【完結】真実の愛を見つけたから離婚に追放? ありがとうございます! 今すぐに出ていきます!

ゆうき

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第九十二話 狡猾な女

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 ゆっくりと時間をかけて、私が漆黒の森であったことを話していると、サイラス君はなぜか涙を流していた。

「ど、どうしたの? なにか泣くような要素あったかしら?」

「だってさぁ……エリシアが大変な思いをしていたこととか、師匠が元気でいてくれたとか、俺の結婚式まで生きるとか、製薬に協力してくれたとか……嬉しい要素しかないじゃないか! 泣かない方が無理だ!!」

「そんな断言されても……もうっ」

 ずびずびと鼻を鳴らしながら泣くサイラス君を、そっと抱きしめながら、背中を撫でてあげた。

「私は無事だし、お師匠様は無事だし、結婚式どころか玄孫までは死なないっていってたわ。本当……私もあなたも、恵まれていると強く感じたわ」

「ぐすっ……ああ、俺達は、幸せ者さ……」

 まだ涙ぐんでいるサイラス君と見つめ合い、吸い込まれるように互いの顔を近づけ、そして唇を重ね合わせた。
 数秒にも見たいないキスだったけど、最近は全然していなかったから、凄く心が充実しているわ。

「こうしてエリシアといられるのも、師匠のおかげか……師匠、あんな見た目だから驚いただろう?」

「驚いたわよ! 思わず、筋肉が喋ってる!? って思っちゃったわよ!」

「あははははは!! そりゃいいな! 確かに師匠は、どう考えても職業を間違えたような見た目だしな!」

「それは確かにそうね。ただ、彼の境遇を聞いた後だと……ね」

「ああ。師匠は大変な時代を生き、戦い抜いた……いわば英雄だからね」

 英雄……か。確かにその表現がしっくりくる。そんな彼にお世話をしてもらっていた私とサイラス君は、本当に幸運だわ。

「今は狼と一緒に生活してるわ。とってもおりこうさんで、お師匠様のお手伝いをしたり、食料調達をしているの」

「それは素晴らしいな! いつか会ってみたいものだ」

「なに言ってるの。事態が落ち着いたら、挨拶に行くつもりなんだから、一緒に行くのよ!」

「え、それ決定事項な感じ?」

「ええ、もちろん」

 数秒ほど固まった後、サイラス君はプルプルと震えだし……そして、両腕を天に向けて勢いよく突き上げた。

「よっし! そうと決まれば、早く事態を収束させて、師匠に会いに行かなくちゃ!」

 サイラス君が気合に満ちているのを見計らうかのように、部屋の扉がノックされた。そのノックの主を招き入れると、騎士団の人だった。

「失礼します! 国王陛下が、大切なお話があるので、至急謁見の間へと来てほしいとのことです!」

「今回の一件でお礼もしたかったし、ちょうどいいわね。サイラス君、行きましょう」

「ああ!」

 サイラス君と共に、国王様がお待ちしている城まで向かい、謁見の間へと入ると、随分と顔色が良くなった国王様が、玉座に深く座っていた。

「ごきげんよう、国王様。無事に回復に向かっておられるようで、大変嬉しく存じます」

「うむ。これもそなた達をはじめ、多くの者が頑張った結果だ。本当に感謝をしておるぞ」

 こうやって国王様に直々に褒めてもらうと、嬉しいのは嬉しいけど、それよりも恐れ多いと言うのが、正直な感想だ。

「さて、本題に入ろう。今回の一件で猛威を振るった菌は、もうほぼ撲滅したと言っていい。しかし、肝心の実行犯が判明していない。いち早く、犯人を捕まえなければならない」

 私もその考え方には同意だけど……その犯人が見当つかないのよね。

「国王様。犯人の目星は?」

「残念だが……現状では、とにかく情報収集するしかあるまい」

「あら、それなら、ここに良いものがあるわよ」

「えっ?」

 突然聞こえてきた女性の声に反応して振り向くと、そこに立っていたのは、私から婚約者を奪っていった、あのヘレナ様だった。

「国王陛下!この女、制止を振り切ってここまで来た、侵入者です!」

「まあまあ、そんなの許せるくらいの情報を持ってきたから、許してほしいわ」

 飄々とした態度で、兵士をかわして私達の所に来たヘレナ様は、久しぶり……と囁きながら、私の顔を下から覗き込むように見つめてきた。

「情報ってなんですか?」

「ほら、これ」

 ヘレナ様が持ってきた者は、製薬する際の説明書みたいなものだった。しかも、その内容は……私達を散々苦しめた、あの菌のことだった。

「それ、旦那のマグナスの秘密研究所から持ち出したも資料の一部よ。ありがたく思いなさい」

 マグナス様が菌を作る方法を知っているということは……犯人は、マグナス様!?

「確か、そなたはマグナスの妻である、ヘレナだったか」

「ええ。ご機嫌麗しゅう、殿下」

「挨拶はよい。それよりも、なぜマグナスがこのようなことを企てたのか、説明せよ」

「説明と言われてもねぇ……彼、自暴自棄になってるのよ」

 自暴自棄? 話が見えてこないわね。どうしてそんなことになっているの?

「グリムベアの件に、自分からふっかけた勝負に負けたうえに、最近はギルドも資金と人員不足でボロボロ。そんな状況に置かれた彼は、家からも見放されそうになってね。自分をこんな目に合わせたエリシアや、自分を馬鹿にする世界そのものへの復讐を企てたの」

 は……はぁ? なにそれ、逆恨みもいいところじゃないの! 私は何も悪くないわよ!

「まあ……資金に関しては、私が散々彼から絞りつくした結果だけど。自分にお金が無くなったからって、ギルドのお金にまで手を出した結果、ボロボロになったわ」

 ……そういえば、マグナス様のギルドから転職してきた人が話していた内容に、似たようなことがあった気がする。

 その時点で、私は色々と忙しいということもあり、話半分にしか聞いてなかった。まさか、それが本当だったなんて。

「そんなわけで、今回の事件は、暴走する彼を捨てるのに好都合なの。お金も地位も無い彼には、何の魅力もない。そのうえ、こんな大騒動まで起こすような男よ? 無理に彼の味方をした結果、私まで巻き込まれて人生が台無しになる可能性もある」

「それは否定できないわね」

「でしょう? だからさっさと捨てたい、でも彼から逆恨みをされないようには、どうすればいいかと思っていた時に、事態の収束の気配が見えたから、利用しようと思った次第よ」

「……なるほど、あんな男のどこに惚れたのかと、少しだけ疑問に思っていたけど、そういうことだったのね」

 本人を前にしているから、口にすることは控えるけど……最低な人間の元には、最低な人間が近づいてくるということね。

「俺達としても好都合だが、その話や事件の証拠を信じられる保証はどこにある?」

「無いわね。むしろ、私のしていたことを知っているのに簡単に信じたら、拍子抜けも良いところ。だから、素敵なプレゼントを用意したの」

 ヘレナ様が手にしたのは、液体が入った瓶だった。パッと見た感じは、ただの水のようにしか見えないけど……?

「この中には、彼が作った菌が入っているわ。私の話を断ったり、私を拘束するようなら、この瓶を割るわ」
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