上 下
12 / 20

第12話 障害を乗り越えて

しおりを挟む
「うーん、こっちが良いかしら……それともこっち……」

 ついに誕生日を迎えた私は、胸を弾ませながらどの服を着ていくか悩んでいました。

 せっかくレックス様が誕生日を祝ってくださるのだから、少しでも綺麗な格好で行きたいですからね。

 ちなみに、私も一応男爵の娘ではありますが、家ではバケモノ扱いされてるので、専属の使用人はついておりません。なので、こういった準備は自分一人で行う必要がございます。

 それに慣れてしまっているせいか、家では特に不便は感じませんが、社交界に行くと、ほとんどの方に使用人がついてるため、使用人がいない私は少し浮いてしまうという問題はありますけどね。

「うーん……よし、これにしましょう」

 私は真っ白なドレスを取り出して袖を通しました。

 ドレスは一人で着るのは難しいですが、慣れているので特に苦労なく着る事ができましたわ。

 うん、汚れてるところも無いですし、問題は……ちょっと肩と胸元が出過ぎかしら……いえ、きっと大丈夫でしょう。レックス様なら、どんな服を着ても、否定せずに褒めてくださるでしょうし。

「さて、次は髪っと……編み込みカチューシャとポニーテールにしましょう」

 実は結構気に入っている髪型で、自分で何回もセットした事がありますので、これもそんなに時間をかけずに完了しました。

 あとはお化粧を……と言いたいところなんですが、淑女としてあるまじき行為なのは重々承知でお話しすると……私、お化粧ってほとんどした事がありません。

 昔は化粧品を使ってみたかったんだけど、使おうとしたところをディアナお姉様に見つかって散々馬鹿にされ、お母様にも見つかって叱られてしまって以来、お化粧はしなくなりました。 

「レックス様のために、いつかは学んだ方がいいのかしら」

 レックス様の事だから、

『してもしてなくても、どっちも君は美しいから問題ない!』

 って仰るか、

『是非化粧してくれ! はっ……なんて事だ……前から綺麗だったのが、より綺麗に……もう耐えきれん……がくっ』

 いやぁぁぁレックス様死なないでー! って、私は何を考えているのかしら。ありえない可能性の話なんかしてないで、準備しなきゃ。

「アイリス、入るぞ」
「お父様?」

 準備が整い、あとは家を出るだけというところで、お父様が部屋に入ってこられました。

 お父様がここに来るなんて何年振りでしょうか……何故でしょう。何か嫌な予感がします。

「今年はささやかながらお前の誕生日パーティーを開くことになった。だから今日一日予定を空けておけ」
「え? そんなの聞いてませんわ!!」
「今言ったからな。パーティーが始まるまでここにいてもらう。無論、パーティー中も外に出る事は叶わん」

 こんなのおかしいです。私の誕生日パーティーをしてくれた事なんて一回もないですわ。

 もしかして……私をデートに行かせないために……!?

『ふんっ、動揺してるな。ディアナに歯向かった罰だ愚か者め』
「っ……!」

 やっぱりわざとですわね。そんなに私の嫌がる事をして何が楽しいんですの? 本当に……あなた達はなんなんですの!?

「これは家長命令だ。わかったな」
「…………」

 流石に家長命令を出されてしまうと、これ以上言い返す事ができない。私は椅子に座ると、がっくりと項垂れてしまいました。

 どうしましょう。このままではレックス様のところに行くことが出来ません。いくら家長命令とはいえ、レックス様との約束を破りたくはありません。それがたとえ、後に酷い罰が与えられる事になったとしても。

「……行きましょう。レックス様の元へ」

 さて、おそらく部屋の外には見張りがついているでしょうから、普通に外に出るのは無理でしょう。かといってここは四階ですから、窓から飛び降りるのも……。

「レックス様みたいな身体能力があれば……」

 もしもの話をしていても仕方がありません。私に出来る方法でなんとかここを脱出して、レックス様の待つ噴水へと行かなければ。

 こうしている間に時間は刻一刻と進んでおります。考えるのよ私。落ち着いて、冷静に――

「うぅ……いつの間にかこんなに時間が…………いい方法が思い浮かばない……これでは確実に間に合いませんわ……」

 時間が経てば経つほど焦りが募り、思考が鈍くなっていくのを感じます。こういう時に瞬間移動が出来る魔法が使えれば……って、だからもしもの話をしていても仕方がありませんのよ!

「私に出来る事といえば……心が見える魔法と、水と氷の魔法が使える事……」

 ……待って。心が見える魔法はこの場では役に立ちませんが、水と氷の魔法を上手く使えば……何とかなるかもしれませんわ!

「一発勝負……大丈夫。これでも魔法の練習はしっかりしていたんですから」

 練習とは言っても、半分くらいはストレス発散のためだというのは置いておくとしましょう。

 さて、やる事が決まったのは良いですが、私がやろうとしている事は絶対に失敗が許されないうえ、膨大な魔力と緻密なコントロールが必要と思われますわ。しっかり集中して……魔力を高めて……。

「……よし、いけますわ。レックス様、待っててくださいまし」

 私はなるべく平らに、そして少し斜め下に向かって水魔法を放ってから間もなく、氷の魔法を使って今出した水を凍らせました。すると、私の前には緩やかな角度の、氷の滑り台が完成していました。

 よかった、上手くいきましたわ。かなりの魔力を込めたから、強度も問題ないはず……だけど一応不安だから氷の柱を作って補強して、ブレーキ用の小さな氷柱も作って……これで完璧ですわ。

 ……作ったのは良いですけど、正直怖い。緩やかな傾斜で作ったとはいえ、もしかしたら何処か失敗して途切れているかもしれませんし、途中で折れるかもしれませんし、ブレーキが効かなくて何処かに衝突するかもしれませんわ。

 でも……レックス様が待っていると思うと、不思議とそんな不安も乗り越えられましたわ。

『お、おいなんだあれは!?』
『アイリス様の部屋から出てるぞ!?』

 どこからともなく、沢山の人達の声が聞こえてきます。きっと驚いたせいで、心の声が凄く大きくなっているのでしょう。

 ここでこうしてたら、誰かが来てしまうかもしれないわ。覚悟を決めて……行きますわよ!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

役立たずと捨て石にされたコミュ障皇女は、死地に送られ愛される

なかの豹吏
恋愛
   テオリカンの皇女、ヴァレリア。  三姉妹の末娘である彼女は社交性も乏しく、挨拶をしてもどもるばかり。  年の離れた公爵令息に言い寄られるも、それを狙う姉に邪魔だと邪険に扱われる始末。  父親から社交界では使えないと評され、ヴァレリアは十三歳にして滅亡寸前の弱小国、ドミトリノ王国へ謀略の為の『生贄』として差し出されるのであった。  そこで結婚相手となる皇子、マリウスと出会い彼と接するうちに恋心が芽ばえるヴァレリア。  だが今回の結婚の目的は、テオリカンがドミトリノ王国を奪い取る為の謀略だった。  負け戦とわかっていてもなお決起に燃えるマリウス率いるドミトリノ王国軍。  その出陣前にヴァレリアは―――。

嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜

悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜 嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。 陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。 無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。 夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。 怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……

女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」  行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。  相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。  でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!  それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。  え、「何もしなくていい」?!  じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!    こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?  どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。  二人が歩み寄る日は、来るのか。  得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?  意外とお似合いなのかもしれません。笑

お菓子店の経営に夢中な私は、婚約破棄されても挫けない!

キョウキョウ
恋愛
「僕と店、どっちが大事なんだ?」 「それは当然、お店です」 「なんて失礼な奴だ! お前との婚約は、破棄させてもらう!!」 王都で大繁盛する菓子店の経営者である、公爵令嬢のシャルロッテ。 エヴラール王子は、婚約相手のシャルロッテが経営に夢中になっていることが気に入らなかった。 ある日シャルロッテを呼び出して、自分とお店、どちらが大事なのかを天秤にかけて王子は問いかけた。 彼女の答えを聞いて、エヴラール王子は怒りながら勢い任せでシャルロッテに婚約破棄を言い渡す。 それだけでなく、シャルロッテのお店を営業停止処分にすると宣告した。 婚約者で王族でもある僕のことを最優先に考えて大切にしろ、と王子は言った。 そんな無茶苦茶な理由で婚約を破棄されたシャルロッテはツテを頼って隣国に移り住み、新しい菓子店をオープンする。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

【完結】偽物と呼ばれた公爵令嬢は正真正銘の本物でした~私は不要とのことなのでこの国から出ていきます~

Na20
恋愛
私は孤児院からノスタルク公爵家に引き取られ養子となったが家族と認められることはなかった。 婚約者である王太子殿下からも蔑ろにされておりただただ良いように使われるだけの毎日。 そんな日々でも唯一の希望があった。 「必ず迎えに行く!」 大好きだった友達との約束だけが私の心の支えだった。だけどそれも八年も前の約束。 私はこれからも変わらない日々を送っていくのだろうと諦め始めていた。 そんな時にやってきた留学生が大好きだった友達に似ていて… ※設定はゆるいです ※小説家になろう様にも掲載しています

辺境伯令嬢の私に、君のためなら死ねると言った魔法騎士様は婚約破棄をしたいそうです

茜カナコ
恋愛
辺境伯令嬢の私に、君のためなら死ねると言った魔法騎士様は婚約破棄をしたいそうです シェリーは新しい恋をみつけたが……

【完結】氷の仮面を付けた婚約者と王太子の話

miniko
恋愛
王太子であるセドリックは、他人の心の声が聞けると言う魔道具を手に入れる。 彼は、大好きな婚約者が、王太子妃教育の結果、無表情になってしまった事を寂しく思っていた。 婚約者の本音を聞く為に、魔道具を使ったセドリックだが・・・

処理中です...