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第六話 アルバートの秘密

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 マグヴェイ家で過ごすようになってからしばらくの時が経ったある日、私は自室でメイドに身支度を整えてもらっていた。

 あれから私は、何か大きな事件に巻き込まれる事も無く、マグヴェイ家の屋敷でのんびりと過ごしている。

 ずっと辛い生活を強いられてきた私にとって、マグヴェイ家の生活はとても穏やかで、幸せだった。食べ物も美味しいし、周りの環境も良い。屋敷の方々は親切で、私を大切にしてくれる。

 私が読書が好きだからといって、山のように本を用意してくれた時は、さすがに驚きの方が勝ったけどね。

 でも、二つ問題があるの。それは、私ばかりがマグヴェイ家の方々に良くしてもらっていて、何も返せていない事。そして、お義母様にお願いされた、アルバート様を支えてほしいという事だ。

 私は二度の人生の中で、勉強と読書と魔法以外は、ほとんどやって来ていない。強いて言うなら、カップラーメンの器に、線ぴったりにお湯を注ぐのが得意なくらい。だから、マグヴェイ家の方々にお返しをしたいのに、何をすればいいかわからないの。

 そしてもう一つの問題だけど……こっちの方が深刻だ。

 一緒に部屋で過ごす事はあるのだけど、いつも私はアルバート様を邪魔しないように、部屋の隅で読書をしている。その最中にアルバート様をチラチラ見て、何か出来ないかと伺っているけど、そんなチャンスはまだ来てない。

 前に、私がいたら迷惑じゃないかと聞いた事もあるんだけど、屋敷の人間はいつも気を使って一人にしてくれるから、こうして誰かと一緒にいるのは新鮮で楽しいと言われたわ。

 それどころか、本以外にも私にプレゼントをしてくれたり、たまには外に出た方が良いと言って、外出の手筈を整えてくれたり、オススメの本を教えてくれたりと、至れり尽くせりだ。

 そんなにしてくれるくらい、一緒にいて楽しいんだったら……どうしてその目は生きていないの? やっぱり、私なんかじゃ彼を支えるのなんて、無理なのかしら。

 ……ダメダメ、弱気になるな私。前世で社畜になっても頑張ってた時を思い出せ。実家の為に魔法の勉強を必死にした時を思い出せ。やせ我慢は結構得意なんだから、もうちょっと頑張ってみよう。

「今日もお綺麗ですわ、フェリーチェ様」
「そんな、私が綺麗だなんて」
「もう、毎日お伝えしてるのですから、そろそろ認めてくださいませ」
「そう言われましても……」

 確かにこのメイドの人は、いつも私の事を綺麗と言ってくれる。それは嬉しいんだけど、それ以上に恥ずかしくもある。

 こんな風に喜んだり恥ずかしがれるようになるなんて、ここに来る前は考えもしなかったわ。これも、マグヴェイ家の方々が優しくしてくれたおかげで、心が軽くなったからね。

「じゃあ、アルバート様の所に行ってくるわ。今日も支度をしてくれて、ありがとう」
「いえ、とんでもございませんわ。いってらっしゃいませ」

 メイドの人と別れてから、私はアルバート様の部屋まで来てノックをしてみるが、何の反応もない。もしかして寝てるのだろうか? それか研究に熱中してるか……。

「フェリーチェです。アルバート様? 入りますよー」

 一声かけてから部屋に入るが、そこには本当に誰もいなかった。

 もしかして外出? いや、引きこもりのアルバート様が、家の外に出るとは考えにくい。それか食事? それも時間的にまだのはず。なら、また本に埋もれてる?

「アルバート様? あれ、これは……」

 部屋の中をうろうろしていると、机の横に小さな魔法陣が描かれていた。

 この部屋には何度も来ているけど、こんな魔法陣は見た事がない。これが、アルバート様の不在に関係しているのかしら。

「危険はないと思うけど……」

 少し警戒しながら魔法陣に触れようとすると、触れる前に魔法陣がほんのりと光りだした。それから間もなく、部屋に沢山ある本棚の一つが動き出し、隠し通路が現れた。

 こんなものがあるなんて、完全に想定外だったわ。何かを隠しているとしか思えない……入って良いものか、悩ましい。

 でも、この先でアルバート様が危険な目に合っている可能性もある。もし怒られたら謝ればいいし、仮に嫌われても、昔のように戻るだけだ。

「……それは、嫌だけど……ううん、嫌われるよりも、アルバート様の身の安全の確認の方が大事だわ」

 意を決して隠し通路の中に入ると、下へと続く階段が伸びていた。壁にかけられた、数の少ないロウソクしか光源がないせいで、かなり薄暗い。

「足を踏み外さないようにしないとね……あら?」

 ゆっくり慎重に進んでいると、下の方から何か話し声のような音が聞こえてきた。さすがにこの位置では内容まではわからないけど、誰かいるのは確かだ。

「結構長いわね……あ、ようやく終わりだ」

 ゆっくりと時間をかけて一番下まで降りた私を出迎えたのは、地下とは思えないくらいに広い空間だった。

 それ以上に目立っていたのは、地面に描かれた魔法陣だ。この広い地下空間の地面を全て埋め尽くすほどの巨大な魔法陣は、見ていて圧倒されてしまうほどだ。

 そして、その魔法陣の中心に、アルバート様が立っていた。

「また駄目だ……どうして……あと少しなのに、何がいけないというんだ!!」
「アルバート様……?」
「っ!? フェリーチェ……どうしてここに」
「部屋に行ったらいなかったので、中を探してたら魔法陣を見つけて……ここに続く道が出てきたんです」
「魔法陣……僕とした事が、うっかり魔法陣を見えないようにするのを忘れていたか」

 少し困ったように笑うアルバート様の前……魔法陣の中心には、人が一人寝れるくらいの大きさの台座があった。その台座には……一人の女の子が横たわっている。

「その、よければ説明してもらえませんか?」
「……そうだね。バレてしまった以上、君にはちゃんと話そう。僕の研究……そして、この子の事もね」
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