【完結】真実の愛を見つけたから離婚に追放? ありがとうございます! 今すぐに出ていきます!

ゆうき

文字の大きさ
上 下
24 / 97

第二十四話 クマの恩返し

しおりを挟む
 突然現れた黒い影。その正体は、すでに何度も会っている、額に大きな傷があるグリムベアだった。
 そのグリムベアは、飛び出してくるや否や、護衛の人達に向かって勢いよく襲い掛かってきた。

「くそっ、熊の分際でまた私の邪魔をするのか!? さっさとそいつを殺してしまえ!」

 マグナス様と商人を守るために、護衛の人達がグリムベアに対抗するが、不意打ちだったのもあってか、一方的にやられてしまっていた。

 ――グリムベアに意識が向いている今が、絶好のチャンス。そう思った私は、マグナス様の腕に噛みついた後、足の甲を思い切り踏みつけた。

 当然痛みに悶えるマグナス様。その隙をついて、無事にマグナス様の手が私の腕から離れた。

「それ以上、気安く触るんじゃないわよ!」

「がっ……!?」

 もう完全にマグナス様の手からは解放されたのだけど、怒りが収まらない私は、ついでに思い切り体当たりをお見舞いしてから、急いでサイラス様の元へと戻った。

「エリシア、大丈夫か!?」

「ええ、大丈夫! それよりも……!」

 私は、サイラス様と無事に合流した後、改めてグリムベアの方を向くと、必死に抵抗する護衛の人達と戦っていた。

 その戦いの中、商人の人は完全に腰が抜けて座り込んでしまい、マグナス様は……なんと、馬車の御者を蹴り落とし、自分だけ馬車で逃げていってしまった。

「じ、自分だけ逃げるなんて……! 待ちなさい!」

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!?」

 馬車に追いつけるはずが無いのに、みんなを見捨てるようなことをした、マグナス様への怒りで追いかけようとする、私の意識を向けさせるかの様に、商人の人の悲鳴が辺りに広がった。

 さっきまでは、マグナス様の後ろでニヤニヤとしていたのが、今では悲鳴を上げながら這いつくばって逃げようとしている。何とも情けない姿だ。

 そんな醜くて哀れな彼に鉄槌を下すかの様に、グリムベアの太い腕による一撃が、彼のお腹に深々と刺さった。

「あっ……」

 グリムベアの攻撃が直撃した商人の人は、物凄い勢いで近くの木に叩きつけられて……そのまま、再び動くことは無かった。

「こんなのに勝てるはずがねぇ! 依頼人はもういないんだから、早く逃げるぞ!」

 マグナス様は逃げ、商人の男性はすでに事切れてしまった以上、戦う必要は無い……それを理解した護衛の人達は、脱兎のごとく逃げていった。

 ……とりあえず、問題は一つ解決したけれど……まだ安心するわけにはいかない。私達の前には、恐ろしいグリムベアがいるのだから。

「エリシアは逃げろ! おいお前! 俺が相手になってやる!」

「…………」

 私が止める前に、戦闘態勢に入るサイラス様。一方のグリムベアは、先程までの殺気はまるでなく、静かにこちらを見つめるだけだった。

 おかしい、明らかに相手の戦意が消えている。一体何を考えているのか……そう思っていると、先程助けた子熊が茂みから出てきて、私の元にやってきた。

「あなた、どうして……えっ、その口に咥えているのって……!」

「くー!」

 子熊は咥えていた物を、私の足元にぽとんっと落とすと、可愛らしく鳴いてから親のグリムベアの元に走っていった。

 そして、そのままグリムベアの親子は、森の中へと静かに立ち去っていった。

「……なんだかよくわからないが、助かったみたいだな」

「え、ええ……サイラス様、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」

 護衛の人達との戦いが始まる前に、グリムベアが間に割って入ってきたから、サイラス様に新しい怪我が無いのはわかってたけど、それでも心配なものは心配だ。

「とりあえず、ここに残っている必要は無いみたいだ。あの騒ぎを聞いて、別のグリムベアが来る可能性もあるし、一旦ここを離れよう」

「ええ、そうね。でも……あの人や、森で見つけた人は?」

「彼らには申し訳ないが、俺達にはどうしてやることも出来ない。あとで町に駐在している騎士団に連絡して、彼らを連れ帰ってもらおう」

「……そうね」

 憎たらしい人達だったとはいえ、こんな森の中に置き去りにするのはかわいそうだと思ったけど、無理に連れ帰っているうちに、グリムベアに襲われて仲良く共倒れなんてなったら、笑い話にもならない。

「少し離れたところで休息を取ってから、改めて出発しない? さすがにこの疲労で動くのは大変だと思うわ」

「それもそうだな。そうと決まれば、早速行動だ」

 私は、サイラス様に引っ張られながら歩いていると、小さな洞窟が見つかった。
 どうやら中には何もいないみたいだから、有効活用させてもらおう。

「ふう、やっと一息だな……」

「そうね。その……色々と、ごめんなさい」

 落ち着いてきたのを見計らって声をかけると、サイラス君は微笑みながらこちらを向いた。

「ん? さっきのこと? ははっ、もう終わったことだから気にすんな」

「…………」

 突然振られた謝罪にも、笑顔で答えるサイラス様の優しさは、私にとって救いではあるけど……それでも、申し訳なくて顔を上げることが出来なかった。

 そんな私の顔を、サイラス様は両手で持ち上げると、少しだけ手に力を入れて、口角を上にあげた。

「エリシアにそんな顔は似合わないって! ほら、色々あったけど無事だったんだし、笑顔笑顔!」

「サイラス様……」

「って、さっきから偉そうに言ってるけど、俺が言える立場じゃないか。ごめん」

「いいえ、そんなことはないわ……ありがとう、サイラス様。これからも、私をあなたのギルドに置いてくれる?」

「当然さ! 俺はエリシアやレージュ達と一緒に、ギルドを世界一にするんだからな!」

「ええ、頑張りましょう!」

  多くの人を救い、サイラス様のギルドを世界一にする。そして……完全な支援で申し訳ないけど、今回の件で、更に復讐をしたいって気持ちが膨れたわ。

「それと、一つ疑問なんだが……あのグリムベアはなんだったのだろうか?」

「多分、私達にお礼をしに来てくれたんだと思う」

「お礼? あの凶暴なグリムベアが?」

「これを見て」

 私は、先程子熊が残していったものを、サイラス様に見せた。

「これって、まさか……」

「ええ、サリューよ。きっと子熊を助けたから、そのお礼として、自分が食べるつもりで蓄えていた物を持ってきてくれたのだと思う。それで、私達が襲われていたから、助けてくれたのではないかしら?」

 野生で住む獣に、そこまでの知能や恩返しをする気持ちがあるのか、私にはわからないけど……あの子達の行動を見てると、そうじゃないかと強く思うの。

「クマの恩返しってことか? やっぱり人助け……いや、クマ助けはしておくもんだなぁ」

「そうね。さあ、そろそろ行きましょう。ここまで連れて来てくれた馬が、待ちくたびれてしまうわ」

「おお、それは申し訳ないことをしてしまったな! 早く帰ろうか!」

 休憩を済ませた私達は、どちらからともなく手を繋ぐと、森の出口に向かって歩き出す。

 長かったかのような、短かったかのような森の大冒険も、やっと終わるのね……どっと疲れちゃったけど、サイラス様が無事だし、サリューも一輪手に入れたし、この冒険は大成功だわ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~

柚木ゆず
恋愛
 今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。  お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?  ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

【完結】私より優先している相手が仮病だと、いい加減に気がついたらどうですか?〜病弱を訴えている婚約者の義妹は超が付くほど健康ですよ〜

よどら文鳥
恋愛
 ジュリエル=ディラウは、生まれながらに婚約者が決まっていた。  ハーベスト=ドルチャと正式に結婚する前に、一度彼の実家で同居をすることも決まっている。  同居生活が始まり、最初は順調かとジュリエルは思っていたが、ハーベストの義理の妹、シャロン=ドルチャは病弱だった。  ドルチャ家の人間はシャロンのことを溺愛しているため、折角のデートも病気を理由に断られてしまう。それが例え僅かな微熱でもだ。  あることがキッカケでシャロンの病気は実は仮病だとわかり、ジュリエルは真実を訴えようとする。  だが、シャロンを溺愛しているドルチャ家の人間は聞く耳持たず、更にジュリエルを苦しめるようになってしまった。  ハーベストは、ジュリエルが意図的に苦しめられていることを知らなかった。

処理中です...