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第十話 母の愛情
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「サイラス、いるかしら?」
あら……この優しい女性の声、とても聞き覚えがあるわ。ひょっとして……。
「母上? ああ、エリシアもいるよ」
「よかった。失礼するわね」
部屋の扉が開くと、そこには腰まで伸びる赤い髪と、まるで聖母のような慈悲深い頬笑みが特徴的な女性が立っていた。
彼女はイリス様。サイラス様のお母様で、このクラヴェル家の当主様を務めているお方だ。
病気で亡くなった前当主であり、夫であるサイラス様のお父様に代わって、ずっとクラヴェル家を守っている、とても凄い人なのよ。
ちなみに、サイラス様には他にもお兄様が一人、お姉様が二人いらっしゃるのだけど、お兄様は騎士団のお仕事で長期の出張に行っており、お姉様達は既に嫁いでいるから、この屋敷にはいないわ。
「ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません、イリス様。お仕事で出かけていて、今日はお帰りにならないと、サイラス様から伺ってたものでして」
「それがね、久しぶりにエリシアちゃんが帰ってくるって聞いて、急いでお仕事を終わらせて、全速力で帰ってきたの!」
「まあ、それはとっても光栄――きゃあ!」
つかつかと早足で歩く音を立てながら、私のところにまでやってきたイリス様は、そのまま私を強く抱きしめてきた。
そ、そうだった。イリス様もサイラス様と同じ様に、愛情表現が凄い人だったわ……すっかり失念していた。
まあ、相手は女性だから、サイラス様にされる時よりはドキドキしたりはしないけど、やっぱりビックリするから控えてほしいというのが本音だ。
「あの、イリス様。此度は私を受け入れてくださったこと、誠にありがとうございます」
「どういたしまして。少しでもサイラスの面倒を見てもらった恩が返せれば幸いだわ。それで、一緒に住んでみてどう? そのまま結婚しちゃう?」
「ぶふっ!?」
熱い抱擁から解放されたと思ったら、続けてとんでもない爆弾を投げつけられたのだけど……!?
「俺としては、いつでもウェルカムなんだけどなぁ」
「もう、あなたも何を言っているの!? そういうのは、もっと真剣に考えてから決めるものよ!」
「そうなのか? それなら問題ないな! 俺は、学生の時からエリシアを愛しているし、結婚できたらって無駄に考えたくらいだからな!」
「~~~~っ!! も、もうこの話はおしまい! 私、今日はもう休ませてもらいます!!」
ついに恥ずかしさが限界に来た私は、この状況から逃げるように、お布団を頭からかぶった。
ただでさえ恥ずかしいのに、きっと真っ赤になっている私の顔をこれ以上見られるのは、恥ずかしすぎて耐えられないわ!
「あらあら、ふふっ。サイラス、これ以上はエリシアちゃんが困っちゃいそうだから、お暇しましょうか」
「それは残念だ……まあいいか。二人で話す機会は、この先いくらでもあるしな。それじゃあエリシア、また明日」
「お、おやすみなさい!」
布団被ったまま挨拶をすると、扉が開かれた音を最後に、何の音も聞こえなくなった。
どうやら、二人共部屋を出ていったみたい……はぁ、まさかこんなにドキドキさせられると思っていなかった……。
「ちょっと夜風にあたってから、休ませてもら――ひゃあ!?」
もう誰もいないと思って布団から出ると、そこにはニコニコと笑っているイリス様の姿があった。
「い、イリス様!? まだいらしたのですか!?」
「ええ。最後に言いたいことがあってね」
な、なんだろう……私の態度が気にいらないところがあったのだろうか。それとも、サイラス様と結婚してとお願いをしたいのだろうか。
「あの子ね、あなたと会えなくなってからしばらくの間、本当に人が変わったみたいに落ち込んじゃってね。時間があの子を多少癒してくれて、外では明るく振る舞えるようになったけど、元のようにはならなかった」
わ、私のせいで、サイラス様が……直接会えなくても、無理にでも手紙の一通でも出せばよかった。
本当は何度も手紙を送りたいと思っていたのだけど、その度にマグナス様に浮気をするつもりなのかと止められ、手酷い罰を与えられてしまって……次第に仕事の忙しさもあって、手紙を送る気力が無くなってしまった。
……いえ、これはただの言い訳ね。自分の身のことなんて顧みずに、サイラス様のために行動するべきだった。本当に、申し訳ないことをしてしまった……。
「でもね、最近あなたと再会してから、あの子は以前のような明るさを取り戻したの。それがとっても嬉しくて。だからというわけではないのだけど……結婚とかギルドとか関係なく、これからもあの子と仲良くしてあげてほしいの」
「イリス様……はい、もちろんです」
そんなの、頼まれるまでもないわ。私はこれからも、サイラス様とは懇意にさせてもらうつもりだ。
だって、サイラス様は……私の大切な学友で、元生徒で……そ、その……特別な人だから。
と、特別な人といっても、好きとかそういうのじゃなくて……う、うぅ~! とにかく違うんだから!
あら……この優しい女性の声、とても聞き覚えがあるわ。ひょっとして……。
「母上? ああ、エリシアもいるよ」
「よかった。失礼するわね」
部屋の扉が開くと、そこには腰まで伸びる赤い髪と、まるで聖母のような慈悲深い頬笑みが特徴的な女性が立っていた。
彼女はイリス様。サイラス様のお母様で、このクラヴェル家の当主様を務めているお方だ。
病気で亡くなった前当主であり、夫であるサイラス様のお父様に代わって、ずっとクラヴェル家を守っている、とても凄い人なのよ。
ちなみに、サイラス様には他にもお兄様が一人、お姉様が二人いらっしゃるのだけど、お兄様は騎士団のお仕事で長期の出張に行っており、お姉様達は既に嫁いでいるから、この屋敷にはいないわ。
「ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません、イリス様。お仕事で出かけていて、今日はお帰りにならないと、サイラス様から伺ってたものでして」
「それがね、久しぶりにエリシアちゃんが帰ってくるって聞いて、急いでお仕事を終わらせて、全速力で帰ってきたの!」
「まあ、それはとっても光栄――きゃあ!」
つかつかと早足で歩く音を立てながら、私のところにまでやってきたイリス様は、そのまま私を強く抱きしめてきた。
そ、そうだった。イリス様もサイラス様と同じ様に、愛情表現が凄い人だったわ……すっかり失念していた。
まあ、相手は女性だから、サイラス様にされる時よりはドキドキしたりはしないけど、やっぱりビックリするから控えてほしいというのが本音だ。
「あの、イリス様。此度は私を受け入れてくださったこと、誠にありがとうございます」
「どういたしまして。少しでもサイラスの面倒を見てもらった恩が返せれば幸いだわ。それで、一緒に住んでみてどう? そのまま結婚しちゃう?」
「ぶふっ!?」
熱い抱擁から解放されたと思ったら、続けてとんでもない爆弾を投げつけられたのだけど……!?
「俺としては、いつでもウェルカムなんだけどなぁ」
「もう、あなたも何を言っているの!? そういうのは、もっと真剣に考えてから決めるものよ!」
「そうなのか? それなら問題ないな! 俺は、学生の時からエリシアを愛しているし、結婚できたらって無駄に考えたくらいだからな!」
「~~~~っ!! も、もうこの話はおしまい! 私、今日はもう休ませてもらいます!!」
ついに恥ずかしさが限界に来た私は、この状況から逃げるように、お布団を頭からかぶった。
ただでさえ恥ずかしいのに、きっと真っ赤になっている私の顔をこれ以上見られるのは、恥ずかしすぎて耐えられないわ!
「あらあら、ふふっ。サイラス、これ以上はエリシアちゃんが困っちゃいそうだから、お暇しましょうか」
「それは残念だ……まあいいか。二人で話す機会は、この先いくらでもあるしな。それじゃあエリシア、また明日」
「お、おやすみなさい!」
布団被ったまま挨拶をすると、扉が開かれた音を最後に、何の音も聞こえなくなった。
どうやら、二人共部屋を出ていったみたい……はぁ、まさかこんなにドキドキさせられると思っていなかった……。
「ちょっと夜風にあたってから、休ませてもら――ひゃあ!?」
もう誰もいないと思って布団から出ると、そこにはニコニコと笑っているイリス様の姿があった。
「い、イリス様!? まだいらしたのですか!?」
「ええ。最後に言いたいことがあってね」
な、なんだろう……私の態度が気にいらないところがあったのだろうか。それとも、サイラス様と結婚してとお願いをしたいのだろうか。
「あの子ね、あなたと会えなくなってからしばらくの間、本当に人が変わったみたいに落ち込んじゃってね。時間があの子を多少癒してくれて、外では明るく振る舞えるようになったけど、元のようにはならなかった」
わ、私のせいで、サイラス様が……直接会えなくても、無理にでも手紙の一通でも出せばよかった。
本当は何度も手紙を送りたいと思っていたのだけど、その度にマグナス様に浮気をするつもりなのかと止められ、手酷い罰を与えられてしまって……次第に仕事の忙しさもあって、手紙を送る気力が無くなってしまった。
……いえ、これはただの言い訳ね。自分の身のことなんて顧みずに、サイラス様のために行動するべきだった。本当に、申し訳ないことをしてしまった……。
「でもね、最近あなたと再会してから、あの子は以前のような明るさを取り戻したの。それがとっても嬉しくて。だからというわけではないのだけど……結婚とかギルドとか関係なく、これからもあの子と仲良くしてあげてほしいの」
「イリス様……はい、もちろんです」
そんなの、頼まれるまでもないわ。私はこれからも、サイラス様とは懇意にさせてもらうつもりだ。
だって、サイラス様は……私の大切な学友で、元生徒で……そ、その……特別な人だから。
と、特別な人といっても、好きとかそういうのじゃなくて……う、うぅ~! とにかく違うんだから!
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