを言わないでちょうだい。ほら、ちゃんとベッドに行って」
「ベッド……さすがにそれは……結婚してから……」
「寝ぼけすぎよ! もうっ!」
親子揃って、似たようなことを言わないでほしいわ。とにかく、早くサイラス君をベッドまで運ばないと。
「ほら、私の手を取って」
「んむ……エリシア、いつの間にそんな……騎士の様に勇ましく……」
「手を取るだけで大げさすぎない?」
完全に寝ぼけているサイラス君を無事にベッドまで運ぶと、一分もしないうちに寝息を立て始めた。
改めて寝顔を見て思ったけど、サイラス君って本当に顔が整っている。それでいて、寝顔は可愛くて、真面目な時はとことん格好よくて……色々とズルい。
「おやすみ、サイラス君。また明日ね」
眠るサイラス君を起こさないように、そっとキスをしてから、寝る支度をして隣に寝転んだ。
私も疲れがたまっているのか、睡魔は直ぐにやって来てくれた――
****
マグナス様を捕まえるための準備を始めてから数日後、国王様が主催の大きなパーティーが、急遽開かれた。
すでに菌の怖さを知った貴族達の中には、参加をしたくないと申し出た人達もいたそうだけど、事前に国王様の権限で、参加しない貴族からは爵位を剥奪すると宣言しているため、渋々参加している。
さすがにそれは立場を利用しすぎなような気もしたけど、今回は状況が状況だから、強くは言えないわ。
「お姉様、例の書類は準備できたよ」
「僕の方も、問題ありません」
「ありがとう、ミラ。レージュ様も、病み上がりなのに協力してくれて、本当にありがとうございます」
「いえ。今回の一件では全く役に立てなかったので、これくらいはさせてください」
好きで病気になったわけじゃないのだから、責任を感じる必要は無いのにね。レージュ様も国王様も、本当に真面目なんだから。
「それじゃあ、あたしは指定の位置に行ってるね」
「ええ。よろしくね」
さあ、悪党を捕まえる準備は出来た。あとは作戦通りに行動をして……全てを終わらせるだけだわ!
あれから数日後の夜。今日も仕事を終えた私は、屋敷の大きなお風呂で綺麗さっぱりリフレッシュしてきた。
あれだけ忙しい毎日を送ってきたというのに、突然ゆっくりする時間がもらえるようになるのだから、人生って本当にどう変わるかわからないものだ。
「エリシア様、よろしければマッサージをいたしますわ」
「ありがとうございます。でも、これからイリス様のところに行くので、またの機会にさせてください」
「かしこまりました。では、身支度だけさせていただきます」
お風呂の面倒をみてくれている使用人に手伝ってもらって身支度を整えた後、私はイリス様の私室へと向かうと、いつもの暖かい笑顔に出迎えられた。
「あら、エリシアちゃん。今日も来てくれたのね」
「はい。具合はどうですか?」
「おかげさまで、だいぶ良くなってきたわ」
ベッドで読書をしていたイリス様の言葉から、嘘は感じられない。本当にあと一歩で完全に回復するだろう。
「他の人はどんどん回復しているのに、私だけ治りが遅くて嫌になっちゃうわ。私も歳かしら?」
「なにを言ってるんですか。イリス様はまだまだお若いですよ。きっと、今まで家長として頑張ったから、大目に休むように体が指示しているんですよ」
「なるほど、エリシアちゃんは励まし上手ね」
「そうでしょうか?」
別に励ますために、お世辞を言ったわけじゃない。本当にそう思ったから言っただけなんだけどね。
「私のことはいいから、サイラスのところにいってらっしゃい。ただでさえ普段から忙しくて、一緒の時間を取れていないのでしょう? 少しでもチャンスがあるなら、一秒でも長く一緒にいなさい。失ってから後悔しても遅いのよ」
どこか寂し気な表情を浮かべるイリス様は、愛する人を失っている。口には出さないけど、その時に何か後悔することがあったのだろう。
だから、私に同じ後悔を味わってほしくない……そんなふうに思っているんじゃないかと感じた。
「……わかりました。何か少しでも体調に変化があったら、必ず声をかけてくださいね」
「ええ、約束するわ。私は絶対に死にたくないもの。可愛い孫を見るまではね!」
「あ、あはは……もうっ、イリス様ったら」
冗談交じりに笑うイリス様の言葉に顔を赤くさせながらも、その場を後にして自室に戻ると、部屋にいたサイラス君は、頬杖をつきながら、うつらうつらと船を漕いでいた。
「サイラス君、こんなところで寝てたら風邪を引いちゃうわよ」
「んー……あ、エリシア。俺の……最愛の人……」
「もうっ、急に恥ずかしいことを言わないでちょうだい。ほら、ちゃんとベッドに行って」
「ベッド……さすがにそれは……結婚してから……」
「寝ぼけすぎよ! もうっ!」
親子揃って、似たようなことを言わないでほしいわ。とにかく、早くサイラス君をベッドまで運ばないと。
「ほら、私の手を取って」
「んむ……エリシア、いつの間にそんな……騎士の様に勇ましく……」
「手を取るだけで大げさすぎない?」
完全に寝ぼけているサイラス君を無事にベッドまで運ぶと、一分もしないうちに寝息を立て始めた。
改めて寝顔を見て思ったけど、サイラス君って本当に顔が整っている。それでいて、寝顔は可愛くて、真面目な時はとことん格好よくて……色々とズルい。
「おやすみ、サイラス君。また明日ね」
眠るサイラス君を起こさないように、そっとキスをしてから、寝る支度をして隣に寝転んだ。
私も疲れがたまっているのか、睡魔は直ぐにやって来てくれた――
****
マグナス様を捕まえるための準備を始めてから数日後、国王様が主催の大きなパーティーが、急遽開かれた。
すでに菌の怖さを知った貴族達の中には、参加をしたくないと申し出た人達もいたそうだけど、事前に国王様の権限で、参加しない貴族からは爵位を剥奪すると宣言しているため、渋々参加している。
さすがにそれは立場を利用しすぎなような気もしたけど、今回は状況が状況だから、強くは言えないわ。
「お姉様、例の書類は準備できたよ」
「僕の方も、問題ありません」
「ありがとう、ミラ。レージュ様も、病み上がりなのに協力してくれて、本当にありがとうございます」
「いえ。今回の一件では全く役に立てなかったので、これくらいはさせてください」
好きで病気になったわけじゃないのだから、責任を感じる必要は無いのにね。レージュ様も国王様も、本当に真面目なんだから。
「それじゃあ、あたしは指定の位置に行ってるね」
「ええ。よろしくね」
さあ、悪党を捕まえる準備は出来た。あとは作戦通りに行動をして……全てを終わらせるだけだわ!
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