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第14話 あの方の元へ
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「ふぅ、なんとか着いたのは良いけど……やっぱりいませんよね」
なんとか氷の滑り台を使っての大脱走をしましたが、約束の時間からかなり遅れてしまった私は、噴水の前で意気消沈していました。
仕方がありませんよね……約束の時間に五分や十分遅れたならまだしも、もう一時間も経っております。いくら私の事を想ってくれているレックス様とはいえ、帰ってもおかしくありませんわ。
「急いで走って来たんですけど……脱出方法を考えつくのと、魔力を溜めるのに時間をかけ過ぎましたわ……」
レックス様、怒ってしまいましたでしょうか……それとも呆れて見捨てられてしまったでしょうか……これで、きっと私はまた一人ぼっち……そう思うと、自然と涙が溢れてきました。
……こんなところで泣いていても仕方ないですわ。このままここにいたら、脱走した私を連れ戻しに来た使用人に見つかってしまいます。とりあえず……移動して、ほとぼりが冷めた頃に帰りましょう……。
「あのー……大丈夫ですか?」
「え?」
噴水の前で一人泣いていると、エプロンをつけた若い女性に声をかけられました。
随分と心配そうな顔をしておられます。心の妖精も同様の表情ですわ。ふふっ……初対面の人に情けをかけられるくらい酷い顔をしているのかしら、私。
『特徴は一致してるし……多分この人だよね? でも間違ってたらどうしよう!』
……? この人は心の中で一体何を言っているんでしょうか? 私の事を知っているような口ぶりですが……。
「もし違っていたらごめんなさい。赤い髪と目が特徴で、凄く元気のある男性に心当たりはありませんか?」
「え、はい……あります。その特徴の人とここで待ち合わせをしておりましたの」
「やっぱり! その方から伝言を預かってます。一時的に離れる、すぐに戻るとのことです」
すぐ戻る……って事は、怒ったり呆れてしまってお帰りになられたわけじゃないって事ですの?
うっ……うぅ……よかった……レックス様に愛想を尽かされたわけじゃなかったんですね……。
「ただ……その伝言を残したのは随分前でして」
「いつぐらいですの?」
「一時間前です」
一時間前。という事は、私と約束していたぐらいの時間に伝言を残して離れていったという事でしょう。
それにしても、待ち合わせの時間に離れなくてはいけない程の理由って何なのでしょうか? なにか嫌な予感がしますわ……待っているのも手ですが、探しに行った方が良さそうですね。
「教えていただきありがとうございました。ちなみに彼がどっちに行ったかはお分かりになりますか?」
「遠目だったのではっきりはわかりませんが、北ブロックの方に向かっていったはずです。あんな人も少なくて、治安が良くないブロックに行くなんて不思議だな~っと思ったから、印象に残ってます。そういえば、お婆さんと一緒に歩いていましたね」
北ブロック――レックス様ってば、そんなところに行くなんて……。その老婆とやらが怪しく思えて仕方がありませんわ。
「わかりました。私も行ってみる事にしますわ」
「気をつけて行ってくださいね。あ、それと! これを彼に渡してください!」
「この麻袋は?」
「私に伝言を頼むお礼として、店で一番高いブーケを買ってくれたんです。それで、おつりもいらないと言って出ていってしまったんです」
「なるほど、これはそのおつりという事ですわね」
「そうです。お願いできますか?」
私は頷きながら、麻袋を受け取りました。
急いでいるのにお礼として買い物をするなんて、レックス様らしいですわ。おつりをいらないと言ってしまうところも、不思議とそれらしさが出てる気がします。
『ふぅ、なんとか伝えられてよかった! こんな綺麗な人を待ってたのに待ち合わせ場所を離れる事になったら、そりゃ焦るわよね~納得』
「はぅっ……で、では失礼しますわ」
思わぬ不意打ちを受けてしまいましたが、なんとか表情に出さずに去ることが出来た私は、情報通り北ブロックへと向かって歩き出す。
最初は人が多くて、普通の話し声や妖精の声が入り乱れて耳が痛かったですが、北ブロックに来てしまうと、驚くくらい静かでしたわ。
「本当に人が少ないですわね……見かけても怪しそうな人ばかり。早くレックス様を見つけて立ち去りましょう」
「お嬢ちゃん、こんなところにきてどうしたんだぁ?」
周りをキョロキョロしていると、二人組の男性が声をかけてきました。片方は頭を剃りあげていて、もう片方は鳥のトサカみたいな頭。両者とも上半身裸という、なんとも奇抜すぎるスタイルですわ。
「人を探してますの。赤い髪と目の男性を見ませんでしたか?」
「知らねえなぁ。人探ししてるなら、オレ達も一緒に探してやるぜぇ」
「そりゃ名案だ! オイラたちは困ってる人は見過ごせない優しい男だからな!」
まあ、それは頼もしいですわ――なんて思うはずないでしょう。いくらレックス様の事は信じているとはいえ、私は元々他人が嫌いですし、一切信じられません。
『な、なんちゅう上玉だ……すぐにひん剥きてぇ!』
『ぐへへへ……奴隷商人に売ったら金になりそうだぜ……』
全く、本音が駄々洩れですわよ。考えている事が気持ち悪すぎて……少し吐き気がします。
「知らないならこれ以上お話する事はありません。お引き取りを」
「まぁまぁ、ちょっと待てって!」
「触らないでくれます?」
トサカ頭の男性が私の肩を掴んできたので、二人まとめて顔に水球をぶつけてやりました。その衝撃で、二人は吹き飛ばされ、近くの建物の壁に激突しました。
「いってぇ……何すんだごらぁ!?」
「下心丸出しで私に触れるからですわ」
「生意気な……な、なんだこれ!?」
二人は立って私に掴みかかろうとしましたが、立ち上がる事が出来ません。それもそのはず……彼らの腕や足は、凍った地面にくっついてしまっていますので。
「無理に立とうとしたら、ザックリいくかもしれませんから、溶けるまで大人しくしておいた方が良いですわよ」
「こ、このっ……!」
「では失礼しますわ」
全く、変な連中に絡まれたせいで時間を浪費してしまいました。早くレックス様を探さないと……一体どこにいるのかしら。北ブロックに来たという情報しかないから、あてもなく探すしかありませんわね。
****
「レックス様ー!! 返事をしてくださいませー!」
レックス様を捜索してからしばらく経っても、全く見つかる気配がありません。もしかしたらもう戻ってるかと思い、一度だけ噴水に戻ってもみましたが、そこにもいません。
怪しい老婆についていったと聞いた時からおかしいと思っていましたが、その不信感と不安はどんどんと大きくなっていきます。もしかして……何か事件に巻き込まれたのでしょうか。
「はぁ……はぁ……さすがにドレスでずっと動き続けるのは疲れますわ……」
今日は魔法も立て続けに使ってますし、レックス様を探して走り続けています。そのせいで、かなり疲労が蓄積されてしまっております。
でも……止まるわけにはいきません。ご本人には自覚は無いかもしれませんが、出会った日から私とずっと一緒にいてくれた事が、どれだけ支えになったか。どれだけ嬉しかったか。
『――るっ』
「……? 何か聞こえたような……?」
気のせいでしょうか。確かに今どこからか声が聞こえてきたような……。
『俺――アイリス――』
気のせいじゃないですわ! 北の方角から、私の名を呼ぶ声が聞こえてきましたわ!
きっとあちらにレックス様がいらっしゃる――出会ってからずっと励まし、そして愛してくれたレックス様を、今度は私が助けて、支える番ですわ!
「待っててください……今行きますから!」
レックス様の元に向かってさらに走り続ける事、約五分。私は大きくてボロボロの倉庫にたどり着きました。きっとあの中にレックス様が……。
「なんだ貴様!?」
「退きなさい!!」
入り口の見張りをしていた男性に氷塊を当てて気絶させた私は、倉庫の中に突入する。そこには沢山の男性と、楽しそうに笑うディアナお姉様。そして――血まみれになってぐったりしているレックス様の姿がありました――
なんとか氷の滑り台を使っての大脱走をしましたが、約束の時間からかなり遅れてしまった私は、噴水の前で意気消沈していました。
仕方がありませんよね……約束の時間に五分や十分遅れたならまだしも、もう一時間も経っております。いくら私の事を想ってくれているレックス様とはいえ、帰ってもおかしくありませんわ。
「急いで走って来たんですけど……脱出方法を考えつくのと、魔力を溜めるのに時間をかけ過ぎましたわ……」
レックス様、怒ってしまいましたでしょうか……それとも呆れて見捨てられてしまったでしょうか……これで、きっと私はまた一人ぼっち……そう思うと、自然と涙が溢れてきました。
……こんなところで泣いていても仕方ないですわ。このままここにいたら、脱走した私を連れ戻しに来た使用人に見つかってしまいます。とりあえず……移動して、ほとぼりが冷めた頃に帰りましょう……。
「あのー……大丈夫ですか?」
「え?」
噴水の前で一人泣いていると、エプロンをつけた若い女性に声をかけられました。
随分と心配そうな顔をしておられます。心の妖精も同様の表情ですわ。ふふっ……初対面の人に情けをかけられるくらい酷い顔をしているのかしら、私。
『特徴は一致してるし……多分この人だよね? でも間違ってたらどうしよう!』
……? この人は心の中で一体何を言っているんでしょうか? 私の事を知っているような口ぶりですが……。
「もし違っていたらごめんなさい。赤い髪と目が特徴で、凄く元気のある男性に心当たりはありませんか?」
「え、はい……あります。その特徴の人とここで待ち合わせをしておりましたの」
「やっぱり! その方から伝言を預かってます。一時的に離れる、すぐに戻るとのことです」
すぐ戻る……って事は、怒ったり呆れてしまってお帰りになられたわけじゃないって事ですの?
うっ……うぅ……よかった……レックス様に愛想を尽かされたわけじゃなかったんですね……。
「ただ……その伝言を残したのは随分前でして」
「いつぐらいですの?」
「一時間前です」
一時間前。という事は、私と約束していたぐらいの時間に伝言を残して離れていったという事でしょう。
それにしても、待ち合わせの時間に離れなくてはいけない程の理由って何なのでしょうか? なにか嫌な予感がしますわ……待っているのも手ですが、探しに行った方が良さそうですね。
「教えていただきありがとうございました。ちなみに彼がどっちに行ったかはお分かりになりますか?」
「遠目だったのではっきりはわかりませんが、北ブロックの方に向かっていったはずです。あんな人も少なくて、治安が良くないブロックに行くなんて不思議だな~っと思ったから、印象に残ってます。そういえば、お婆さんと一緒に歩いていましたね」
北ブロック――レックス様ってば、そんなところに行くなんて……。その老婆とやらが怪しく思えて仕方がありませんわ。
「わかりました。私も行ってみる事にしますわ」
「気をつけて行ってくださいね。あ、それと! これを彼に渡してください!」
「この麻袋は?」
「私に伝言を頼むお礼として、店で一番高いブーケを買ってくれたんです。それで、おつりもいらないと言って出ていってしまったんです」
「なるほど、これはそのおつりという事ですわね」
「そうです。お願いできますか?」
私は頷きながら、麻袋を受け取りました。
急いでいるのにお礼として買い物をするなんて、レックス様らしいですわ。おつりをいらないと言ってしまうところも、不思議とそれらしさが出てる気がします。
『ふぅ、なんとか伝えられてよかった! こんな綺麗な人を待ってたのに待ち合わせ場所を離れる事になったら、そりゃ焦るわよね~納得』
「はぅっ……で、では失礼しますわ」
思わぬ不意打ちを受けてしまいましたが、なんとか表情に出さずに去ることが出来た私は、情報通り北ブロックへと向かって歩き出す。
最初は人が多くて、普通の話し声や妖精の声が入り乱れて耳が痛かったですが、北ブロックに来てしまうと、驚くくらい静かでしたわ。
「本当に人が少ないですわね……見かけても怪しそうな人ばかり。早くレックス様を見つけて立ち去りましょう」
「お嬢ちゃん、こんなところにきてどうしたんだぁ?」
周りをキョロキョロしていると、二人組の男性が声をかけてきました。片方は頭を剃りあげていて、もう片方は鳥のトサカみたいな頭。両者とも上半身裸という、なんとも奇抜すぎるスタイルですわ。
「人を探してますの。赤い髪と目の男性を見ませんでしたか?」
「知らねえなぁ。人探ししてるなら、オレ達も一緒に探してやるぜぇ」
「そりゃ名案だ! オイラたちは困ってる人は見過ごせない優しい男だからな!」
まあ、それは頼もしいですわ――なんて思うはずないでしょう。いくらレックス様の事は信じているとはいえ、私は元々他人が嫌いですし、一切信じられません。
『な、なんちゅう上玉だ……すぐにひん剥きてぇ!』
『ぐへへへ……奴隷商人に売ったら金になりそうだぜ……』
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「知らないならこれ以上お話する事はありません。お引き取りを」
「まぁまぁ、ちょっと待てって!」
「触らないでくれます?」
トサカ頭の男性が私の肩を掴んできたので、二人まとめて顔に水球をぶつけてやりました。その衝撃で、二人は吹き飛ばされ、近くの建物の壁に激突しました。
「いってぇ……何すんだごらぁ!?」
「下心丸出しで私に触れるからですわ」
「生意気な……な、なんだこれ!?」
二人は立って私に掴みかかろうとしましたが、立ち上がる事が出来ません。それもそのはず……彼らの腕や足は、凍った地面にくっついてしまっていますので。
「無理に立とうとしたら、ザックリいくかもしれませんから、溶けるまで大人しくしておいた方が良いですわよ」
「こ、このっ……!」
「では失礼しますわ」
全く、変な連中に絡まれたせいで時間を浪費してしまいました。早くレックス様を探さないと……一体どこにいるのかしら。北ブロックに来たという情報しかないから、あてもなく探すしかありませんわね。
****
「レックス様ー!! 返事をしてくださいませー!」
レックス様を捜索してからしばらく経っても、全く見つかる気配がありません。もしかしたらもう戻ってるかと思い、一度だけ噴水に戻ってもみましたが、そこにもいません。
怪しい老婆についていったと聞いた時からおかしいと思っていましたが、その不信感と不安はどんどんと大きくなっていきます。もしかして……何か事件に巻き込まれたのでしょうか。
「はぁ……はぁ……さすがにドレスでずっと動き続けるのは疲れますわ……」
今日は魔法も立て続けに使ってますし、レックス様を探して走り続けています。そのせいで、かなり疲労が蓄積されてしまっております。
でも……止まるわけにはいきません。ご本人には自覚は無いかもしれませんが、出会った日から私とずっと一緒にいてくれた事が、どれだけ支えになったか。どれだけ嬉しかったか。
『――るっ』
「……? 何か聞こえたような……?」
気のせいでしょうか。確かに今どこからか声が聞こえてきたような……。
『俺――アイリス――』
気のせいじゃないですわ! 北の方角から、私の名を呼ぶ声が聞こえてきましたわ!
きっとあちらにレックス様がいらっしゃる――出会ってからずっと励まし、そして愛してくれたレックス様を、今度は私が助けて、支える番ですわ!
「待っててください……今行きますから!」
レックス様の元に向かってさらに走り続ける事、約五分。私は大きくてボロボロの倉庫にたどり着きました。きっとあの中にレックス様が……。
「なんだ貴様!?」
「退きなさい!!」
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