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第12話 障害を乗り越えて
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「うーん、こっちが良いかしら……それともこっち……」
ついに誕生日を迎えた私は、胸を弾ませながらどの服を着ていくか悩んでいました。
せっかくレックス様が誕生日を祝ってくださるのだから、少しでも綺麗な格好で行きたいですからね。
ちなみに、私も一応男爵の娘ではありますが、家ではバケモノ扱いされてるので、専属の使用人はついておりません。なので、こういった準備は自分一人で行う必要がございます。
それに慣れてしまっているせいか、家では特に不便は感じませんが、社交界に行くと、ほとんどの方に使用人がついてるため、使用人がいない私は少し浮いてしまうという問題はありますけどね。
「うーん……よし、これにしましょう」
私は真っ白なドレスを取り出して袖を通しました。
ドレスは一人で着るのは難しいですが、慣れているので特に苦労なく着る事ができましたわ。
うん、汚れてるところも無いですし、問題は……ちょっと肩と胸元が出過ぎかしら……いえ、きっと大丈夫でしょう。レックス様なら、どんな服を着ても、否定せずに褒めてくださるでしょうし。
「さて、次は髪っと……編み込みカチューシャとポニーテールにしましょう」
実は結構気に入っている髪型で、自分で何回もセットした事がありますので、これもそんなに時間をかけずに完了しました。
あとはお化粧を……と言いたいところなんですが、淑女としてあるまじき行為なのは重々承知でお話しすると……私、お化粧ってほとんどした事がありません。
昔は化粧品を使ってみたかったんだけど、使おうとしたところをディアナお姉様に見つかって散々馬鹿にされ、お母様にも見つかって叱られてしまって以来、お化粧はしなくなりました。
「レックス様のために、いつかは学んだ方がいいのかしら」
レックス様の事だから、
『してもしてなくても、どっちも君は美しいから問題ない!』
って仰るか、
『是非化粧してくれ! はっ……なんて事だ……前から綺麗だったのが、より綺麗に……もう耐えきれん……がくっ』
いやぁぁぁレックス様死なないでー! って、私は何を考えているのかしら。ありえない可能性の話なんかしてないで、準備しなきゃ。
「アイリス、入るぞ」
「お父様?」
準備が整い、あとは家を出るだけというところで、お父様が部屋に入ってこられました。
お父様がここに来るなんて何年振りでしょうか……何故でしょう。何か嫌な予感がします。
「今年はささやかながらお前の誕生日パーティーを開くことになった。だから今日一日予定を空けておけ」
「え? そんなの聞いてませんわ!!」
「今言ったからな。パーティーが始まるまでここにいてもらう。無論、パーティー中も外に出る事は叶わん」
こんなのおかしいです。私の誕生日パーティーをしてくれた事なんて一回もないですわ。
もしかして……私をデートに行かせないために……!?
『ふんっ、動揺してるな。ディアナに歯向かった罰だ愚か者め』
「っ……!」
やっぱりわざとですわね。そんなに私の嫌がる事をして何が楽しいんですの? 本当に……あなた達はなんなんですの!?
「これは家長命令だ。わかったな」
「…………」
流石に家長命令を出されてしまうと、これ以上言い返す事ができない。私は椅子に座ると、がっくりと項垂れてしまいました。
どうしましょう。このままではレックス様のところに行くことが出来ません。いくら家長命令とはいえ、レックス様との約束を破りたくはありません。それがたとえ、後に酷い罰が与えられる事になったとしても。
「……行きましょう。レックス様の元へ」
さて、おそらく部屋の外には見張りがついているでしょうから、普通に外に出るのは無理でしょう。かといってここは四階ですから、窓から飛び降りるのも……。
「レックス様みたいな身体能力があれば……」
もしもの話をしていても仕方がありません。私に出来る方法でなんとかここを脱出して、レックス様の待つ噴水へと行かなければ。
こうしている間に時間は刻一刻と進んでおります。考えるのよ私。落ち着いて、冷静に――
「うぅ……いつの間にかこんなに時間が…………いい方法が思い浮かばない……これでは確実に間に合いませんわ……」
時間が経てば経つほど焦りが募り、思考が鈍くなっていくのを感じます。こういう時に瞬間移動が出来る魔法が使えれば……って、だからもしもの話をしていても仕方がありませんのよ!
「私に出来る事といえば……心が見える魔法と、水と氷の魔法が使える事……」
……待って。心が見える魔法はこの場では役に立ちませんが、水と氷の魔法を上手く使えば……何とかなるかもしれませんわ!
「一発勝負……大丈夫。これでも魔法の練習はしっかりしていたんですから」
練習とは言っても、半分くらいはストレス発散のためだというのは置いておくとしましょう。
さて、やる事が決まったのは良いですが、私がやろうとしている事は絶対に失敗が許されないうえ、膨大な魔力と緻密なコントロールが必要と思われますわ。しっかり集中して……魔力を高めて……。
「……よし、いけますわ。レックス様、待っててくださいまし」
私はなるべく平らに、そして少し斜め下に向かって水魔法を放ってから間もなく、氷の魔法を使って今出した水を凍らせました。すると、私の前には緩やかな角度の、氷の滑り台が完成していました。
よかった、上手くいきましたわ。かなりの魔力を込めたから、強度も問題ないはず……だけど一応不安だから氷の柱を作って補強して、ブレーキ用の小さな氷柱も作って……これで完璧ですわ。
……作ったのは良いですけど、正直怖い。緩やかな傾斜で作ったとはいえ、もしかしたら何処か失敗して途切れているかもしれませんし、途中で折れるかもしれませんし、ブレーキが効かなくて何処かに衝突するかもしれませんわ。
でも……レックス様が待っていると思うと、不思議とそんな不安も乗り越えられましたわ。
『お、おいなんだあれは!?』
『アイリス様の部屋から出てるぞ!?』
どこからともなく、沢山の人達の声が聞こえてきます。きっと驚いたせいで、心の声が凄く大きくなっているのでしょう。
ここでこうしてたら、誰かが来てしまうかもしれないわ。覚悟を決めて……行きますわよ!!
ついに誕生日を迎えた私は、胸を弾ませながらどの服を着ていくか悩んでいました。
せっかくレックス様が誕生日を祝ってくださるのだから、少しでも綺麗な格好で行きたいですからね。
ちなみに、私も一応男爵の娘ではありますが、家ではバケモノ扱いされてるので、専属の使用人はついておりません。なので、こういった準備は自分一人で行う必要がございます。
それに慣れてしまっているせいか、家では特に不便は感じませんが、社交界に行くと、ほとんどの方に使用人がついてるため、使用人がいない私は少し浮いてしまうという問題はありますけどね。
「うーん……よし、これにしましょう」
私は真っ白なドレスを取り出して袖を通しました。
ドレスは一人で着るのは難しいですが、慣れているので特に苦労なく着る事ができましたわ。
うん、汚れてるところも無いですし、問題は……ちょっと肩と胸元が出過ぎかしら……いえ、きっと大丈夫でしょう。レックス様なら、どんな服を着ても、否定せずに褒めてくださるでしょうし。
「さて、次は髪っと……編み込みカチューシャとポニーテールにしましょう」
実は結構気に入っている髪型で、自分で何回もセットした事がありますので、これもそんなに時間をかけずに完了しました。
あとはお化粧を……と言いたいところなんですが、淑女としてあるまじき行為なのは重々承知でお話しすると……私、お化粧ってほとんどした事がありません。
昔は化粧品を使ってみたかったんだけど、使おうとしたところをディアナお姉様に見つかって散々馬鹿にされ、お母様にも見つかって叱られてしまって以来、お化粧はしなくなりました。
「レックス様のために、いつかは学んだ方がいいのかしら」
レックス様の事だから、
『してもしてなくても、どっちも君は美しいから問題ない!』
って仰るか、
『是非化粧してくれ! はっ……なんて事だ……前から綺麗だったのが、より綺麗に……もう耐えきれん……がくっ』
いやぁぁぁレックス様死なないでー! って、私は何を考えているのかしら。ありえない可能性の話なんかしてないで、準備しなきゃ。
「アイリス、入るぞ」
「お父様?」
準備が整い、あとは家を出るだけというところで、お父様が部屋に入ってこられました。
お父様がここに来るなんて何年振りでしょうか……何故でしょう。何か嫌な予感がします。
「今年はささやかながらお前の誕生日パーティーを開くことになった。だから今日一日予定を空けておけ」
「え? そんなの聞いてませんわ!!」
「今言ったからな。パーティーが始まるまでここにいてもらう。無論、パーティー中も外に出る事は叶わん」
こんなのおかしいです。私の誕生日パーティーをしてくれた事なんて一回もないですわ。
もしかして……私をデートに行かせないために……!?
『ふんっ、動揺してるな。ディアナに歯向かった罰だ愚か者め』
「っ……!」
やっぱりわざとですわね。そんなに私の嫌がる事をして何が楽しいんですの? 本当に……あなた達はなんなんですの!?
「これは家長命令だ。わかったな」
「…………」
流石に家長命令を出されてしまうと、これ以上言い返す事ができない。私は椅子に座ると、がっくりと項垂れてしまいました。
どうしましょう。このままではレックス様のところに行くことが出来ません。いくら家長命令とはいえ、レックス様との約束を破りたくはありません。それがたとえ、後に酷い罰が与えられる事になったとしても。
「……行きましょう。レックス様の元へ」
さて、おそらく部屋の外には見張りがついているでしょうから、普通に外に出るのは無理でしょう。かといってここは四階ですから、窓から飛び降りるのも……。
「レックス様みたいな身体能力があれば……」
もしもの話をしていても仕方がありません。私に出来る方法でなんとかここを脱出して、レックス様の待つ噴水へと行かなければ。
こうしている間に時間は刻一刻と進んでおります。考えるのよ私。落ち着いて、冷静に――
「うぅ……いつの間にかこんなに時間が…………いい方法が思い浮かばない……これでは確実に間に合いませんわ……」
時間が経てば経つほど焦りが募り、思考が鈍くなっていくのを感じます。こういう時に瞬間移動が出来る魔法が使えれば……って、だからもしもの話をしていても仕方がありませんのよ!
「私に出来る事といえば……心が見える魔法と、水と氷の魔法が使える事……」
……待って。心が見える魔法はこの場では役に立ちませんが、水と氷の魔法を上手く使えば……何とかなるかもしれませんわ!
「一発勝負……大丈夫。これでも魔法の練習はしっかりしていたんですから」
練習とは言っても、半分くらいはストレス発散のためだというのは置いておくとしましょう。
さて、やる事が決まったのは良いですが、私がやろうとしている事は絶対に失敗が許されないうえ、膨大な魔力と緻密なコントロールが必要と思われますわ。しっかり集中して……魔力を高めて……。
「……よし、いけますわ。レックス様、待っててくださいまし」
私はなるべく平らに、そして少し斜め下に向かって水魔法を放ってから間もなく、氷の魔法を使って今出した水を凍らせました。すると、私の前には緩やかな角度の、氷の滑り台が完成していました。
よかった、上手くいきましたわ。かなりの魔力を込めたから、強度も問題ないはず……だけど一応不安だから氷の柱を作って補強して、ブレーキ用の小さな氷柱も作って……これで完璧ですわ。
……作ったのは良いですけど、正直怖い。緩やかな傾斜で作ったとはいえ、もしかしたら何処か失敗して途切れているかもしれませんし、途中で折れるかもしれませんし、ブレーキが効かなくて何処かに衝突するかもしれませんわ。
でも……レックス様が待っていると思うと、不思議とそんな不安も乗り越えられましたわ。
『お、おいなんだあれは!?』
『アイリス様の部屋から出てるぞ!?』
どこからともなく、沢山の人達の声が聞こえてきます。きっと驚いたせいで、心の声が凄く大きくなっているのでしょう。
ここでこうしてたら、誰かが来てしまうかもしれないわ。覚悟を決めて……行きますわよ!!
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