6 / 16
第六話 アルバートの秘密
しおりを挟む
マグヴェイ家で過ごすようになってからしばらくの時が経ったある日、私は自室でメイドに身支度を整えてもらっていた。
あれから私は、何か大きな事件に巻き込まれる事も無く、マグヴェイ家の屋敷でのんびりと過ごしている。
ずっと辛い生活を強いられてきた私にとって、マグヴェイ家の生活はとても穏やかで、幸せだった。食べ物も美味しいし、周りの環境も良い。屋敷の方々は親切で、私を大切にしてくれる。
私が読書が好きだからといって、山のように本を用意してくれた時は、さすがに驚きの方が勝ったけどね。
でも、二つ問題があるの。それは、私ばかりがマグヴェイ家の方々に良くしてもらっていて、何も返せていない事。そして、お義母様にお願いされた、アルバート様を支えてほしいという事だ。
私は二度の人生の中で、勉強と読書と魔法以外は、ほとんどやって来ていない。強いて言うなら、カップラーメンの器に、線ぴったりにお湯を注ぐのが得意なくらい。だから、マグヴェイ家の方々にお返しをしたいのに、何をすればいいかわからないの。
そしてもう一つの問題だけど……こっちの方が深刻だ。
一緒に部屋で過ごす事はあるのだけど、いつも私はアルバート様を邪魔しないように、部屋の隅で読書をしている。その最中にアルバート様をチラチラ見て、何か出来ないかと伺っているけど、そんなチャンスはまだ来てない。
前に、私がいたら迷惑じゃないかと聞いた事もあるんだけど、屋敷の人間はいつも気を使って一人にしてくれるから、こうして誰かと一緒にいるのは新鮮で楽しいと言われたわ。
それどころか、本以外にも私にプレゼントをしてくれたり、たまには外に出た方が良いと言って、外出の手筈を整えてくれたり、オススメの本を教えてくれたりと、至れり尽くせりだ。
そんなにしてくれるくらい、一緒にいて楽しいんだったら……どうしてその目は生きていないの? やっぱり、私なんかじゃ彼を支えるのなんて、無理なのかしら。
……ダメダメ、弱気になるな私。前世で社畜になっても頑張ってた時を思い出せ。実家の為に魔法の勉強を必死にした時を思い出せ。やせ我慢は結構得意なんだから、もうちょっと頑張ってみよう。
「今日もお綺麗ですわ、フェリーチェ様」
「そんな、私が綺麗だなんて」
「もう、毎日お伝えしてるのですから、そろそろ認めてくださいませ」
「そう言われましても……」
確かにこのメイドの人は、いつも私の事を綺麗と言ってくれる。それは嬉しいんだけど、それ以上に恥ずかしくもある。
こんな風に喜んだり恥ずかしがれるようになるなんて、ここに来る前は考えもしなかったわ。これも、マグヴェイ家の方々が優しくしてくれたおかげで、心が軽くなったからね。
「じゃあ、アルバート様の所に行ってくるわ。今日も支度をしてくれて、ありがとう」
「いえ、とんでもございませんわ。いってらっしゃいませ」
メイドの人と別れてから、私はアルバート様の部屋まで来てノックをしてみるが、何の反応もない。もしかして寝てるのだろうか? それか研究に熱中してるか……。
「フェリーチェです。アルバート様? 入りますよー」
一声かけてから部屋に入るが、そこには本当に誰もいなかった。
もしかして外出? いや、引きこもりのアルバート様が、家の外に出るとは考えにくい。それか食事? それも時間的にまだのはず。なら、また本に埋もれてる?
「アルバート様? あれ、これは……」
部屋の中をうろうろしていると、机の横に小さな魔法陣が描かれていた。
この部屋には何度も来ているけど、こんな魔法陣は見た事がない。これが、アルバート様の不在に関係しているのかしら。
「危険はないと思うけど……」
少し警戒しながら魔法陣に触れようとすると、触れる前に魔法陣がほんのりと光りだした。それから間もなく、部屋に沢山ある本棚の一つが動き出し、隠し通路が現れた。
こんなものがあるなんて、完全に想定外だったわ。何かを隠しているとしか思えない……入って良いものか、悩ましい。
でも、この先でアルバート様が危険な目に合っている可能性もある。もし怒られたら謝ればいいし、仮に嫌われても、昔のように戻るだけだ。
「……それは、嫌だけど……ううん、嫌われるよりも、アルバート様の身の安全の確認の方が大事だわ」
意を決して隠し通路の中に入ると、下へと続く階段が伸びていた。壁にかけられた、数の少ないロウソクしか光源がないせいで、かなり薄暗い。
「足を踏み外さないようにしないとね……あら?」
ゆっくり慎重に進んでいると、下の方から何か話し声のような音が聞こえてきた。さすがにこの位置では内容まではわからないけど、誰かいるのは確かだ。
「結構長いわね……あ、ようやく終わりだ」
ゆっくりと時間をかけて一番下まで降りた私を出迎えたのは、地下とは思えないくらいに広い空間だった。
それ以上に目立っていたのは、地面に描かれた魔法陣だ。この広い地下空間の地面を全て埋め尽くすほどの巨大な魔法陣は、見ていて圧倒されてしまうほどだ。
そして、その魔法陣の中心に、アルバート様が立っていた。
「また駄目だ……どうして……あと少しなのに、何がいけないというんだ!!」
「アルバート様……?」
「っ!? フェリーチェ……どうしてここに」
「部屋に行ったらいなかったので、中を探してたら魔法陣を見つけて……ここに続く道が出てきたんです」
「魔法陣……僕とした事が、うっかり魔法陣を見えないようにするのを忘れていたか」
少し困ったように笑うアルバート様の前……魔法陣の中心には、人が一人寝れるくらいの大きさの台座があった。その台座には……一人の女の子が横たわっている。
「その、よければ説明してもらえませんか?」
「……そうだね。バレてしまった以上、君にはちゃんと話そう。僕の研究……そして、この子の事もね」
あれから私は、何か大きな事件に巻き込まれる事も無く、マグヴェイ家の屋敷でのんびりと過ごしている。
ずっと辛い生活を強いられてきた私にとって、マグヴェイ家の生活はとても穏やかで、幸せだった。食べ物も美味しいし、周りの環境も良い。屋敷の方々は親切で、私を大切にしてくれる。
私が読書が好きだからといって、山のように本を用意してくれた時は、さすがに驚きの方が勝ったけどね。
でも、二つ問題があるの。それは、私ばかりがマグヴェイ家の方々に良くしてもらっていて、何も返せていない事。そして、お義母様にお願いされた、アルバート様を支えてほしいという事だ。
私は二度の人生の中で、勉強と読書と魔法以外は、ほとんどやって来ていない。強いて言うなら、カップラーメンの器に、線ぴったりにお湯を注ぐのが得意なくらい。だから、マグヴェイ家の方々にお返しをしたいのに、何をすればいいかわからないの。
そしてもう一つの問題だけど……こっちの方が深刻だ。
一緒に部屋で過ごす事はあるのだけど、いつも私はアルバート様を邪魔しないように、部屋の隅で読書をしている。その最中にアルバート様をチラチラ見て、何か出来ないかと伺っているけど、そんなチャンスはまだ来てない。
前に、私がいたら迷惑じゃないかと聞いた事もあるんだけど、屋敷の人間はいつも気を使って一人にしてくれるから、こうして誰かと一緒にいるのは新鮮で楽しいと言われたわ。
それどころか、本以外にも私にプレゼントをしてくれたり、たまには外に出た方が良いと言って、外出の手筈を整えてくれたり、オススメの本を教えてくれたりと、至れり尽くせりだ。
そんなにしてくれるくらい、一緒にいて楽しいんだったら……どうしてその目は生きていないの? やっぱり、私なんかじゃ彼を支えるのなんて、無理なのかしら。
……ダメダメ、弱気になるな私。前世で社畜になっても頑張ってた時を思い出せ。実家の為に魔法の勉強を必死にした時を思い出せ。やせ我慢は結構得意なんだから、もうちょっと頑張ってみよう。
「今日もお綺麗ですわ、フェリーチェ様」
「そんな、私が綺麗だなんて」
「もう、毎日お伝えしてるのですから、そろそろ認めてくださいませ」
「そう言われましても……」
確かにこのメイドの人は、いつも私の事を綺麗と言ってくれる。それは嬉しいんだけど、それ以上に恥ずかしくもある。
こんな風に喜んだり恥ずかしがれるようになるなんて、ここに来る前は考えもしなかったわ。これも、マグヴェイ家の方々が優しくしてくれたおかげで、心が軽くなったからね。
「じゃあ、アルバート様の所に行ってくるわ。今日も支度をしてくれて、ありがとう」
「いえ、とんでもございませんわ。いってらっしゃいませ」
メイドの人と別れてから、私はアルバート様の部屋まで来てノックをしてみるが、何の反応もない。もしかして寝てるのだろうか? それか研究に熱中してるか……。
「フェリーチェです。アルバート様? 入りますよー」
一声かけてから部屋に入るが、そこには本当に誰もいなかった。
もしかして外出? いや、引きこもりのアルバート様が、家の外に出るとは考えにくい。それか食事? それも時間的にまだのはず。なら、また本に埋もれてる?
「アルバート様? あれ、これは……」
部屋の中をうろうろしていると、机の横に小さな魔法陣が描かれていた。
この部屋には何度も来ているけど、こんな魔法陣は見た事がない。これが、アルバート様の不在に関係しているのかしら。
「危険はないと思うけど……」
少し警戒しながら魔法陣に触れようとすると、触れる前に魔法陣がほんのりと光りだした。それから間もなく、部屋に沢山ある本棚の一つが動き出し、隠し通路が現れた。
こんなものがあるなんて、完全に想定外だったわ。何かを隠しているとしか思えない……入って良いものか、悩ましい。
でも、この先でアルバート様が危険な目に合っている可能性もある。もし怒られたら謝ればいいし、仮に嫌われても、昔のように戻るだけだ。
「……それは、嫌だけど……ううん、嫌われるよりも、アルバート様の身の安全の確認の方が大事だわ」
意を決して隠し通路の中に入ると、下へと続く階段が伸びていた。壁にかけられた、数の少ないロウソクしか光源がないせいで、かなり薄暗い。
「足を踏み外さないようにしないとね……あら?」
ゆっくり慎重に進んでいると、下の方から何か話し声のような音が聞こえてきた。さすがにこの位置では内容まではわからないけど、誰かいるのは確かだ。
「結構長いわね……あ、ようやく終わりだ」
ゆっくりと時間をかけて一番下まで降りた私を出迎えたのは、地下とは思えないくらいに広い空間だった。
それ以上に目立っていたのは、地面に描かれた魔法陣だ。この広い地下空間の地面を全て埋め尽くすほどの巨大な魔法陣は、見ていて圧倒されてしまうほどだ。
そして、その魔法陣の中心に、アルバート様が立っていた。
「また駄目だ……どうして……あと少しなのに、何がいけないというんだ!!」
「アルバート様……?」
「っ!? フェリーチェ……どうしてここに」
「部屋に行ったらいなかったので、中を探してたら魔法陣を見つけて……ここに続く道が出てきたんです」
「魔法陣……僕とした事が、うっかり魔法陣を見えないようにするのを忘れていたか」
少し困ったように笑うアルバート様の前……魔法陣の中心には、人が一人寝れるくらいの大きさの台座があった。その台座には……一人の女の子が横たわっている。
「その、よければ説明してもらえませんか?」
「……そうだね。バレてしまった以上、君にはちゃんと話そう。僕の研究……そして、この子の事もね」
27
お気に入りに追加
498
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
【完結】偽物と呼ばれた公爵令嬢は正真正銘の本物でした~私は不要とのことなのでこの国から出ていきます~
Na20
恋愛
私は孤児院からノスタルク公爵家に引き取られ養子となったが家族と認められることはなかった。
婚約者である王太子殿下からも蔑ろにされておりただただ良いように使われるだけの毎日。
そんな日々でも唯一の希望があった。
「必ず迎えに行く!」
大好きだった友達との約束だけが私の心の支えだった。だけどそれも八年も前の約束。
私はこれからも変わらない日々を送っていくのだろうと諦め始めていた。
そんな時にやってきた留学生が大好きだった友達に似ていて…
※設定はゆるいです
※小説家になろう様にも掲載しています
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
アリエール
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
捨てられた騎士団長と相思相愛です
京月
恋愛
3年前、当時帝国騎士団で最強の呼び声が上がっていた「帝国の美剣」ことマクトリーラ伯爵家令息サラド・マクトリーラ様に私ルルロ侯爵令嬢ミルネ・ルルロは恋をした。しかし、サラド様には婚約者がおり、私の恋は叶うことは無いと知る。ある日、とある戦場でサラド様は全身を火傷する大怪我を負ってしまった。命に別状はないもののその火傷が残る顔を見て誰もが彼を割け、婚約者は彼を化け物と呼んで人里離れた山で療養と言う名の隔離、そのまま婚約を破棄した。そのチャンスを私は逃さなかった。「サラド様!私と婚約しましょう!!火傷?心配いりません!私回復魔法の博士号を取得してますから!!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる