84 / 97
第八十四話 未知の素材を求めて
しおりを挟む
翌朝、私は借りているベッドから起きると、外で洗顔と軽い運動を済ませた。
足の調子は、まあそれなりって感じね。完治はしていないから、無理はしちゃいけないのだけど……もっとこの一帯の素材がほしい。
「…………」
「あ、あれって?」
どうしたものかと考えていると、突然真っ白な狼が、のっしのっしと音を立てながら、私のところにやってきた。
「…………」
「…………」
とても優しい目をしている。襲ってくるようには見えないけど、野生動物を相手にして、油断なんてしたら、命を捨てるようなものだ。
「おう、起きてたか。おはようさん」
「お、おはようございます」
「なんだ、朝から面白い顔しやがって。あ、こいつにビビってんのか? 安心しな、こいつはこの辺りに住んでてよ。ほとんどワシの家族みたいなものよ。頭もいいから、何か困ったらこいつに頼むといい」
通りかかったお師匠様は、焚火に使う沢山の木を、なんと片手で運んでいた。
………やっぱり、人間じゃなくて、筋肉の化身なんじゃ無いかしら……? それに、いかにも肉体労働が得意そうな人が、薬師ギルドの前任者っていうのも、イマイチ信じられないわね。
「何か失礼なこと考えてねーか?」
「そんなことありませんよ」
「どーだかな。ワシは忙しいから、好きに過ごしてくれ。んじゃ」
「はい。狼さん、薬の素材を採りに行ってくるわ。ご飯までには帰ってくるつもりだから」
「…………」
私の言葉を聞いた狼は、その場で膝をたたんで丸まった。モフモフで可愛いのはいいのだけど、急にどうしたのかしら?
「がうっ」
「え? もしかして、乗れって?」
「がうっ!」
しきり自分の背中を示すように顔を動かしていたから、そうなんじゃないかとは思ったけど……まさか、協力してくれるなんてね。
「私、ちょっと重いかもだけど……よろしくね、狼さん」
おそるおそる狼の背中に乗ると、フワフワな毛並みの感触を感じると同時に、狼はゆっくりと動き出した。
うわぁ、凄い! 狼の背中の上って、モフモフで気持ちいけど、それ以上に迫力があるわ!
「こ、興奮してる場合じゃないわね。この辺りでしか見ない、果実とかお花とか鉱石の場所ってわかるかしら?」
「くぅ~……がうっ」
少し立ち止まってから、どこかに向かって歩き出す狼。その先には、まだ採取したことがない果実がたくさん実っていた。
「すごい! 見た目はイチゴやリンゴだけど、色が全然違う! これも、もしかしたら製薬の決め手になるかもしれないし、採取しないと! それと……」
私は、採取したリンゴを持って、狼のところにやってくると、ニッコリと笑いながら口を開いた。
「私のお手伝いをしてくれるお礼。よかったら、食べてほしいな」
「…………」
私が餌をくれると思っていなかったのかしら? キョトンとした顔で、こちらを見つめてくる。
でも、すぐに意図に気づいてくれた狼は、シャクシャクと気持ちのいい音を立てながら、リンゴを食べ始めた。
さて、今のうちに市薬品を作ってみよう。今あるのは……蛇に捕まる前のものと、今さっき手に入れたもの。これで薬を作って、持ってきた病原体に薬効があるかのチェックをするのだけど……。
「やっぱりダメ……」
いくつかの方法を試して、持ってきた血液に試してみたのだけど、結果は振るわない。
でも、製薬が一発で上手くいくわけないのだから、くよくよしても仕方がないわよね! 次こそは薬効がある薬を作るわ!
「狼さん、そろそろ別のところに案内してもらえるかしら?」
「がうっ」
再び狼の背中に乗せてもらい、素材のある場所へと連れて来てもらい、試薬を作るの繰り返しをしたが、なかなか成果が出ない。
そんなことをしているうちに、辺りはすっかり暗くなっていた。暗いのは危ない、だから家に帰る。それを理解しているのか、狼は私を小屋まで案内してくれた。
「今日はありがとう。またお願いするかもしれないから、その時はお願いね。もちろんお礼はするわ」
「がうがうっ」
お利口な狼は、返事を返してから、森の中へと帰っていった。
あの子が協力してくれたおかげで、未知の素材が沢山手に入った。きっとこの中に、解決の糸口があると信じて、前に進むしかないわ。
「おう、帰ったか。悪いけど、飯の準備をしてくれや」
「えぇ? 私、一応客人ですよね? それに、軽症とはいえ怪我人ですよね?」
「そうだな」
「そうだなって……客人に食事の用意をさせるなんて、聞いたこともありません」
「これもワシの優しさなんだぞ? まあお前さんがそう言うなら仕方がない。今日の飯は、さっき取ってきた魚と木の実をそのまま食うしかないな」
「せめて焼くぐらいのことはしてください! ああもうっ、私がやりますから!」
まさか、こんなところでサイラス君に怒る時の台詞みたいなことを言わされるだなんて、思ってもなかったわ!
サイラス君に似た人だとは、少し思ってたけど、こんなところまで似なくていいのに!
足の調子は、まあそれなりって感じね。完治はしていないから、無理はしちゃいけないのだけど……もっとこの一帯の素材がほしい。
「…………」
「あ、あれって?」
どうしたものかと考えていると、突然真っ白な狼が、のっしのっしと音を立てながら、私のところにやってきた。
「…………」
「…………」
とても優しい目をしている。襲ってくるようには見えないけど、野生動物を相手にして、油断なんてしたら、命を捨てるようなものだ。
「おう、起きてたか。おはようさん」
「お、おはようございます」
「なんだ、朝から面白い顔しやがって。あ、こいつにビビってんのか? 安心しな、こいつはこの辺りに住んでてよ。ほとんどワシの家族みたいなものよ。頭もいいから、何か困ったらこいつに頼むといい」
通りかかったお師匠様は、焚火に使う沢山の木を、なんと片手で運んでいた。
………やっぱり、人間じゃなくて、筋肉の化身なんじゃ無いかしら……? それに、いかにも肉体労働が得意そうな人が、薬師ギルドの前任者っていうのも、イマイチ信じられないわね。
「何か失礼なこと考えてねーか?」
「そんなことありませんよ」
「どーだかな。ワシは忙しいから、好きに過ごしてくれ。んじゃ」
「はい。狼さん、薬の素材を採りに行ってくるわ。ご飯までには帰ってくるつもりだから」
「…………」
私の言葉を聞いた狼は、その場で膝をたたんで丸まった。モフモフで可愛いのはいいのだけど、急にどうしたのかしら?
「がうっ」
「え? もしかして、乗れって?」
「がうっ!」
しきり自分の背中を示すように顔を動かしていたから、そうなんじゃないかとは思ったけど……まさか、協力してくれるなんてね。
「私、ちょっと重いかもだけど……よろしくね、狼さん」
おそるおそる狼の背中に乗ると、フワフワな毛並みの感触を感じると同時に、狼はゆっくりと動き出した。
うわぁ、凄い! 狼の背中の上って、モフモフで気持ちいけど、それ以上に迫力があるわ!
「こ、興奮してる場合じゃないわね。この辺りでしか見ない、果実とかお花とか鉱石の場所ってわかるかしら?」
「くぅ~……がうっ」
少し立ち止まってから、どこかに向かって歩き出す狼。その先には、まだ採取したことがない果実がたくさん実っていた。
「すごい! 見た目はイチゴやリンゴだけど、色が全然違う! これも、もしかしたら製薬の決め手になるかもしれないし、採取しないと! それと……」
私は、採取したリンゴを持って、狼のところにやってくると、ニッコリと笑いながら口を開いた。
「私のお手伝いをしてくれるお礼。よかったら、食べてほしいな」
「…………」
私が餌をくれると思っていなかったのかしら? キョトンとした顔で、こちらを見つめてくる。
でも、すぐに意図に気づいてくれた狼は、シャクシャクと気持ちのいい音を立てながら、リンゴを食べ始めた。
さて、今のうちに市薬品を作ってみよう。今あるのは……蛇に捕まる前のものと、今さっき手に入れたもの。これで薬を作って、持ってきた病原体に薬効があるかのチェックをするのだけど……。
「やっぱりダメ……」
いくつかの方法を試して、持ってきた血液に試してみたのだけど、結果は振るわない。
でも、製薬が一発で上手くいくわけないのだから、くよくよしても仕方がないわよね! 次こそは薬効がある薬を作るわ!
「狼さん、そろそろ別のところに案内してもらえるかしら?」
「がうっ」
再び狼の背中に乗せてもらい、素材のある場所へと連れて来てもらい、試薬を作るの繰り返しをしたが、なかなか成果が出ない。
そんなことをしているうちに、辺りはすっかり暗くなっていた。暗いのは危ない、だから家に帰る。それを理解しているのか、狼は私を小屋まで案内してくれた。
「今日はありがとう。またお願いするかもしれないから、その時はお願いね。もちろんお礼はするわ」
「がうがうっ」
お利口な狼は、返事を返してから、森の中へと帰っていった。
あの子が協力してくれたおかげで、未知の素材が沢山手に入った。きっとこの中に、解決の糸口があると信じて、前に進むしかないわ。
「おう、帰ったか。悪いけど、飯の準備をしてくれや」
「えぇ? 私、一応客人ですよね? それに、軽症とはいえ怪我人ですよね?」
「そうだな」
「そうだなって……客人に食事の用意をさせるなんて、聞いたこともありません」
「これもワシの優しさなんだぞ? まあお前さんがそう言うなら仕方がない。今日の飯は、さっき取ってきた魚と木の実をそのまま食うしかないな」
「せめて焼くぐらいのことはしてください! ああもうっ、私がやりますから!」
まさか、こんなところでサイラス君に怒る時の台詞みたいなことを言わされるだなんて、思ってもなかったわ!
サイラス君に似た人だとは、少し思ってたけど、こんなところまで似なくていいのに!
91
お気に入りに追加
1,399
あなたにおすすめの小説
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します

白い結婚のはずでしたが、王太子の愛人に嘲笑されたので隣国へ逃げたら、そちらの王子に大切にされました
ゆる
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」
オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。
「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」
そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。
「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」
このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。
オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。
愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん!
王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。
冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

【完結】愛されることがないのは理解できましたが、最愛の人として紹介された存在が見えないのですが?
かとるり
恋愛
「リリアン、お前を愛することはない」
婚約が決まったばかりだというのに、ハーシェル王子は公爵令嬢リリアンにそう告げた。
リリアンはハーシェル王子の考えを受け入れたが、数日後、ハーシェル王子は驚くべき事を言い出したのだ。
「リリアン、紹介したい者がいる。エルザだ」
ハーシェル王子の視線は誰もいないはずの空間に向けられていた。
少なくともリリアンには誰かがいるようには見えなかった。
君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。
みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。
マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。
そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。
※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

お望み通り、別れて差し上げます!
珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」
本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる