【完結】真実の愛を見つけたから離婚に追放? ありがとうございます! 今すぐに出ていきます!

ゆうき

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第八十七話 ついに……!

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 急いで戻ってきた私は、お師匠様に事の経緯の説明をすると、すぐに馬を一頭用意してくれた。

「実験にはこいつを使え。確か、菌は持ってただろう?」

「はい」

「それにしても、免疫を作るとはなぁ……視野を広げたかいがあったろ?」

「はい。あの言葉がなければ、私はまだ苦しんでいたでしょう」

 手伝わないと言っておきながら、そっとアドバイスをしちゃう辺りが、サイラス君の師匠って感じがするわよね。

「それじゃ、さっそくやってみな」

「はい。ごめんね、ちくっとするからね」

 慣れた手つきで馬に注射をしてみるが、特に変化は現れない。何日か待って、症状が出始めたらもう一度検査をしてみよう。


 ****


 数日後、様子を見ると確かに症状が出ていた。このまま少し様子を見てから、体の中に出来た抗体を回収しなければいけないわ。

「ごめんね、もうちょっと頑張って……!」

 馬に申し訳なく思いながら、さらに数日。私は馬から採血を行い、血液を手に入れた。

 その血清を、残っている病原体に直接使って観察すると、徐々に動きが鈍化していき、しばらくすると、完全に沈黙した。

「こ、これならいける……いけるわ!」

「ほう、やるじゃねえか。だが、これを人間に適応できるようにしなくちゃな」

「あ、そうだった……!」

 確かに効果はあったけど、このまま人間に使っても、同じ効果があるようにしないといけない。これをしないと、大変なことになってしまう。

 効果がないだけならまだいい方で、下手したら拒絶反応が出てしまい、最悪の結果になり得ることだってあるのよ。

「ここまで来れたなら、もう合格点をやってもいいだろ。ほれ、さっさと適応できるように指示するから、手を動かしな」

「は、はいっ!」

 私は、お師匠様に言われた通りに動き、無事に完璧な血清を作り上げることが出来た。とはいっても、これでは数が足りないから、戻ったら量産しないと。

「やり方は覚えたか?」

「はい。ありがとうございます、お師匠様!」

「なに、気にすんな! これでワシがナイスグァ~イなのがよくわかったろ?」

「ふふっ、よくわかりましたっ」

「良い子だ。さあ、後は帰って患者に薬を……といいたいが、もう暗くなっている。明日帰ると良い」

 ……そうね。本当は、今すぐにでも走りだして、薬を届けに行きたいのだけど、それで事故にでもあったら、笑い話にもならない。

 そう思った私は、お師匠様に大きな頷いて見せたあと、泥のように眠った。


 ****


 翌日の夜まで眠ってしまった私は、明日には帰っちゃうからということで、お師匠様が用意してくれたご馳走の前に座っていた。

「はぁ、まさかこんなに寝ちゃうなんて……本当なら、今日帰れるはずだったのに……お師匠様、起こしてくださいよ……」

「過ぎたことをウダウダあっても仕方ねーだろ。あと、あんなにぐっすり寝てるお前さんを起こせるほど、ワシは悪魔じゃないんでな。ほれ、久々に大物が取れたから、遠慮なく食ってくれよ!」

「え、ええ……」

 ご馳走の正体は、なんと人間の成人男性くらいの大きさはある、丸々太った豚の丸焼きだ。
 良い匂いはしているのだけど、その見た目のインパクトが凄すぎる。あと、どうやって食べればいいのかわからない。

「なにしてんだ、かぶりつきゃいいんだよ!」

「そんなの女性に出来るわけないですよ、もうっ!」

 まさか、この丸焼きにかじりつけなんて言われるとは、誰が想像できるだろうか。せめて切り分けてほしいものだわ。

「冗談に決まってんだろ。お前さんは、ワシがそんなに気が利かないように見えたのか」

「はい。さっきの顔、本気の顔でしたから」

「……からかったワシに非があるとはいえ、お前さんはたまにズバッというよなぁ」

 誰のせいだと思ってるのよ……師弟揃って、私にもうもう言わせないでほしいわ……。

「ちょっと待ってろ。すぐに切り分けてやっから」

 自分からしてきたことだというのに、お師匠様は少ししょんぼりした様子で、お肉を切り分けて渡してくれた。

「ほれ、一番うまい部位だぞ~」

「ありがとうございます。いただきます」

 切り分けてもらったお肉を口に運ぶと、お肉の旨味と優しい油の甘さが、口いっぱいに広がり、疲れ切った体に染み渡っていった。

「おいしいです!」

「カカッ! そうだろうそうだろう! ワシもこいつと大格闘をしてきた甲斐があったもんよ! どんどん食べな!」

 お師匠様は、まるで久しぶりに会った孫に料理を振舞うみたいに、私のお皿にお肉を乗せていく。

 その早さは、私の食べる早さなんて軽く凌駕する勢いで……食べても食べても、お肉は減るどころか、逆に増えていた。

「あ、あの……気持ちは嬉しいんですけど、さすがに追いつかないというか……」

「なにいってんだ、男ならもっとガツガツ食え!」

「思いっきり女なんですけど!?」

「そんなの、見りゃわかんだろ」

「だから、どうして自分から振っておいて、急に冷めるんですか! もうっ!!」

「お前さんをからかうのが面白いからに決まってんだろ」

「開き直らないでください!」

 ああもう、良い人なのはわかるけど、付き合わされる身にもなってほしいものだわ。付き合わなければいいのかもしれないけど、サイラス君と話してるみたいで、無意識に話に乗ってしまう。

「どうしてこんなところに来て、サイラス君を相手にしてる時のような、徒労感を感じないといけないの……サイラス君、大丈夫かしら……みんなも、大丈夫かしら……」

「大丈夫に決まってんだろ。ワシはサイラスのことはよく知ってる。あいつは、病気なんかで死ぬような、弱い男じゃないわい!」

「そ、そうですよね。サイラス君が、死ぬわけないですよね!」

「そういうこった。わかったら、とっとと食ってゆっくり寝ろ。そうじゃないと、デカくなれないぞ!」

「もう大きくなる年齢じゃないんですけど……でもいただきます」

 もうお酒が飲めるくらいの年齢だし、さすがに成長は見込めないのは、お師匠様もわかっているだろう。きっと、この場を和ませるための冗談だと思う。

「それにしても、このまま無事に事態が収束すりゃ、サイラスと結婚か? めでたいもんだな」

「そうしたいのは山々なんですけど、ギルドの仕事が忙しすぎて、結婚式を挙げる時間がないんです」

「そうなのか? まあ、なるべく早くしてくれよ。ワシはもう無駄に生きたし、人知れずひっそりと死ぬつもりだったのに、最低でもお前さんたちの孫を見るまでは、死ぬのを延期しないといけなくなっちまったからよ」

「あら、目標が低くありませんか? 最低でも、玄孫を見るまでは生きてもらいませんと」

「玄孫だぁ? お前さんは、ワシのことをバケモノかなにかと思っているんか?」

「まさか。超天才のナイスグァ~イのお師匠様なら、容易いでしょう?」

「……ガハハハハ! お前さんも、ようやくワシのことをわかってきたようだな! うむ、ワシなら玄孫のその先まで余裕余裕!」

「ふふっ、その意気ですよ!」

 暗い森の中に、私達の明るい声が響きわたる。
 近くで一緒にお肉を食べていた狼や他の動物達も、どこか満足そうな表情を浮かべていた。
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